アニメルックのキャラクターをアバターとして使用し、ネット上を主な活躍の場として活動する新時代のエンターテイナー、「VTuber」。日本が得意とするアニメと最新のVR技術を掛け合わせた新しい二次元エンタメ領域が、世界で盛り上がりを見せている。まだ「VTuber」という言葉さえなかった2016年に創業したカバーの売上高は3年で14倍の約205億円(2023年3月期)に成長。40代で二度目の起業に挑んだ谷郷元昭社長は、静かに熱く、源泉となる思いを語った。
「×IT」「×ファイナンス」で勝負する
何かを成し遂げる人になりたいと、子どもの頃から考えていました。
小学生時代の夢は「発明家」になること。エジソンの伝記を読んで、強い憧れを抱いたのがきっかけです。
電球を発明し、人々の生活風景を一変させ、人類の文明を大きく前進させたエジソンの偉業を知り、私も人類の未来に寄与できる人物になりたいと思い続けていました。
エジソンは「発明家」として知られていますが、実際に果たした役割は「起業家」だったんですよね。GEという会社をつくり、事業を通じて人類の未来を発展させていった。
ただし、今の私が人類の未来を変えられるほどの存在になれているかというと、まったく足りていません。まだそのずっと手前、日本のための活動に限定されている段階です。
あらためて、我々がまず実現したいのは、「日本人のクリエイターが世界の舞台でもっと稼ぎ、豊かに生きられる社会」です。
日本のアニメやキャラクターの創作力は世界一で、高度な技術を有するクリエイターの数もトップレベルです。
ところが、その資産を活かして稼げているかというと否。むしろ世界で存在感を放っているのは、海外の企業ですよね。たとえば、「ウェブトゥーン」という縦型のフォーマットで日本の漫画文化が“上書き”されようとしている。しかも、そのサービス上で提供されているコンテンツのほとんどが日本の漫画作品である状況に、私は危機感を抱いています。
かつてソニーなどの日本企業が果敢に海外に出ていったのは、戦後の影響で国内マーケットのパワーが乏しく、稼ぎ先を求めたからです。少子化で市場が縮小へと向かっている今の時代も、同じように世界へ挑戦する必要があるという思いが、私にはありました。
そして、挑戦するのであれば、しっかりと成果を出せる領域を選択することが重要。自分が強みを発揮できるビジネスとは何なのかを考えた結果、選び取ったのが「インターネットと二次元エンターテインメントを掛け合わせるビジネス」だったんです。
私はもともとゲームが大好きで、ずっとゲームエンタメに触れてきましたし、ファーストキャリアで就職したのもゲーム会社。当時の同僚の中にはゲームクリエイターとして独立する人もいましたが、ファイナンスの力がないために受託ビジネスから抜け出せない現実も見てきました。
その後に転じたのは化粧品クチコミサイトを運営する会社で、当時に「○○×IT」で特定の業界をエンパワーメントするビジネスモデルを学びました。その結果、自分なら「○○」に何を当てはめるか? と考えたときに出てきた答えが、やはりずっと好きだった「ゲーム」や「アニメ」のような「ソフトコンテンツ」だったんです。
また、日本で二次元エンターテインメントを極めれば世界ナンバーワンになれる、という“地の利”も決め手になりました。
『週刊少年ジャンプ』の集英社や任天堂、ソニーグループなど、非常にパワフルなコンテンツを磨いている日本企業は少なからず存在しています。ただ、日本のコンテンツがインターネットやファイナンスの力と掛け合わせて世界で稼げているかというと、まだまだ余地があると見ています。
この掛け算を自分ならできるかもしれないと思いましたし、日本が将来沈み込まないためにも必要な手立てではないかと考え、今回の起業に踏み切りました。一言でいうと、「沈みゆく日本を救うため」の決断でした。
私たちの子ども世代が大人になる頃には、日本の市場は今よりさらに縮小しているはずです。確実に訪れるであろうシビアな状況下でも、世界でしっかり稼げる環境をつくっておきたい。そんな思いで事業に取り組んでいます。
カバーに所属するVTuberタレントは80名超。海外ファンも獲得している(2023年2月時点) ©2016 COVER Corp.
