【3日間無料】Jリーグのホームグロウン制度が抱える矛盾。「育てる」「売る」はOK、でも「プロにする」はNG
喫茶店バル・フットボリスタ~店主とゲストの本音トーク~
毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回のテーマは、高卒選手がJリーグで出場機会を得られないという「ポストユース問題」だったが、それを起点にした高体連とクラブユースの現状から、Jリーグのホームグロウン制度やABC契約といった時代に合わない制度が引き起こしている「本末転倒な現象」まで、過渡期のJリーグが抱えている問題点を幅広く議論してみた。
今回のお題:フットボリスタ2024年7月特集
ポストユースの壁に挑むルーキーたち
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
インターハイの独立。徐々に変化する夏のサッカー
川端「マスター、今年の夏も暑かったね」
浅野「やばいくらい暑いね。長時間外にいた時は日焼け止めを貫通して日焼けしていたなんてこともありました」
川端「専らインドアの人っぽい感想だ(笑)」
浅野「川端さんはいろいろ出かけてたでしょ。インターハイにも行っていたみたいだけど、大丈夫だった?」
川端「今年のサッカーのインターハイは東京で過ごすより快適でしたよ(笑)。女子は北海道だし、男子は福島の太平洋側ですからね。30℃を下回る日もありました。友達のベテランライター・森田将義さんは『北海道開催の昨年、Jヴィレッジ開催の今年は体が楽』という話をしていましたが、まあその通りだな、と。もちろん、暑いのは暑いんですが、常識の範囲内というか(笑)」
浅野「夏が暑いこと自体は自然なことではあるもんね」
川端「冷夏になったら農作物は死滅しますからね。それはそれで困ります。でも実際、鹿児島の神村学園の選手なんて『(鹿児島に比べて)めちゃくちゃ涼しい!』と言っていましたからね。連戦の末に迎えた昌平と神村学園の決勝もかなりハイパフォーマンスを出し合う試合になってましたが、これも暑さが穏やかだった影響はあったと思います」
浅野「福島県のJヴィレッジがメイン会場だよね? あのあたりは結構涼しいんだね」
川端「福島県の内陸側、会津とか郡山とか、あっちの方はめちゃくちゃ暑いと思いますが、海側は比較的涼しいと思います。あくまで『比較的』ですけど、でも東京や群馬とは比較にならないですよ(笑)。もっとも、福島が地元の人によると『例年より暑い』とのことでしたが」
浅野「インターハイは酷暑の連戦のイメージだったから意外だね。例年、夏に群馬でやっている大会もあったよね?」
川端「群馬でやってるのは日本クラブユース選手権(U-18)ですね。インターハイは全国の持ち回り開催で、今年は本来、北部九州開催です。それだと連日35℃超えの中で試合とかになっていたと思います。逆に去年も北海道が当番だったので、すごく涼しかったですね。昼間に26℃とか28℃とかの中で試合しましたから。ただ、持ち回りだと、トンデモなく暑い場所も必ず巡ってくるので(笑)、サッカーは独立して開催地を定めようということになったわけです」
浅野「それは賢い選択だよね。夏のスポーツ開催はサッカーに限らず、涼しい場所に固定した方がいいかもしれない」
川端「屋内競技はエアコン入れられれば別にいいと思いますけど、屋外競技、しかもサッカーのように走り続けなければいけないような競技特性だと厳しいですよね。サッカーも田嶋幸三前会長が『もうやめよう』と決断して、コロナ禍前から動かしてきた『インターハイ独立』プランが形になりました」
浅野「しかし、インターハイでサッカーだけ独立なんてできるもんなんだね」
川端「ラグビーみたいな先例もありますからね。もちろん、それを受け入れてくれる自治体や施設があるのが大前提ですけど。高体連自体から独立して高野連のように“高サ連”を作って出ていこうみたいな構想も一部にあったくらいですから」
浅野「なるほど、単一スポーツで活動しちゃえるようにしようということか」
川端「“高体連ルール”みたいなのがサッカーの文脈に合わないことはよくありますからね。転校した選手の扱いとか、そんなに厳しくしなくていいじゃん、というのがあったりね」
浅野「サッカーだと本来『移籍』はあってしかるべきだけど、他のスポーツの基準になるのか」
