楽しみにしていた講演会が給水管の漏水事故の修理と重なってしまいキャンセルを余儀な
くされ、久しぶりの名古屋行きも「次の機会に」となってしまった。
朝日新聞スペシャル講演会の演題は「天声人語 フラフラ日乗」と題し、同紙の名コラム蘭「天声人語」を2016年10月から2022年10月までの6年間担当してきた山中季広氏(としひろ/論説主幹)のお話であったが誠に残念至極、抽選で招待状を受け取った250人余の聴衆の満足げな表情が手に取るように分かる。

天声人語執筆者の講演会は全国どこでも超人気のために抽選で選ばれるのだが、自分はこれまでに聴講したのは2回「やさしい言葉で語りかけるような話術の巧みさ」に感動した事を思い出す。
1回目は日本を代表するコラムニスト栗田 亘氏の公演であった。
1995年8月から2001年3月まで「天声人語」を担当した栗田 亘氏はこの6年間で約2000本のコラムを執筆したという。
印象に残る言葉は「床の間の天井という新聞業界用語があるが、これは誰も見ない記事という意味、床の間の天井と言われたくないという一心で、6年間、毎日毎日、とにかく書いてきました」たという。
2回目は2009年7月24日に朝日ホール(朝日新聞名古屋本店)で開催された福島申二氏の講演会「演題・コラム書きの日々」であった。
2007年から2016年4月までの9年間にわたって天声人語を執筆してきた福島申二氏は『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをいっそうゆかいに』という作家・井上ひさし氏の文章の極意を糧に、日々「要諦を踏まえ、読者の心に染み入る文章」を心掛けて天声人語に向き合ってきたという。
お話の中で「新聞は今日一日だけが新聞で次の日はただの新聞紙と言われるが(会場から、爆笑)そのような雑念に悩まされることもあるが、書くべきこと、書きたいこと、書けることを文章にする、ということを主眼に成竹(せいちく=竹の全体像)を思い浮かべながら筆を入れる(会場はシーンと静まり返り、やがて、大きな拍手が巻き起こった)」と語った件は印象的であった。
妻と「この人の文章って分かりやすくて素晴らしいよね」と感心しながら天声人語を楽しみにしていたものだが、その後、編集委員として「日曜に思う」の執筆者となり、現在は斜影の森から(掲載は月1か2)を執筆中である。

栗田 亘氏は西木空人、福島申二氏は山丘春朗、山中季広氏は柴門蔵人のペンネームで朝日川柳の選者を交替で務めているが、お三人の軽妙洒脱な寸評は、「床の間の天井と言われたくないという一心で」「成竹を思い浮かべながら」来る日も来る日も603文字に命を懸けてきた賜物であると思うのである。