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第二章、最終話!

第二章【秘匿の消えた世界】
227『原点へ』

 結果から言って。

 シーゴ率いる『黒き解放』による襲撃事件は、正統派の手によって揉み消されることになった。


 そりゃそうだ。

 正統派、それも六紗優の在学するハイライトスクールが、よりにもよって開始初日からテロリスト集団に襲われる……だなんて、そんなの正統派の信用に関わってくる。


 というわけで、全生徒へと与えられた金一封。

 一封なんて厚さじゃない封筒を、なんかよく分からない黒スーツのお兄さんが、僕らのマンションにまで持ってきてくれた。

 僕は思わず緊張気味に喉を鳴らした。


「こ、これは……」

「口止め料です。もしも口外した場合は正統派を敵に回すと思ってください」


 無論、なんの口答えも出来なかった。

 黒スーツのお兄さんはそう言って帰ってゆき。

 居間に繋がる扉の奥から、シオンと阿久津さんがひょこりと顔を出した。


「行ったか、御仁」

「……行った、みたいだな。そしてシオン、お前までなんで隠れてんだ」

「面白そうだから隠れてみた!」


 でしょうね、聞く前からだいたい察してました。だってものすごく楽しそうなんですもん。

 僕は封筒を開くと、その中から数万円だけだして、ポケットに突っ込む。

 残りの分厚い札束は、封筒ごと阿久津さんへと放り渡した。


「はい、それ、死んでた二年間の生活費」

「な……! お、おい御仁! これ……とんでもない額だぞ! こんなに貰えるか……!」


 とは言うが、2年間も僕の死体を守っててくれたんだ。

 それっぽっちの金銭じゃ、全然足りやしないだろう。


「それと、ほらシオン。お前の分」

「金か! ならカイが持ってやがれ! オレは金の使い方なんて分からねぇからな! お前に託すぜ、オレの全てをな!」


 無駄にかっこいいセリフだった。

 もっと別のシーンで聞きたかった。

 僕は苦情混じりに、時空の穴へと金を放り込む。【次元】技能を使った擬似アイテムボックス、ってやつだ。


 その際に、僕はなんとなく、アイテムボックスへと手を突っ込んだ。

 手を入れてすぐ、その本は見つかった。

 僕が七つの技能とひとつの異能を使うための鍵、黒歴史ノート第零巻。


 そして、もう1冊。



「……ったく、あの野郎、どこ行ったんだか」



 僕が目が覚めた時。

 僕の目の前には、第参巻が転がっていて。



 妄言使い、成志川景は僕らの前から消えていた。




 ☆☆☆




 あの事件は、事故として処理されている。

 僕は、一時休校となったハイライトスクールの前へと足を運んでいた。


 傷は、目が覚めた時には消えていた。

 大方、成志川の野郎が治してったんだろう。

 あいつ……ほんと、なんでもありだよな。

 なんなら9つの能力を持ってる僕よりもできることが多いと思う。


「あ、そういや、10個になってたっけ」


 目が覚めたら、全部終わって。

 シーゴは死んでいたからな。

 どうやら、第参巻だけはよく分からない不思議な原理で無事だったらしいが、彼自体は消滅し、消えた。

 故に、彼から奪ったものは、僕のものになっていた。


 ふと、その場で拳を繰り出す。

 感覚的には、とても緩い拳だったと思う。

 だけど、その拳は凄まじいキレと速度で繰り出され、ヒラヒラと舞い落ちる桜の葉をいとも簡単に撃ち抜いた。


 ポスッ、と小さな音。

 殴ったはずの桜の葉は、残骸となって地面に落ちる。

 その光景に苦笑して、僕は最新のステータスを開示した。



『【神眼】』



 灰村 解

 Lv.78[Sランク]

 異能[禁書劫略(イクリプス)][暦の七星(セブンスタ)][超加速(フルアクセル)

 技能[神眼][神狼][廻天][復讐][指揮][次元][消滅]

 基礎三形

 活性[S]

 遮断[A]

 具現[S]