VTuberの先にある「誰もが自分らしく活躍できる」世界
そもそも「VTuber」とは、VR(仮想現実)のモーションキャプチャー技術を応用することで、アニメルックの「アバター」を利用しながら活動するバーチャルエンターテイナーのことです。
現在(2024年2月時点)、当社のプロダクションに所属するVTuberの数は87人、YouTubeの総チャンネル登録者数は8,600万人に広がりました。
リアルな外見や外見に紐づく年齢や性別、国籍などあらゆる属性から解放された表現活動ができるため、オープンかつフェアな才能発揮の手段になっているのが、VTuberの最大の価値だと思っています。
こういった説明をしていると「人生が劇的に好転したタレントもいるのでは」と聞かれることもあるのですが、私たちは我々の所属タレントが豊かになるといった限定的な目標の達成を目指しているわけではありません。
私たちはメタバース空間の開発も進めていて、その先に目指すのは、誰もがアバターを用いて他者と自由にコミュニケーションできる世界の実現です。顔や本名、属性を表に出さずに発信できるアバターの力を借りれば、本当に好きなこと・得意なことを発揮できる人がたくさんいるはずです。世の中のすべての人が、いろんな心理的ハードルを取っ払って、もっと気軽に表に出て、仲間とつながる世界。私が見たいのはそんな世界です。
しかも、その世界の実現において、日本が得意とするゲームやアニメの二次元エンターテインメントのパワーが発揮されるとしたら、素晴らしいことではないでしょうか。
ハードを広げるには、まずソフト
今では「VTuberの会社」として認知されるようになった私たちですが、6年前の創業当時は「VRの会社」として立ち上がりました。
メタバース空間を提供するサービスをつくりたかったのですが、時期尚早で頭打ちとなり、資金ショート寸前の経営危機をなんとか乗り越えて、まずはメタバース空間の中でのメインコンテンツになるであろう「バーチャルタレント」を売り出していく戦略にかけて舵を切ったことで、ようやくスタートラインに立てたのです。
起業当初に想定していたVRそのものの領域からは撤退し、「VRの技術を使って二次元キャラクターを動かして遊ぶ」という方針転換をしたことが今につながりました。それも、VR業界の開発者の人たちが、モーションキャプチャー技術を使ってキャラクターを動かして遊んでいるのを見てピンときたのがきっかけです。自分でも試してみて「これ面白いな」とつかめた実感を頼りに、発想を転換したという経緯です。
いつのフェーズをふり返っても、全然スマートな成長ではなく、力技でなんとか伸ばしてきたという実感です。
結果として、この順番は正しかったと思っています。
メタバースは、いわば表現やコミュニケーションのプラットフォーム。それ単体で開発して広げようとしても、うまくいくものではないと考えています。まず優先すべきは、中身――ソフトを普及させることだと断言できます。
私は1973年生まれのファミコン世代なので、ファミコンで例えてみますね。ファミコンというゲーム機は、ファミコンが“最初に”出たゲーム機だから爆発的ヒットしたわけでない。発売前に、ゲームセンターや入浴施設の共用スペースに設置した機械にゲームコンテンツというソフトを入れて「ゲームの面白さ」を多くの人に体感してもらい、その上で「あの面白さを家庭でも味わえる」と銘打ってファミコンを投入したからこそ、あれだけのヒットを打ち立てられたわけです。
つまり、順番としてはまずソフトがあり、ソフトを気軽に楽しめるハードウェアをリリースする。私たちの事業に当てはめるなら、今はようやくゲームセンター用の初期の『ドンキーコング』をつくれたくらいのステップでしょう。
だから、ようやく今がスタートライン。本番は、これからです。
カバー