川端「スポーツじゃなくて“高体連”の基準ですね。転校した選手の扱いで言えば、サッカーみたいな競技の感覚と、陸上とか柔道みたいな個人競技の感覚ってまるで違うわけです」
浅野「なるほどね。何にしても、この暑さだとパフォーマンスもそうだし、単純に危険だったからね。観てる側もきついし」
川端「実際、倒れる人って観てる側が多いんですよ。そりゃそうですよね。普段デスクワークしかしていないお母さん・お父さんとか、お年を召されたおじいちゃんやおばあちゃんも来ますから。応援の先生や生徒もアウトドアタイプじゃなくて、浅野さんみたいなインドアタイプもたくさんいるわけで」
浅野「俺も普段デスクワークばかりだから、炎天下で長時間外にいるのはかなりきつい。というか、普通に具合が悪くなります。ここ2、3年の暑さは、またステージが変わってませんかね?」
川端「データ的にはそこまで極端な急変はしてないですよね。あくまで徐々に暑くなっていっているという形です。ただ、我々の体力が加齢に伴って落ちているというのはあると思います(笑)」
浅野「あー、それはあるね、きっと(笑)。少しずつ暑くなっていくのと、自分の衰えがリンクしてよりキツく感じるようになっているのか」
川端「あと、コロナ禍以降、オンラインでの在宅仕事が増えて、より弱くなっているのはありそうです」
「高卒即海外」がユース年代に与えている影響
浅野「それも思い当たる節がめっちゃあるな(苦笑)。環境面ではなく、プレー面についてインターハイで印象に残ったことはありますか?」
川端「変な言い方に聞こえると思いますが、『強いチームが残った』ということでしょうか。8強のうち7強が高円宮杯プレミアリーグ所属、もう1校もプリンスリーグ関東の桐光学園。そして4強はすべてプレミア所属チームが残りました。事前に『強そう』と思われていて、近年の実績を積み上げてきているチームが勝ち残った形でしたね」
浅野「パフォーマンスが発揮しやすかったから番狂わせが起きにくくなったのかな?」
川端「優勝した昌平のスタッフはそういう見立てをしていましたね。あと、天然芝の試合が多かったのも影響あるかなと思います。唯一、大津の初戦敗退は少し驚きを持って迎えられていましたが、内容的には上回っていたし、相手も関西の強豪・阪南大高校なので、サッカーでは普通にあり得る範囲だったというか」
浅野「素人質問で恐縮ですけど、今の高校サッカーとクラブユースサッカーの力関係ってどんな感じなのでしょう? 高円宮杯プレミアリーグに所属しているチーム数とか、単純に一番強そうなチームはどこかとか(笑)」
川端「そういうことなら、ちょうど前期が終わって対戦が一巡している高円宮杯プレミアリーグの順位表がわかりやすいでしょう。さっき『大津の初戦敗退が』と言ったのは、まさにこの順位ゆえですね」
浅野「なるほど。思ったより高体連が多いが、一言では言えない順位表だな(笑)」
川端「高校サッカー側にとってリーグ戦のプライオリティが上がった結果でもあると思います。『カテゴリーの高いリーグにいるチームに中学生が行きたがる』という、ある意味で当たり前の現象が間違いなく拡がってますからね。ガンバ大阪やセレッソ大阪、清水エスパルスのユースが揃ってこの表にいないなんて、一昔前はちょっと考えられなかった状態ですし」
浅野「そうだよね。名門アカデミーがプレミアリーグにいないなとは思った。ガンバはクラブユース選手権を制していたけど」
川端「近年のクラブユース選手権は『リーグ戦で振るわなかったり、下部リーグにいるチームがモチベーション高く戦って結果を出す』という、ある意味で非常にカップ戦っぽい感じになってきていますね。ただ、チームとしての結果なり順位なりだけで力関係が見えるかというと、そう単純な話でもないとは思います。やっぱり『有力』と見なされる、高卒ですぐにプロへ行きそうな選手の大半はJユースに在籍していますしね」
浅野「なるほどね。この前、横浜FCのMCO戦略について取材してきたんだけど、横浜FCはアカデミーの海外戦略に本格的に乗り出していて、クラブとして若手の欧州移籍のバックアップ体制を整えているんだよね。そういうクラブに徐々に選手が集まるようになってくるのかもしれないね」
川端「高校サッカーだと、神村学園なんかも結果的にそうなってきていますよね。福田師王以降、『欧州行き』の選択肢が当たり前になり、今年もそこで迷っている選手がいますから」
