挿絵表示切替ボタン

配色








行間

文字サイズ

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
31/170
第一章【エンドロールの向こう側】
116『再臨』

 私は……なんだ?

 一体私は、何者だ?

 ここはどこだ、なぜ私はここに居る。


 ……目の前で、私を殺そうとするこの男は、なんだ?


 疑問だけが溢れ出す中。

 私の中に、ひとつの正解が浮かび上がった。



『あぁ、こいつは敵だ』



 何も分からない。

 それでも、それだけで十分だった。




 ☆☆☆




 腕が、渾身の一撃が。

 冥府の王イミガンダの頭蓋を砕く。


 ――その、直前の事だった。


「――ッ!?」


 それは、今までに感じたことの無い『嫌な感覚』だった。

 ……いいや、違う。刹那に思い出した。

 この感覚は、初めてじゃない。

 ――死ぬかもしれない。

 そう感じたのは、これで3度目。

 されど、ここまで強い死期を感じたのは――死んでからは初めてだ。



「霧矢ッ! 伏せろ!」



 僕が叫んだ、その直後。

 凄まじい衝撃が溢れ出し、眼前にいた僕は大きく吹き飛ばされる。

 ゴロゴロと十数メートル転がって……ピタリと、風圧が止んだ。

 顔をあげれば、僕の前には杖を掲げた霧矢ハチの姿がある。


 その杖の先からは、見たことも無い障壁が貼られている。

 なんか、その、めちゃくちゃ強そうなバリアだった。


「お、お前! まだ力隠してやがったな!」

「嘘は言ってないさ。僕は『自称』一般人。その自称をどう捉えるかは……その人次第、ってことさ!」

「てめぇ……現世に戻ったら覚えとけよ!」


 この一年半、どんだけ死に物狂いで頑張ってきたことか……!

 僕は歯を食いしばりながら立ち上がる。

 次の瞬間には、僕も霧矢も前を向いていた。


「……見覚えは?」

「目が腐るほど。ここに来る直前に見てた光景だ」


 僕らの視線の先には――巨大な化け物が立っていた。



 赤黒い肉体に、3mを超える巨躯。


 妄言使いの使っていたオーガとは、また別種。


 どころか、あの化け物が赤子に見えるほどの、恐怖。


 その光景に、僕は乾いた笑みしか出てこなかった。



「……なんで、イミガンダが()()()()になるんだよ」


【GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】



 空気を震わすような鋭い叫び。

 それを前に歯を食いしばった次の瞬間、奴は地面を踏みしめていた。


「霧矢ッ!」


 僕は彼の襟首を掴んでその場を逃げると、直後にバリアが砕かれた。

 霧矢のあのバリアをガラスのように……!

 僕は霧矢をとりあえず遠くの方へとぶん投げると、狼の両腕を構えて暴走列車(イミガンダ)を見据える。

 赤黒い肉体。

 マグマのように胎動する血液。

 胸に浮かんだ【肆】の黒歴史!


 間違いねぇ、この心の痛さ……あの本、本物だよ!


「何がどうなって……」

「か、解くん! これ……イミガンダの、2年前の異能だよ! 当時の彼の『鍵』は【殺意】という概念そのもの! そりゃ、あれだけボロくそやられたら……その力が戻ってもおかしくない!」

「……はぁ!?」


 2年前の異能?

 ……あ、あぁー。

 そういや、深淵剣デスパイアを手にした喜びから、今まで使ってた異能を捨てたとか言ってたよね。なんなのその無駄な設定、とか思ってたけどここで生きてくるのね……。


「で、なんで暴走列車? あいつそんなに有名なの?」

「いや……まぁ、有名っちゃ有名なのかもしれないけど」


 かくして、霧矢はその異能の名を告げる。



「【死慌再臨(ヴァルプルギス)】」



 で、でたー! ヴァルプルギス!

 中二病が、何となく名前の響きだけで好きな単語!

 いつ出てくるかと思ったら……ここで来たかよ!

 さすがは深淵剣デスパイアに出会う前のイミガンダ。お前は僕が出会ってきた中でも最強の中二病だよ。反吐が出ちまうぜ。


「で、どんな能力?」

「相手の1番『強かった』と考える相手に化ける」

「クソだなその力!」


 僕は叫ぶと、同時にイミガンダは動き出す。

 その速度は……記憶の中の『暴走列車』と同格だ。

 いいや、僕の記憶をベースにしているのなら()()()()()()()()と言った方がいいのかもしれない。


 僕は歯噛みすると、奴の拳をガードしようと動き出す。

 この一年半、磨き続けた『防御』の技術。

 攻撃を受けることで相手の想力を削る技能を生かすため、どんな時、どんな瞬間、どんな格上に対してでも()()()()()()()()()()()()技術をみにつけてきた。


 だから、大丈夫だ!


 僕は内心叫んで――ドクリと、心臓が強く鼓動した。

 一瞬にして、目の前の光景がスローになる。

 何故、どうして?

