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第三章【始まりの因縁】
322『灰村解VS暴走列車』

 時は少しだけさかのぼる。


「へっぷち!」


 六紗優は、くしゃみした。

 場所は某外国。

 海を渡って、しばらく行ったところ。

 白亜の城の、道の真ん中に、彼女は立っていた。

 彼女は鼻をこすり、日本の方向へと視線を向ける。


「嫌ね……誰か、私の噂でもしてるのかしら」

「世界中のいたるところで話されているかと思いますが」


 六紗優の隣に付き従うのは、一人の女性。

 彼女は正統派において、最強と名高きS級異能力者だ。

 無論、六紗優やポンタといった面々には(立場上、あるいは実力的に)勝つことができないだろうが、それでも、S級の中で最上位に位置する異能力者だ。

 そんな彼女、名前を――シーラ・ハイフン。

 現代でも珍しい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あら、シーラ。居たの?」

「……もう少し、緊張感を持ってください。つい先日も襲撃されたばかり。いつ、どのような事態になるかも分からないのですから」


 気の抜けた六紗に、シーラは忠言する。

 この少女は、もうすこし自分の立場をわきまえたほうがいい。

 それも、悪い意味ではなく、よい意味でだ。


「貴方は正統派の王。六代目勇者にして……異能がすべてを支配する世界に君臨しているのです。中には、貴方さえ倒すことができれば自分が王様、などと考える輩もおります」


 そう言いながら、二人は廊下を歩いていく。

 六紗は「ふーん」とつぶやきながら、角を曲がって。



「――たとえば、こーゆー奴らのことかしら?」



 瞬間、シーラは視覚に違和感を覚えた。

 まるで、時間がしばらく止まっていたような。

 驚いて目を見開くと、目の前には多くの襲撃者が倒れていた。


「な……!」

「そもそもね、護衛なんて必要ないのよ。私が一番強いんだから」


 その言葉に、シーラは思わず声が出なかった。

 六紗優。

 最強にして最凶。

 時間停止の能力を持つ異能力者。

 二年前の時点ですら、特異世界クラウディアにおいて並ぶ者のいない勇者とされていた。それが、悪魔王との(幼稚な)戦いを経て、覚醒した。覚醒してしまったのだ。


 もはや、手の付けようがない強さへと。


(……やはり、護衛など)


 正統派異能力者、序列一位。

 シーラ・ハイフンをして、守ることもできない存在。

 それが、今現在の六紗優。

 ありとあらゆる異能力者の頂点に立つ存在。


 シーラは悔し気に拳を握り締めていると……ふと、連絡器が通知を鳴らしていることに気が付いた。


「……なんだというのだ、こんな時に」


 彼女は連絡器を耳に当てる。

 自分の無力さに苛立ちながら、第一声。

 なんだ、と口にするより先に――連絡器の向こうから声がした。



『き、緊急! 暴走列車! 日本に暴走列車が現れました!』



「「!?」」


 二人は、思わず目を見開いて連絡器を見た。

 暴走列車。

 二年前、秘匿の暴露を行った張本人。

 今の今まで各地を転々とし、そのたびに姿をくらまし。

 正統派の範囲網からも逃げおおせてきた、この時代を代表する最悪の異能力者。


 それが、日本に現れた。

 それだけでも大事件。だというのに……!


