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第三章【始まりの因縁】
320『反則合戦!』

 暴走列車は駆け出した。

 その速度は、二年前よりずっと速い。

 僕らは警戒し、油断など一部の隙も無かったと思う。


 それでもなお、奴は容易に駆け入った。


 僕ら四人の、目と鼻の先。

 攻撃の届くレッドゾーンに、その男は立っていた。

 息をのんだのは、一瞬。

 わずか、瞬く間にも満たない数瞬。

 僕らは拳を握り、言霊を発し、彼に対して攻撃する。



 ――それらを、男は拳一振りで粉砕した。



【GOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAA!!】



 それは、悪魔の一撃だった。

 二年前、僕が死んだあの一撃とは、天と地ほどの差があった。

 その一撃は、真正面から僕を狙った。

 咄嗟に理解する。これは()()()()()受けきれない、と。

 理解した瞬間、僕らは一斉に動き出していた。


「らぁッ!」


 僕の拳に、三つの攻撃が重なった。

 ポンタ、シオン、成志川。

 それぞれS級の中でもトップクラスの実力者。

 火力に自信のある者たち。

 それに僕の拳も相まって。


 なお、押し勝つには至らなかった。


 僕らの攻撃は、奴の一撃とほぼ、相殺した。

 それでも【ほぼ】と言い表したのは、奴の攻撃がそれだけ重かったから。僕ら四人の攻撃を合わせても、僕らの方が多少、押し負けた。

 正直、理解できない次元のパワー。

 押し負けたと気が付いた瞬間、背筋に冷たいものが走り抜けた。


「……ッ!」


 頭上を見上げる。

 暴走列車は、既に第二射を振り上げていた。


「う、嘘だろ……ッ!」


 僕は咄嗟に、次元を展開。

 そこにいる全員を連れて上空へと転移すると、ほぼ同時に僕らのいた場所へと暴走列車の拳が直撃。

 一瞬にして、その場が巨大なクレーターと化した。


「うっわ、えぐ」


 思わずつぶやき、暴走列車が僕らを見上げる。

 奴は両足へと思い切り力を込めて――その瞬間、僕は奴へと右手を向けた。

 他の奴ならいざ知らず、相手は暴走列車。

 油断すれば、即死。

 そんなことは身に染みて分かってる。


「最初っから、全力だ!」


 手首へと円環が浮かび上がる。

 暴走列車は、目を見開くが。

 僕の【強奪】は、発動した時点で必中だ。



「【禁書劫略(イクリプス)】」



 円環が、暴走列車の体に巻き付く。

 二年前も含めて、三度目の強奪行為。

 暴走列車も、この力の正体には気づいているはず。

 奴は奪われるより先に僕を仕留めようとしたようだが……すでに、強奪は完了していた。

 ガクリと、その場で暴走列車の膝が崩れる。

 奴は驚いたような声を上げ、僕は笑って手の甲を見た。


【脚】


 その一文字が、何より雄弁に語っていた。


「悪いな、お前の『脚力』、奪わせてもらった」


 空中で、三人が落下する。

 僕は咄嗟に『次元』で造った時空の歪みを三つ出す。

 彼らはそれの上に着地し、上空から暴走列車を見下ろした。


 ……さて、暴走列車。

 狡い、とは言うなよ。

 むしろ、僕らはお前の強さに敬意を表する。

 他でもないシオンが、何の文句もなく共闘を受け入れている。その時点で、僕らがどれだけお前を認めているか、分かるだろ。

 その上で、この構図を描いてる。

 四人のS級による、集団リンチ。


 じゃなきゃお前は落とせない。


 僕は、両手を叩く。

 初めて使う【指揮】技能。

 ポンタ、シオン、成志川の全能力値を、向上。

 そして、暴走列車の身体能力を、低下させる。

 三人は、唐突な強化に驚いたようだが、この中でこんな芸当ができるのは僕だけだ。

 すぐに納得した様子で、僕を見上げた。


「……男。お前、本当に何でもアリだな」

「災躯、界刻、そして薬聖」

「なはは! チートってやつだな! 反則くせぇ!」


 反則で結構。

 それで未来がつかめるのなら、僕は進んで反則の権化に堕ちよう。僕は拳を握り締め、男を睨む。

 回復能力も、機動力も奪った。

 これで、ようやくスタートライン。

 初めて、お前に対して勝機が見える。



「反則の限りを尽くして――お前を超える」



 暴走列車は吠えた。

 こっから先が、本当の試合開始だ。




 ☆☆☆




 脚力、機動力を奪われた暴走列車。

 奴に残された攻撃手段は、近距離からの殴り。そして……遠距離においては、投擲、だろうか。

 奴は、近くに転がっていた瓦礫を手にする。

 瞬間、シオンは両腕の銃を構えていた。


「なははははは! だろうと思ったぜ!」


 シオンは、両腕の銃を合体。

 巨大な銃へと変化させ、奴の投擲を真正面から受けて立つ。

 彼女の銃口へと凄まじいエネルギー体が集まる。

 それは、僕ら三人をして戦慄するほどの力。

 それを前に、暴走列車はただ、シンプルな投擲で答えた。


 ――太古より、人間は投擲で獲物をしとめてきた。


 他の動生物と比べて体格で劣り、筋力で劣り、速度でも劣り。

 知能しかない人間に、唯一許された攻撃手段。

 それこそが、投擲。

 時に、巨大なマンモスさえしとめる矛だ。

 それは、純粋な拳や蹴りなどよりも、はるかに強力なモノだろう。


 現に、奴の投擲の威力は……もう、考えるだけで汗が出てくるほど。

 見ただけでそれがわかった。


 されど、シオン・ライアーに焦りは無かった。


「【死滅一閃(デスロード)】」


 そして、シオンの一撃が放たれる。

 それは、凄まじい勢いで飛来した瓦礫を、一瞬で飲み込んだ。

 威力は変わらず、凄まじい光量が暴走列車を飲み込み、それを放ち終えたシオンは、静かに息を吐く。


「……お、お前」


 シーゴと戦った時、果たして彼女は、これほど強かったか?

