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ささやかなご質問です。

皆さんはどのキャラクターがお好きですか?


お答えいただけたら、作者の糧になります。

第三章【始まりの因縁】
317『灰村解VS異能者殺し』

 なんと表現していいのか、分からない。


 それが、今の実直な感想だった。

 その男を一目見た瞬間から、嫌悪感が走った。

 容姿が醜いわけでもなく。

 性格とて悪いわけではないだろう。


 ただ、忌々しかった。


 なんだ、これは。

 その男が嫌いだ。

 その感情があふれ出してくる。

 嫌なところばかりに目が行ってしまう。


 その身からあふれ出す自信。

 まるで、俺を倒せると確信しているような顔。

 恵まれた仲間たち。

 まるで……そう、まるで。


 何一つ不自由なく、今まで生きてきたようなその姿。


 腹の底から、忌々しい。

 燃えるような憎悪が、溜まってゆく。

 俺は大きく息を吐き、その活火山へと蓋をする。


()()。貴様の気持ちが、よくわかった」


 生まれてこの方、殺したいと思って殺したことはない。

 ただ、不必要だと思った。

 だから殺してきた。

 殺し続けてきた。


 だけど、こいつは初めての例外だ。


「あの男は……なにか、嫌だ」


 生理的に受け付けないと、生まれて初めて口にしよう。


 俺は、灰村解を殺したい。

 その純然たる原動力は、きっと、俺を今までよりも強くする。




 ☆☆☆




 地下格闘技戦【夜飛び】。

 それは、基本的に運営側がトーナメントを組み、それに従って参加者たちが殺し合いを行う……というシステムだ。

 ただし、そのシステムにも例外的なものがある。


「やれぇぇぇ! 今すぐ殺しあえ!」

「運営! わかってんだろうな!」

「こっちは客なのよ、幾ら支払ってると思ってるの!」

「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」


「……胸糞の悪い奴らだ」


 僕は、観客席を見て思わず吐き捨てた。

 その考えばかりは、異能者殺しも同じだったのだろう。

 観客席を見て、しかめっ面をしている。


『え、ええっと……おお! 皆さん、ご安心ください! どうやら灰村解と、異能者殺しの対戦が決定したようです!』


 観客席から歓声が上がる。

 この【夜飛び】における唯一の例外。

 それは、観客の意志。

 彼ら彼女らが強く望めば、運営は逆らえない。

 今回みたいな形になるわけだ。


「……まあ、いい。どうせ、俺以外では誰もお前には勝てやしないだろう。むしろ、一刻も早くお前を殺せる。その事実に感謝するべきか」

「その感謝、戦い終わってからにした方がいいんじゃないのか? だって、お前は今から負けるんだから」


 S級相手へのビッグマウスも、これで二回目。

 冥府の王、イミガンダ以来の挑発だ。

 されど、異能者殺しはイミガンダほど弱くもなければ、易くもない。挑発を軽く受け流し、男は壇上へと上がってくる。

 彼とすれ違うように、気絶した男が担架で運ばれていく。


 その姿を一瞥。


 ――異能者殺しは、()()()()()()()()()()()()()


