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TS転生したからロールプレイを愉しむ 作者:ドスコイ

第一章 わかれみち

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第二話(裏)――――ポチ、色を知る年齢かッッ!!

いつもは書き終わったら予約してるのに今回は予約投稿忘れてました。

 あれ? マリーちゃんが使ったあのポーションの製作者ヤバくね?

 いや、件の錬金術師が”網”に引っ掛かってないって事は致命的な事実に思い至ってるって訳ではないんだろうけどさ。

 それでもあんなものを意図してか偶然かは知らんが、出来てしまう時点で色々ヤバい。

 ポーションを入り口にして知らなくても良い事を知ってしまう可能性が十二分にある。

 俺個人としちゃクソどうでも良い事ではあるが魔女的には看過できない事態だ。


 と寝る前にふと気付いたのが発端だった。


 かったるいし、師匠からの宿題って訳でもねえし差し迫った事態も訪れていない。

 なのでスルーしても良かったのだが、一度考えてしまうと中々頭から離れない。

 なので俺は渋々ベッドから降りて現世に繰り出そうと玄関先まで行ったのだ。

 したら何故か、ポチとバッタリ出くわしてしまう。


《何をしている?》


 と問えば、


《んー、ちょっと眠れないから散歩に行こうかなって》


 ニコニコ笑顔でこう返って来た。


《そうか》

《うん、じゃあ行って来るね!》


 手を振りながらポチは玄関から出て行った。

 何て事のない、直ぐにでも記憶から消えてしまいそうな日常のやり取りだ。

 だが、真なる魔女ルークス様はビビ! っと来た訳よ。

 奴が夜の散歩に出かける事はそう珍しくもない。

 だが、散歩に行く時は断られるのが分かっていても俺のところにまでやって来て散々おねだりするのだ。

 ねえねえ、マスターも一緒に行こうよ! ね? 良いでしょ? と愛され系馬鹿犬の如くにベタベタベタベタと。

 そのポチが俺を誘う事もなく出て行った。そこから導き出せる事実はたった一つ。


 ――――ポチ、色を知る年齢かッッ!!


 言うても、十年だからね。

 人間の社会に紛れ始めて十年。

 そりゃ今でも世間様的に非常識な部分もあるけど馴染んでいる事は確かだ。

 竜特有の価値観で些か傲慢だが見た目は可愛いショタだからな、生意気さも可愛げと取れない事もない。

 年上のお姉さんとかに受けそうな要素はバッチリある。

 ポチも好奇心旺盛だから、ものは試しにと告られたら受けそうだからな。


 この時点で俺は錬金術師の事なぞどうでも良くなり自室にゴーバック、デバガメを開始したのだが……。


「(えぇー……これ、どう言う状況……?)」


 ポチを目で追い辿り着いた先ではまるで意味不明な状況が展開されていた。

 傷だらけで地面に倒れ伏すリーンくん。

 リーンくんの頭を踏み付けにするシンちゃん。

 庇うようリーンくんに覆い被さりながら涙目でシンちゃんを睨み付けるマリーちゃん。

 シンちゃんがマリーちゃんに振りおろそうとしている刃を片手で受け止めているポチ。


 …………何やねん、このカオス極まった状況は。


 こんな時間に何やってんだ少年少女。

 草木もスリーピングなウシミツタイムだってのにホントマジで何してんの?