『現在、悪魔王が応戦中! その場には、死地の紅神、妄言使い他、学園の一般生徒までいるらしく……現在、正統派の上位十席(ナンバーズ)を向かわせ――』

「ちょ、ちょちょちょ! ちょっとアンタ! 学園の一般生徒!? そいつの名前をいってみなさい! もしも『灰村解』だなんて言ったらぶん殴るわよ!」

『…………………えっと』


 沈黙。

 それが何よりの答えだった。


 彼女は額に青筋を浮かべる。

 拳を握り締め、日本を見据えた。


「シーラ。今すぐ日本に戻るわよ。加速系の能力者をありったけ用意しなさい。ジェット機を使い潰すつもりで、超過加速させて飛ぶわ」

「……! そ、そんな! それは危険で――」

「危険なんか承知よ! そのうえで行くって言ってんの! 口答えしない!」


 そこまで言われては何も言えない、シーラ。

 彼女は黙って頭を下げて、駆けてゆく。

 その背を見送り、六紗優は歯を食いしばる。


「暴走列車……その裏についてる、万死、といったかしら?」


 既に、正統派でもその存在にはたどり着いていた。

 暴走列車の後ろに、誰かがいる。

 ゆえに、六紗優は暴走列車に怒っているのではなく。

 その、万死とやらに激怒した。



「私が居ない内を狙うだなんて……いい根性してるわね」



 その瞬間、六紗優は『ブッツン』した。

 手に届く範囲内で、守り切れないのは自分の落ち度だ。

 だが、手に届かない範囲を守り切れないのは当然で。


 その、当然を狙われた。


 そう察してしまったからこそ、万死は六紗優を敵に回した。


「待ってなさい、今すぐに、最強(わたし)が行くから! ……えっと、なんて呼べばいいかしら」


 よく考えたら、アンタ、とかしか呼んだことがない。

 改めて、あの男をなんと呼べばいいモノか。

 そう考えて赤面した六紗は、結局は下の名前で呼ぶことにした。



「か、解! 待ってなさいよね、死んだら許さないんだから!」



 何故、下の名前で呼んだのか。

 それは、乙女の秘密というものである。




 ☆☆☆




 拳をにぎりしめる。

 一歩、一歩と歩いてゆく。


 最初に絶望を覚えた。

 死を与えられ、憤りを覚えた。

 蘇り、怒りと尊敬を覚え。

 今は……僅かな感謝すら覚えてるよ。


「お前のおかげで、僕は強くなれた」


 お前に会っていなければ。

 きっと、シオンとは会えていなかったろう。

 仮に会えていたとしても……今とは違う、敵同士だったかもしれない。

 僕がシオンを殺す未来も、あったかもしれない。


 殺してくれてありがとう……とは、口が裂けても言えないけれど。

 死んだことが無駄とも、僕は言わない。


「……立てよ。まだくたばってねぇだろ」


 僕は、暴走列車の眼前へと立ちはだかる。

 やつの身体が、ぴくりと反応した。

 ……お前の強奪は、触れることでしか使えないんだろう。

 加えて、1度に全てを奪いきれない。

 そういう条件付きで、あれだけの強奪速度を手に入れた。……違うか?


 僕は内心問いかけて。

 次の瞬間、暴走列車は僕へと迫った。


【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!】


 至近距離から、襲いかかる暴走列車。

 僕はその顔面を殴りつけると……瞬間、鋭い痛みが拳を襲った。


 それでも関せず、拳を振り抜く。

 暴走列車は壁へと叩きつけられ。

 僕は、右拳の手首から先を失った。


「この野郎……」


 腕が使えないからって、喰い千切りやがった!

 僕は右手に想力を込めて治癒に走ると、同時に眼前から蹴りが飛んでくる。

 咄嗟に頬の皮1枚で躱す。暴走列車を見れば、壁を背に蹴りを放った奴の体はほぼ完治が済んでいた。


「嫌になるな……回復能力ってのは!」

【GOAAA!】


 暴走列車の脚が、僕の頭へ迫り来る。

 僕はその足を真正面から受け止める。

 凄まじい衝撃が響くが、完全に防御できたおかげでダメージは少ない。けど。


【――――ァ】

「……ッ」


 スゥっと、体から何かが抜けていった。

 ――奪われた。

 そう理解した瞬間、僕の右手から【脚】の文字が消え、左手の【腕】の文字が薄くなる。

 コイツ……脚力残りの全てと、腕力の一部を奪い返しやがった!

 僕は歯を食いしばり、それでも笑った。


「助かるよ! 片手が空いた!」


 半端な脚力くらい、くれてやるさ!

