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第三章【始まりの因縁】
302『副担任と転校生』

 結果から言おうと思う。

 学校の復元が超絶急ピッチ(一週間足らず)で終わってしまったこともあり、僕は学校再開、前日の今日をもってしても、未だに地竜アラガマンドを倒せずにいた。


 おそらく、この空間で過ごした時間は数か月以上。

 この世界にいる間は、現実世界の時は止まっている。

 その設定をここぞとばかりに多用し、僕は、一週間足らずで数か月間もの戦闘経験を積んでいた。


 そして今日。

 数か月にわたる戦いに、決着が訪れようとしていた。


『GOOOAAAAAAAAAAAAA!!』


 咆哮が鳴り響く。

 それは一瞬、刹那の間、僕の体を硬直させた。

 だが、それは瞬くよりもわずかな、ほんのひと時。

 奴が咆哮を響き終えたときには、既に僕の硬直は解けていた。


「数か月! それだけあれば習熟するっての!」


 何度も殴られ、蹴られ、吹き飛ばされ。

 時には内臓破裂。死に瀕したこともある。

 それでも必死に痛みをこらえ、立ち上がってきた。

 その度に使ってきた復讐技能。

 今では、奴の咆哮をほぼ無効化できるほどには習熟している。


 そして、この技能も。


 僕は右手を地面へ着くと、呟いた。


「【消滅】」


 瞬間、僕の手から、地面を通じて崩壊が伝播した。

 その光景に、地竜アラガマンドは初めて目を見開いた。


 此処まで、かたくなに近接からの崩壊にこだわってきた。

 それは、純粋に消滅技能に習熟していなかったから。

 つーか、おいそれと使えるような力じゃないし、訓練するのも他の技能を優先し、後回しにしてきた。

 その結果が、一番反則の能力が、一番強くはない、という微妙な成果として表れていた。


 だが、今は違う。

 ここ数か月、ただひたすら、アラガマンドに消滅を使い続けた。時間経過で癒える傷ではなく、時間経過により癒えない傷を与え続けた。

 その結果、この技能は進化とも呼べる成長を果たした。


 それこそが、遠距離からの崩壊伝播。


 アラガマンドは、崩壊を前に上空へと飛び上がる。

 ……深淵最下層は、かなり幅と高さのある洞窟状だ。

 小柄な竜の一体や二体、とんでいてもなんの支障もないエリア。……だからこそ、飛んで逃げる、って可能性も考えていたよ、アラガマンド。


 僕は左手を、前方へ掲げる。

 手首に黒い円環が浮かび上がり。

 目を剥くアラガマンドへ、異能を告げる。



「【禁書劫略(イクリプス)】」



 僕が奪うのは、【飛行能力】

 お前が空を飛ぶことができる、という事実を奪う。

 円環は線となってアラガマンドの体へと巻き付き、そして、なんの抵抗もなくその能力を奪い取る。


 ここまで、一度も使ってこなかった強奪能力。

 加えて今日は日曜日。

 暦の七星により、強奪の確率は大幅に向上している。


「初見でこの力……抵抗できねぇだろ」


 左手の甲に【飛】の文字が刻まれる。

 瞬間、アラガマンドは地上へ落下。

 そのまま、崩壊の伝播の中へと包まれてゆく。


『GOAAAAAAAAAAAAAAA!?』


 それは、絶叫。

 今まで多かれ少なかれ、聞いたことのある声が。

 今回ばかりは、断末魔に聞こえた。


 アラガマンドの体が、崩れ征く。

 奴は絶叫しながらも、僕を睨み、駆け出した。

 僕に近づくにつれて崩壊は加速する。

 消滅の時も、近づいてくる。


 それでも、アラガマンドは駆け出して。



 ――次の瞬間、僕は奴の背中にいた。



「数か月。やっとの思いで、チェックメイトだ」



 僕は、その背中に手を伸ばす。


 数か月間に及ぶ、消滅技能。

 加えて今回の全体攻撃に――コイツで、止めだ。


 アラガマンドは、焦ったように僕を振り返るが。



 僕の手が、奴の背中に触れるが先だった。



「【消滅】」



 それは、消滅の全力行使。

 瀕死のアラガマンドは、一切抵抗できずに塵と化し。

 そこに残ったのは、奴から奪った【飛行能力】ただ一つ。


 奴の消えた場所に立ち。

 僕は、荒い息を吐いて、拳を突き上げる。



「っしゃおらあああああ! 見たか、僕の勝ちだ!!」



 《レベルがあがりました》



 無機質なインフォメーションが流れ。

 僕は大地に倒れ、喜びをかみしめた。




 灰村 解

 Lv.83[Sランク]

 異能[禁書劫略][暦の七星][超加速]

