10 装備
呪いの剣は切断力と強度、弾性と魔力の伝達力を向上させた逸品として生まれ変わった。
トウの解呪魔法【リムーブ・カース】によって。
トウは残りの武具を見下ろす。
それら全て、この剣と同様に解呪すれば強力な魔法の武具となる物ばかりなのだ。
しかし……
「流石にこの数は骨が折れるね」
早くも疲労を見せるトウ。
呪文自体の習得は容易くとも、呪いが強力な物、有益な効果が残る物に対して消費が激しいという事自体は変わらないのだ。
(今日中に全ては無理かな)
内心ではそう思う。
しかしアンが鼻息も荒く腕まくりした。
「よーし、手伝う。解呪呪文は私も習得できたかんね!」
アンは目の前の剣を手にして叫んだ。
「ふんぬぬ、いくぞー!」
赤く輝く瞳、刃を撫でる指。白みを帯びた赤い光が灯り、パチパチと連続して火花が散った。
ほんの二、三度撫でただけで剣は火花を出さなくなる。
「ほいお次! どんどんやるよー!」
陽気に楽しそうに、アンは次に胸当てを掴んだ。
それを見て、内心驚くトウ。
(解除や回復の力はアンの方に多く流れたのか?)
その後、何度か交代し……
武具の解呪は程なく終わった。
二人は武具を装備する。
「あはっ、これで私もいっぱしの魔法戦士サマだぁ!」
アンは鎧を装着し、上機嫌で剣を高々と掲げた。
そんな双子の姉をトウは微妙な表情で眺めている。トウの複雑な視線にアンも気づいた。
「どうしたの? なんかヘン?」
アンが纏う鎧はいわゆるビキニアーマーという物で、二の腕や太腿、胸元にヘソと、健康的な小麦色の肌が露わになっていた。
鎧という物は鉄板だけを体に貼りつけているわけではない。
衝撃の吸収や体との摩擦を考え、革や厚い布地の上に金属の部位を装着する。金属部品の縁や裏を薄い皮で補強する事もあるし、重装備の時は分厚い生地の服・鎖かたびら・板金と三層構造の場合さえある。
下のインナーを何にするか、ある程度は決めて造ってあるのだ。
トウも鎧を装着しているが、こちらは全身革鎧に、胸甲や肩当など部分的に金属鎧を重ね着した物だ。動きやすさと防御性能を両立させた、かつて冒険者の前衛に好まれていたタイプである。
一方、アンの鎧は専用の水着みたいなインナーの上に着用する事前提の形状をしており、もっと体を覆う頑丈な下地をつけると上手くフィットしないのだ。
トウはプイと横を向いた。
「別に」
「私のお色気に目のやり場ないとか? 裸なんか毎日見てるのに、変なの」
何せ小さい船の狭い部屋である。プライバシーなんて物はなく、一緒に寝て一緒に着替えている。
それでもトウは横を向いたままだ。
「そうじゃなくて……ルビーグレーン相手に軽装なのは好ましくないと思うだけだ」
「何言ってんの。あいつらに鎧の重軽なんて無いようなもんじゃん」
軽く笑い飛ばすアン。
この時代、前衛職は地位が低い。
ルビーグレーンの爪が引き起こす変異は、治療不可能で致命的な状態異常だと思われていたからだ。
無論、防具や技術で身を守りはするが……圧倒的な数、狂ったような捨て身の攻撃、増幅された膂力が繰り出す破壊力を前にしては、軽装だからといって全てを回避するのは至難の業だし、重装甲で守ってもいくらかの手傷は負った。
近接戦闘になった時点で、もはや運任せの戦いになるというのが、今の人々の認識なのである。
しかし……
「トウが教えてくれたじゃん。ルビーグレーンへの変異は病気治療の呪文で治せるって。だったら戦い易いスタイルが一番! あいつらと勇猛果敢に戦ってみせれば、今や立場の弱い騎士様や戦士達も凄いやる気になるね、きっと!」
アンは嬉しそうに目を輝かせていた。無数の絶望の一つに風穴を開けてやれるかもしれない期待に。
対してトウは、小さく零すように呟いた。
「そんな恰好で……」
アンはそれを逃さず聞きつける。
小首を傾げ――そして閃いた。
「んん? あ……もしかして、私の肌を他の男に見せたくないとかかぁ? トウも一緒に掘り出した装備なのに、おっかしいの!」
言って一転、ケラケラと笑いだした。
「そうだけどさ……」
ムッと眉を寄せて頭を掻くトウ。
武具を選ぶ条件が限定的だったので、見てくれまで選別はしていられなかったのだ。
アンは「ニシシ」と悪戯っぽく笑って、後ろから腕を弟の首に回してぐいぐいと抱き寄せる。
「姉ちゃんはボクの物だ、てか? いつも澄ました顔して甘えん坊さんめ。心配しなくても、大事な所はトウにしか見せないよ。間違いをオカしたくなったら正直に言うんだぞ~」
笑いながらトウの耳の後ろに顔を埋めるようにして、首筋へ軽く口づけまでした。
呆れて「はーあ……」と溜息をつくトウ。
まぁ抵抗したり振りほどいたりはしないのだが。
ビキニアーマーを装備する理由を1個思いついたので挿入。
「んなわけねーだろ」と書いてから思ったが入れてしまったので続行。