 そう考えて、すぐに答えはでた。

 否である。


 ……こいつ、前に見た時より、ずっと強くなっている。


 僕は深淵で修行して、強くなったけれど。

 コイツは、そんな反則など意に返さず、純粋な才能で、急速なパワーアップを実現して見せた。


「……これだから、本物は嫌になる」


 僕はそう呟いて。

 次の瞬間、眼下の暴走列車が吠えた。


【GOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】

「……どうやら、怒ってるらしいな」

「見りゃわかるっての」


 ポンタがのんびりとつぶやいた。

 おいこら、お前時間制限在るんだろうが。

 僕の指揮技能で多少は消耗も緩和できるが、のんびりしてられるだけの時間は無いぞ。

 そんな思いが顔に出たか、彼は苦笑し、飛び降りた。


「どれ、ボクがその炎に油をそそいでくるとしよう」


 ポンタが、暴走列車の眼前へと舞い降りる。

 その長身は、音もなく、まるで木の葉のように大地に舞い降り。

 その瞬間、暴走列車の拳が火を噴いた。


 まるで、竜巻。


 両の拳が、まるで止まることを知らないハリケーンのように、左右上下から乱打乱打を繰り返す。

 それは、ポンタを知らない人間が見れば絶叫してもいい光景だったと思う。


 だけど、僕はポンタを知っている。


 誰より強く、誰より疾く。

 誰よりイカれた、征服王を。


「ほっ」


 気の抜けるような声。

 と同時に、暴走列車の顔が跳ねた。

 衝撃が突き抜けて、暴走列車の拳が止まる。

 見れば、奴の頬にはくっきりと拳の跡が刻まれている。

 それを前にするのは、百戦錬磨の征服王、イスカンダル。


「悪いが、お前の動きは二年前に見切っていてな」


 暴走列車の拳が、完全に止まる。

 そして、新たな嵐が、ポンタの拳に宿った。


 ――それは、悪夢としか呼べない光景だった。


 あれほど凶悪だった暴走列車の、一方的な()()()ショー。

 ポンタの拳は、強く、疾く、そして鋭かった。

 ただでさえ手の付けられない近接最強が、僕の指揮技能によってさらに強化されてしまった。その結果がこれだ。


 暴走列車の体が、小刻みに跳ねる。

 それは、ポンタの拳による衝撃だった。

 瞬く間に、十発以上の拳が放たれている。

 それら、一撃一撃が、地竜アラガマンド級。


「……笑うほかないってのは、まさにこれのことだな」


 僕が呟いて、ポンタの拳がその頭蓋を穿った。


 あまりの衝撃。

 暴走列車の体中から血があふれ出し。

 連打のあまり、ポンタは小さく息を吐く。


「さて、回復能力はうばってあるが――」


 ポンタはつぶやき。

 そして、次の瞬間【嫌な光景】が目に飛び込んだ。



【SHUUUUUUUUUUUUUUUUUU……】



 それは、蒸気だった。

 暴走列車の全身からあふれ出す煙。

