放課後。
学校を後にした僕は、シオンと一緒に帰宅していた。
「んでよー! 今日の昼飯の肉はちょっと柔らかくてな! オレはもっと硬いのが好きだぜ!」
「それは阿久津さんと学食のおばちゃんに言おうか」
「それもそうだな!」
シオンとの会話は、いつもこんな感じ。
ほんとーにどうでもいい会話が振られてきて、僕がどーでもよく返す。
シオンはそれが楽しそうだし。
僕も、退屈には思っちゃいない。
こういうテキトーさが、僕らにはちょうどいいのかもしれない。
まぁ、数年、数十年と経った時、似たような話をしているか……ってなると、少し話は変わるかもしれないけどな。
「おいカイ! 今日も修行か!」
「まぁな。そろそろ能力の発案に入るところだ」
神力を扱えるようになって、既に数日。
他に類を見ない程の速度、とは爺ちゃんの言。
それが【真眼】によるものなのか、僕自身も把握していなかった才能があったのか。それについては真眼自体が未知のものなので分からないにしても。
僕は、順調すぎるくらいの速度で進んでいた。
「……そういうお前も、アレだよな」
僕は、シオンへと真眼を向ける。
普段の彼女は、真っ赤に燃え盛る業火のような想力に満ちている。
その総量は、僕が真眼で見てきた中では最強格。
というか、別格と言った方がいいかもしれない。
例えるなら、みんなでRPGゲームをやってる中、1人だけガ〇ダムやってるような感じ。
剣やら魔法やらで戦う中。
1人だけ機動戦士に乗って無双してる。
そんな感じだ。
まぁ、それを言ってしまうと力を失う前の僕はなんだったんだ、という話になってしまうが、そろそろ話を本筋に戻そう。
「最近、妙に大人しいと思ったら……お前、なんかやってるだろ。色の
「なはは! 分かっちまうか! オレのさいきょーオーラは留まることを知らねぇらしいぜ!」
シオンはそう笑うが……この変化はただ事じゃない気がする。
業火のような色が、まるで眼帯を被せるように黒く染まり始めた。
……それは、果たして良い変化なのか。
この最近、シオンの雰囲気には注意していたんだが……。
「そーいや、さいきょー、ってどういう字書くんだ?」
ううーむ、なんの変化もなし。
シオンは相変わらずバカのままだ。
それに、妙に鋭いところも変わってない。
「……それに、安心しろよ。死んだとき、ちょいと、キリヤの野郎にオレ様に相応しい修行内容を教えてもらったってだけだ。誰だって、新しいことを始めたら変わっちまうもんだろ?」
鋭く切り込まれ、僕は思わず言葉を失う。
そして、大きくため息を漏らして肩を落とした。
「そうだな。死んでも生き返ってくるようなヤツ、心配するだけ無駄って話だ」
「心配はしろ! お前に無視されると面白くねぇからな! オレを盛大に構うこった!」
馬鹿だねぇ、発言が。
僕は胸を張って立ち止まるシオンを放置。
そのまま歩き続けていると……。
……なんだ、ありゃ。
前方で、ぶっ倒れている人を見つけた。
「あ? なんだ、死体か!」
「ちょ」
だったら大事件だろ!
僕は急いで駆け寄ると、呻き声が聞こえた。
出血は……無いみたいだな。
とりあえず安心したが、それでも道端のど真ん中でぶっ倒れるなんて普通じゃない。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ? 死んでねぇのかよ」
「シオンは黙る!」
僕の声を受け、両手で口を塞いだシオン。
彼女から視線を外すと、改めて目の前の男性へと視線を戻した。
――その男性は、一言で表すと【侍】だった。
このご時世に珍しい、道着に袴姿。
剣道をやってる人、と言われればそれまでだが。
この人が腰に指している剣……真眼で見たらすぐに分かった。
木刀やレプリカとは色の強さ……質が違う。
刀に流れている『力』が全くの別種だ。
……さて。剣道をやってる人が真剣を持っていない、と言い切るつもりは無いが……真剣をもってる剣道者が道端で倒れてる……なんてのは、多分世界中を探しても無いと思う。
もしや、異能関連だろうか?
というか、そうとしか考えられない。
もしかしてこれ、触らぬ神に祟りなし、ってやつじゃないのか?
そう思った時には、時すでに遅く。
『ぎゅるるるるるるおおおおおおおんっっ!』
と、男の腹から音がした。
それは……あまりにも、ありふれすぎたテンプレ。
――腹が減りすぎて行き倒れる。
もはや見飽きて見擦れた展開である。
しかもそれ、往々にして、だいたいヒロイン。
幸薄系の美少女が空腹で倒れていて、それを見兼ねた主人公がご飯を与えて【ありがとうございますぅ!】となる、アレだ、
通称、出会い、兼、好感度アップイベント。
作者としては大変に都合のいいイベントだ。
なんせ、ヒロインの登場と同時に、極めて合理的に『主人公ラブ』を作ることが出来る。
ヒロイン登場!
いきなり主人公好きぃ!
なんだそのトンデモ展開は!
ヒロイン落ちるの早すぎんだろ! このチョロインが!
