登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ここは高校の図書室。いまは放課後。
僕は後輩のテトラちゃんといっしょに図形の問題をベクトルを使って考えていた。
証明が終わったところでテトラちゃんは何かを思いついたようだ。
問題
平面上に三角形
辺
線分
直線
このとき、点
参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)
テトラ「でも、先輩。 これで証明はできました(第435回参照)が、 なかなか大変ですね……」
僕「そうだねえ、
一次独立な二つのベクトル
そこで、テトラちゃんが声を上げる。
テトラ「先輩? いまの問題でふと思ったことがあるんですけど……」
僕「思ったこと?」
テトラ「はい。この図には、三角形の二辺と交わる直線があるのが見つかります。
いままでは
僕「うん? ……ああ、なるほど。メネラウスの定理を使うつもり?」
テトラ「はいっ! その通りです」
僕「なるほどね。僕はメネラウスの定理を証明するときに、 《補助線を使う証明》をしたあとで《ベクトルを使う証明》に気付いたけど(第432回参照)、 テトラちゃんは反対のパターンをやろうと思ったんだ」
テトラ「ですです。確かにベクトルも面白いんですが、
この図を見ていると、いかにもメネラウスの定理が使えそうです。
つまり、
頂点と交点
僕「そうだね。あれ……でも……」
テトラ「大丈夫です。
が成り立つ。
僕「テトラちゃん、テトラちゃん、これはまずくない?」
テトラ「先輩、先輩、どうしてでしょう? 間違ってませんよね?」
僕「うん、メネラウスの定理はまちがっていないし、
テトラ「いまの問題解決には役立たないとは……あっ! 確かに」
僕「だよね」
問題(再掲)
平面上に三角形
辺
線分
直線
このとき、点
参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)
テトラ「いま確かめたいのは点
点
僕「うん、でもテトラちゃんのアイディアは素晴らしいよ。 僕はベクトルを使うことばかり考えていて、メネラウスの定理を使ってみようとは思わなかったから」
テトラ「
僕は図を眺める。
僕「
テトラ「あたしも見つけました!
が成り立つ。
僕「そうだね」
テトラ「これで調べたい
僕「……」
テトラ「だとしたら、ダメでしたか……」
僕「僕は見つけてしまった」
テトラ「え?」
僕「図2の場合とは異なる三角形に、メネラウスの定理を当てはめられるよ。
しかもまた、
テトラ「い、言わないでください。あたしも見つけたい!」
僕「見つかった?」
テトラ「はい。これですね。逆立ちしていました!」
が成り立つ。
僕「そうだね。これで式が二本できた。図2から一本、図3から一本。 さて、ここからどうするか……」
ここまでで得られた式(
テトラ「
僕「わからないものが増えてしまったのは確かだけど、 《条件をすべて使ったか》という問いかけをしなくちゃね。 『いかにして問題をとくか』に出てくるポリアの問いかけだ」
テトラ「《条件をすべて使ったか》……ですか。
ああ、
僕「なるほど?」
テトラ「相似比を
僕「そうだね……」
テトラ「これで、
さっきの二本の式(
僕「ねえテトラちゃん、僕も見つけた。これでもう一歩、進めるよ」
テトラ「何でしょうか」
僕「テトラちゃんは、《
テトラ「はい、そうなりますね。でもそれはこれから探しますからっ!」
僕「《
テトラ「えっ……ええっと、
三角形
僕「線分
テトラ「相似比を
僕「できたね!」
テトラ「そうですね……」
と、そこでテトラちゃんは眉根を寄せて何かを考え始めた。
僕「……」
テトラ「先輩、あのですね。ふと思ったことがあります。聞いていただけますか?」
僕「もちろん、もちろん。今度はどんな証明?」
テトラ「あ、いえ。新しい証明とか、そういうことではなくてですね。 《発見》ということについてです」
僕「発見?」
テトラ「今回の問題で、あたしは最初
僕「うん」
テトラ「あたしは、どうして点
僕「……」
テトラ「それはもちろん考えが足りなかったからですけれど、 もう一歩進んで『どんな考えが足りなかったんだろうか』と考えました」
僕「おお。自分の思考を思考する。メタ思考だね!」
テトラ「あたしは『何のためにメネラウスの定理を使うのか』を考えていませんでした。 ただ単に、メネラウスの定理を使うことを優先させていたんだなと思うんです」
僕「なるほどね」
テトラ「実はですね。先輩がメネラウスの定理を証明なさったときの図が頭に残っていて、 ちょうどそれに近い形の三角形と直線に目が行ったということも思いました」
僕「そういうこと、あるよね」
テトラ「点
僕「そうか……だとすると、ポリアの問いかけにある《求めるものは何か》というのは、 やっぱり大事なんだね。 自分が求めたいものを意識して、 そこに関わるものを見つけ出す態度になる。 そうすれば《発見》に近づけるかもしれない。 テトラちゃんがいうのはそういうことだよね」
テトラ「その通りです!
僕「まるでそれは《思考ベクトル》だね」
テトラ「はい?」
僕「考えるときに、どっちの向きにどれだけの大きさで進もうとしているか。 向きと大きさがあるなら《思考ベクトル》だなあ、って思ったんだ。 もちろんあくまで比喩だけどね」
テトラ「ああ、なるほどです。 思考ベクトル、意識的に制御したいですっ!」
僕「ポリアの問いかけには《えられた答を検討せよ》というのもあるよ。 答えが出て終わりにするんじゃなくて、振り返るってことだね。 テトラちゃんは、自分の考えをよくまとめるし、振り返りも得意。 テトラちゃんは、学び上手なんだね」
テトラ「《腕力》だけじゃないと思っていただけているなら、何よりです」
テトラちゃんは、改めて真面目な顔で腕を曲げ、 わざわざ力こぶを作るジェスチャをして僕を見る。
そして、僕たちは大笑いした。
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(2024年10月18日)