 まるでこれは――()()()じゃないか。


 視線の先で、暴走列車は大地を蹴って。

 気がついた時には、既に目の前へと迫っていた。


「――ッ!?」

「解くん!?」


 霧矢の声が聞こえて、ハッとして。

 僕は、大きく距離をとって回避していた。


「……っ!? な、なんで――」


 なんで僕は、防御しなかった?

 僕は自問自答する。

 その答えは、自分の中から返ってきた。



『お前さ、なんで防御の技術なんて磨いたんだ?』



 自分の中の、何かが囁く。

 僕はイミガンダの拳を躱す。

 触れることが恐ろしいと言わんばかりに。

 僕の体は、僕の思考を無視して逃げ惑う。


「ひぃ……ッ」


 自分の口から出た言葉が、信じられなかった。

 そして、今にして思い出す。

 その悲鳴が思い出させてくれた。


 最重要にして原点たる、その事実を。



 ――あぁ、そういや僕、一般人だったんだっけ。



 冥府で暮らしていく内、忘れていた。

 なんでこんなことを忘れていたんだ。

 1番大切なことだろう。

 なんで、僕はそんなことを忘れてたんだろう?


「解くん! 君は大丈夫! 強いんだから! 偽物に負けるほど弱くない!」


 霧矢の声が、逆の耳へと抜けていくのがわかった。

 頭が意味を理解できない。

 恐ろしくて、それどころじゃないのだから。



『お前さ……アイツに殺されたんだよ』



 声が聞こえる。

 誰の声だ?


 そんなのハッキリしてる。



 ――自分の声だ。



 恐怖に目をキツく縛れば、目の前に立っている。

 仮装みたいな黒々しい格好をして、こちらを見据える1人の少年。


 それは、中学二年生の、僕だった。




 ☆☆☆




 どこまでも真っ黒い、何も無い世界。

 僕に相対するように佇む中学二年生の自分自身。

 それを見て、僕は思った。


 ――ついに出やがったなラスボスめ、とな!


 最初にテメェの存在に気がついたのは黒狼技能の時だ。

 僕が泡沫技能取ろうとしてたのに、横から黒狼技能なんて取りやがって! おかげで助かってますが何となく癪なので感謝はしない!


「よし」


 僕はとりあえず腕を狼にすると、中二病時代の僕(間違いなくラスボス)野郎は呆れたように首を竦めた。うっわ腹立つぅー!


「やれやれ全く……無駄だと言うのもわからんのぶごっ」

「とりあえず、その『やれやれ全く』をやめろイカレサイコ」


 僕は奴の顔面を消し飛ばす。

 その体は力を失って倒れていく。


 だけど……まぁ、お約束だよね。


 精神世界で殺しても、当然のように背後から出てくるんだよね。

 そして死体を振り返ったら消えてるんだよね。


 もう分かった、難しい問答は止めよう。

 話があるんだろ? もう中二発言はよせ。

 話が終わる前に僕の心が終わるぞ。


 僕はため息混じりに背後を振り返る。


 そこには、当然のように……中二病の姿が、()()()()



「……んっ?」



 あれっ、アイツ……どこいった?

 僕は周囲を見渡してみる。


 けど、居ない。全然いない。


 振り返る。



 死体が残ってた。



 僕は全てを察して、絶叫した。



中二病(ラスボス)ッ、普通に死んでるじゃねぇかァッ!」



 なにしてんのこいつ!

 なんで精神世界で死ねるわけ!?

 どーいう神経してんだよ!


【初めまして……ではないな。普段ぶりだな、我が半身よ。さて、早速だが……ラスボスはこの私だ】


 みたいなラストだと、少なくとも僕は思ってたよ!

 何死んでくれてんの!? いや死んでくれて助かるけども!

 お前以外のラスボスなんて考えたこともなかったよ!


「が、げほっ、……もう、片方の、私よ」

「……! 中二病の僕……っ!」


 僕は、首無し死体から聞こえた声に、思わず駆け寄り膝を着く。

 だけど、なんか死体が思ってたよりリアルだったので身を引いた。

 なんか動き出してた手が、僕に届かず地に落ちる。


「くっ、我が……運命も、ここまで、か」

「いやお前の運命は中学三年生の春に終わったよ」


 覚えてる?

 ドキドキしながら通常の制服に身を包んで登校したときの「えっ、誰あの転校生」という女子のささやき声。

 それを受けての「いや、灰村だって。よく見なよ、なんかフツーになったみたいだけど鞄ストラップ十字架だもん」という返し。

 それを聞いて周囲から巻き起こる失笑。


「あの場でストラップをちぎり捨てたのを忘れたか!」

「いやそれは覚えてる。あれは悲しかった」


 だよなぁ!

 覚えてなきゃおかしいよ!

 今も僕の心に言葉の傷跡が残ってるもの!

 僕ってば鞄の十字架ストラップだけで判別されてたわけ!?

 悲しい、僕はとっても悲しかったよ!


 ……って、そうじゃないだろ、僕、しっかりしろ!


