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第二章【秘匿の消えた世界】
216『エニグマ』

「おい男、お前、なんで生きてるぽよ?」


 人質として体育館へと集められて。

 僕は、意外すぎる謎生物と遭遇した。


「……いや、お前こそなんで捕まってんだよ」

「ボクはお昼寝中に攫われたぽよ」


 僕の目の前には、縛り上げられた1匹の謎生物。

 犬と猫とたぬきを足して3で割ったような。

 まぁ、言ってみれば作者の都合で生み出された哀れな謎生物だ。


 彼の名前は、ポンタ。


 異能力者、六紗優が飼っているペットにして、本物(マジモン)の【最強】たる、征服の獣である。

 まぁ、前世がイスカンダル云々に関しては完全にこいつの妄想なんだと思うけど。


「で、なんで捕まってんの? なんで捕まったままでいんの?」

「質問に質問で返すとは、男、さては本物ぽよね? その妙に腹立つ感じが完全に本物ぽよ」

「お前もそのセクハラとしか思えない語尾、さては本物だな」


 というか、本物以外にこんな感じの謎生物がいてたまるか。

 僕は大きく息を吐くと、逆さ吊りのポンタは少し焦ってきた。


「まぁ、それはひとまず置いておくぽよ。おい男、ちょっと助けるぽよ。頭に血が上って大変ぽよ。しぬぽよ」

「そんなことより、お前、どっかで僕ら以外の人質見なかったか?」

「そんなことって何ぽよ! 一大事ぽよ!」


 ポンタが叫ぶため、僕は立ち上がり、膝上くらいの高さにあるポンタを足で押し上げた。


「おい、ちゃんと手でやるぽよ。お前のくつ汚いぽよ」

「うるせぇ、こちとら両手塞がれてるんだよ」


 まぁ、お前と同じで、解こうと思えばいつでも引きちぎれるんだけどさ。

 ポンタは逆さ吊り地獄から開放されたことで、安堵の息を吐く。

 その姿を見た僕は、とりあえず【なぜポンタが捕まったまま大人しくしてるのか】について置いておくことにした。

 そして、もうひとつの気になることを、再度問いかけた。


「で、真面目な話……他の人質、見なかったか?」

「真面目な話ぽよな? 詳しく話すぽよ」


 ふざけている時は何の役にも立たないただのペットだが、真剣な時は本当に頼りになる。

 こいつも、2年前から何も変わらないな。

 僕は苦笑すると、彼に今の事情について語り始めた。


 この学園にテロリスト的な何かが侵入してきたこと。

 侵入者のうち、少なくとも1人はS級だということ。

 妄言使いが、彼らに従っていること。

 その理由があるということ。


 その理由がおそらく、人質だということ。


 そこまで説明すれば、ポンタも察した。


「なるほど。だから、わざと負けて捕まったぽよな? その、妄言使いの人質とやらを解放するために」

「おう、そうすりゃ、少なくともS級が1人減る」


 そうすればこっちのものだ。

 僕単体でも、油断しなければ十分に勝てる。

 問題は、その人質がどこにいるか、ってこと。


「余程大切な人質なら、間違いなく目立たない場所に幽閉してるはず」

「そうぽよな。目立たない場所といえば……」


 僕とポンタは、二人して体育館を目視で調べてゆく。

 器具倉庫? いいや、更衣室かもしれない。

 この状況下で、絶対に生徒たちが行かない場所。

 なかなか「それだ!」という場所が見あたらず、僕とポンタは唸る。

 そして、その声が聞こえてきたのは……その直後の事だった。



「ちょっとちょっとー! いい加減にしてくんない!? 私の事どれだけの人質してたら気が済むわけ! 飽きた! もう飽きたわよ! もーむり、限界! 人質生活に飽きが来たわ! 飽きさせたくないなら、必要最低限の至れり尽くせりしてちょうだいよ! コーラ飲みたい! ゼロカロリーじゃ無いやつね! ゼロカロリーなんて邪道だわ! 自分の気持ちに素直に生きなきゃダメだもの! カロリーを気にしてちゃ人生を謳歌できないわ! 私の彼も太ってるもの! だから、ほら! 早く買ってきて! 大人しく人質して欲しいならコーラとピザと、あと面白いDVD借りてきて! 面白くなかったら騒ぐわよ!」