 体表から、爪から眼球から。

 ありとあらゆる部分からあふれ出す、災厄の前触れ。


 ――それが見えた瞬間には、僕は暴走列車の側面にいた。


 ()()()()条件は、頭部への攻撃。

 冥府でお前の偽物と戦って、理解した。

 お前の弱点は、その頭。

 そして、頭に攻撃を受けると異能【竜血暴走】の力がアホみたいに強化される。その前触れが、この全身蒸気状態だ。


 正直、今より強化されたら勝ち目が薄くなる。

 だからこそ……強化される直前、この状態を、全力で叩く!


 僕は神狼技能を展開。

 同時に『異常稼働』と『超加速』を並列使用。

 全身から血の蒸気があふれ出す中、痛みを堪えて前を向く。


【GOAA……】


 そして、暴走列車と目が合った。

 ぐるんと、奴の目は僕を捉える。

 巨大な右手が僕へと伸びる。

 その光景に、思わず腹の底が恐怖に冷えた。


 だけど、同時に希望も見えた。


「【この勝利を、我が金色の太陽に捧ぐ】」


 暴走列車の背後。

 僕の対面で、想力が弾けた。

 あまりの総量に、暴走列車の目がそちらへ向かう。

 ああ、そうさ。脅威で言えばそちらが上だ。

 なんせ、僕を真正面から打ち負かした野郎だからな!


 金色の姿が見える。

 その瞬間、僕は男の名前を叫んだ。


「行くぞ、()()使()()!」

「ああ! 任せろ、灰村くん!」


 金色の想力に包まれた成志川が、拳を握り締める。

 僕は拳を開いて、右の脚へと力を込めた。


「【僕の拳は、天をも穿つ】」

「劫略行使――【暴走列車の脚力】」


 互いが放てる、最大火力。

 その、物理バージョン!

 廻天技能で、体の芯を軸に超回転。

 勢いそのまま……どころか、さらに強化して回し蹴りをぶっ放す。


 拳の何倍もの威力を誇る、この一撃。

 冠した名前は、僕の願いを貪欲に表していた。



「【黒歴一蹴(レクイエム)】ッ!」



 一撃が、放たれる。

 直前まで成志川を警戒していた暴走列車が、焦りを見せる。

 首ごと僕へと視線を戻す。

 と同時に、全ての防御をこちらへ回した。


「らぁッ!」


 奴は、頭部を守るように両腕を固める。

 だけど、んなもん知ったことか!


 僕の力は、防御を砕く力!

 遥かなるGとの戦いで、腐るほど習熟した神狼技能!

 その程度の防御、紙のように突破する!


 僕の一撃は、防御を貫通、奴の顔面を撃ち抜いた。


 それでも崩れぬ、奴の体幹。

 まるで、巨大な岩を蹴りつけているような感覚。

 いい加減嫌になってくるが、それでも。


「一撃でダメなら、二度、三度!」


 僕の声と、ほぼ同時に。

 奴の背骨を、成志川の拳がへし折った。


【GOA……!】


 ゴキリと、綺麗な破壊音が響き分たった。

 奴の体が物理的にへし折れる。

 そして、僕は左足の第二射へと切り替えた。


 まだだ、こいつはまだ折れない!

