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第436回 シーズン44 エピソード6
見つかる・見つける・見つけ出す(後編) ただいま無料

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

図書室にて

ここは高校の図書室。いまは放課後。

は後輩のテトラちゃんといっしょに図形の問題をベクトルを使って考えていた。

証明が終わったところでテトラちゃんは何かを思いついたようだ。

問題

平面上に三角形 ABC がある。

BC と平行な直線が、 直線 AB,AC と交わる点をそれぞれ点 D,E とする。

線分 CD と線分 BE の交点を F とする。

直線 AF と辺 BC の交点を G とする。

このとき、点 G は辺 BC の中点であることを証明せよ。

参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)

テトラ「でも、先輩。 これで証明はできました(第435回参照)が、 なかなか大変ですね……」

「そうだねえ、 一次独立な二つのベクトル bc で表して、計算に持ち込むのはいいけれど、 大変なのは確かだ」

そこで、テトラちゃんが声を上げる。

テトラ「先輩? いまの問題でふと・・思ったことがあるんですけど……」

「思ったこと?」

テトラ「はい。この図には、三角形の二辺と交わる直線があるのが見つかります。 いままでは ABC に注目していましたが、 ABE と直線 CD に注目するんです」

ABE と直線 CD に注目する

「うん? ……ああ、なるほど。メネラウスの定理を使うつもり?」

テトラ「はいっ! その通りです」

「なるほどね。僕はメネラウスの定理を証明するときに、 《補助線を使う証明》をしたあとで《ベクトルを使う証明》に気付いたけど(第432回参照)、 テトラちゃんは反対のパターンをやろうと思ったんだ」

テトラ「ですです。確かにベクトルも面白いんですが、 この図を見ていると、いかにもメネラウスの定理が使えそうです。 つまり、 ABE と直線 CD に対して、

  • 頂点A,B,E
  • 交点D,F,C
になりますよね」

頂点と交点

「そうだね。あれ……でも……」

テトラ「大丈夫です。 頂点交点頂点交点頂点交点 の順番でたどれば、 メネラウスの定理を間違えることはありません!」

ABE と直線 CD にメネラウスの定理をあてはめる(図1)

ABE と直線 CD についてメネラウスの定理より、

が成り立つ。

「テトラちゃん、テトラちゃん、これはまずくない?」

テトラ「先輩、先輩、どうしてでしょう? 間違ってませんよね?」

「うん、メネラウスの定理はまちがっていないし、 ABE と直線 CD にあてはめるのもまちがっていない。 でも、それはいまの問題解決には役立たないような気がするんだけど」

テトラ「いまの問題解決には役立たないとは……あっ! 確かに」

「だよね」

メネラウスの定理を使って証明したい

問題(再掲)

平面上に三角形 ABC がある。

BC と平行な直線が、 直線 AB,AC と交わる点をそれぞれ点 D,E とする。

線分 CD と線分 BE の交点を F とする。

直線 AF と辺 BC の交点を G とする。

このとき、点 G は辺 BC の中点であることを証明せよ。

参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)

テトラ「いま確かめたいのはG が辺 BC の中点になるか?ということでした。 CG:GB=1:1 になること、 つまり、 CGGB=1 を確かめるんですが、あたしのメネラウスの定理は点 G をスルーしちゃってましたっ!」

G をスルーしている

「うん、でもテトラちゃんのアイディアは素晴らしいよ。 僕はベクトルを使うことばかり考えていて、メネラウスの定理を使ってみようとは思わなかったから」

テトラCG:GB=1:1 を調べたいのであれば、 点 G がうまく交点になるような三角形と直線を見つけ出す必要があるんですね」

は図を眺める。

CGGB が出てくるように メネラウスの定理を当てはめられる 三角形と直線——あ、すぐに見つかるね!」

三角形を見つけよう

テトラ「あたしも見つけました!  CBD と直線 AF を使えば、 うまく CG:GB が出てきます」

CBD と直線 AF に注目

CBD と直線 AF にメネラウスの定理を当てはめる(図2)

CBD と直線 AF についてメネラウスの定理より、

BAAD×DFFC× CGGB =1

が成り立つ。

「そうだね」

テトラ「これで調べたい  CGGB  は出てきましたが…… BAADDFFC はわからないままですね」

「……」

テトラ「だとしたら、ダメでしたか……」

「僕は見つけてしまった」

テトラ「え?」

異なる三角形を見つけよう

「図2の場合とは異なる三角形に、メネラウスの定理を当てはめられるよ。 しかもまた、 CGGB が出てくる三角形と直線がある」

テトラ「い、言わないでください。あたしも見つけたい!」

CGGB が出てくる三角形、見つかる?

「見つかった?」

テトラ「はい。これですね。逆立ちしていました!」

BEC と直線 AF に注目

BEC と直線 AF にメネラウスの定理を当てはめる(図3)

BEC と直線 AF についてメネラウスの定理より、

BFFE×EAAC× CGGB =1

が成り立つ。

「そうだね。これで式が二本できた。図2から一本、図3から一本。 さて、ここからどうするか……」

ここまでで得られた式(

{BAAD×DFFC× CGGB =1(図2から)BFFE×EAAC× CGGB =1(図3から)

テトラBA,AD,DF,FCBF,FE,EA,AC で共通なものは二本の式の中にありませんね。 共通なのは CG,GB だけです。結局、メネラウスの定理を二回使って、 わからないものが増えてしまった?」

「わからないものが増えてしまったのは確かだけど、 《条件をすべて使ったか》という問いかけをしなくちゃね。 『いかにして問題をとくか』に出てくるポリアの問いかけだ」