「……あれでは、ないだろうなぁ」


 体育館のど真ん中。

 大声で騒いでいるのは、金髪の少女だ。

 彼女はギャースカと息の続く限り叫んでおり、それを前にテロリストの集団も困惑してる。

 そりゃそうだよ。人質の態度じゃねぇもん。


 ……というか、あの女の子。

 自分の彼氏、太ってるとか言った?


 えっ、あれっ……えっ?


 太ってる男。

 彼氏。

 大切な女の子。

 人質?


 色々なパーツが頭の中で組み上がったゆく。

 が、組み上がる直前にぶっ壊した。

 ……いや、違うって。

 あの太っちょに、あんな可愛い彼女が出来るわけないじゃない。何かの間違いだよ。

 僕の勘違い。そうに違いない。


「さて、人質はどこかな」


 僕は人質を探す。

 だが、現実は残酷だ。


「いや、現実逃避甚だしいぽよ。絶対にあの女の子ぽよ」

「そ、そんなわけあるか! 僕には中二病しか集まってこないのに、なんで中二病とナルシスト極めてるあんな野郎に彼女が出来てんだ! 理不尽きわまりねぇよ!」

「お前だって、やろうと思えば悪魔王だろうが優ちゃんだろうが落とせるぽよ。ようはやる気の問題ぽよ」


 うるせぇ! そいつらそろいもそろって中二じゃねぇか!

 そういうのはいいから、普通の彼女を頂戴よ!

 悪魔王でも六代目勇者でも隻眼でもない普通の女の子と知り合いたい!


 つーか、なに、この暗黒に染まった青春時代。

 過去の黒歴史が売られていると教えられ?

 そんでもって筋肉の塊に叩き潰されて?

 冥府で出会ったのは隻眼脳筋娘と、ただのおっさん。

 生き返ったと思ったら、今度はテロに巻き込まれて……。


 なんだよ、この青春は!


 というか、これ、青春って呼んでいいものなの!?

 青くないもの、灰色の春だもの!

 返してよ! 僕の青春を返して!

 普通な人たちと、普通に楽しく過ごす予定だった僕の青春を返して!


 そうこう話していると、ふと、金髪少女の声が消えていることに気がついた。

 背後を振り返ると、そこには少女の姿はなく。


「ねぇあんた!」

「うおっ!?」


 目の前から響いた声に、思わずその場を飛び退いた。

 僕の足の支えを失ったポンタは、再び逆さ吊り状態に。

 ポンタから悲鳴が響くが、無視。

 僕は、目の前に立っている少女へと視線を向けた。


「あ、あんたは……」

「ちょっと! 今、成志川のこと言ってたでしょ! もしかして知り合いかしら!」

「な、なるしがわ……?」


 誰のことだ、それ。

 と、問いかけることは出来なかった。

 名は体を表す。

 あの妄言野郎に相応しい名前だったから。


 僕はゴクリと喉を鳴らして。

 目の前の少女は、華のように笑った。



「私の彼氏が世話になってるわね! 私はエニグマ! 夢は大きく、死ぬまでに世界征服することよ!」



 また、厄介なキャラが出てきやがった。

 僕は、直感的に理解した。




 ☆☆☆




「とりあえず、アンタ。自分に自信持ちなさい」


 数分後。

 金髪の少女、エニグマは僕の恋愛相談に乗っていた。

 いや、相談なんて一言もしてなかったはずなんだけど……。


「いいこと? アンタは特に不細工でもないし、不潔が目立つわけでもない。少なくとも、あからさまな減点ポイントは無いの。なら、あとはどれだけ自分から攻められるか! そのアクマ王? 六代目ユウシャ? よくわかんないけれど、攻めて攻めて、押し倒しなさい!」