 骨を折っても、どれだけ体を削っても!

 コイツはそれで終わらないから、強者なんだ!


「畳みかけるぞ!」


 僕は左足を振りかぶり。

 成志川は口を開いて、ポンタとシオンが攻撃に迫る。



 ……順調、だった。


 これ以上なく、上手く事が運んでいる。

 正直、このままいけば勝機は目前だと思う。


 だけど、なんだ、この嫌な感覚は。


 攻撃するほど、嫌な予感が加速する。

 コイツの能力が、ダメージの蓄積で能力を向上させる力だってことは理解している。

 だから、その【強化】が完了するより先に潰す。

 それだけの事。


 なのに……なんだ、この感覚は。


 心臓が、強く脈打つ。

 僕は思わず目を見開いて。


 どこからか、声がした。



「ご、御仁……ッ! ダメだ、その男に近づいては!」



 それは、聞き覚えのある声だった。

 声の方向に振り返るより先に。

 信じられない速度で、僕へと暴走列車の手が伸びた。


「な……!」


 なんて速度……コイツ、瀕死のはずじゃ!

 想定外の事態に焦り、一瞬だけ、思考が止まった。

 それは、僕が以前にもこの男に殺されているから、という理由もあったんだと思う。


 隙、と呼ぶにはあまりにも小さすぎる一瞬。

 思考の隙間に出来ただけの、わずかな瞬間。



 ――それが、全ての始まりだった。



【――第二異能(ツインテット)



 錆びるような、声がした。

 背筋が凍る。

 言葉の意味こそ理解できずとも。


 なにか、不吉な理解だけは在ったんだ。




【『強奪の悪魔(ザ・ルシファー)』】




 咄嗟に僕は転移し、奴の手から逃げおおせる。

 体は……無傷。

 何の痛みも、ダメージもない。

 だけど、全身から冷や汗があふれ出していた。


 それは、本能的に理解したから。



 この男が――災躯、ではないということを。



「御仁……! その男は【三人目】だ」

「……あ、阿久津さん」


 どこからか現れた阿久津さんが、僕の隣に立つ。

 彼女の言葉は……僕の嫌な予感を裏打ちさせるに足るものだった。


 前方へと視線を向ける。

 そこには、()()()()()()()()()()()化け物の姿が。


 ……勘違い、していた。

 シーゴが黒歴史ノートを用いて手にした【破壊兵装】。あれが、彼の種別と同じ【災躯】のモノであったから、黒歴史ノートに願って手にする力は、決まって自分の種別と同じものなのだと……そう、考えていた。


 だけど、違った。


 その考えが、元凶。

 全ての勘違いの、始まりだった。


「ナムダ・コルタナ。……ちょうど、二年半前から消息を絶った男。……その男が最期に目撃されたのは、とあるフリーマーケットの場だったらしい」


 僕は歯を食いしばり、冷や汗をぬぐう。

 おそらくその男は、その場所で【拾】巻を手にした。

 そして、運悪く【竜血暴走】の力を得た。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()


 ならば、この男の種別は何なのか。


 そんなもんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「ナムダ・コルタナ……史上三人目の【逸常】使い」




 ナムダ・コルタナ[SSランク]

 異能[竜血暴走][強奪の悪魔]

 基礎三形

 活性[SS]

 遮断[G]

 具現[G]



 脚力と……二年前に奪った活性。

 そのすべてを奪い返して――男は嗤う。



 ……どうしよ。絶望しか感じねぇ。




この反則野郎がッッ!

→よく考えたら全員反則。


暴走列車はおそらく、作中で五本の指に入る反則野郎でしょう。

ちなみに時間停止の六紗は反則過ぎるため、勘定しておりません。

六紗はこの決戦に突入させるのを作者が躊躇うくらいの反則権化。

もはや殿堂入りです。

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