 ここ数ヶ月で、レベルは71から78へ。

 そして、シーゴのS級異能【超加速(フルアクセル)】が、意図せず僕のものへとなってしまった。


「あの……殺人鬼の異能」


 あの後、シーゴについて少し調べた。

 テロリスト集団、黒き解放。

 異能は自由のための翼であると公言し、好き勝手に異能を使って破壊の限りを楽しむ、という超危険集団。

 そんな集団の、トップが使っていた力。

 ……正直、心情的には遠慮したい。

 きっとあの男は、この力で何十人も、何百人も殺してきたのだろうから。

 だけど。


「……好き嫌い、言ってられる立場じゃねぇか」


 僕はステータスを閉じて、拳を握る。

 僕は弱い。

 先の戦いでよく分かった。

 シオンに劣り、六紗に劣り。

 成志川には手加減された。

 何たる弱さ、低弱さ。

 こんな程度で……誰に勝てるというのか。


「……ッ」


 きっと、僕は誰にも勝てやしない。

 この程度で満足してたら、いつまで経っても上には勝てない。S級の上位陣には手が届かない。絶対に。


 僕は大きく息を吐き、歩き出す。


 やるべきこと。すべきこと。

 それはきっと、一切の妥協を捨てること。

 体を鍛え、異能を鍛え、奪い、強くなる。

 そのことに、一切の妥協をしてはならない。


「敗北を……ただの敗北では終わらせない」


 壊れた校舎は、再生の異能力者が急ピッチで直している最中だ。

 今再びの開校まで……まだ、しばしかかるだろう。


 大きく息を吐く。

 背負い直したバックには、大量の食料が入ってる。

 僕はアイテムボックスへと手を突っ込み。

 そして、取り出したるは第零巻。



「……負けられねぇ、よな」



 僕は、第零巻を開く。

 その瞬間、感じたのは異常なまでの想力量。

 かつて、未熟だった頃は感じなかった。

 黒歴史ノートが保有する、本来の力。




【使用者を確認。これより試練を開始します】




 気がついた時、僕はその場に立っていた。


 壁際には、青い炎が灯っている。

 前方には、どこまでも続く洞窟がある。


 僕が、力を手にした最原点。

 一般人を止めた、僕の分岐点。



「【深淵】」



 前方から、カサカサと音がする。

 姿を現したのは、青いカブトムシ。

 奴は僕の姿を見るや否や、凄まじい勢いで駆け出し、襲いかかってくる。


 かつては恐ろしかったその姿も。

 今では、さほど脅威足りえない。


 特に、異能を使うことは無かった。

 ただ、一息で近づいて。

 活性の力だけで、ぶん殴る。


 それだけでその魔物――コバルトブルーは命を落とし、痙攣した末に消えてゆく。


「……この深淵は、あくまでも浅瀬。今の僕が攻略して、何か、得られるものがあるわけじゃない」


 強いて言うなら、攻略特典の【英智】の異能だろうか?

 確かにあれは欲しいと思うが、別に、今すぐ欲しいという訳でもない。

 欲しくなった時に取りに行っても、遅くはないと思う。

 だから、今は取らない。

 今は、別のクエストを開拓する。


 僕は、背後を振り返る。


 スタート地点の、すぐ後ろ。

 そこには、一枚の扉が立っていた。

 その扉は、低レベルの内は視認できないし、使うことも出来ない。

 これを使うことが出来るのは、Lv.70を超えてから。つまり、S級へと上がってから。


 僕は、扉へと手をかける。

 緊張に喉を鳴らし。

 それでも、躊躇することは無かった。


 扉を開ける。


 その先には、もうひとつの深淵が広がっていた。



「深淵【最下層】、解然の闇のお膝元だ」



 僕は息を吸い、その中へと足を踏み出す。

 振り返った時には、既に扉は消えていた。


 後戻りは、出来ない。

 まぁ、技能で帰還すれば戻れるけれど、当時の僕はそこまで考えてなかったんだろうね。野暮なことは言いっこなしだ。


 僕はそう言って、零巻を開く。

 そこには、見覚えのある言葉が浮かんでいた。




 《クエストスタート》

 深淵を抜け、我が元へ来るがいい。

 我が力の一端、貴様に与えよう。




 もう、力を得ることに遠慮はない。

 たとえ、忌み嫌う存在の力であっても、僕はなんの躊躇もなく手に入れられる。


 そうでもしなきゃ、過去の改変には届かない。


 僕は拳を握りしめ、歩き始める。



「開校前には、攻略出来ればいいんだが」



 たぶん、そうはいかないだろうなぁ。


 だって、ここは深淵の最下層。

 攻略させるつもりは、微塵もない。



 他でもない僕が作った、無理ゲーの世界だ。




以上、第二章【秘匿の消えた世界】でした。


そして、物語は原点へ。

次回、第三章、開幕。

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