「い、いや……でもなぁ」


 タイプじゃないんですぅ、あいつら。

 僕のタイプは、中二病に見えない女子なんです。

 その点、あいつら、僕の目には中二病にしか映らないのよ。

 もう、その時点で無理。

 少なくとも、こんな学校に通ってる系の女子は全員無理だ。

 吐き気がする。


「……なに、アンタ。その二人になんか不満でもあるわけ?」

「優ちゃんのどこに不満があるぽよか! 毎晩毎晩豊胸の本を読みふけって、試してみても何の変化も訪れない! この二年間で胸が大きくなったどころか、あれっ、もしかして小さくなってない? なんて疑念が脳裏をよぎる優ちゃんぽよ! 文句があるなら言ってみるぽよ!」

「お前大丈夫か、ぶっ殺されるぞ」


 この場に六紗がいなかったこと、幸運に思うんだな。

 そう考えていると、エニグマ少女は逆さ吊り状態のポンタへとパンチを繰り出す。顔面に拳を受けたポンタは悲鳴を上げてブランブランと吊られている。

 ……きっと、コイツ相手に動物保護うんたらかんたらと文句を言う輩はいないだろう。なんせ、前世イスカンダルらしいしな。


「まぁ、この喋る謎生物は置いておくにしても……あんた、本気で彼女作るつもりある? それなら、私が知り合いに聞いてみるけど」

「ほっ、本当か! エニグマ少女! いや、先生!」

「先生! とても良き響きね! 今後は私のことはそう呼びなさい!」


 その呼ばれ方に何か感じ入るものがあったのだろう。

 エニグマ先生は、胸を張ってそう言った。

 しかし、そんな彼女の言葉に……というか、僕らの会話に、侵入者のひとりが割り込んできた。


「あのぉ……一応、人質ですよね? ちょっと静かにしていただけないかと」

「あ? なによ、今大事な話をしてる途中なの、聞いていて分からない!? この子の一生に一度しかない最初の彼女、それを誰にするか話してんのよ! ひとの人生掛かってんの! 黙ってなさいボケナス!」


 エニグマ先生ェェ……!

 アンタ、いい人だな!

 人質の態度としてはイカレてると思うけど!

 僕が感動に打ち震えていると……ふと、体育館の外から騒ぎが聞こえてきた。


「……ん」


 聞こえてきたのは、銃弾の音。

 しかも、信じられないくらいの連射音。

 ガトリング砲かなにか、って言わんばかりの音だった。


「……? 何かしら、今の音。あ、それよりアンタ。カイっていったっけ? その二人のほかに仲のいい女の子とかいないの? 狙うなら、気の合う女の子を狙ったほうがいいわよ! すぐ落ちるんだから!」


 すぐ落ちる……か。

 そうだな。アイスおごったらそれだけで落ちそうな奴なら知ってるよ。

 俗に、チョロイン、って呼ばれる奴だ。


 僕は苦笑すると、体育館の外から声が聞こえてきた。


「おいカァァァァイ! 聞こえてんなら返事しやがれェ!」


 それは、あまりにも聞き覚えのある声だった。

 僕は思わず、苦笑して。

 困惑顔のエニグマ先生へと、こう言った。



「いや、そいつとは100%ありえないっすね」



 体育館の外から、爆発音がした。



ポンタとの再会。

そして、エニグマとの出会い。

果たしてカイは、普通の彼女と巡り合えるのか!


選択肢A)阿久津さん、僕って……年上好きなんです。

選択肢B)久しぶり六紗、付き合おう。

選択肢C)おいシオン、アイスおごってやるよ。

選択肢D)合コンに行く。

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