「……っ!」


 咄嗟に転移。

 銃身を握って捻り上げると、同時に銃口が火を噴いた。

 弾丸は全く別の方向へと向かってゆく。

 観客席の近くに着弾したこともあって、客が押し黙る。

 静寂が周囲を占めるようになった中、僕は異能者殺しを睨む。


「……どういうつもりだ」

「その言葉、そのまま返そう」


 男は、銃を握る手へと力を籠める。

 力任せに僕の手を払う。

 その力は……正直、想定以上。

 僕は、振り払われた右手を見て、思わず沈黙した。

 されど、すぐに口を開く。


「正直、そこのデカブツに興味はない。が、生かした相手を目の前で殺されると、何のために手加減したのか分からなくなってくる」


 ……正直、『きれいごと』を言いたい気持ちもある。

 だけど、それを真正面から言って、話の通じる相手じゃあるまい。なんせ、自分の仲間を、何の躊躇もなく殺そうとするヤツだからな。


「……ふっ」


 僕の顔を見て、異能者殺しは鼻で笑った。

 ……なんだろう、むかつく反応だった。


「貴様は……弱いな」

「……なに?」

「弱いといったんだよ、灰村解」


 僕の言葉にそう返し、異能者殺しは僕に背を向け、歩く。

 立ち止まったのは、僕から十数メートル距離を開けてから。

 それが、試合開始の正式な対峙距離。

 されど……銃を装備されてのその距離は、あまりにも大きく感じた。


「強さとは、徹すること。何が何でも生き延び、自らの意思を貫き通すこと。それが出来ぬは二流。――他者のことを鑑みる時点で、それ以下。三流の証明だ」


 あまりに暴論。

 されど、それを真っ向から否定も出来なかった。

 確かに、()()()()()()()()()()と思ったから。


 僕は息を吐き、全身から脱力する。


「……そうだな。仲間だなんだと言ってる時点で……僕が甘いのは認めるよ」


 もとはと言えば一般人。

 幾ら本気になろうとも……過去改変のために本気になろうと。

 たぶん、阿久津さんや六紗、シオンを殺せと言われれば……きっと、心のどこかで迷いが出る。

 下手すりゃ、永遠に答えが出ないまである。


 ……正直なところ、そんなことは思いたくもないし。

 口が裂けても、言えっこない。

 自分の目的と同じくらい、大切に思ってる、なんてさ。


 阿久津さんは平然を装いながら喜ぶだろうし。

 六紗とシオンは調子に乗るのが目に見えている。

 だから言わない。

 死んでも言わない。

 ……それでも、さ。


「ただ……それが一流なら、僕は死ぬまで三流だな」


 もしもお前が一流で。

 僕が三流というのなら。

 僕は、ド三流を貫き通す。

 でもって、三流のままお前に勝つよ。


「というか、自分を一流だなんて思ったことは、一度もなくてね」


 僕は拳を構える。

 異能者殺しは眉尻を吊り上げて。

 僕は、笑って口を開いた。



「ド三流、灰村解。今からお前を負かす名前だ。覚えとけ」


「……屑が。愚か極まるその脳漿、銃弾の錆と散れ」



 男は銃口を僕へと構えて。

 まもなく、試合開始の合図が鳴り響いた。




 ☆☆☆




 銃弾、一閃。

 それは寸分たがわず僕の額へと吸い込まれてゆく。


 試合開始、直後のこと。

 何の油断も慢心も躊躇もなく、殺意だけが込められた一撃。

 咄嗟に超加速を使おうとしたが、()()()使()()()()

 既に、奴の異能が発動していると思ったほうがいいだろう。


 そう考えながら、銃弾を躱した。


「…………チッ」


 銃弾が、僕の背後の金網へと着弾する。

 凄まじい音がして、観客が耳をふさぐ中。

 異能者殺しは、何か察したように舌打ちをした。


「活性。……それも、かなり高位」

「正解!」


 僕は一気に駆け出すと、異能者殺しへと拳を放る。

 最短距離を鋭く抉る、全力の拳。

 異能者殺しはその拳を拳銃で受け流すが……みしりと、嫌な音が鳴って彼の顔が歪む。


「馬鹿力めが……!」


 男は拳銃をかばうように後ろへ下がり、僕は追撃。

 次の瞬間、どこからか重い音がして、僕の腹へと衝撃が突き抜ける。一瞬遅れて異様な熱さと、痛み。

 ――腹を撃たれた。

 そう理解するまで、さほど時間はかからなかった。


「が……」

「鈍い」


 鋭い回し蹴りが、側頭部へと叩き込まれる。

 その際に、わずかに見えた。

 右手の銃をかばいながら……体の陰から、もう片方の銃を僕へと構えた男の姿が。

 ……射線は、ぎりぎり。

 下手をすれば自分の体も抉る位置。

 そんな場所に銃を構え、どころか何の躊躇もなく放ってきた。


「……はっ、イカれてんな」

「どちらが、だ?」


 片膝をつく僕へ、男は銃を構える。

 咄嗟に頭を横へ振ると、肩へと銃弾が直撃。

 さらに痛みが走って、顔が歪む。

 それでも前を向き、超低空の回し蹴りを男へ放つ。


「ッ」


 咄嗟に飛び上がり、回し蹴りを躱す男と。

 その瞬間には、既に拳を固めた僕が居た。


 男は僕の姿に目を剥くが――すでに遅くて。


「らァッ!」


 拳、一閃。

 空中で身動き取れない男へ、思い切り拳を叩き込んだ。

 顔面だ。

 奴は真っ赤な鼻血を吹き出し、転がってゆく。

 対面の鉄檻まで吹き飛んでいった男は、檻に背を預け、口の中から血の塊を吐き出した。

 その中には歯の欠片も混ざってて、僕は息を整える。


 腹の傷――回復した。

 肩の傷……もう癒えた。

 僕は笑った。それは精いっぱいの挑発だった。


「どうした一流、血が出てるぜ?」

「こ、この……三流が!」


 男は立ち上がり、銃を構える。

 銃口が火を噴くが、そういうのは全部見えてる。

 僕は最小限の動きでそれらを躱し、前進。

 男の目の前までやってくると、奴は僕の額へと銃口を当てた。

 その息は、少しだけ上がっている。

 それでも、気迫は一切衰えていなかった。


「……強者は強者たり、弱者は弱者たる。それがこの世界の摂理。弱者には一切の権利はなく、強者が支配していく。……灰村解。今ここに至ってようやく理解した。貴様が嫌な理由がな」

「簡単。僕が弱者だから、だろ?」


 僕は根っからの弱者。

 だから、強さに憧れたし。

 いとも簡単に地に落ちた。

 そりゃ、お前が気にくわないのも納得できる。


 だけど。弱いからこそ、だろ。


 弱いから、強がるし、笑うんだ。

 必死に下を向かないように。

 前だけ向いて、歩けるように。


 僕は、いつものように笑うんだ。



「知ってたか? 笑顔と強がりが、弱者の最強武器なんだぜ」



 異能者殺しは、銃を放つ。


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