フレイヤ様への罰。もっと脳を破壊されること


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作:タスクゴマ
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原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト フレイヤ R17.9

幸せだけど幸せじゃない。余裕なさげなフレイヤ様をあなたに。



女神の懊悩


 史上最大規模の戦争遊戯(ウォーゲーム)、派閥大戦が終わってから一年と少し。【フレイヤ・ファミリア】対【ヘスティア・ファミリア】と参加希望の者全てという構図で行われた大戦は、【フレイヤ・ファミリア】の敗北で幕を下ろした。

 終戦後、女神フレイヤは都市を追放されるはずだった。だが、そうはならなかった。一度は決定付けられた彼女の処遇は、一部の神々の猛抗議によって『天界への強制送還』にすべきだとの論調に流れ、朝から晩まで神々がギルドを取り囲む非常事態になった。

 このままでは女神の首をかけた戦争になる。【フレイヤ・ファミリア】の団員達は徹底抗戦の構えを見せ、放置すれば都市内で戦いが起こるのは時間の問題であった。そんな時、少し前までフレイヤと敵対していたはずの少年、ベル・クラネルが神々の前に現れた。

 彼はこのように叫んだのだという。

 貴方たちがそのつもりなら、自分も【フレイヤ・ファミリア】について戦うと。彼は己を賭して過ちを犯した女神を守ることを選択したのだ。自分を傷つけた【フレイヤ・ファミリア】を守り、必要とあらば戦いの道を選ぶと宣言した。その横顔には悲壮感が漂っており、もはや後戻りはできないと思っていたと、少年は後に語っている。

 

 

 

「ずっと疑問のままなのだけれど、改宗までする必要はあったの?」

 

 派閥大戦終結から一年と四日後。

 木枯らしが吹き荒ぶ夜更け。女神フレイヤはうつ伏せの格好で枕をぎゅっと抱きしめた。すぐ横にはかつて奪おうとした少年がいる。処女雪のような白髪に深紅の瞳。あの頃と変わっていない。ただし背は少し伸びたのと、顔立ちがやや大人びたか。

 ベル・クラネルはそこにいた。同じ部屋の中で、フレイヤが寝ているベッドの端に腰かけている。風呂上がりで上半身は何も身につけていない。背中に刻まれているのは、戦乙女のエンブレム。

 

「その話は何度もしましたよね……フレイヤ様。事実として僕はこうして改宗してます。()()()()()だって、何度も話したじゃないですか」

「私から見ても、貴方自身から見ても、有り得ない行動だったとしても?」

「有り得たんですよ。だってほら、見てください。ここに刻まれているのはフレイヤ様の恩恵です」

 

 フレイヤは惚けた顔で上半身を起こした。素朴な白いキャミソールがだらしなくずり落ち、綺麗な右肩が、次に柔い膨らみの一部が(あらわ)になる。愛と美の女神として百戦錬磨の彼女の顔は、恋を知ったばかりの少女のように火照っていた。普段は妙齢の美女に見える相貌が、今は幾ばくか幼い。

 

「触っても良い?」

「うーん、どうしましょ……?」

「それじゃ、言い方を変えるわ。触らせて?」

「はい。どうぞ。良いですよ」

 

 こんなことは間違っている。何かがおかしい。直感的にも理性的にも二人は理解していたが、だからと言って今更(いまさら)後戻りはできなかった。

 不自然さを自覚した時にはもう遅く、ベル・クラネルは【フレイヤ・ファミリア】に改宗を済ませ、新たな居場所を作っていた。【ヘスティア・ファミリア】の面々とは今でも交流がある。女神ヘスティアは根に持ってはいるがベルを憎んではいない。物分りが良すぎて不気味というか違和感だらけだが、どの面下げて「おかしいですよ」などと言えるだろうか。

 

「こうしていても、ここまでしてくれても、貴方の心は【剣姫】のもの。そう思うと虚しくなるわね」

「あっさり心変わりしたら、それはもう僕じゃないって、フレイヤさま言ってたじゃないですか」

「そうね。でも、それでも願ってしまうものよ。自分だけを見てほしいと。それなのに、実現して欲しくないと思っている私もいる。難しいものね、想いというのは」

「女心……ですか? フレイヤさまも結構可愛いこと仰いますよね」

「……」

 

 フレイヤは優しく少年の背中を撫でていたが、彼が知ったふうなことを言ってくれた瞬間、すっと銀の瞳を細めた。ガリッと音を立てて爪を立てる。

 

「いたたたたっ!」

「生意気な子には、こうよ」

 

 ベルも随分と砕けた感じになった。生真面目な気質は相変わらずだが、女慣れしてきたのは確かだろう。半裸のフレイヤを見てもアタフタしなくなったのは、紛れもない成長の証と言って良い。

 