浅野「名和田我空選手ですよね。どうするんだろうなとは注目しています」
川端「インターハイで話した時は、『言えないとかじゃなくて、ガチでまだ迷ってます』って感じでしたね。どっちを選ぶにしても、たくさん迷って考えて、自分で決めればいいと思います。『こっちの道を選べば絶対成功する』なんて選択肢は人生に存在しないので」
浅野「それはそうだね。Jリーグで高卒選手たちの出場機会がないというポストユース問題が叫ばれて久しいですが、U-17アジアカップでMVPを獲得した名和田ですらJ1に行ってどういう扱いを受けるのかは未知数ですからね」
川端「J1で優勝を争うような大きなクラブに行くとなると、すぐに出るのはかなり難しいでしょう。名和田の場合で言うなら、ポジション的には出やすい方だとは思います。ただ、それも外国人選手とも競合することになりやすいGKやCB、CFに比べれば、ということでしかないので」
浅野「同じU-17代表だった小杉啓太(前湘南ベルマーレU-18)は、すでにスウェーデン1部リーグで試合に出ているからね。それにしても、高校サッカーの選手に欧州のクラブから本気のオファーが来る時代になっているのは大きな変化ですね。欧州にチャレンジしたいと考える高校生が増えるのも当然か」
川端「『高卒即欧州』考えるなら高校サッカーの方が行きやすいといった声もある中で、Jユース側も何かを示す必要が出てきている面もあると思います。昨年のU-17W杯で4点取った日章学園のFW高岡伶颯はサウサンプトンに決まりましたし」
浅野「Jリーグとしては悩ましいところだね」
川端「Jリーグは『早回しの育成』を主張して、実際に早めにトップデビューする選手の数自体は増えたと思いますが、それによって10代でJ1中堅以上のクラブでレギュラーを奪う選手が増えたかというと、そうなってはいない実態がありますからね。浦和の早川隼平なども高校生でデビューしましたけれど、今年はトップチームでの出場機会がほぼなく、夏にレンタルになりましたし。広島は『(18歳の)中島洋太朗を使え』という俺が送り続けていた念に最近応えてくれてますが(笑)」
浅野「絶対違う理由だよ(笑)。広島は若手を抜擢しやすい外国人監督であることも大きいのかもね。まあでも、ポストユースの特集をした時にJ1~J3までの高卒プロ1年目の選手をリスト化しましたけど、10代でレギュラーとして使われるような選手は本当に少ないね」
川端「鈴木彩艶だって、もっと早くに定着すると思われていた紛れもない逸材ですが、結局は欧州に行かないと先発でリーグ戦には出られないわけですからね。チェイス・アンリも、『Jリーグだと使ってもらえないと思った』ことを高卒即欧州を選んだ理由として真っ先に挙げていましたから」
ラングニックが主張する「17歳デビューの法則」
浅野「で、そのテーマで最近面白いと思ったのが、このモラス雅輝さんのツイートです。
ラングニックがオーストリアサッカー協会で講演したらしいのですが、『CLベスト4のチームに所属する選手の80%が17歳の時点で大人のチームでプレーしていた』という話ですね」
川端「それは“とりあえずデビュー”も含めてでしょう? 数字のトリックの気がするなあ。選手の“株価”を上げるための経営戦略の一環」
浅野「若手有望株の扱いはまさにそうなんだけど、だからこそ早いうちにトップレベルでの経験を積めるし、成長も早くなるという側面はあるよね」
川端「いや、実際は成長が早くなるとは限らないから難しいんだよ。サッカーゲームとは違うからさ。“早めにデビュー”した選手がどこまで本当に伸びてるの?と思うところはある。起用し続けるならまるで話が違ってくるけど、“とりあえずデビュー”させて、『育成の早回しです(キリッ)』みたいなのは違うと思うんですよね」
浅野「良くも悪くも欧州サッカーの選手売買は投資の発想になっているから、逸材がいたら早くから使い続けて価値を上げるという強いインセンティブが働いているけどね。特にポルトガルやオランダ、ベルギーなどのステップアップリーグでは。ただ、日本の場合はそういう感じではないよね。こちらも本当に良くも悪くもなんですが」
川端「“とりあえず昇格”みたいなのも本当に罪深いですよ。クラブ側は『プロにしてやった』みたいな感覚だったりするのが余計に罪深い。ユース関連でKPIで評価とか本当にいらないですよ。人、しかも未成年を扱ってるんだという自覚を持ってほしい。『毎年1人はトップ昇格させます』みたいなのを、まるで“良い話”かのように語るフロントの人がいますが、ああいうのは本当に罪悪ですね。トップチームに『所属』だけして、実際は『干されている』状態になる若い選手を何人も観てきました」
