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第二章【秘匿の消えた世界】
220『妄言使い②』

 5年前の、春。

 僕は、クラスメイトに一目惚れした。


 いつも元気で、笑顔の絶えない彼女に。

 僕は、心の底から恋をした。



 それは、僕、成志川(なるしがわ)(けい)の、初恋だった。




 ☆☆☆




 僕は、男を鑑定した。

 その結果は、恐るべきものだった。



 シーゴ・クレジャント

 Lv.85[Sランク]

 異能[破壊兵装(デストロイ)

 基礎三形

 活性[S]

 遮断[S]

 具現[S]



「ッ、れ、レベル……!」


 本来、普通の人間にはあるべきでは無いその表記。

 暴走列車にも、その表記はなかった。

 冥府は分からないが、今まで鑑定した全ての者に、レベルなんて概念は存在しない。


 それが、この男には存在してる。

 しかも、今の僕よりレベルが10近く上と来た。

 レベルの高さも含めた……その、異常性。やはり、第参巻が影響してるのだろうか?


 ディュゥェアルノォーゥト、第参巻。

 妄言使い、成志川の保有していた黒歴史ノートのうち1冊。もうひとつのアーティファクト、至高の暗淵の在り処について、多くを記した1冊の書。


 ……おそらく、めちゃくちゃ頭の良い奴なら、あの1冊だけで至高の暗淵までたどり着くだろう。

 阿久魔さんがあの本を持ってたら、まちがいなくその場所までたどり着いてる。


 それだけに、今の男に……安心すればいいのか不安を覚えればいいのか、少し悩む。


 この男は、至高の暗淵を手にしていない。

 今感じる想力は、全て第参巻に内包されていた想力だ。至高の暗淵を手に入れていたのなら……おそらく、こんな程度の想力量じゃきかないと思う。


 だから、少なくとも最悪ではない。

 悪くはあると思うけど。


「……? れべる? なんだそりゃあ」

『俺が、テメェらとは桁違いだ、って話だろォ!』


 侵入者の男、シーゴは駆ける。

 その速度は目を見張る程で、僕は咄嗟に右手を突き出し、手のひらを回転させる。


「【廻天】!」


 奴の上半身と下半身を、真逆方向へと回転!

 男はまるで、巨大な何かに掴まれたかのように硬直。驚いたように目を丸くしていた。


「へぇ! こりゃ久理の力だろ!? すげぇなお前! 災躯に久理、杯壊に界刻! 4つも能力を使えんのか!」


 しかし、男は思い切り体に力を込めて、無理やりに僕の能力に張り合ってくる。

 僕は歯を食いしばるか……なんつー力だよ、張り合うのが精一杯だ!


「ぐぬぬぬぬ……」

『ははははは!』


 僕のうめき声と。

 男の笑い声と。

 ふたつだけが響き、シオンが痺れを切らして左手の銃口をシーゴへと向けた。


 ――その、直後の事だった。



「【その体は、異能の茨に縛られていた】」



 その空間が、一気に別世界へと飲み込まれる。

 あまりに幻想的で、あまりに非現実的。

 思わず僕は目を見開いて。その瞬間には、もう、現実は変わっていた。


『……ッ!? て、てめぇ……この能力!』

「ま、待つんだ……それ以上は看過できない!」


 男の後ろには、一人の少年が立っていた。

 ――妄言使い、成志川。

 エニグマ先生の彼氏で、シオンと六紗、二人を相手してマトモに張り合った怪物。

 僕は思わず目を見開くと、シオンと六紗に両手を引かれた。


「……ん?」

「おいカイ、この空間出るぞ!」


 彼女は咄嗟にそう叫び、僕の手を強く引く。

 だが、それを妄言使いは許さなかった。


「【この空間を出ることは出来なかった】」


 瞬間、この空間から出ようとしていたシオンと六紗が、ピタリと固まった。

 二人は硬直したまま目を見開いており、妄言使いは僕らの方を一瞥する。


「悪いね。僕はこの男の敵だが、君たちの敵でもあるんだ。そこを忘れてもらっては困るよ」

「……ッ! あの男――!」


 六紗が、能力を発動しようと想力を高める。

 妄言使いもまた、その様子に呼応して口を開く。


 ――その直前で、僕は両者へ割り込んだ。


「だが、僕に死んでもらっちゃ困るんだろ?」

「…………」


 僕がそう言うと、妄言使いは無言を貫いた。

 六紗の能力発動を、後ろ手で制す。

 彼女から不機嫌そうなオーラが感じられたが、僕は無視して話し始める。


「安心しろ、エニグマせん……エニグマなら、正統派最強の異能力者が救ってる手筈だ。今頃はもう、そいつの部下は全滅してる」


 なんせ、あのポンタだ。

 有象無象なんて、1分かからず全滅してる。

 間違いなく、なんの狂いなく、寸分なく。

 そこには、エニグマ先生の救出、という事実が残るだろう。

 だから――。


「だからお前は――」


 僕は、1歩踏み出して。

 その瞬間、妄言使いは口を開いた。


「【その地面からは針が出る】」


 僕の右足を、地面から飛び出した針が貫いた。

 弾ける鮮血と、溢れる痛み。

 僕は顔を顰め、妄言使いは続けて言った。



「僕が信頼するのは、世界で唯一、エニグマだけだ」



 僕はその瞬間、交渉の余地がないと理解した。

 その雰囲気に、その即答に。

 なにより、その目に。

 直感的に【普通じゃない】と理解した。


「……君がどうやってその名を知ったのか分からない。もしかしたら本当にエニグマに会ったのかも。でも、その異能力者がエニグマを救えた確証は? 君が抱いている確信を僕に証明する事は出来るかい?」

「…………面倒くせぇ男だな」


 僕は思わず本音を言って。

 妄言使い、成志川は、僕らへ向かって手を向けた。


「そうだね……うん、そうだ。なぁシーゴ。お前は引っ込んでろよ。僕がやる。僕がやれば、殺りすぎる、なんてことは無いだろう?」

『アァ? てめぇ、誰に向かって――』


 シーゴは力に飲まれている。

 以前よりも、数段威圧感の上昇した言葉をはきかけるが――それを、妄言使いは一言で黙らせた。



「【僕が、闘うと言っている】」



 それは、魔法の言葉だった。

 人の思考にさえ介入する、最悪の力。

 その言葉を聞いた瞬間、シーゴは納得したように口を閉ざした。


「……おいおいおい、マジかよ」


 あまりの化物加減に、僕は思わず苦笑する。

 妄言使いは、僕らへと視線を向ける。

 その目にはきっと、僕らの姿は映っていない。


 その目に映るのは、エニグマ先生の幻影だけ。

 男は幻影へと、必死に手を伸ばしているように見えた。


「愛する君に、僕の全てを捧げよう」


 彼の体から想力が吹き上がる。

 それは、どこか悲しそうな色をしていた。

 僕は思わず歯を食いしばり、足を貫く針をへし折る。

 へし折って、さらに前へと足を進めた。


「……わからず屋が。エニグマ先生も趣味が悪い」


 僕はそう呟いて、奴は言った。


「エニグマが救われようと、そうでなかろうと、君たちはここで眠ってもらう。安心してよ、殺しはしない」

「それを、馬鹿にしてるって言うんだよ」


 僕らは、一斉に大地を蹴った。

 僕は右手を強く握り締め、妄言使いは口にする。



「【神狼・異常稼働(フルドライブ)】」

「【言っておくけど、僕は強いよ】」



 真正面から拳が激突し。

 凄まじい衝撃が、周囲へとつきぬけた。



次回【妄言使いの大切なもの】

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