「罰として、明日の夜も部屋に来なさい。誰か先約がいるのなら後回しにして」

「明日の夜はオッタルさんと鍛錬(トレーニング)を……」

「極めてどうでも良いから、後回しにしなさい。あと、あまり筋肉に拘らないこと」

 

 最近のベルは何かとオッタルに憧れている節がある。高身長と筋肉は漢のロマンだと他の団員に吹き込まれたらしいが、冗談ではない。妙なことを教えた団員はしばらくフレイヤとの会話禁止の刑に処した。ベルがオッタルのような筋肉ムキムキのゴリマッチョになったらどうするのか。凄く嫌なので、フレイヤは過度の肉体改造を禁じている。

 

「わかってますよ。マッチョにはなりません」

「ええ、やめて頂戴ね。切実なお願いよ」

「フレイヤ様にお願いされるって、なんだか変な気分ですね……」

「変な気分になってくれるのなら、盛り上がるというものなのだけどね……」

「恥じらい持ちましょうよ」

「失礼ね、これでも恥じらっているわ」

「……」

「なによ。どうして胸を見るの」

 

 美神は基本的に顔も体も()()も絶品だと評され、フレイヤはそんな美の神達の中でも全てが極上である。大金を叩いてでも一夜の夢を見させて欲しい、と願う者がどれほどいるか。それなのにこの少年ときたら、フレイヤのことを取り立てて特別視していない。驚きである。場合によっては娘達と過ごす方が緊張するらしい。驚天動地である。これにはあのヘルメスですら呆れを通り越してドン引きしていた。

 

「あんまり恥じらいがないと、僕としては……なんていうか、その」

「萎える、なんて言ったら殴るわよ。グーで」

「……」

「ちょっと! どうして黙るのよ、もうっ」

「……」

「その目をやめなさい。残念なものを見る、その白い目を今すぐやめなさい!」

 

 ベル・クラネル、Lv.5でありながらLv.6にも太刀打ちできる程の実力を持つ少年。ここに至るまでの所要期間は約一年半。Lv.2到達の最短記録は常識外れで、恐らく破られることはないだろう。冒険者になってから、ベルは恐るべき速度で高みへの階段を登り続けてきた。

 

「じゃあもう少し恥じらいを……ですね」

「だから、これでも恥じらっているわ。昔はもっと大胆だったのよ。貴方は知らないだろうけど」

「変わったってことですか?」

「正確には変えられた、ね。誰かさんのせいで」

 

 銀の瞳が熱を帯びる。フレイヤの願いは叶わなかったし、戦いの先には間違った未来が待っていた。お陰でこうして、初めて恋をした相手を傍に置き、別の誰かに恋している姿を間近で見させられる羽目になっている。それ自体は拷問に近い。ドロドロとした感情が延々と湧き出てくる。

 

「貴方も()()変わったわよね。冒険だけではなくベッドの上でも、私の想像を超えてくるようになったわ」

「まあ、努力してますし……」

「そのようね。でも気に食わないわ。貴方はあまり我を忘れたりしないし。一番好きじゃなくても、普通は気が狂うくらい溺れるものよ? 私を相手にするのなら」

 

 そして、ドロドロとした感情を抱えたまま、グチャグチャに溶け合うのは()()()()()()()。こうして指先が触れ合うだけでゾクゾクして、いつもこんなことを考える。

 

「ねえ、どんな気持ち? あの戦いに勝っておきながら、私達と繋がるのは。まるで茶番ね。想いを貫くために戦いを選んだくせに、こうして……こんな……」

 

 フレイヤは寝台(ベッド)のカーテンを閉めて、寝そべったままベルに身を寄せた。縋り付くように膝に頬を擦り付け、チラチラと上を向いては銀の瞳を涙ぐんでみせる。こんなことは間違っている。こんな未来は有り得ない。頭でしっかりと理解しながらも、彼女は()()()溺れていく。

 

「ねえ、私をモノにした気分はどう……? しかも、本命じゃないのに、従えてやった気分はどう?」

 

 少しくらいは存在するであろう雄のプライドをくすぐり、昂らせてやる。そうすると、ほら。彼は苛立ち、暗い視線を向けてくる。あまり見ることが出来ない攻撃的な瞳は、フレイヤをこんなにもゾクゾクさせてくれる。このふざけた現実の中で、数少ない愉しみのひとつだった。

 この日々はいつまで続くのだろうか。

 終わりは半年後か、一年後か。もしかしたら彼が老いて死んでも、終わりはまだ遠いのかもしれない。はたまた数秒後に全ての崩壊は始まるのかもしれない。

 全てが不完全で不安定。異常が正常と化しもはや何が正常かもわからない。それが下界であり、だからこそ刹那の幸福は意味を増す。

 

「最高? それとも至高かしら?」

 

 フレイヤは豊満な肢体で少年の下半身を包み込み、痛々しい笑みを浮かべた。ベルの全身がしっとりと汗ばむ。苛立った瞳が女神を射抜く。

 