 唖然とする俺を他所に、状況は進んで行く。


『テメェ、何だって此処にいやがる――ポチィ!?』

『うるさいなぁ。もうちょっと声落としなよ。静かな夜が台無しじゃないか』


 ギャリギャリと不快な金属音が鳴り響く。

 刃とそれを掴む手で力が拮抗しているせいだろう。

 剣と剣ならまだしも、片方手だぜ? おかしくね? どっこいおかしくありません。

 ポチは手の平を部分変化させ竜の皮膚を顕現させているのだ。

 十年前の茶番では感情に引き摺られての発露だったが今は違う。

 腕のみ、爪のみ、牙のみ、人に学び細やかな力の制御を覚えたお陰で今は自由自在だ。


『何故、邪魔をする?』

『言っただろ? 君の負けだって』


 そう笑ってポチはチラリと眼下のマリーちゃんを見やる。

 一体何があったのか、状況の把握が急務だと悟った俺は周辺の記憶を読み解いた。

 空間が観測した出来事は刹那と経たずに俺の脳髄へと叩き込まれ――理解した。


「(えぇー……嫉妬からマリーちゃんを殺そうとしてたの……?)」


 リーンくんのヒーローっぷりと彼に対するシンちゃんの塩対応。

 マリーちゃんの啖呵とか色々滾るところはあるのだが、今はそれどころではない。

 大事なのはシンちゃんがマリーちゃんをぶち殺そうとしたと言う事だ。


「(嫉妬って言葉に反応してたから多分図星なんだろうけど……)」


 俺、マリーちゃん、シンちゃん、この三者の関わりの中でそれが生まれる理由が分からない。

 俺がマリーちゃんを助けたから? いや、助けたと言うのなら彼女だけじゃないだろう。

 それに、あれからそこそこ時間経過してんぞ。


「(いやそれ以前にだ)」


 シンちゃんは嫉妬だけで自分よりも圧倒的に弱い人間を殺すような子ではない。

 だから、それを上回るだけの何かがあったと言う事に他ならない。

 そして、思い当たるのは――――俺以外にはあり得ないんだよな。

 自惚れみたいで恥ずかしいけど、あの子が自分を殺してまでも何かするのなら俺関係だろう。


「(いやでも、俺のためにマリーちゃん殺す理由って何処にあるよ?)」


 ますます以って意味が分からない。


『道すがら耳を澄ましてみたら色々聞こえて来たけどさ。これ以上は醜態を晒すだけだよ?』


 ああ、こんな時間帯だからな。

 人の営みは静止し、多くのものが死んだように眠る夜の中。

 他の音が皆無と言う訳ではないが、まあポチのスペックならば聞こえなくもないか。

 魔法などの術理を操る事は出来なくてもアイツ竜だしな。五感だって人のそれとは比べ物にならん。


『…………邪魔すんじゃねえよ』


 ポチの指摘を無視し要求だけを告げるあたり、本人にも自覚はあるのだろう。

 身内的にシンちゃんを擁護してあげたくはあるが、記憶を読み解いた限りでは……ねえ?

 舌戦と言うのならばシンちゃんの完敗だろう、あれは。

 マリーちゃんの主張の是非はともかくとして何も言い返せず実力行使に出た時点で誰の目にも敗北は明らかだ。


『テメェは気付いてねえだろうが、この女は――――』

『いや、気付いてるよ? ああ、僕だって初めて見たよ。マスターのあんな顔』


 あんな顔? あんな顔ってどんな顔?

 何で二人して分かり合ってんの? 何で当人たる俺が現状を理解出来ないのに通じ合ってるの?


『そう言う意味で言うなら、この子は誰にも成し得なかった偉業を打ち立てたと言っても過言ではないだろうね』


 そう言う意味ってどう言う意味?

 激情を発しているせいで、想念とかは伝わって来なくもないんだがどうにも要領を得ない。

 だからと言って心を丸裸にして読み解くのは……抵抗がある。


『なら……!』

『――――マスターが殺せって言ったの?』


 言ってない。少なくとも俺はシンちゃんにマリーちゃんを殺せなんて言ってない。

 と言うかマリーちゃんの事を話題に上げた覚えすらない。

 だからこそ、現状に戸惑いまくってる訳なんだが。


『ッ! それは……』


 ポチの指摘に顔を歪め、言葉を詰まらせる。

 やはりシンちゃんとしても自身の行動に色々と思うところはあったようだ。


『言ってないでしょ? 何も、何も語らない。マスターはそう言う人だもの。だからこれは君の独断。勝手な行動だ』

『じゃあお前はこのまま放置しろってか!?』

『さっきからそう言ってるじゃないか』


 物分かりの悪いクソガキめと悪態を吐かれシンちゃんの顔が更に凶悪なものへと変わる。


『後さ、そもそもの疑問なんだけど……バレないように始末出来るとでも思ってたの?

