ささやかなご質問です。
皆さんはどのキャラクターがお好きですか?
お答えいただけたら、作者の糧になります。
なんと表現していいのか、分からない。
それが、今の実直な感想だった。
その男を一目見た瞬間から、嫌悪感が走った。
容姿が醜いわけでもなく。
性格とて悪いわけではないだろう。
ただ、忌々しかった。
なんだ、これは。
その男が嫌いだ。
その感情があふれ出してくる。
嫌なところばかりに目が行ってしまう。
その身からあふれ出す自信。
まるで、俺を倒せると確信しているような顔。
恵まれた仲間たち。
まるで……そう、まるで。
何一つ不自由なく、今まで生きてきたようなその姿。
腹の底から、忌々しい。
燃えるような憎悪が、溜まってゆく。
俺は大きく息を吐き、その活火山へと蓋をする。
「
生まれてこの方、殺したいと思って殺したことはない。
ただ、不必要だと思った。
だから殺してきた。
殺し続けてきた。
だけど、こいつは初めての例外だ。
「あの男は……なにか、嫌だ」
生理的に受け付けないと、生まれて初めて口にしよう。
俺は、灰村解を殺したい。
その純然たる原動力は、きっと、俺を今までよりも強くする。
☆☆☆
地下格闘技戦【夜飛び】。
それは、基本的に運営側がトーナメントを組み、それに従って参加者たちが殺し合いを行う……というシステムだ。
ただし、そのシステムにも例外的なものがある。
「やれぇぇぇ! 今すぐ殺しあえ!」
「運営! わかってんだろうな!」
「こっちは客なのよ、幾ら支払ってると思ってるの!」
「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」
「……胸糞の悪い奴らだ」
僕は、観客席を見て思わず吐き捨てた。
その考えばかりは、異能者殺しも同じだったのだろう。
観客席を見て、しかめっ面をしている。
『え、ええっと……おお! 皆さん、ご安心ください! どうやら灰村解と、異能者殺しの対戦が決定したようです!』
観客席から歓声が上がる。
この【夜飛び】における唯一の例外。
それは、観客の意志。
彼ら彼女らが強く望めば、運営は逆らえない。
今回みたいな形になるわけだ。
「……まあ、いい。どうせ、俺以外では誰もお前には勝てやしないだろう。むしろ、一刻も早くお前を殺せる。その事実に感謝するべきか」
「その感謝、戦い終わってからにした方がいいんじゃないのか? だって、お前は今から負けるんだから」
S級相手へのビッグマウスも、これで二回目。
冥府の王、イミガンダ以来の挑発だ。
されど、異能者殺しはイミガンダほど弱くもなければ、易くもない。挑発を軽く受け流し、男は壇上へと上がってくる。
彼とすれ違うように、気絶した男が担架で運ばれていく。
その姿を一瞥。
――異能者殺しは、
「……っ!」
咄嗟に転移。
銃身を握って捻り上げると、同時に銃口が火を噴いた。
弾丸は全く別の方向へと向かってゆく。
観客席の近くに着弾したこともあって、客が押し黙る。
静寂が周囲を占めるようになった中、僕は異能者殺しを睨む。
「……どういうつもりだ」
「その言葉、そのまま返そう」
男は、銃を握る手へと力を籠める。
力任せに僕の手を払う。
その力は……正直、想定以上。
僕は、振り払われた右手を見て、思わず沈黙した。
されど、すぐに口を開く。
「正直、そこのデカブツに興味はない。が、生かした相手を目の前で殺されると、何のために手加減したのか分からなくなってくる」
……正直、『きれいごと』を言いたい気持ちもある。
だけど、それを真正面から言って、話の通じる相手じゃあるまい。なんせ、自分の仲間を、何の躊躇もなく殺そうとするヤツだからな。
「……ふっ」
僕の顔を見て、異能者殺しは鼻で笑った。
……なんだろう、むかつく反応だった。
「貴様は……弱いな」
「……なに?」
「弱いといったんだよ、灰村解」
僕の言葉にそう返し、異能者殺しは僕に背を向け、歩く。
立ち止まったのは、僕から十数メートル距離を開けてから。
それが、試合開始の正式な対峙距離。
されど……銃を装備されてのその距離は、あまりにも大きく感じた。
「強さとは、徹すること。何が何でも生き延び、自らの意思を貫き通すこと。それが出来ぬは二流。――他者のことを鑑みる時点で、それ以下。三流の証明だ」
あまりに暴論。
されど、それを真っ向から否定も出来なかった。
確かに、
僕は息を吐き、全身から脱力する。
「……そうだな。仲間だなんだと言ってる時点で……僕が甘いのは認めるよ」