的な感想を読者に抱かせない。
このイベントを考えた人は天才だと思う。
最初に見た時は、ある種の戦慄さえ覚えたね。
しかし……まさか、ここに来てこんなお約束を突っ込んでくるか、この世界。
この世界にお約束はないと知っている。
テンプレ? なにそれ天ぷらの1種ですか? とでも言わんばかりに想像という想像を裏切ってくる。
簡単に言うと、簡単に人をぶっ殺す。
僕やシオン、イミガンダ、シーゴ、異能者殺し……数え始めたらキリがない。
なんなのかな?
人の命をなんだと思ってるのかな。
『あっ、この展開ならコイツぶっ殺した方が面白いよね!』とか。
そう言わんばかりにぶっ殺してくるからね。
もうね、嫌。
本当に嫌になるほど残酷。
それがこの世界のはずだ。
今回だって、そう。
ここで倒れているのが美少女だったら最高だった。
それも、白髪赤目の吸血鬼とか。
空腹&太陽の光で死ぬ直前。
それを救う主人公ッ! 血を与えたら何だか好きな味でした! ラブ! みたいな。
そんな展開だったら僕の食指も動いたかもしれない。
だけど……ねぇ?
倒れてるの、いい歳したおじさんよ。
「……残酷ぅ」
「あ? どーしたんだ?」
なんでもないよ。
僕は心の中で涙すると、おじさんの肩を揺する。
「大丈夫っすか。ご飯ならお金くれれば買ってきますけど」
僕はそう言うと、おじさんは呻く。
そして、絞り出すようにして……こう言った。
「……た、
「さてシオン、帰ろうか」
僕はおじさんをスルーして歩き出した。
それを見たおじさん、愕然。
焦ったように僕の足を掴んでくる。
「ちょ! ちょっと待つでござる! 正気でござるかお主! 拙僧、それはもうとんでもない量を平らげたでござる! その時の消化が今ッ! おおっ、い、一気に来たッ! あっ、やば、拙僧のケツの穴が悲鳴をあげてるでござるぅぅぅ!?」
「そのまま果てろエセ侍」
「ござるぅぅうう!!??」
僕は察した。
このおじさん、ポンタの同類だ。
なんて言うんだろうね。
癒しキャラ……でもないんだけれど。
なんだか、ポンタと似た匂いがします。
おじさんはケツを押さえ、浅い息を吐いている。
「あおっ、や、やばいでござる。えっ? これ真面目にやばくない? 本当に助けてくれないの? いや、ちょっとこれ真面目な話で。こんな道のど真ん中で糞尿漏らすだなんて社会的に死ねと言ってる?」
さっそく語尾が普通に戻ってるな……。
キャラがブレッブレなのか。
それとも、それだけの緊急事態なのか。
僕は大きくため息を漏らし、頭をかいた。
本心をいえば、このまま漏らせと言いたいところだが。
そうすると、この先、この道を通る度にこいつの糞事情が頭を過りそうでならない。
というか、明日の通学時にう〇こが道端に転がってそうで恐ろしい。
「……シオン。影使っていいから連れてってやれ。ほら、公衆便所」
「おう! 任せとけ!」
僕は公衆便所を指さすと、シオンは
「あっ」
おじさんが、何か解き放ったような声を出し。
シオンは何かを察したか、焦っておっさんをトイレに投げた。
そして、トイレの中から聞こえてくる怨嗟の声。
それを前に、僕はシオンの肩を叩いた。
「か、カイ! オレは……とんでもねぇことを!」
「気にするんじゃない。アイツはもう……手遅れだったんだ」
シオンを慰めるなんて、多分これが最初で最後だと思うけど。
僕らはトイレの中から聞こえてくるおじさんの叫び声を背後に、帰途に着いた。
☆☆☆
「って言うことがあったんだ」
「それを私に聞かせてどうしろと?」
九法院の爺ちゃんは頬をひきつらせてそう言った。
その日の晩。
爺ちゃんの所へとやってきた僕は、座禅を組みながら今日のことを語っていた。
「いや、世の中には道のど真ん中でう〇こ漏れそうになって倒れる中年もいるんだなぁ、と」
「世の中の中年をそういう目で見られては困るかな。うん、とても困る」
爺ちゃんに息子がいたら、たぶんちょうどその中年なんだろうな。
そのためか、爺ちゃんは珍しく早口だった。
「おそらく……というか、間違いなく。君が出会ったその中年の方が少数派だと思うがね。人生、道の真ん中で糞尿を垂れ流しそうになって倒れ伏す……だなんて、そんな経験をする人の方が少ないだろう」
「ちなみに爺ちゃんは」
「無論、あるはずもないが?」
僕の問いかけに、爺ちゃんは笑顔でそう言った。
ただし、目は笑っていなかったし。
右手を構えて、既に糸の発射体勢に入ってた。
ので、僕は黙って目を瞑る。
そして、修行に専念することにした。
「……真眼。それはとても便利な力だが……同時に、それに頼りきりでは技術が育たない」
そういって、僕は周囲へと意識を向ける。
身体の中から、薄く広く拡散した神力。
それを回し……体の周りに配置された10本もの蝋燭の炎を、
それは、周囲に揺蕩う神力量が全て均一でなくてはならず。
加えて、真眼を使ってはならないというハンデもついている。
「ちなみにこれ、軽く1年程度はかかる授業なんだけれど」
そう言って、爺ちゃんは僕へと期待を向けた。
「……さて、今度は何日で終わらせる気だい?」
その期待が重すぎると感じるのは、いけないことでしょうか?
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