浅野「確かに数値目標みたいなのが先行しちゃうのは違うよね。人を扱ってるんだし」
川端「トップ昇格なんて、それにふさわしい選手がいないと思うなら別に『ゼロ』でいいんですよ。何も恥ずかしいことではない。それを恐れないでほしいし、数字目標に達してないとかいって責めるのもやめてほしい。基準に届いていない選手を数字合わせでプロにすることの方がよほど恥ずかしいこと。それに、そのチームが昇格させる判断をしないことで、他のチームで戦力になると思われ、より必要とされるチームへ行くという選択肢が生まれることもあるわけで。だからJリーグのホームグロウン制度(詳細はJリーグ公式サイトを参照)とかはマジでダメダメな制度であることに一刻も早く気づいてほしい。『プロにすること』、『契約して在籍させ続けること』が目的化しちゃダメなんだよ」
浅野「それはそうだね。本末転倒だ」
川端「数字目標にしやすいものを数字目標にするんだけど、それって本末転倒なんですよ。数字目標を作ってそれを達成すること自体が目的化している。何年かしたら、『ホームグロウン制度を作ってから、こんなにホームグロウン選手が増えました!』みたいな数字がさも凄いことのように公開されると思いますが、空虚な数字です」
浅野「でも、ポルトガルやベルギーなど欧州の移籍金ビジネスをしている国はけっこう露骨に若手に出場機会を与えることをやっているよね」
川端「いや、だから、そこは逆なんですよ。露骨にやる覚悟があるなら、それも“あり”になってきます。普通に純粋な『レギュラー争い』をさせてしまったら、17、8歳はそうそう勝てないんだから」
浅野「そうそう。欧州みたいに『売る』が目的化するのはいいんだよ。それが『育てる』ことにもつながるし。ラングニックが言っている『17歳デビューの法則』は、その前提を無視できないと思うんですよ。ただ、『17歳でデビューさせる』あるいは『プロになる』が目的化するとおかしなことになる」
川端「例えば、某ユースに年代別日本代表にも入ってて、トップデビューも済んでいる選手がいるけど、いま彼をレギュラーとしてJの試合で使ったら、少なくとも短期的にはチームの戦績が悪化すると思います。それを受容して“使う”判断をできるんか、という。そして、できないなら無理にトップへ上げておく必要はなくて、ユースでやらせた方がいい。クラブが勝手に背伸びをさせても、担当者が気持ち良く威張れる効果があるだけで、選手にとってはネガティブなだけ」
浅野「トップへ上がることの刺激はあるとはいえ……だよね」
川端「最初はそう。学びも大きい。だから練習参加とかはどんどんやればいいと思う。ただ、トップチームにいるのは“良い大人”ばかりじゃないし、そこには弊害もある。周りの見る目も変わることで本人の心理面への影響も出てくる。あえて悪い言い方をすると、勘違いする選手も出てくる。そういう面も個別的に対応するようにしないとダメだし、それができないのに『とりあえず昇格』みたいなのは本当にダメだよ。ひどい例も観てきたこそ言わせてもらうけど」
横浜FCのMCO戦略にみる、早期欧州移籍時代のJクラブの役割
浅野「そういう意味でも横浜FCの取り組みは面白いと思ったな。横浜FCはポストユース問題の解決に、自分たちが経営権を取得したポルトガル2部のオリヴィエレンセを使いたいようです」
川端「そういう術策はあった方がいいよね。日本はリーグがどうこうしようとし過ぎてるし、クラブがやらな過ぎる。育成なんてクラブが個別的に取り組む仕事だよ。リーグが音頭取って統一的にやるようなことじゃない」
浅野「横浜FCのユースからは永田滉太朗に続いて、高橋友矢のオリヴィエレンセへのレンタルが決まったけど、おそらくU-17代表の前田勘太朗も18歳になったらレンタルさせるんじゃないかな。バイエルンに練習参加させていたくらいだし。その横浜FC、あとは徳島とかもそうだったけど、理屈としては逸材を早くデビューさせて、場合によっては海外にレンタルさせて価値を上げたいというインセンティブはJクラブにも出てきたと思うんですが、日本の場合は飛び級とかもそうですが川端さんがさっき言ったように『特別感』が出ちゃうと若い選手が勘違いしちゃうリスクもあるよね」