マスターは全部把握してるよ。その上で君の行動に口を挟まなかっただけだって気付いてる?』


 いやいやいやいや! 把握してなかったよ? ルークス様今の今までご存知じゃなかったよ!?

 たまさか下卑た動機でデバガメってたら偶然、知っちゃっただけだもの。

 この偶然がなければシンちゃんがマリーちゃんを殺そうとしてるとか知る由もなかったと断言出来るわ。


『じゃあそれは黙認したかって言えばそれは違う。まあ、君が事を成したとしても咎め立てはしないだろうけどね』

『……』

『それは何でか、分かるよね? 僕なら、君なら。一番近くでマスターを見て来た僕達なら』


 場違いな感想かもしれないが、今ようやく実感した。

 この十年はポチにとって大きな実りがあった十年なのだと。

 凪いだ表情で淡々と語るその姿には確かな重みがある。それが何よりもの証明だろう。


『図らずも、あの時のオジサンと似たような状況だね。まあ、あの時は僕らがそれを否定する側だったけど』

『……チッ』


 葛藤の末、シンちゃんは剣を引く。

 茨の刻印となりスカー・ハートは腕に溶けていった――完全に戦闘の意思はなくなったようだ。

 いや、あの子からすれば戦闘と言う認識ではなかったのかもしれないが。


『……』


 足として使っている竜を呼び寄せその頭上に飛び乗ったシンちゃんは一度だけマリーちゃんに視線を向けるも、


『な、何?』


 何を告げる事もなく視線を逸らしそのまま飛び去って行った。

 まったく意に介されなかったリーンくんが辛そうにしているのが、また何とも……。


「(まあ、色々思うところはあるけれど……誰も死なずに済んで良かった)」


 ホッと胸を撫で下ろしたのは俺だけではない。

 マリーちゃんも緊張の糸が切れたのかリーンくんから離れ尻もちをついている。


『やあ、うちのチンピラがすまなかったね』


 マリーちゃんらに向き直ったポチが軽く頭を下げた。

 チンピラってのはアレだけど、うちの……うちの、ねえ。

 止めてよ、そう言う何気ないデレ。当事者じゃなくてもすっごいキュンキュンするから。


『い、いえ……助けて頂いてあり……ッ!?』


 噴き出していた脳内麻薬が切れたのだろう。

 肩を貫かれた痛みに顔を歪める。

 ああそうだと俺も思い出し回復魔法を施そうとするが、


『……着の身着のままで来ちゃったから今は何もないんだよね』


 苦笑しつつポチは自分の手の平を切り裂いた。

 そして流れ出る血をマリーちゃんの傷口に垂らすと、みるみる内に傷が塞がっていく。

 普通、竜の血――それもポチクラスの竜の血を希釈もせず飲んだり塗ったりするのは危険だ。

 しかし、本人が自らの意思で分け与えた場合はその限りではない。


『えぇ!?』


 突然、傷が塞がり痛みも消えた――それどころか体力まで回復している。

 マリーちゃんが驚くのも無理はないだろう。


『何で!? 何が……えぇえええええええええええ!?』


 常々思ってたが表情豊かだなこの子。

 コロコロと表情を変えるマリーちゃんが面白いのかポチもクスクスと笑っている。


『とりあえずこれで問題はないと思うけど、不安だったら一応医者に行くと良いよ』

『あ、いや私貧乏なので……ってそれはどうでも良くて! あ、あの……えーっと……』

『ん? 僕かい? 僕はポチ。さっきのクソザコとは――同僚、になるのかな?』

『ぽ、ポチ……さん……』


 ポチと言う名前に軽く引いてるらしい。

 うん、俺も今になってちょっと後悔してるよ。でも、今更改名するのもね。

 ポチ本人は気にしてないどころか、気に入ってるみたいだし。


『うん、何だい?』

『えと、その……無理じゃなければ、リーンくんにも血を……』

『リーンくん――って言うのはそこの彼かい? 僕は別に構わないけど……』


 薄笑いを浮かべながらポチがリーンくんに視線をやる。


『要らないよ。そうでしょ?』


 何処か楽しげに紡がれた言葉は問いと言うよりも確認だった。


『…………ああ』

