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第1章 双星と聖剣魔術学園〜入学編〜
19話 新人戦(3) 〜戦いの行方〜

「―――B組に必ず勝てるって、そりゃぁどういう意味だよ、アザミ!」


「落ち着けグリム。今から説明する......」


 それは新人戦準備期間のある日、アザミの「絶対に負けない」という発言が発端だった。落ち着け、とざわつく皆を制してアザミが教卓の前に立つ。


「まず、皆に聞きたいことがある。この新人戦でやってはいけない悪手ってなんだと思う?」


「……悪手? うーん、“全員防御にまわる”、とかかなぁ?」


「それもあるね、エイドさん。勝利条件が“相手の王様を討ち取ること”である以上、誰も攻めないというのは勝ちを捨てることと同義だからな。だが、そうじゃない。開戦前から勝負が決してしまう手があるんだよ」


 アザミの言葉にまたざわつくクラス。話し合いが所々で起こるが、誰も答えにたどり着けていなかった。なんせ開戦前と言えば出来ることなんて作戦を立てるか、王様を決めることくらいしか無いのだから。そんな段階から勝負を決めてしまう悪手、なんて。そんな限界そうなクラスの様子を見たアックが代表として、


「……ギブだ。それで、答えはなんなんだ? アザミ」


「いいだろう。それは、『王様を前衛にする』―――詳しく言えば、攻撃の要を王様にしてしまうということだ」


「攻撃の要……B組だとゴードンか。だがどうしてそれだとダメなんだ? 要ってことは最も強い人だろ? それは逆に最も負けない人、と言えるんじゃないか......?」


「いや、違う。よく考えてみろ、アック。この新人戦の勝利条件を」


「えっと、王様を討ち取ること......まさか、前衛に王様を配置したら討ち取られやすいから負けてしまう、そういうことか?」


「まあ、間違いではないな。……この新人戦において王様の配置のセオリーは後衛で防御に徹することだ。だから前に置くのは悪手なんだが、それだけでは“ただの悪手”にすぎない。“攻撃の要を王様にする”だけ、これだけで勝負を決してしまう手になるんだよ」


 一息ついてアザミが話を続ける。


「この新人戦で倒さなければならないのは二人。俺達の勝ちに繋がる相手の王様と、俺達の負けに繋がる相手の攻撃の要だ。だが、もしその二人が同一人物だったら? そうなれば俺達にとって倒すべき相手が一人に絞られる。つまり無駄な戦闘を避けられるのさ」


「なるほど! そして王様が攻撃の要だと、こっちはそれを迎え撃つというスタイルがとれるのか!」


「そうだな。普通なら相手の防衛陣を突破して王様を討ち取らなければならないところ、攻撃の要が王様だとわざわざむこうから突っ込んできてくれるんだからな。罠も仕掛けもやり放題だ......」


「しかも、むこうの王様が前衛に居るなら勝負が決するのも速いってことだろ? こりゃぁ、決勝のシードも見えてきたってこったぁな?」


 ようやくアザミの考えを理解したクラスメートたちから歓声があがる。だが、ダグラスは「待ってよっ!」と不安そうな顔をして、


「でもアザミ。B組もそれに気づいてゴードンを王様にしなかったらどうするのかな? 君の作戦って攻撃で突っ込んでくるゴードンを罠に掛けるってとこだろ? もし王様がゴードンじゃなければ全てが無駄に……」


「大丈夫だ、ダグラス。Bの王様は絶対にゴードン・アクセルだよ」


「どうして、そこまでハッキリと言い切れるの?」


「……俺はゴードンのことを人形の王様だと思うんだよ。簡単に言えば操り人形、意思を持たないパペットだ」


 そう言ってアザミがアックの方を指差す。


「アック、ゴードン・アクセルは騎士団ではエースとして単騎で活躍していたんだったな?」


「ん? ……ああ、そう聞いてたけど......」


「おかしいと思わないか? それほどの強さがあるならとっくに昇格して部隊のリーダーをやっていても不思議じゃない。なのにゴードンは前衛に立たされ続けている。……簡単な話だよ。ゴードン・アクセルは上司の命令に逆らわない、騎士団にとってはただの有能な駒だったんだ」


