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でほぎゃらりー株主鼎談 ~いま、アニメーション背景を語る。~(全4記事)

宮崎駿と高畑勲の差は「おもしろい」 庵野秀明が語った2人の明確な職人気質の違い

7月1日に、8日から公開される映画『メアリと魔女の花』の先行上映会が行われました。上映会後は、スタジオポノックの西村義明 氏、カラーの庵野秀明氏、ドワンゴ川上量生氏らによる対談。「でほぎゃらりー株主鼎談 ~いま、アニメーション背景を語る。」というテーマで「でほぎゃらりー」の設立、現代の背景技術などを語り合いました。

庵野、宮崎駿の教えを回想

庵野:写真加工の場合、基本的に引き算じゃないですか。実写で写ってるそこの写真から、どれだけ情報を削っていくかっていう。

そういうことと、手描きの場合は、なにもない白い画用紙の上に、鉛筆で線描いて、ポスターカラーで色つけて。足し算なんですよね。

で、どこまで足すかっていうのが手描きのいいところだし、描くところで必ず誤差が出るんですよ、手で描くから。それがいいところですよね。

だから、宮崎さんが言ってた、僕が『ナウシカ』の時に教わって「なるほど!」って思ったのが、宮崎さんって一点透視とか二点透視とか三点透視、すっごく嫌がるんですよね。レイアウトをとる時に一点透視で描いてたら、まずNGですね。「描き直せ」って。

川上:(笑)。

西村:聞いたことありますね。

庵野:宮崎さんは「同心円で描け」って。だから、いい加減なんですよ、パースが。宮崎さんのレイアウトって、本当にいい加減なんですよね。

西村:(笑)。

庵野:パース的には。でも、それがいいんですよ。だから、宮崎さんのレイアウトって、宮崎さんしかとれないんですよね。

西村:パースそのもの、……パースペクティブ、その空間の図面というか、正しいかどうかっていうパースペクティブなんですけど、それを狂わせるのがジブリのレイアウトだったっていう。狂わせるというか……。

庵野:っていうか、宮崎さんのレイアウトはそうなんですよ。高畑さんはそんなの許さないですよ。

川上:(笑)。

西村:許さなかったですね。

庵野:ええ。高畑さんはかっちり描くじゃないですか。

西村:そう、かっちり。

庵野:小津監督みたいな。もう、畳の上3ミリにカメラを置く、みたいな。

西村:(笑)。

宮崎駿と高畑勲の違い

庵野:そんなん、どうやってアニメーターに強要できるんだろうっていう難しいアングルをやるじゃないですか。宮崎さん、そんな時はもうパッとカメラ上に上げちゃいます。

宮崎さんのいいところは、自分が描けないレイアウトはやんないんですよ。「あー、面倒くさい」って思ったら、たぶん面倒くさくないカットに変えちゃいますよね。

高畑さんは自分で描かないんで、それを絵描きに強要してますよね。あれが高畑さんのすごいところですけど。

西村:うーん、まあ、強要しますよね。

川上:自分がやらないと強要できる(笑)。

庵野:宮崎さんの場合、「じゃあ、俺が描く」になるし、アニメーターも「じゃあ、宮崎さん描いてくださいよ」になる。

西村:あの2人の差は、すごくおもしろいですよね。

庵野:おもしろいです。

西村:鈴木さんが一時期言ったのが、「宮崎さんは自分で描くから、自分が描ける範囲のことでやっちゃうけど、高畑さんは自分が描かないから、みんなに要求しだす」と。

庵野:ええ。

西村:「そうすると、高畑さんの現場は人がグワーッと育つんだ」と、みんなもう上限上げなきゃいけないんで。「その2人の差があるんだよなあ」って言ってて。

庵野:まあ、宮崎さんの下にいても、人育たないですよね。

(会場笑)

川上:その人のできることをやらせようとする、と。

庵野:宮崎さんって、自分の下駄がほしいわけですよ。

川上:はいはいはい。

庵野:あ、こんなこと言っちゃいけない(笑)。

(会場笑)