 僕は空になった右手で、がっしりと足を掴む。

 そして、ゼロ距離から発動させた。



「【禁書劫略(イクリプス)】ッ!」



 黒い円環が奴に巻き付く。

 奴は僕へと拳を振りかぶり……次の瞬間、その動きがピタリと止まった。


 僕の手には【空】という文字があり。


「体内の全ての空気――【酸素】を奪った」


 僕の右手には、見えないけど、たぶん大量の酸素が集まっていたんだと思う。

 僕はそれらを空中に捨て、拳を握る。


 今、お前の体内は猛烈なまでの酸素不足。

 呼吸し続ければ収まるにしても……今、この一瞬だけはお前は体を動かせない!


「もういっちょ、【禁書劫略】!」


 左手の腕力を捨て。

 代わりにお前の【脚力】を再強奪。

 奴は力なく地面に膝をつき。

 落ちてきた頭へと、回し蹴りを叩き込む!


「【黒歴一蹴(レクイエム)】!!」


 やつの首が、曲がっては行けない方向へと向く。

 完全に首の骨が折れた。

 けど、これで終わる相手じゃない。


「お、前らぁッ!」


 僕は叫んだ。

 その時には、既にみんな動き出してた。


「よくやった、男!」


 ポンタ達が、僕の隣を走り抜く。

 動きも、思考も止めてやったぞ。


 これでもう、奪われる心配なく殴っていい。


 僕は笑って、3人は貯めに溜めた想力を攻撃に込める。


 ポンタが殴り。

 シオンが至近距離から切り裂いて。

 成志川が太陽を落とす。


 それら、一撃一撃が必殺の威力。

 暴走列車の体が崩れてゆく。

 切り裂かれ、潰れ、焼かれて。

 原型をとどめることも無く、壊されてゆく。


 されど、手は抜かない。


 お前相手に、オーバーキルじゃまだ足りない。

 やるなら確実に、殺す。

 寸分超えて、息の根を止める。

 ……そういう覚悟でなけりゃ、きっと、お前の命には届かない。


 暴走列車は、息を吸う。

 かろうじて原型をとどめた体が、動き出す。


 そのタイミングで、僕は『奪った酸素』を返却した。


【!?】


 肺がいっぱいに膨らんだ瞬間を見計らっての、返還。

 奴の体内から、何かが破裂する音がした。

 それが『肺』そのものであったと察するには、あまりにも状況が整いすぎていた。


 奴は両腕を胸へと当てて、苦しみ。

 その姿を見下ろし、僕は拳をにぎりしめる。



「【禁書劫略(イクリプス)】……ッ」



 もう、失敗はない。

 僕は酸素の代わりに、奴から【SS】の活性そのものを奪い取る。


 体から、血の蒸気が溢れ出す。

 赤色は、以前よりも鮮やかな朱色に変わり。

 感じる力は、より強大になっていた。


 暴走列車は、僕を見上げた。

 必死になって手を伸ばすが……それも、金の障壁に弾かれる。


 ……暴走列車。

 お前は、強いよ。

 たぶん、ここにいる誰よりも。


 だけど、強さとは1つじゃない。


 孤高を貫くのも、強さ。

 感情に身を任せるのも、強さ。

 冷静沈着であることも、強さ。



 誰かと力を合わせることも、また強さ。



 僕は、男を見下ろし、右脚を蹴り下ろす。

 その一瞬、僕と彼との目が交錯したが。


 僕は、その一撃に迷いはなかった。



「またな、暴走列車」



 僕は、もっと強くなるよ。

 いつか、1対1でも、お前に勝てるよう。


 そんでもって、全部まとめて終わらせて。

 全ての過去をかき消して。

 僕が死ぬとしたら……その後だ。


 暴走列車。

 その時に、お前が冥府に居たのなら。



 今度は、1対1で戦おう。



 僕は奴の頭蓋を蹴り抜いて。

 真っ赤な鮮血が、大地に散った。



次回【ナムダ・コルタナ】

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