 技能[神眼][神狼][廻天][復讐][指揮][次元][消滅]

 特異[飛行](NEW)


 基礎三形

 活性[S]

 遮断[A]

 具現[S]




 ☆☆☆




「お? おいカイ、なんか、髪のびたんじゃねぇか?」


 翌日、早朝。

 僕は登校の準備をしていると、部屋にシオンの声が響いた。

 振り返ると、ノックの一つもなしに僕の部屋へ入ってくるシオンが居た。僕は顔をしかめて彼女に言った。


「おい、着替えてるんですけど?」

「あ? 細けーこと気にすんなよ。それともなんだ? オレに見られちゃ恥ずかしい、ってか? なはははは! 女みてぇな奴だな!」

「お前……」


 君、恋にときめく高校一年生でしょう。

 俗にいうJKでしょう。

 一体どういう育ち方をすればそうなるの?

 一度、お前の過去についてじっくり話し合ってみたいところだ。

 でもって、お前の父親と母親は説教だな。

 どこにいるのかは知らんが、どういう教育をしたらこうなるのか、一度ご教授願いたいよ。


 僕は制服のズボンをはくと、ワイシャツを羽織る。

 ベッドに腰かけ、ボタンをしながら話を振った。


「で、珍しいな。こんな朝早くに起きてるなんて。いつもは腹出して寝てる時間……今日って台風の予報だったか?」

「たいふう? なんだそれ、喰えんのか?」


 お前が食えると思うなら食えるんじゃないか?