西村:でも、なんか僕、今お話聞きながら思い出したんですけど。それこそ僕、庵野さんとお会いしたのが『かぐや姫』の時ぐらいだと思うんですけど。

あの時に『かぐや姫』の終盤で、『思い出のマーニー』って作品も作ってたんですけど、鈴木さんを介して「ちょっと庵野さんがお話がある」って。で、川上さんとお二人に会ったのを思い出してて。

僕、『かぐや姫』作ってるじゃないですか。僕ら、スタジオジブリ解散して、『マーニー』で最後になるってことは、『かぐや姫』の終盤ぐらいからわかってたんですけど、その時に「庵野さんがおまえに会いたいって言ってるよ」って言ってくれて。僕、庵野さんとはその時、本当に一度……。

庵野:あいさつぐらいですかね。

西村:スタジオジブリでごあいさつしたぐらいだったんで、これ、本当怒られるんじゃないかなと思って。

庵野:いやいや。

川上:(笑)。

西村:なんか僕、どっかのメディアかなんかで、「『かぐや姫』が遅れてるせいで『エヴァンゲリヲン』が遅れるんだ」みたいなことを言ったことがあったんで(笑)。

川上:(笑)。

庵野:それはそうでしたね。

(会場笑)

西村:「アニメーター全部使っちゃってるから」って。それで庵野さんに怒られるのかなと思って、忙しかったけども行って。で、鈴木さん座ってて。もうすっごい覚えてますよ。

鈴木さん座ってて、川上さん座ってて、庵野さん座ってて、僕来て、で、座ったんですよね。そしたら、「何でしょうか?」って。

僕は殊勝な態度でいくわけですけど、じゃあ、鈴木さんが、……鈴木さんは庵野さんのこと「庵野」って呼び捨てにします、「庵野、おまえ西村に話あるだろ」って。

その時に、庵野さんが「もうジブリの制作部門閉じたんだったら、西村さん、会社作ったらどうか」って話を、お2人(庵野と川上)にいただいたんですよね。

その時は、僕、現場が忙しかったんで、「もうなにも考えられません」ってコメントしましたけど、あの時、庵野さんが言った言葉がすごく残ってて。

庵野さんが言ってくれたのが、「宮崎さんの絵、僕大好きなんですよ。宮崎さんの絵、残したいんだ」って言ってくれたのと。

あと、「こういう子供が主人公で一生懸命生きていくっていう、児童文学的な流れっていうのを1つ残していきたい」って話を受けたんですよね。それは川上さんもそれで賛同してたんだと思うんですけど。

それで僕たぶん、思い出して、でほぎゃらりー作る時に、川上さんに相談したんですよね。その経緯があったなっていうのを思い出して。そんな中で協力していただいたんだな、っていう。

今回、実はいろんな協力をいただいてて、製作委員会にも入っていただいて、本当にありがたかったんですけど。……まあ、でほぎゃらりーっていうのができあがったんですよね、その中でね……、うん。

(カンペを取り出して)ちょっと今日、なにを話せばいいか話題を書いてあったんで、……ちょっとすいません。

(会場笑)

『メアリと魔女の花』の感想

川上:でも、映画の話はしなくていいんですか?

西村:いや、映画の話は、ね、みなさん……。映画の話をして……、するんですか?

川上:いや、わからないですけども(笑)。

(会場笑)

西村:(取り出したカンペを見ながら)「アニメーションの背景美術について話をし、これまで築きあげてきた世界に誇る背景美術についてお話をしましょう」ということはしたので……。

まあね、今回、『メアリと魔女の花』どうだったでしょうか? 一生懸命作りましたが。けっこうやっぱゼロから作るって、大変でしたけどね。

庵野:まあ、大変ですよね。

西村:最初にスタジオ作る時も庵野さんに相談しに行って、「始められるところから始めたほうがいいよ」っていう話もしていただいたし、いろんなアドバイスをいただいたのはすごく覚えてるんですけど。

川上:え、でも、本当プレッシャー感じてますよね。

西村:ん?

川上:プレッシャー感じて。なんかすごいね、深刻な顔ずっとしてるじゃないですか。

西村:え、僕ですか?