《条件をすべて使ったか》

テトラ「《条件をすべて使ったか》……ですか。 ああ、 BCDE平行であるという条件を使っていませんでした……あっ、 もうわかりましたよ。 さっき(第435回参照)見つかった ABCADE相似であることが使えますっ!」

ABCADE は相似

「なるほど?」

テトラ「相似比を r として考えます。すると、

AD=rAB です。 それから、

AE=rAC になりますよね!」

「そうだね……」

テトラ「これで、 さっきの二本の式()のうち ADAEr を使って書けますよ! では、 を書き換えていきます。 {BAAD×DFFC× CGGB =1BFFE×EAAC× CGGB =1 この で、 BA=ABAE=EA に注意しながら、 AD=rAB,AE=rAC を代入します。 すると、 {ABrAB×DFFC× CGGB =1BFFE×rACAC× CGGB =1 になりますから、約分すると、 {1r×DFFC× CGGB =1BFFE×r× CGGB =1 になります()。これで一歩、進みましたね!」

「ねえテトラちゃん、僕も見つけた。これでもう一歩、進めるよ」

テトラ「何でしょうか」

「テトラちゃんは、《ABCADE が相似である》ことを使ったけど、 それだと、知りたい BFFE,DFFC をスルーしているよね?」

テトラ「はい、そうなりますね。でもそれはこれから探しますからっ!」

「《FCBFDE が相似である》ことを 使ったら、知りたい比が一度に手に入るんじゃない?」

テトラ「えっ……ええっと、 三角形 F,C,B と、三角形 F,D,E ですか……?」

FCBFDE は相似

「線分 BC と線分 DE は平行だから、 B=E だし C=D になる。平行線の錯角さっかくだから」

テトラ「相似比を r とすると……あ、これぜんぶ出ちゃいますね。 FCBFDE が相似なので、 FE=rFB=rBF,DF=rCF=rFC になります。 これを つまり {1r×DFFC× CGGB =1BFFE×r× CGGB =1 に代入すると…… {1r×rFCFC× CGGB =1BFrBF×r× CGGB =1 になります。またまた約分して {1r×r× CGGB =11r×r× CGGB =1 となり、めでたく  CGGB =1 が得られました。確かに、点 G は辺 BC の中点です!」

「できたね!」

テトラ「そうですね……」

と、そこでテトラちゃんは眉根を寄せて何かを考え始めた。

「……」

テトラ「先輩、あのですね。ふと・・思ったことがあります。聞いていただけますか?」

「もちろん、もちろん。今度はどんな証明?」

テトラ「あ、いえ。新しい証明とか、そういうことではなくてですね。 《発見》ということについてです」

「発見?」

《発見》

テトラ「今回の問題で、あたしは最初 ABC と直線 CD に対してメネラウスの定理を使おうと思いました。 点 G をスルーしちゃったわけです」

「うん」

テトラ「あたしは、どうして点 G をスルーしたんだろう……って思いました」

「……」

テトラ「それはもちろん考えが足りなかったからですけれど、 もう一歩進んで『どんな考えが足りなかったんだろうか』と考えました」

「おお。自分の思考を思考する。メタ思考だね!」

テトラ「あたしは『何のためにメネラウスの定理を使うのか』を考えていませんでした。 ただ単に、メネラウスの定理を使うことを優先させていたんだなと思うんです」

「なるほどね」

テトラ「実はですね。先輩がメネラウスの定理を証明なさったときの図が頭に残っていて、 ちょうどそれに近い形の三角形と直線に目が行ったということも思いました」

「そういうこと、あるよね」

テトラ「点 G を交点に持つようなパターン、つまり、  CGGB  が出てくるような配置になっている三角形と直線を自分から見つける意識になれたなら、 うまく《発見》できたかもしれない……とも思いました」

「そうか……だとすると、ポリアの問いかけにある《求めるものは何か》というのは、 やっぱり大事なんだね。 自分が求めたいものを意識して、 そこに関わるものを見つけ出す態度になる。 そうすれば《発見》に近づけるかもしれない。 テトラちゃんがいうのはそういうことだよね」

テトラ「その通りです!

  • 図形の証明で、うまい補助線を引きたいとき
  • ベクトルを使った証明で、うまい変数を導入したいとき
  • 今回のような問題で、定理をうまい配置にして当てはめたいとき
そんなときに、 たとえ試行錯誤が必要だとしても、 闇雲にあっちこっち試すんじゃなくて、 自分は何を求めているのか、何が見つかったらうれしいのか、 自分はどこに向かいたいのか——そういう意識で試行錯誤した方がいいのかもしれない、と思ったんです」

「まるでそれは《思考ベクトル》だね」

テトラ「はい?」

「考えるときに、どっちの向きにどれだけの大きさで進もうとしているか。 向きと大きさがあるなら《思考ベクトル》だなあ、って思ったんだ。 もちろんあくまで比喩だけどね」

テトラ「ああ、なるほどです。 思考ベクトル、意識的に制御したいですっ!」

「ポリアの問いかけには《えられた答を検討せよ》というのもあるよ。 答えが出て終わりにするんじゃなくて、振り返るってことだね。 テトラちゃんは、自分の考えをよくまとめるし、振り返りも得意。 テトラちゃんは、学び上手なんだね」

テトラ「《腕力》だけじゃないと思っていただけているなら、何よりです」

テトラちゃんは、改めて真面目な顔で腕を曲げ、 わざわざ力こぶを作るジェスチャをしてを見る。

そして、僕たちは大笑いした。

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(第436回終わり)

(2024年10月18日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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