 まあ、お前が全力全開で銃砲ぶっ放したら、台風の一つや二つ、ある意味で喰らい尽くせると思うけど。

 僕は小さく息を吐き、長くなってきた髪をいじる。


「ま、いいや。本当は床屋に行きたかったんだが……ちょっと、訓練が思っていた以上に厄介でな。手間取って、時間が無くなったんだ」

「訓練……ねぇ?」


 シオンは、目を細めて僕を見る。


「……おお! たしかにちょっと強そうだな!」


 ちょっとかい。

 これでも結構苦労したんですけど。

 僕は内心呟いて、彼女を見る。

 死地の紅神、シオン・ライアー。

 僕のレベルは、一週間前に相対したシーゴに近しいところまで到達している。そう考えれば、シオンには勝てる域にまでは来ている――と考えるのが普通だと思う。

 だけど、こうして相対して、理解した。


 シオン・ライアーは、やっぱり強い。


 今の僕でも、正直、勝てるかどうかわからない。

 よく考えたら、シーゴもあの硬さと回復能力がなければシオンにボロ負けしてたわけだしな。

 シーゴは相性が良かっただけで……純粋な戦闘能力において、シオンの足元にも及んでいなかった。

 そしてそれは、きっと僕も同じ事。


「下手すると、Lv.90以上も……」

「あ? なんか言ったか?」


 彼女は僕の対面で胡坐をかきながら、首を傾げた。

 その姿に苦笑しつつ、僕は何でもないと頭を振る。


「いんや。お前に勝つのは、もうちょい先になりそうだな、って」

「なはは! オレがカイに負けるなんて、天地がひっくり返ろうとあり得ねぇな! お前はオレが死んでもオレの子分だ!」

「それはちょっと……」

「うるせぇ! 子分は子分だ!」


 シオンは叫び、奥の部屋から阿久津さんのうめき声が聞こえてくる。

 ……阿久津さん、最近何をしているのかは分からないけど、夜遅くまで調べ事してるからな。朝くらいはゆっくり寝かせてあげようと思う。


「よしシオン。喋ったら負けのゲームだ。お前が勝ったらアイス一個おごってやるよ」

「ほんとか! なら黙るぜ!」


 そう言って、彼女は両手で口をふさいだ。

 よし、実質アイス一個でシオンを黙らせることに成功した。

 日に日に、シオンの扱いがうまくなっている気がするね。

 僕は彼女を一瞥し、こちらもまた無言で支度を進める。


 ……そういえば、シオンのやつ。もう制服着てるんだな。

 もしかして、この時間から起きてるっていうのも、学校が楽しみで待ちきれなかっただけかもしれない。


 そう考えると、口を押えるシオンも可愛らしく思えてくる。

 性格と言動と強さとその他諸々は、全然可愛らしくないけれど。

 むしろ、男装とかしたら似合いそう……って。

 そうじゃないだろ。

 なんでシオンの容姿について考えてんだ、僕。


 僕はため息一つ、朝焼けの空を見据えた。



「……僕も、コイツに毒されてきたか」


「はいオレの勝ちーー! カイ、てめぇの負けだ!」



 シオンは叫び、阿久津さんは起きた。




 ☆☆☆




 数時間後。

 入学式の日と、だいたい同じくらいの時間に登校した。

 校舎はすっかり元通り。

 むしろ、前回よりも豪華になってないか、これ。


「おお! すげーすげー!」


 校門をくぐってすぐ。

 シオンがそう言って突っついているのは、正統派の王、六紗優の銅像だった。うっわ恥ずかしっ。

 僕だったら恥ずかしすぎて学校に来れないよ。

 これはアレだな。

 あいつに会ったら思う存分からかってやろう。

 六紗に会う楽しみが一つ増えました。


 僕はシオンの手を取って、1年2組へと歩いてゆく。

 僕らが付いた時には、既に半数近い生徒たちがすでに登校していたようで、僕は控えめに、シオンは「おう、早ぇな砂利っ子共!」と大声で叫んで挨拶をした。


 それらに、挨拶を返してくれる生徒は少なかったと思う。

 なんせ、僕もシオンも友達がいない。

 加えて、シーゴの襲撃事件で僕の実力は周知されている。普通の精神してる奴なら、怖くて近寄れたもんじゃない。


 と、思ったんだけど。


「おお! 我ら2組のヒーローが来たぜ!」

「我が灼腕が疼く……これが運命か」

「シオンちゃん、良かったら今日、お昼ご飯一緒にどお? ついでに異能のコツとか教えて欲しいなー!」


 よく考えたら、こいつらこの厨二学園の生徒たちだった。頭が正常なわけがない。

 僕らは瞬く間に生徒たちに囲まれる。

 何だか面倒だったため、シオンを囮に【次元】技能で自分の席へと転移する。


 いやー、この技能ってば本当に便利。

 何が便利って、アイテムボックスに鍵を入れとけば、それだけで異能を使えるって点だよな。

 零巻片手に異能バトルなんてやってられないもの。


「てっ、てめぇカイ! 何逃げてんだ!」


 シオンの声が聞こえてきて、僕は遮断で気配を殺す。

 クラスメイトたちは僕の姿を見失い、残ったシオン目掛けて突撃してゆく。

 シオン。お前はちょっと、僕に固執しすぎだ。もっと、ちゃんとした友達を作りなさい。なんなら彼氏でもいいですよ?


 僕は頬杖を着いて苦笑していると、前方のドアからシガラミ先生が姿を現す。

 彼女の登場で、ざわついていた教室が少しずつ静かになってくる。

 生徒たちは一人、また一人と席へと戻ってゆき、僕も遮断を解除する。


 ……まだ、始業には時間があると思うけど。

 冥府の2年間と、深淵の数ヶ月間。

 しばらく学校生活からは離れているから、もしかして僕が勘違いしてるだけ、だろうか?


 僕は首を傾げていると、隣の席から視線を感じた。そちらを見ると、僕を物凄い形相で睨むシオンと目が合った。

 なので、視線を外して前を向いた。


「……てめぇ、あとで覚えてやがれ」


 1時間もしたらお前も忘れてると思うけど。

 シオン、自分の単細胞加減をもうちょっとよく知った方がいいと思う。


 そうこう考えているうちに、シガラミ先生は話し始める。


「あ、あ……ぁ、その、なんだ。実は、新しく新任の副担任と、転校生が……入ることになった」


 しかし、その声は震えていた。

 緊張に喉が鳴り、挙動は不振。

 冷や汗がダラダラ零れるその姿は、控えめに言っても普通じゃなかった。

 つーか、副担任と転校生が同時に紹介されるとか、それも普通じゃなかった。


「えっと……先生?」

「あ、いや、な、なんでもないんだ。そ、それじゃあ早速だが、紹介と行こう」


 生徒の言葉に、シガラミ先生は廊下を見る。

 すると、教室の扉を開き、二人の男女が姿を現す。


 その光景に、その姿に。


 僕は、思わず席から立ち上がり、目を剥いた。



「な……!?」

「……あん? あー……、あれ?」


 シオンも、その姿を二度見していた。

 生徒たちも、どこか驚いた様子だった。

 それもそのはず、そこに居たのは……先の襲撃事件において、敵側にいたはずの人間だったから。


 僕は愕然とその男を指さして。


 少年と少女は、満面の笑みで自己紹介した。



「初めまして……とは、言い難いけど。今日からクラスメイトになる、S級異能力者の成志川景です」


「同じく! 今日から副担任になるエニグマよ! 世界征服の足がけとして、とりあえずはこの学園の校長の座、ぶんどることにしたわ!」



 色々とツッコミどころの多すぎるその2人。

 それを前に呆然とするクラスメイト一同へ。


 ……正確には、灰村解、つまりは僕に対して。


 あの日から姿を消していたその男は、どこか楽しげにこういった。



「最初会った時は想像もしてなかったろう? この僕が、君の仲間になるなんて」



 無論、その通りだった。

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