川上:そうそうそう、今回。こんなの見たことないんですよ。高畑さんって本当大変なので、高畑さんの下のプロデューサーの時って本当やつれてたんですけどもね、会ったらずっと文句を言ってたんですよ。

西村:(笑)。

川上:で、今にしてみたら、あれはやっぱり他人事でやってた部分があったんじゃないかな、と。

西村:いやー、高畑さんの時はやっぱ楽でしたね。

川上:そうですよね。

西村:高畑さんの時は、やっぱね、これ、自分で出てわかりますけど、なんだかんだやっぱりジブリがあるから。そして、高畑さんもいるし、鈴木さんもいるし、「『かぐや姫』作りたい」って言ったの高畑さんだしね。だから、他人事って言ったら他人事……(笑)。

川上:(笑)

西村:いや、高畑さんのやりたいやつを仕上げればいいんだ、っていう思いがありましたけど。

川上:はいはいはい。

今回は「こんなに怖いことない」

西村:今回はね。

川上:もう完全に自分のプロジェクト。

西村:自分……。まあ、みんなでね、米林宏昌監督も含めて、一緒にやってったわけですけど。いや、こんな怖いことないですよね。

庵野さん、「宮崎さんの絵、残したい」っておっしゃってくれたけれども、じゃあ、自分たちが……、まあ、宮崎さんの絵っていうよりも、もちろん綿々と続いてきたアニメーションのキャラクターだと思うんですよ。

小田部さんもいらっしゃるし、その前に森康二さんもいらっしゃるし。その流れの中で、アニメーションのキャラクターどんどん変化してきたっていうのがあって。

で、米林監督も約20年間ジブリにいらっしゃったので。で、ここに、今スタジオポノックっていう会社で『メアリと魔女の花』を作ったアニメーターも、本当約8割ぐらいはジブリ作品の経験者でやってきましたけど。

これがどう評価されるのかっていうのは、本当に期待というよりは怖さしかないですね。評価を受けるわけですからね。これでダメだったら終わりですから(笑)。

川上:(笑)。

西村:暗いというか、プレッシャーというか。

川上:プレッシャーですね(笑)。

西村:大人になんなきゃいけないんだろうなって思って、やってますけどね。……そんな違いますか?(笑)。

川上:いや、ぜんぜん違いますね。

西村:あ、そうですか(笑)。

川上:『かぐや姫』もつらそうだったけど、「つらそう」の意味が違いましたよね。

西村:え、いつですか?

川上:いや、『かぐや姫』の時。

西村:あー、あの時はね。

西村の「サラリーマン的つらさ」

川上:あの時、やっぱりすごいつらいけれども、サラリーマン的つらさっていう感じでしたね。

西村:はい(笑)。今は何ですか?

川上:今はなんか、本当つらそうだなと思って(笑)。

(会場笑)

西村:いや、大変だったですよ、本当に(笑)。

川上:いや、あの時、本当ね、「本当に西村さんって強い人だ」って思ったんですけども。高畑さんのプロデューサーっていうとね、もうなかなか続かない中でやり遂げたっていうのは、「本当すごい人だ」って思ってたんですけどね。……なんか(笑)。

西村:あの時は、もうね……、もうあんま思い出したくないですよね、あれね。

川上:(笑)。

西村:すごいつらかったんでね。本当に吐きそうになりますよ、本当に。1回鈴木さんが……、これ、『かぐや姫』の話してもしょうがないですよね、『メアリと魔女の花』なのに。まあ、いいや。ついでに話しちゃうと。

川上:(笑)。

西村:鈴木さんに『かぐや姫』作ってる時に、「おまえちょっとブログ書け」って言われて。「何書くんですか?」って言ったら、「悲惨な日々書け」って言って。

(会場笑)

西村:で、悲惨な日々書いてくんですけど。遡るじゃないですか、どうやってプロジェクトが立ち上がってんのかって。

で、ジブリってすごくおもしろい教育があって、ジブリっていうか鈴木さんですね、「事実を事細かく事実のまま覚えろ」っていう訓練を受けるんですよね。

その人がその発言をした時にどんな顔だったのかとか、どんな様子だったのかっていうのも含めて、全部記憶するんですよ。映像で記憶しちゃうんですけど。

で、だから、訓練受けてるもんですから、『かぐや姫』の時に高畑さんが言ったこととか鈴木さんが言ったことは、全部メモってるわけですね。

で、思い出してブログに再現しようとすると、そのイメージがブワーッて浮かんできてしまって、本当にきつくて。吐き気もよおして、家に帰ったりしたこともあったですからね。

一同:(笑)。

西村:これ、ぜんぜん余談なんで、話してもしょうがない(笑)。

(会場笑)

川上:僕と一番最初に会ったのが、確かそうなんですよね。鈴木さんが本当に悩んでいて、身体にいろんな発疹とかができて。

西村:あれ、嘘ですからね。

川上:え、本当ですか?