「駒……なるほど、そういうことですか」


「シトラちゃん、何か分かったの?」


「ええ。経験者から言わせていただくと、戦場において最も使えるのが文句を言わない駒です。こちらの指示通りに文句無しで動く、まるで操り人形かのような、ですね。そして基本的にこういう人たちは自分に課された命令について深く考えない。つまり自分の意志を持たないんです」


 シトラの言葉にアザミが微笑む。だがシトラはアザミの笑みに嬉しそうにしながらも、どこか俯き気味だった。その言葉、“意思を持たない、命令をただ聞くだけの人形”―――自分の言った言葉に心当たりが会ったからだ。そう、まるで自分自身に言っているような......


 そんなシトラに気がついていながら、アザミは説明を続ける。心当たりがあるのはアザミも同じだったから。


「B組のなかで最も強く、名の通っているのがゴードンだ。それならさっきのアックのように『一番強いやつが一番倒されない』という考えになるのが普通だろう。先の悪手についての考えなんて、リアルの戦場を知らないやつは辿り着かないからな」


「なるほど! それでゴードンが命令に逆らえないとすれば、、、、王様やってくれと言われたら断れない!!」


「ああ。そして受ける命令はこれだ。『A組を殲滅しろ』......これを利用して俺がゴードンを誘導する。アック、そこをお前が罠に掛けろ。そういうの、得意なんだろ?」


 アザミがアックに向かってニッと微笑む。


 * * * * *


(大の得意だよ、アザミ! 俺たちスレイフィール家が代々得意とするのは設置型陰陽魔術だからな―――!)


「やったか!?」


 減速術式で勢いを殺し、ズザーッと地面に着地したアザミ。ゴードンはアックの術式によって生み出された鎖に縛られている。


「ぬぬぬっ......これしきで私を止められると思うな!! むぅっん!!」


 だがまだ終わらない。ゴードンの体から一気に真っ白な蒸気が噴出した。ピシッと音をたてて鎖の一部にヒビが入る。


「しまった! 高温の蒸気で鎖の属性である鉄を脆くしたのか!?」


 ゴードンが力をいれ、パキンッと鎖が完全に破壊される。自由を取り戻したゴードンが傍らの大鎌を握る、が、


「……だが、遅いな。……シトラ―――!!」


「分かってますよ。全く、詰めが甘いんですから……」


 後方の木々をかき分けてバッとその空間に現れた金髪の少女、シトラ。作戦通り待機していたシトラがアックとアザミの頭を飛び越えてゴードンに突っ込む。

 右手に戦闘の前、アザミから渡された十字架(魔剣)を握って。


「““煌めけ閃光、穿て世界。氷の支配者たる我を喰らいて開眼せよ!!””」


 シトラが十字架に魔力を込める。と、同時に水色の光と共に十字架が剣の形を取り戻す。


(この娘......速いのであるっ!! だが蒸気で体を硬化(ボイルアーマメント)してあの太刀を耐えきれば、、)


 ゴードンの体が真っ赤に染まる。体内の血流を限界まであげて血管を硬化・膨張させているのだ。


 だが、


「な!?」


 シトラの剣に触れた途端、水蒸気がピシピシと一瞬で凝結する。


(まさか、氷魔術使いなのであるか!? く、、私の蒸気術による燃焼は自身にしか使えないのである!! あの氷は、溶かせない、、、、)


 とっさに太い右手を突き出し、ガードの体勢を取るゴードン。だが、シトラの魔剣が触れた刹那、硬化しているはずの手はいとも簡単に切断される。


「私たちの......勝ちですっ!!!!」


 シトラがそのまま魔剣を振り下ろし、ゴードンの体は真二つに切り裂かれた。薄れゆく意識の中、真っ二つになった自分を見ていることしか出来ないゴードン。


(完敗、、なのであるな。よもやこれほどの騎士がいようとは。やはり学生生活というのもよい経験になりそうである、な、、、、、、)