川端「本人じゃなくて家族含めた周りがって部分もあるし、甘い言葉をささやく悪い大人も寄ってくるもんだからね」
浅野「俺が横浜FCの戦略でいいなと思ったのが、クラブ側がオリヴィエレンセに渡った若手のピッチ外の生活含めたフォローをしてあげること。なぜなら、そこで成功して価値を上げることがクラブのメリットにもなるから。山形CEOはそれを『確率を上げる作業』と言っていましたが、重要だなと思いました。シント=トロイデンにも欧州移籍の入り口としての機能はあるけど、10代の選手がいきなり海外に行くのはやっぱり大変だからね」
川端「そこは言葉ではみんな言う部分なので、ぜひ実態が伴っていてほしいですね。ポストユース問題は“出場機会”ばかりに焦点が当たりがちですが、教育的な側面や精神的なサポートについて、もっとJクラブは考えた方がいいと思っています。18歳になった途端、急に孤独な競争を強いられるようになるし、高校までの人間関係のほとんどが一回断絶しますから。悪い大人につけ込まれやすい状態にもなる」
浅野「横浜FCに関してはオリヴィエレンセの経営権を取得して、すでに投資もしちゃっているので、もうやるしかないという状態だと思いますよ。『高卒即欧州』を選択する日本人選手が増えてきているのは、欧州サッカーの投資マインドを考えると日本よりも10代の選手を育てる(=価値を上げる)インセンティブが働きやすいので出られる可能性が高いという部分もあると思うんです。もちろん、欧州の市場で活躍しないとステップアップの選択肢が広がらないというのもありますが、選手側は完全に行くんなら早い方がいいというマインドになりましたよね」
川端「10代の選手がJリーグに魅力を感じなくなっているというのは実際ありますよね。そこには幻想や錯覚もあるとは思いますが」
浅野「そうやって挑戦して成功するバイタリティがある人物ならいいんですが、10代での欧州移籍は生活面でのリスクはやっぱり高いじゃないですか。そうなった時にJクラブが後ろ盾になってくれて、選手側とWIN-WINの仕組みを作ってほしいなとずっと思っていたので、横浜FCの取り組みには注目しています」
ホームグロウン制度の「数合わせ」は本末転倒の極み
川端「そうですね。ただ、いずれにしても、Jリーグの制度改革は必須ですよ。時代と合ってない仕組みが多過ぎる。古い制度もそうだし、新しく導入するのもホームグロウン制度みたいなトンチンカンな仕組みですからね。『浦和は伊藤が海外移籍したから、ホームグロウン枠を埋めるためにはユース出身の若手は移籍させられなくなったし、宇賀神との契約延長するのかな』みたいな話が出てくるのは本当に異常です。何のための、誰のための仕組みなのか。『出て活躍している選手は引き抜かれるもの』であるし、『出られない選手は出場機会を求めて旅立つもの』という当然の大前提すら織り込まれていない制度に何の意味があるのか」
浅野「Jリーグのホームグロウン枠は、移籍ビジネスとも合っていないので調整は必要だよね。それこそ、枠を埋めるために若手を移籍させられないとか、使う気のないアカデミー生を昇格させたりとかなりかねない」
川端「『実力の足りてないユースの子を激安で昇格させて枠を埋める』みたいな愚策がまかり通る仕組み。本当にあり得ないですよ」
浅野「作った制度が実際にはどう運用されるのかというところまで考えないとね。理念通りにいくはずもないわけで」
川端「この前、某強豪大学の関係者と話していたらこんな話を聞いたんです。Jリーグの人と『C契約制度をどうするか』みたいな議論をしていたら、『でもC契約をなくしたら、大学からプロになる選手が減っちゃいますけど、それでいいんですか?』と言われた、と。『いや、いいだろ!』と(笑)。『格安で獲得できるから採用します!』みたいなことを是正してくれないと学生たちのためにも良くないから制度を変えてくれと言ってるんだ、と」
浅野「そこからすれ違っているのか」
川端「『プロにしてあげる』みたいな感覚がプロ側にあるし、選手もプロになりたい、なって夢を追いたいという願望がある。でも、そもそも『力が足りない選手を無理やりにでもプロ入りさせたい』なんて真っ当な大学関係者は全く思っていないんですよ。なのに、J側には『プロにしてあげてる』みたいなマインドのままの人がかなりいる、と」