鈴木敏夫が西村の苦悩に同情

西村:鈴木さんのところに呼ばれたじゃないですか。で、川上さんがいて、製作委員会の方がいて。で、僕が「高畑さんが動かないから、鈴木さん、ちょっと愚痴聞いてくださいよ」って言いに行って。

そしたら、「おまえ、2人のほうがいい?」って言われて。「いや、別に2人じゃなくてもいいですけど」って言って入ってったら、もう製作委員会の方が面々いるんですよ。そこで、「じゃあ、おまえ話せ」って言われて。10人ぐらいいるところで。

「話します」って言って、バーッて話してるうちに、まあ、みんな笑うわけですよね、こんな悲惨な日々を。

で、笑ってて、バーッて話してたら、そこにある方がいて、その宣伝に関わってる方が。その方が、ストレスかなにかで……じんましんでしたっけ? 出る方で。

で、その方いたんですけど、翌朝、僕その会があって、ワーッて話して、鈴木さんが「おもしろかった。ありがとう」って言われて。愚痴言いに行ってね、「大変なんです」って言ったんだけど、「おもしろかったよ」って言って。

その翌朝、僕ジブリに入ってって、鈴木さんと会ったら、「おまえ、ちょっと来い」って言って、で、スマホ見せられたんですよ、鈴木さんに。

そしたら、「西村さんの話が悲惨すぎて、僕はぜんぜんまだまだ甘い、と。おかげで、じんましんが直りました」って書いてあってね。

(会場笑)

西村:「おまえの愚痴は癒し効果がある」って言われて(笑)。

(会場笑)

川上:いや、そうなんですよね。みんなに聞かせたいんですよね、鈴木さんはね。そんなに苦労してたのに、今のほうがはるかにつらそうですよね(笑)。

西村:もう10キロ痩せたんですよ。

川上:すごいですよね。

西村:本当、もうね、痩せましたね……。いやー、こんな大変だとは思わなかったですね。だって、庵野さんも立ち上げられたわけですよね、カラーって会社。

庵野:ええ。

西村:すごい大変だったですよね?

庵野:まあ、大変ですけど、まだ僕の場合は『エヴァ』なんで、最初が。

西村:あー。

庵野:……。

(会場笑)

川上:それはどうなんですか?(笑)。

庵野:ある程度もう認識されてました、世間で。

西村:そうですよね。

庵野:だから、1から作るよりはまだ楽でしたけどね。でも、まあ、こんなにかかるとは思いませんでしたけど。

川上:(笑)。

庵野:そっちのほうが大変ですよね。

(会場笑)

川上:確かにそういう意味では、すごい自由にやってますよね、たぶん。庵野さんみたいに締切り自由だったら、もう少し楽だったね(笑)。

(会場笑)

西村:いや、庵野さんはいいですけど、僕ら守らないと次ないですもん、だって(笑)。

庵野:いやいやいや、それは似たり寄ったりですよ。

川上:(笑)。

庵野:だから、最初にアドバイスした時に「商売考えたほうがいい」って言ったんですよ。

西村:商売……、まあね、商売考えなきゃいけないんですけど、商売考えたことがないからなあ。それが社長になってしまったんで、ちょっとどうしようかと思ってるんですけど。あ、でほぎゃらりーじゃないですよ。

庵野:あ、でほは儲からないですよ。

(会場笑)

川上:いや、そうですよね。

庵野:これはもう最初に川上さんには、「儲かんないけどいいですか?」って。

西村:僕もそう言ったんですよ。

川上:何が役目かっていうと、赤字を補填するっていうのがうちの役割なんですよ(笑)。

(会場笑)

川上:それで、あの……、まあ、そんなに赤字じゃないんですけど(笑)。

西村:そんなこと言って大丈夫なんですか?(笑)。

川上:うーん……、上場企業だからねえ。

西村:上場企業ですよね(笑)。

(会場笑)