 パッとゴードンの体が光となって霧散する。現実世界なら死んでいるダメージ量、異空間でその姿を保っていられなくなり元の世界に戻ったのだ。

 その跡には王冠が浮かんでいた。だがその王冠も数秒間フワフワと浮き沈みし、パキンッと砕け散る。



「……試合時間は12分。新人戦一回戦第二試合は、、A組の勝利です!!」



 その結果が告げられるやいなや、試合会場(異世界)にいた皆はフワッと光に包まれ、もとの世界へと転送された。それはアザミの読みどおりとなる作戦勝ち。A組の完全勝利だった。


* * * * *


「さて、と。行こうかジョージ。次は僕たちの試合だよ」


「チッ、めんどくせえな......」


 客席で試合を見ていたトーチが「さて」とゆっくり立ち上がり、クルッと踵を返して席をあとにする。ジョージも疲れた表情を浮かべながらもそれに続く。


「僕たちの相手はS2か。予想外だけど、選抜科だから気を抜けないね」


―――まあ、あの戦い(A対B)を見る限り普通科だからって舐めてかかるわけには行かないんだろうけどね


「つってもよ、所詮は二軍のS2だろ? 対策なんているのかよ……」


「ハハッ、面白いことを言うねジョージ。S2もS1も選考はランダム。一軍二軍なんてウワサだよ。たまたまここ数年の優勝クラスがS1ってだけさ。……ところで......うちの姫様は?」


「あの女なら知らねえよ。このまま試合もバックレんじゃねえのか」


「そうか、、まあいないならそれで良いんだけどね。Aに与える情報は少なくしたいし」


 そう言ってトーチが振り返り、冷たい目でジョージをキッと見つめる。口元は笑っているが、目は笑っていない。


「僕たちはね、負けるわけにはいかないんだよ。君の言葉で言うところの“選ばれしもの”として、ね」


「……分かってるよ。俺も、もう二度と負けたくねえからな」


―――トーチのやつ、、勝ち負けが絡むと人が変わったような目をしやがる。さすがは常勝の名門キールシュタット家の跡取り様ってか?


 ジョージがその後ろ姿をじっと見つめる。その拳がギューッと覚悟を示すように強く握り締められていた。


「……だがな、俺もその名門様に仕える騎士ハミルトン家の跡継ぎなんだ。責任持って、ついていくぜリーダー。お前がどんな選択をしようともな」


 フッと微笑み、ジョージもトーチの横に並び、歩き始める。



* * * * *


「ねーねームーちゃん! S1のやつら、どうすんのにゃ?」


 時を同じくして、人気のない教室で「ねぇねぇ」と机に頬杖をついている少女。フワッとしたボブほどの長さの茶色の髪と同じく茶色の瞳を持つ少女、アネモネ・フィリスは目の前で着替えている少女に人懐っこい視線を送っていた。着替えている黒髪の少女はアネモネのしつこい質問攻めにため息をつき、答える。


「どうするって……倒すよ? もちろん。ってかあんまりジロジロ見ないでよ! ネモちゃんっ……!」


 脱ぎたての制服で恥ずかしそうに前を隠し、頬を赤く染める。レイン・クローバー。漆黒のような黒髪(ロングヘア)と瞳がまるで日本人形のようなS2のリーダーだ。アネモネはそんなレインの言葉ににゃっは〜と笑い、いっそうジーッと視線を強くする。


「いつみてもちっちゃいにゃ……っと、冗談だにゃ〜! 今はそんな事を言っている場合じゃないのにゃ。新人戦......ネモ達の運命はムーちゃんの指揮に全てかかってるんだからにゃ? ネモも頑張るけど、ムーちゃんも負けたらゆるさにゃいから!」


 アネモネはそう言ってニコッと明るい笑顔を向ける。その笑顔にレインは少し落ち着きを取り戻していた。


「そうだね、っと、、着替えも終わったしそろそろ行こうか。調子に乗っている一軍様を倒して、私達が優勝するのよ」


 フワッと長い黒髪を揺らしてレインが教室を出る。にゃ〜と従順に立ち上がってルンルン気分で歩くアネモネ。


―――さて、ムーちゃんのために本気でやっちゃうかにゃ。


 アネモネもその後について行く。かくして、選抜科両クラスは静かに戦いの場を目指すのだった。


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