「──最悪です」

 

 ベルは吐き捨てた。こんな顔を見たかったと思う反面とても悲しく、申し訳ない気持ちになって、いっそ消えてしまいたくなる。こんなのは間違っているとフレイヤの中の娘が啜り泣く。

 

「何度も抱いたくせに、最低ね貴方」

「貴方に言われたくない」

「そうでしょうね。悪かったわ、ごめんなさい。ごめんなさい、ベル。好きよ、ベル。たとえ貴方が私を一番にしてくれなくても。この現実が間違っているとしても、この瞬間だけは溺れていたい──溺れさせて?」

 

 カーテンに透けた女神の頭が沈み込む。フレイヤは健気な()()を始めた。響き始める淫らな水音、はじめはゆっくりと、次第に速度を上げていく。そして控えめな嚥下音。微かに風に揺れる建物の音に、苦しげな二人の声が混ざり込んだ。

 やがて、乾いた音が鳴り始める。

 這いつくばったしなやかな影が背後から抱きしめられ、煽れば煽るほど少年は昂り、最終的には髪を掴まれて引き寄せられ、声が枯れるまで泣かされた。

 

 

 ∥∥∥∥∥∥

 

 

◆ベル・クラネル

 年齢15歳

 種族 ヒューマン

 所属【ヘスティア・ファミリア】→【フレイヤ・ファミリア】

 Lv.5

 二つ名【獅兎の光(レグルス・アルネ)

 

 史上最速で第一級冒険者に成った英雄候補。

 改宗した経緯についても結果についても違和感を感じているが、全ては後の祭りということで最近はあまり考えないようにしている。改宗後は以前の交友関係は断絶、かと思いきやそうでもなく、絶交した相手はいない。アマゾネスのティオナ・ヒリュテをはじめ一部の女冒険者達とは、前よりもむしろ親交が深まるイベントがあり、よく遊ぶようになった。

 改宗後、以前ヘイズがついた嘘を現実にしてしまった。酔っ払って侍女頭ヘルンの部屋に突撃してえらい騒ぎを起こしてしまったことがある。本当に呪殺されかけたのは苦い思い出である。

 

 

 

◆フレイヤ

 年齢ン億歳

 種族 女神

 職業 ファミリアの主神

 

 オラリオ最強派閥の主神。

 現在の状況になった経緯から何から違和感だらけだと思っているが、全ては後の祭りなので最近は深く考えないようにしている。改宗後のベルのことは完全に自由にさせているが、そのせいで【ロキ・ファミリア】のアマゾネスと仲良くなりすぎたり、ストーカーまがいのファンが激増したりした。

 現在は以前よりも真面目に女神している。真剣に救界について考えているが、その一方でただでさえ増えている心労(ストレス)が限界突破している。罪悪感すら肴にしてベルにぶつけて愉悦し、全て受け止めてもらっているから余計好きになっている。絶対に一番にはなれないことは自覚しているので、致したあとは必ず後で死にたくなる。

 

 

 

◆ヘグニ・ラグナール

 Lv.6のダークエルフ。暗闇をこよなく愛する77歳。二つ名は【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】。

 頻繁に口調がおかしいため何を言っているのかわからないこともしばしば。ベルとは一緒にいて落ち着く友達。よく厨二談義をするらしい。

 

◆ヘディン・セルランド

 Lv.6のホワイトエルフ。78歳。二つ名は【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】。ベルがマスターと呼ぶ唯一の人物であり、よくベルを電撃する。

 

◆オッタル

 Lv.7の猪人(ボアズ)。二つ名は【猛者(おうじゃ)】。厳しい顔面の偉丈夫。【フレイヤ・ファミリア】団長だが折衝能力は皆無。かつてベルにトラウマを植え付けた恐るべき武人である。最近はよくベルと筋トレをしているらしい。

 

◆アレン・フローメル

 Lv.6の猫人(キャット・ピープル)。二つ名は【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】。派閥副団長だが管理する気は皆無。派閥大戦の中で心を丸裸にされて死にたくなった。実は妹を愛していることが公衆の面前で暴露された。最近はベルと妹のアーニャがまとわりついてくる。羞恥で死にたい。

 

◆ヘイズ・ベルベット

 Lv.4のヒューマンの治療師(ヒーラー)

 19歳。キレると杖で敵を撲殺するバーサクヒーラーと化すが、女神が絡まなければすこぶる優しく、誰とでも仲良くなれる気立ての良い娘。二つ名は【女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】。銀の聖女と並んで金の魔女と呼ばれることもある。

 

◆ヘルン

 女神の侍女頭。19歳。

 通常時は物静かな美人で頭も切れるが、兎が絡むと常軌を逸した狂人と化し、子供が泣いて逃げ出す形相で、超長文呪詛(ギガントスペルカース)を繰り出す。武器は『兎殺しのナイフ』。




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