川上:まあ、その赤字を上回るいろんな効果がある、っていう。

庵野:いや、べらぼうな赤字にはならないですけど。

川上:なってないですよね。ぜんぜんなってない。

庵野:ええ。

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佐渡島庸平×安藤昭子 『問いの編集力』出版記念トークイベント(全5記事)

興味を持って質問したのに「尋問だ」と思われてしまう… 佐渡島庸平氏が考える「問う力」

『問いの編集力 思考の「はじまり」を探究する』の出版を記念して開催された本イベントでは、著者であり編集工学研究所の安藤昭子氏と株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏が登壇。本記事では、佐渡島庸平氏が持つ「問う力」の鋭さについてお伝えします。

松岡正剛氏が興味を持つ人とは

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):松岡正剛さんが興味を持つ人と持たない人の差って、何なのでしょう?

安藤昭子氏(以下、安藤):もしかしたら佐渡島さんが作家さんを発見する時に、「この人のおもしろさは俺にしかわからない」という瞬間ってあるんじゃないかと思うんですけど。松岡も、例えばさっきの尺八の中村明一さんのお話もそうですけれども、「絶対にあなたはすごい」という目利きがあるわけなんですよね。

「絶対にあなたはすごい」という時のジャンルは、それこそ音楽から、踊りから、大工さんから、1人の主婦に至るまでとても幅広いですが、そうした目利きをすることも、生涯をかけて、自分の仕事としてものすごく大切にしていたところだったんだろうと思います。

それが、どういう人がいいと思っていて、どういう人は引っ掛からないのかというのは、永遠の私たちの課題というか(笑)。そこに方程式はないんだけれども、やはり目利きって、たぶん佐渡島さんもそうだと思うけど、分解し切れない何かがあるじゃないですか。

やはり松岡さんの目利き力は、一番方法として私たちが取りきれていないものじゃないかと思います。

佐渡島:そうですね。僕も中村さんは尺八を聴いていいと思ったのではなく、呼吸法の本を読んで「この人は並々ならぬ音を出すだろう」と思って、「音楽を聴かせてください」となった感じです。

安藤:そうですね。何かシンパシーを感じるのは、さっきの「述語的」とちょっと近いかもしれないんですけども。ビジョンや主題で何かをしようとしているというよりも、技術をものすごく鍛錬している人に対しては「俺、本当に弱いんだよね」と言っていたことがありました。例えば職人さんもすごく好きですし。

冒頭にお話しした「世界たち」というところですね。すごく微細だったり、壊れやすかったりするんだけれども、ものすごい集中力や鍛錬によって、いろんな文化を生み出そうとしている人たちは無条件にリスペクトしているところはありました。

「コンセプト主義に陥るな」

佐渡島:問いの編集というモノの思考法として紹介されているものは、かなりクライアントと一緒にやるためのツールにもなっているじゃないですか。

それをやっていくと、コンセプトみたいなものとか、ある種会社のビジョン・ミッション・バリューみたいなのが明確になっていくのを手伝うツールのようにも、技術のようにも感じるんですけど。その中で、コンセプトが明確な人には興味がないっておもしろくないですか?

安藤:(笑)。クライアントさんとお仕事をする時も、ここはなかなか難しくて。松岡からよく叱られた時は、「コンセプト主義に陥るな」とよく言われていました。

佐渡島:それ、詳しく聞きたい。

安藤:それはやはり、徹頭徹尾、方法から見ていくというところです。最初からそれっぽいコンセプトを置いてしまうと、それこそフィルターが外しにくくなるんですね。例えば、クライアントさんの様子をまっさらに見るとか。佐渡島さんであれば、作家さんの「この人の何がすごいのか」を細かく言葉にできるところまで自分でかみ砕くとか。

そっちの方法が先であって、後から出てくるコンセプトは、こんなことを言ったら怒られるけれども、便宜上置くみたいなところはけっこうあるわけです。なので、一緒にやっていく過程の中で、クライアントさんが「あっ!」と思うことのほうが大事。

