Text by COURRiER Japon
歴史家・人類学者のエマニュエル・トッドはかつて、米ドナルド・トランプの第一次政権について、「偉大な大統領だったとは言えないが、重要な大統領ではあった」と評価していた。そのトッドが、仏紙「フィガロ」のインタビュー番組に出演。トランプ次期政権についての展望を語った。
ソ連の崩壊や英国のEU離脱を予言したフランス最大の「知性」はいま、「トランプ2.0」の世界をどう見るのか。
「米国が敗北したときの大統領」として名を残す
インタビューは、「トランプが大統領に返り咲いても、米国は偉大な国には戻れないのか」という問いから始まる。
「ですが、トランプは『米国が敗北したときの大統領』として歴史に名を残すことになります。トランプの仕事は、ロシアに負けた米国の敗戦処理だからです。今後一年のうちにそのことがだんだんと見えてくるはずです」
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エマニュエル・トッド「いま私たちは西洋の敗北を目の当たりにしている」 |
米国は衰退している
続いて、トランプの再選をどう分析するかという質問に対しては、「地政学的に米国に従属している私たち(欧州)のような国は、自分たちの主人が物事を決めるのをそわそわしながら注目するように、米国の大統領選でどっちが勝ったほうが自分たちに得だとか、あっちが勝つと自分たちには不都合だといったことばかり考えて選挙を見てしまいがちです。米国の衰退という歴史の流れは見ようともしません」と指摘したうえで、「ですが」と、こう強調する。「米国の生産能力は低下しています」
「米国は、製造業の面でも、軍事面でも、ウクライナを充分に支援できませんでした。充分な量の砲弾やミサイルを生産できませんでした。これは米国でエンジニアという実際にモノを作って、動かせるようにする人たちを充分に育成できていないことに起因しています。また、それは取りも直さず米国の教育水準が下がっていることともつながっています。こういった事象の奥には、西洋勃興の原動力となったプロテスタンティズムの倫理が米国で崩壊している現実があります。こういった歴史の流れは、ひっくり返せません。米国の衰退の根本的な原因を見れば、無作法な男がたった一人で流れを変えられるわけがないのです」
さらに、米国が衰退している以上、米国には台湾を守る力がないというのもトッドの持論のようだ。それはもちろん、日本に影響を及ぼす可能性もある。
「米国には台湾を守る手段がありません。ウクライナでの戦争を見てわかったことの一つは、これまで攻撃に使えると思われていた兵器が時代遅れになっていることです。戦車も航空機も時代遅れになっているところがあります。いま使われているのは、低コストで生産できるドローンなどですからね。米国が太平洋に持つ最大の力は空母ですが、極超音速ミサイルの時代では、太平洋で米中戦争が勃発しても10分で終わりです」
フィルターなしの男、マスク
話は米国経済を代表する成功者であり、次期トランプ政権でのポストも与えられているイーロン・マスクへと移る。
「たしかに彼は、米国社会でうまくいっているものを体現している人です。製造業の世界の天才ですし、米国でモノづくりへの回帰に取り組んだのは賢明でした。ただ、実態をよく見なければなりません。スターリンクの総売上高は70億ドル(約1兆円)で、スペースXは90億ドル(約1兆4000億円)。いずれも立派な数字ですが、いま空中分解しつつあるボーイングの総売上高は650億ドル(約10兆円)です。いま米国で重要なのは、マスクの成功ではなく、ボーイングの崩壊のほうなのです」
さらに、ドイツや英国の首相を次々と口撃し、欧州の極右政党の支持を表明しているマスクを、「驚くべき人物ですし、世界一の富豪であるゆえに、フィルターなしのところがあります」と表現。
「私たちからしてみれば、非常識なことも口にする人に見えますよね。ドイツの政治について発言を始め、ドイツ人をボロクソにけなしたかと思ったら、今度は英国の政治について発言して、英国人をこき下ろしています。フランス人について何を言われるのかはわかりません。とにかく何でも言う人なわけです」
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PROFILE
エマニュエル・トッド Emmanuel Todd
1951年生まれ。歴史人口学者・家族人類学者。フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属。1976年、『最後の転落』(新版の邦訳2013年)で、弱冠25歳にして旧ソ連の崩壊を予言。イラク戦争開始前の02年9月に出版された『帝国以後』(邦訳03年)では米国の金融破綻を予言し、28ヵ国以上で翻訳され、世界的ベストセラーとなった。著書多数。
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