『リーンくん!? 何で!? 貰えるなら貰っとこうよ! 酷い怪我なんだし!!』

『彼は忘れたくないのさ』

『忘れたくないって何を……』

『今感じている悔しさだったり、次を見据えた上での決意をね』


 ああ、成る程。


「(男の子だなぁ)」


 リーンくんにとって今回の予期せぬ再会は決して良いものではなかった。

 いや、最悪と言っても良いだろう。

 何一つとして果たせぬまま自分の意思に関係なく終わってしまった。

 姉は自分の事なんて眼中にもない、路傍の小石以下の存在だ。

 悔しいに決まってる、悲しいに決まってる、でも、だからって止まるつもりは毛頭ない。

 また力強く歩き出すために、今日の痛みを身体に刻み付けたいのだろう。


『……』


 シンちゃんとリーンくんの間に横たわる複雑な事情と男の子の決意。

 それを知ってしまえばマリーちゃんとしても何も言えないのだろう。


『それより、あなたに聞きたい事がある』

『僕に? 何かな』

『あなたは魔女の双騎士――その片割れである白殲竜に相違ないか?』

『まあ、世間じゃそう呼ばれてるみたいだね』


 ドヤるなドヤるな。

 そんな嬉しそうな顔されたらこっちまで恥ずかしくなって来る。


『人間を……見下してる、あなたが……何故、僕らを……助けた?』


 十年前の発言を思い出しての事だろう。


『ふむ……まあ、確かに僕は人間を見下してるよ。でも、人間総てをって訳でもない。

いや、前はそうだったけど人の世界を見ている内に多少は認識も変わったのさ』


 成長したなぁ……ホント……。

 シンちゃんと違って見た目変わってねえから分かり難いけど中身は初対面の時とダンチだよ。


『君達のような人間は強いって事を知った。そして僕は強者には敬意を払う』


 まあ強さが絶対の基準である事には変わりないのだが。


『君達はまだまだ強くなるだろう。期待してるよ――それじゃ、縁があればまた会おう!!』


 竜の翼を顕現し、ポチもまたこの場を去って行った。

 行きはともかく帰りは何処からでも直ぐに戻って来れるのだが……気分が良いから少し散歩でもするのだろう。


「(ふぅ、一先ずは一件落ちゃ――――)」


 コンコン、と静かに扉が叩かれた。

 驚き気配を探ってみると自室の外にはシンちゃんが立っていた。

 俺は即座に時を止め、何時もの飲兵衛スタイルを構築し時間停止を解除。


「入れ」


 ソファーの上で何食わぬ顔をしグラスを傾けながら入室許可を出す。


「し、失礼します……」


 おずおずと部屋の中に入って来たシンちゃんの顔は実に酷いものだった。

 今にも捨てられてしまいそうな不安に苛まれる子犬のようだ。


「あ、あの……あたし、その……」


 もごもごと言い淀み、結局は何も言わず俯いてしまう。

 俺は気怠るげに立ち上がり、シンちゃんの下までゆっくりと歩み寄る。

 死刑執行を待つ罪人のような顔に心が痛むけれど……別に咎め立てする気はない。


「小娘が夜遊びなぞ百年早いわ」

「いっっだぁ!?」


 デコピンを受けて吹っ飛んだシンちゃんはそのまま俺が使っているベッドにシュー! 超エキサイティン!!


「る、ルークスしゃま……」


 涙目でベッドから降りようとするシンちゃんだが身体が痺れて動けないようだ。

 そんなに強く打ったつもりはないんだけど…………今度からは気をつけます。


「酷い顔だ」


 ベッドの脇に立ちシンちゃんを見下ろす。

 俺の言葉を受けた彼女はビクリと身体を震わせた。


「今日はもう寝ろ」

「あ……」


 軽く頭を撫でながら睡眠導入魔法を発動する。

 無理矢理に緊張の糸を断ち切った訳だが、どうやらこれで正解だったらしい。


「はい……おやすみなさい……るーくす、さま……」


 穏やかな顔で寝息を立て始めたシンちゃんを見て、俺も自然と笑みが零れた。


「(さぁて、今日は何処で寝るかな)」

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