浅野「そもそも本当にC契約制度を変えたら大学からプロになる選手が減るのかな。460万円という年俸上限を撤廃するということでしょ。新人の獲得競争が激しくなるのはわかるけど」
川端「いや、A契約の『枠外』で確保できる格安で使える選手という需要が大卒にはあるってことだと思います。高卒5年目以降の選手より大卒1年目の選手の方が基本的に安くなる仕組みなので」
浅野「なるほど。せこい話だな(笑)」
川端「高卒5年目でそこそこ試合に出た経験のある選手=A契約でしか取れない。それよりも大学出身で格安で採れる選手の方がコスパ含めていいという現状があるため、Jリーグ全体が大卒重視になっているという流れがそもそもあるわけですね。それによって大学サッカーからプロ入りする選手が増えて『繁栄させてやっている』みたいな感覚までJ側にあるんだと、その方は憤ってましたね。『俺らは大切な教え子を格安で使い捨てにされ続けて悲しんでるだけなのに!』と」
デフレマインドの行き着く先にある「引き抜き放題」現象
浅野「大卒ルーキーを新しく採る代わりに、大卒からA契約になった選手が切られるみたいな面もあるもんね。結果的に、現在の契約制度は若手の年俸抑制につながってる面もあるよね」
川端「抑制された結果、J2・J3クラブはJ1から、J1・J2は欧州から格安で引き抜き放題になっているんだから、これまた本末転倒だと思うんですけどね」
浅野「自由競争になると人件費がかさむから嫌なのはわかるけど、今シーズンのJ1のレギュラークラスなら誰でも欧州移籍の可能性あり、みたいな引き抜かれ方を見るとちょっと考えちゃいますよね。安いことは本当にいいことなのか、と」
川端「『大卒格安C契約ガチャ』を回し続けるのがコスパがいいように感じちゃうんでしょうね。某クラブのスカウトには『今年は大卒で6人獲らないといけない』みたいなノルマがあるそうで、その『枠』を埋められる選手を探しているという話をしていて、大学サッカー関係者から呆れられていましたよ。笑っちゃったのは、『ノルマを埋めるために早めに決めたので、おたくの選手がベストだとは思うんですが、もう枠を埋めてしまったので獲得しません』と言われたことがある、と(笑)」
浅野「本末転倒すぎるな(笑)。デフレマインドの行き着く先というか。まあでも、おかげで若くして欧州へ行く選手は本当に増えたし、これからも増えそうだね。今のベルギーリーグの日本人選手なんて、すごい数になっていますからね」
川端「まず日本人選手がそうやって評価されるようになったのは喜ばしいこと。先駆者たちが積み上げた実績あってのことだし」
浅野「GBEやESCといった新ルールで結果的に労働許可が緩和されたイングランドのチャンピオンシップにも狙われまくっていますしね」
川端「シーズン移行すれば、よりこの時期に移籍しやすくなるだろうしね。基本的に流れはもっと加速していくと思う」
浅野「ただ、『安いから』と言うのはやっぱりあるよね」
川端「ある。今は円安の効果もあるしね」
浅野「これを是正しないとJリーグは持たなくなるので、制度改革は待ったなしだと思います」
川端「『円安の分、移籍金も上がっているのでは?』と思われがちだけど、Jリーグの日本人選手の契約って円ベースだから、そこは変わらなかったりするんだよな(笑)。向こうから見た時に値下がりして見えるだけという」
浅野「しかも、円安の影響で外国籍選手も獲りにくくなるという……」
川端「ただ、たくさん行ってる分、気軽に帰ってこられるようになってきているのもいいと思う。若い選手の欧州へのチャレンジを俺は基本的に応援しているけど、どんどん帰っておいで、とも思ってる(笑)。別に欧州で成功するだけが人生じゃない」
浅野「日本代表の強化としてはいいと思います(笑)。ただ、Jクラブはもっと戦略的にやった方がいいですし、制度に縛られて打ち手が限られている面もあるので、余計な縛りはなくすべきですよ」
川端「何度も言いますけど、リーグが主導権を取ろうとし過ぎだと思います。本来、リーグにできることなんて実際そう多くはない。もっとクラブごとのあり方や個別的な方向性を認めていいと思います。アカデミー一つ取っても、クラブによってまるで事情が違うんだから、それぞれのチャレンジがあっていい。リーグはいらない制度や規制の緩和・撤廃をもっと考えてほしい。そこに“大きな政府”が必要なの?と思うことは多いですね」
「もはや(強制的に)変わらざるを得ない」のが光明?