耳障りの良いコンセプトに自分を寄せていくのは違う

佐渡島:だから、先に耳障りの良いコンセプトを作って、そっちに自分を合わせにいくのは違うよということですね。

安藤:そうそう。

佐渡島:ある種、目利きである松岡さんが見つけた多くの人たちは、もうすごいから、そのままでいい人たちじゃないですか。それを松岡さんが代わりに言語化してあげる場合もあれば、しない場合もあるけれども。

クライアントの場合は、相手が認知できるように言語化していくのを手伝うために、こういう編集的なテクニックを使っていたということなんですかね。

安藤:そうですね。よく私たちの仕事の仕方でやるのは、コンセプトを「X」として空欄を置いちゃうんですね。

ある程度のところまでXを埋めないまま、クライアントさんといろんなことを一緒にやっていく。でもある時にぽっと置くXは、誰も聞いたことがない、でもそれによって一気に世界が広がるようなものを置く。そういう仕事の仕方は、松岡さんとのやり方であり、編集のプロセスなんですね。

佐渡島:それはソクラテスの問いの産婆術みたいなものに感じますよね。ソクラテスは、街中で出会った人とただしゃべっているだけで、ソクラテスも相手も知らなかったことが対話で出てきて、それが気づきになる。そういう感じの話し方をするのかもしれないですね。

安藤:実は『知の編集工学』で、今日冒頭でちょっとお話しした松岡の7つの問いの部分の手前に、「編集的創発性」という言葉があるんですよ。やはり世界の創発、相転移に当たるものがとてもおもしろいと。そこに非常に可能性を感じていると言うと簡単な言葉になりすぎますけれども、創発をすごく大事にしていた。

今のソクラテスの話もそうですけれども、最初から何かが用意してある、もしくは最初から何かを用意してあげるのではなくて、ある出会い頭でしか生まれてこない。これを松岡はよく「コンティンジェンシー(contingency)」という言い方もしましたが、「別様の可能性」というものです。

それまで伏せられていて何かがいつ出てきてもおかしくない状態、そうした創発的な状態をいかに作るかが、文章を書いていても、クライアントさんの仕事をしていても、ずっとやってきたことなんですよね。

なので、『問いの編集力』で読者のみなさんと共有したいなと思いながら書いていたことのひとつに、私の裏テーマとしても創発があります。

佐渡島:問いによって、創発を生み出せますからね。

安藤:そうなんですよね。「これはわかった」と思う状態が一番止まっている状態なんです。知れば知るほどわからないことが増えていく状態を作っていく中で、自分でも思いもかけないようなことが生まれてきたりするのは、たぶん編集的創発性だと思いますね。

佐渡島:今の会話の流れで、僕がちょっと前にChatGPTに相談していた問いを急に思い出したので。

安藤:そうそう、そんな感じ(笑)。

興味を持って質問したのに「尋問だ」と言われてしまう

佐渡島:僕、いろんな人からよく「圧がある」とか言われるんですね。昔、為末大さんと出会った時に、バスで横の席に座っていて、僕としてはすごく楽しく終わったんですよ。でも数ヶ月後に会った時に、「刑事に尋問されている感じでした」と言われて、変に警戒されていたんですね。

安藤:(笑)。

佐渡島:こちらは好奇心を持って聞いただけだったのに、「尋問だ」と言われることが、けっこう定期的に発生するんですよ。

こっちとしては、相手に「興味を持った」という時点で何らかの好意の発露だから、褒めるよりも問いのほうが気色悪くないコミュニケーションだと思って問うんだけど、圧と捉える人もいる。

でも、編集者としては対話は創発的でありたくて、問いが最もそれの近道だとも思っています。だから、ChatGPTに「問いは、相手に『答えないといけない』という圧力を生むから、一切問いを使わずに対話をしていきながら創発する方法は何ですか?」という質問をしたんですよ。

安藤:(笑)。本当に高度な相談をしていますね。

佐渡島:そう。それはけっこうしっくりくる答えは来なくて、どうすりゃいいんだろうなとここ数ヶ月ずっと考えていたんだけど。「あ、自分は問いを使わない対話がうまくなりたいんだ」と気づいたのは、2ヶ月から3ヶ月くらい前です。