もとはと言えば一般人。
幾ら本気になろうとも……過去改変のために本気になろうと。
たぶん、阿久津さんや六紗、シオンを殺せと言われれば……きっと、心のどこかで迷いが出る。
下手すりゃ、永遠に答えが出ないまである。
……正直なところ、そんなことは思いたくもないし。
口が裂けても、言えっこない。
自分の目的と同じくらい、大切に思ってる、なんてさ。
阿久津さんは平然を装いながら喜ぶだろうし。
六紗とシオンは調子に乗るのが目に見えている。
だから言わない。
死んでも言わない。
……それでも、さ。
「ただ……それが一流なら、僕は死ぬまで三流だな」
もしもお前が一流で。
僕が三流というのなら。
僕は、ド三流を貫き通す。
でもって、三流のままお前に勝つよ。
「というか、自分を一流だなんて思ったことは、一度もなくてね」
僕は拳を構える。
異能者殺しは眉尻を吊り上げて。
僕は、笑って口を開いた。
「ド三流、灰村解。今からお前を負かす名前だ。覚えとけ」
「……屑が。愚か極まるその脳漿、銃弾の錆と散れ」
男は銃口を僕へと構えて。
まもなく、試合開始の合図が鳴り響いた。
☆☆☆
銃弾、一閃。
それは寸分たがわず僕の額へと吸い込まれてゆく。
試合開始、直後のこと。
何の油断も慢心も躊躇もなく、殺意だけが込められた一撃。
咄嗟に超加速を使おうとしたが、
既に、奴の異能が発動していると思ったほうがいいだろう。
そう考えながら、銃弾を躱した。
「…………チッ」
銃弾が、僕の背後の金網へと着弾する。
凄まじい音がして、観客が耳をふさぐ中。
異能者殺しは、何か察したように舌打ちをした。
「活性。……それも、かなり高位」
「正解!」
僕は一気に駆け出すと、異能者殺しへと拳を放る。
最短距離を鋭く抉る、全力の拳。
異能者殺しはその拳を拳銃で受け流すが……みしりと、嫌な音が鳴って彼の顔が歪む。
「馬鹿力めが……!」
男は拳銃をかばうように後ろへ下がり、僕は追撃。
次の瞬間、どこからか重い音がして、僕の腹へと衝撃が突き抜ける。一瞬遅れて異様な熱さと、痛み。
――腹を撃たれた。
そう理解するまで、さほど時間はかからなかった。
「が……」
「鈍い」
鋭い回し蹴りが、側頭部へと叩き込まれる。
その際に、わずかに見えた。
右手の銃をかばいながら……体の陰から、もう片方の銃を僕へと構えた男の姿が。
……射線は、ぎりぎり。
下手をすれば自分の体も抉る位置。
そんな場所に銃を構え、どころか何の躊躇もなく放ってきた。
「……はっ、イカれてんな」
「どちらが、だ?」
片膝をつく僕へ、男は銃を構える。
咄嗟に頭を横へ振ると、肩へと銃弾が直撃。
さらに痛みが走って、顔が歪む。
それでも前を向き、超低空の回し蹴りを男へ放つ。
「ッ」
咄嗟に飛び上がり、回し蹴りを躱す男と。
その瞬間には、既に拳を固めた僕が居た。
男は僕の姿に目を剥くが――すでに遅くて。
「らァッ!」
拳、一閃。
空中で身動き取れない男へ、思い切り拳を叩き込んだ。
顔面だ。
奴は真っ赤な鼻血を吹き出し、転がってゆく。
対面の鉄檻まで吹き飛んでいった男は、檻に背を預け、口の中から血の塊を吐き出した。
その中には歯の欠片も混ざってて、僕は息を整える。
腹の傷――回復した。
肩の傷……もう癒えた。
僕は笑った。それは精いっぱいの挑発だった。
「どうした一流、血が出てるぜ?」
「こ、この……三流が!」
男は立ち上がり、銃を構える。
銃口が火を噴くが、そういうのは全部見えてる。
僕は最小限の動きでそれらを躱し、前進。
男の目の前までやってくると、奴は僕の額へと銃口を当てた。
その息は、少しだけ上がっている。
それでも、気迫は一切衰えていなかった。
「……強者は強者たり、弱者は弱者たる。それがこの世界の摂理。弱者には一切の権利はなく、強者が支配していく。……灰村解。今ここに至ってようやく理解した。貴様が嫌な理由がな」
「簡単。僕が弱者だから、だろ?」
僕は根っからの弱者。
だから、強さに憧れたし。
いとも簡単に地に落ちた。
そりゃ、お前が気にくわないのも納得できる。
だけど。弱いからこそ、だろ。
弱いから、強がるし、笑うんだ。
必死に下を向かないように。
前だけ向いて、歩けるように。
僕は、いつものように笑うんだ。
「知ってたか? 笑顔と強がりが、弱者の最強武器なんだぜ」
異能者殺しは、銃を放つ。
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