「つーかお前! お前が死んだらこの後どうなるの! どうやってこの空間から抜け出せばいいわけ!? 僕をそこいらの主人公と同じにしないでよ! 絶対に取り残される自信があるわ!」

「それは同感」


 うるせぇ! さっさと脱出法を教えろって言ってんの!

 今アレだよ、暴走列車と戦ってんのよ!

 お前と無駄話してる余裕は無いって言ってんの!


 僕は叫ぶと、死にかけの中二病は僕へと手を伸ばした。


 ので、蹴り捨てた。


「意味ありそうで絶対に意味の無い【死ぬ間際のキャラは絶対に何かに向かって手を伸ばす】ポーズしてんじゃねぇ。ぶっ飛ばすぞ」

「くっ、やはり我が天敵は……自分自身、か」


 そう言って、中二病はがくりとその場で力を失う。


 …………えっ、嘘でしょ?


 嘘だと言ってよ、ねぇ。

 え、マジで?

 本当に死んだの?

 あの流れで? 本当に?


「お、おいいいい! 生き返れ! 生き返ってよお願いします! 何でもします! シオンみたいに冥府の御魂を上げられるほどお前に好意はないけれど! というか嫌悪感しかないけれど! けど生き返ってよお願い!」


 イミガンダに『殺すのはお前が最初で最後』って言っちゃったじゃん!

 どーしてくれんの!

 最初で最後の殺害、お前に使っちゃったよ!

 アイツのこと殺せなくなっちゃったよ!


「ほんと、なんのために出てきたんだよ……」


 僕は呟くと……ふと、後方から光が差した。

 眩い光に目を細め、背後を振り返る。


「……なんだ、あれ?」


 その光の先に待つのは、一体何なのか。


 僕は、無我夢中で、その光へと手を伸ばし――。



 そして、懐かしい声が聞こえてきた――!




 ☆☆☆




【GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】



 目の前で叫びをあげるのは、暴走列車。

 とっても懐かしい鳴き声だった。

 大きく振り上げられた拳。


 ――とりあえず、そこが現実であると理解した。


 理解した瞬間、怒りが込み上げてきた。



「ふっ、普通に戻れるんじゃねぇかぁぁぁァ!!」



 瞬間的な怒りに、体が突き動かされた。

 逃げる姿勢から、戦う姿勢へ。

 全身から、血のオーラが溢れ出す。


 ――活性【異常稼働(フルドライブ)】。


 加えて狼王の身体強化。

 僕は右手を振りかぶり、全身全霊、ただの拳で自分の死因を迎え撃つ!


 凄まじい衝撃が、身体中に突きぬける。

 生まれて初めて感じる威力に骨の髄から震える。

 だけど、耐えられた。

 僕の拳は砕けたけれど。



 ()()()()()()()()()()()()



「……は、はハッ!」


 僕は、気がついたら笑っていた。


 ……なるほどなぁ、中二病の僕。


 お前がなんのために登場したのかは分からない。

 完全に無駄だったと思う。

 お前の登場シーン全部読み飛ばしても全然アリ。

 そう思う。


 けれどな、礼を言うぜ。

 これが、最初で最後の感謝だ。


「……咄嗟の怒りで、色々と吹っ切れた」


 お前はよくやった。

 よくもまぁ、僕をイラつかせてくれた。

 ありがとう。お前が僕を怒らせてくれたおかげで……暴走列車から逃げなくても『戦える』ってことに気がつけた。


 僕は、ヤツへと向けて拳を向ける。


 1度は届かず、砕けた拳を。

 消し飛ばされた心の臓を高鳴らせ、大きく笑う。


 既に、心の内から恐怖は消えていた。

 怖がらせようとする中二病は、いまさっきぶっ殺してきたからな。



「死から生き返るには、死の原因を克服しろ……ってか」



 僕は拳を構える。

 勝てるのか? 僕が、あの時の暴走列車に。

 いいや、違う、試すんだ。


 そして、超えるんだよ。


 おい、灰村解。

 暴走列車は、まだ生きてるぞ。

 2年間、僕の居ない現実世界を生きている。

 目の前の旧型より、ずっとずっと、強くなってる。


 そんな奴に、勝つために現世へ戻るんだろ?



 ――なら、超えて見せろ。



 ジリジリと緊張感が肺を焼く。

 唇が乾き、喉の奥が熱くなる。

 それでも僕は、無理やりにでも笑うのだ。


 それが、元一般人が思いつく限りの、最大限の強がりだから。


 ……悪いなシオン。

 1年半ぶりに、私情を表に出させてもらう。



「始めようか、こっから先は、僕の復讐だ」



 自分を殺した相手を、倒すこと。

 きっとそれが、僕が生き返るために必要なんだ。


 少なくとも、僕の心情としては……確実に。

次回【超えろ】

ブックマーク機能を使うには ログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
感想を書く
感想フォームを閉じる
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項についてはこちらの記事をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。

⇒感想一覧を見る

名前:



▼良い点

▼気になる点

▼一言
X(旧Twitter)・LINEで送る

LINEで送る

+注意+

・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