その時はChatGPTにそういう質問の仕方をして。ChatGPTも「すぐに答えを教えてくれ」という感じの問いのかけ方だといい感じのが来ないから、「今の問いをもっと小分けにして聞くと、ChatGPTも教えてくれる時があるかな?」と今は思っているんですよ。

安藤:随分仲が良いじゃないですか(笑)。

佐渡島:そうなんですよ(笑)。

佐渡島庸平氏の「問う力」

安藤:この本も『問いの編集力』というタイトルですけれども、まさに今佐渡島さんがおっしゃられたような、ど真ん中の何かを聞いても、編集って案外動かなかったりするんですよね。

私は佐渡島さんといつもお話しして「やはりすごいな」と思うのは、佐渡島さんの問いが普通よりもちょっと奥なんですよ。だから、たぶん聞かれているほうは疲れるんですよね。「そこを尋ねるのか」みたいな(笑)。

やはり、人の才能を引き出す仕事をしている人ならではの問い力だなと思います。普通の人は、それはなかなかできないんだけれども、それを編集力だと考えると、例えば何かを言い換えたり、見立てたり、ずらしたりということで、何かをズバッと質問するのと案外同じくらい、相手のイメージを動かす効果があるんですよね。

会話をしている時に、ちょっとずつ相手の言っていることを言い換えてずらしていくみたいなのは、おそらくみなさんも自然にされることがあると思うんですけども。まあ、為末さんの気持ちもよくわかります(笑)。

でもね、佐渡島さん、この(『問の編集力』の)帯を書いてくださったじゃないですか。メッセンジャーでもお伝えしましたけれども、これがいいんですね。佐渡島さんが私の本文の中から一行抜いてくださっているんですよ。

「『問う』ということはつまり、『いつもの私』の中にはないものに出会うこと、その未知との遭遇の驚きを自分に向けて表明することだと言っていい」と。

「この本文中にあった一文に、編集の真髄を感じた」というメッセージを寄せてくださったんですけど、この一文を抜くセンスがすごいなと思ったんです。

本を1冊書くと、佐渡島さんもそうかもしれないですけど、「このセンテンス、めちゃ気に入っている」というのがありますよね。私もこれだけ文字数を書いた中で(気に入った)3つくらいの中の1つなんですよ。「お、これを見つけられた」と思って、やはり『観察力の鍛え方』という本を書かれているだけあるなぁと。

井上雄彦氏に会って褒めたら、不機嫌にさせてしまった

佐渡島:そう言ってもらえると、本当に編集者冥利に尽きます。僕は講談社にいた時に、先輩に「この前、井上(雄彦)さんに(会った時に)すごく褒めたのに、めっちゃ不機嫌になられたんですよ」と先輩に相談したことがあります。

そうしたら「お前、当たり前だろ。井上雄彦のこと、何百万人が褒めているんだよ」と言われました(笑)。

安藤:(笑)。

佐渡島:それで、「追加でお前に褒められてうれしいか? そんなの別に聞きたいわけないだろう」と言われて。「確かに。僕が話すことって、井上雄彦を褒めることじゃないし、僕に褒められても1ミリもうれしくないわな」とめっちゃ思ったんですよ。

だから「あ、僕がやることって、井上さんがどこを工夫したかに気づくことなのかな」と。毎回原稿の中で、最も工夫しているところとか、苦戦したところとかがあるはずだから。おもしろいページの中から、「ここに苦戦したんじゃないか?」「ここは苦戦を乗り越えたんじゃないか?」と気づくこと。

もしくは、乗り越えられていないところが見つけられると、「そこについて話しましょう」と言う。だから、(作家とは)最も時間をかけたところとか、練ったところはどこなのかは話していますね。

僕は月に1回読書会をやっているんですけど、そこでは「立派な感想は持たなくてよくて、本の中から一文だけ抜いてきて」と。それをみんなの前で話すだけでもいいと言っています。読書会に参加する人は別に編集者じゃないから、その1文を抜いてきたら、「作家がなんでそれを書いたか」とか、「これが物語の中でどういう意味を持つだろう?」という問いに変えて、みんなで話し合う。

安藤:それ、とてもいいですね。

佐渡島:これをやっていくだけで、読書会として十分成立するんですけどね。

安藤:そうですよね。おそらく著者の人も、そこに居合わせたらめちゃくちゃうれしい読書会だと思います。

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