浅野「長年ユースの現場を見てきて実情をよく知っている川端さんから見れば不満だらけかもしれませんが、最後にポジティブな部分も語らせてください」
川端「まるで俺がネガティブみたいな言い方はやめてください(笑)。ネガキャンだ!」
浅野「今回はだいぶネガティブだったでしょ!(笑) 例えばロアッソ熊本の道脇豊が高校生の時からトップチームでの出場機会を得てベルギーに渡り、神代慶人もそれに続く可能性がありますよね。横浜FCのケースもそうですが、クラブとして独自のアカデミー戦略や移籍ビジネスに取り組んでいるケースが出てきていますし、そこは期待したいです」
川端「熊本は大木監督の胆力あってこそという感じもある」
浅野「Jクラブ全体としても移籍ビジネスへの意識は上がってきていると感じますし、それゆえの『特別扱い』などの難しさは出てきますが、過渡期なんだと思いますよ」
川端「過渡期だといいなあ。正直、船が山に登り始めてるんじゃないかと心配ですよ。ファンを含めて『Jリーグはこうあるべき』みたいな像を狭い範囲で分断的にしかシェアできなくなっていることを凄く感じているので」
浅野「そういう意味でも、移籍ビジネスの成功例はもっと出てきてほしいかもね。1回目の欧州移籍だと大きな額にはならなくても、2度目の移籍の際の権利を確保していたり、ある程度狙った形で連帯貢献金を獲得したり、そういう成功例が出てくると変わってくるのかなと」
川端「ビジネス的にはそうですが、ファンカルチャー的な部分で『前は1億円だった移籍金が今度は2億円になった!』で、何か変わるもんでもないと思います」
浅野「難しいよね。“踏み台にされるのは嫌”といったファンの思いは当然の感情ですが、もう状況は完全に変わっていますからね。1億円が10億円になるなら、またインパクトも違うかもですが」
川端「今までは選手を獲る側だったクラブも欧州からは獲られる側になるという構図ですからね。『それって楽しいの?』となるのも無理からぬところです。友達のサポーターと話してても、やっぱ脳でわかっていても、心が納得できないんですよ。これは正直、どうにもならんと思います。南米のクラブのサポーターとかはずっとこういう鬱屈を抱えてると聞きますしね」
浅野「選手の価値がこれだけ上がったとか、移籍マーケットを楽しむ違った目線になるしかないのかなあ。あるいは、自分たちのクラブ経由で欧州に羽ばたいた選手の出世物語や日本代表に入ることを応援したりとか……?」
川端「いや、Jの全クラブが“奪われる側”になっているという現状もあり、サポーター心理として『楽しめ』と言われても無理があるところではあります。これは意地悪で言っているんじゃなくて、いまの現実的な感覚として、という意味ね」
浅野「いずれにしても現状は安く取られ過ぎな面も含め、ABC契約などの年俸制度を変えてもう少し取られにくくした上で、どのポジションの選手を獲って、いつ売るのか、そこから逆算した数年単位の中長期的な強化戦略が求められるという難しい時代になっていきそうです。クラブの命運を握るのはそれを担うGM、強化部長になっていくでしょうね」
川端「いや、やっぱりオーナーサイドですよ。GM、強化部長に腹をくくって任せられるかというところも、結局オーナーサイド次第ではあるんだから。GMなりに“誰を置くか”という部分含めてね。そういう意味で言うと、レッドブル・グループによる大宮アルディージャ買収は、ポジティブな影響を日本のクラブ経営文化に与えてくれればいいなと思っています」
浅野「レッドブル・グループはサッカースタイルや移籍戦略に明確な色があるので周囲への影響力が大きいですからね。結果的に制度改革を後押しする未来もありそうです。まあただ、ここまで選手が引き抜かれたら、さすがにJリーグの制度も各クラブのマインドも変わらざるを得ないんじゃないでしょうか。激動の時代にJクラブがどう生き残っていくかは、フットボリスタでも引き続き注目していきたいと思いますし、一緒に答えを探していきたいです」
川端「つまり、強い気持ちで。ありがとうございました!」
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Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。