「おいカイ! 元気か! 元気無かったら言えよ! なんか食べ物取ってきてやるからな! 親分であるオレがな!」
シオン・ライアーが、仲間になった。
いや、正しくないな。
シオン・ライアーの、仲間になった。
僕と霧矢の二人が、だ。
「いや、まぁ……うん、元気だから大丈夫だよ」
「そうか! それはいいことだな!」
シオンは、そう言ってニコニコ笑っている。
――彼女との戦いが終わって、あの後。
活性の力で傷を癒した僕は、シオン、霧矢のふたりと一緒に上の階層【中層】へと上がっていた。
中層は、低層と同じようなエリアだった。
違うのは、周囲に浮かぶ青い炎が紫色に変わったこと。
霧矢が言うには、上層に近づくにつれて赤くなっていくのだとか。
というか、なぜお前がそれを知っている。
「シオンちゃん! 俺にはなんかないのー?」
「ねぇ! お前は胡散くせぇから嫌いだ!」
「解くんといい酷すぎるよ、俺に対する扱いが!」
シオンと霧矢が話してる。
その光景を眺めていると、シオンが肩を組んでくる。
「とーぜん! コイツはオレの子分だからな! なぁカイ!」
「そうだねー」
生返事を返しながら、僕は肩を組んでくるシオンから顔を遠ざけた。
何故って?
近いから? なんか柔らかくて恥ずかしいから?
断じて違う!
コイツ……臭ッッせぇ!
え、なにこの悪臭!
僕は思わず鼻をつまむと、それを見たシオンは何故か胸を張った!
「臭ぇよな! オレ、1ヶ月くらい体洗ってねぇもん!」
「風呂入れお前!」
胸を張って言えることじゃありません!
女の子なんだからもう少し気にしなさい!
「なんだよー、細けぇこと気にすんなって。それでもキン○マついてんのか?」
「女の子がそんな言葉使っちゃいけません! おい霧矢!」
僕は霧矢へと視線を向ける。
「おいおい解くん。僕を便利屋か何かと勘違いしてないかい?」
「あ? 置いてくぞお前」
「あっ、お風呂の場所ですね?」
マジな目で睨むと、霧矢は手のひらを返した。
真正面へと向き直ると、ニヤニヤ笑っているシオン。
僕は彼女の肩へと手を乗せた。
「とりあえず、シオン。風呂入れ」
「おう! 一緒に入るか!」
冥府攻略パーティの、3人目。
アホの子、シオン・ライアー。
……これまた、厄介な仲間が出来たみたいだ。
色んな意味で、な。
☆☆☆
中層を歩いて気がついたのは、低層との変化だった。
炎の色だけかと思っていた相違点は、早合点だったみたいだな。
まず第一に、歩いていて……自然がチラチラと見て取れる。
通路がメインだった低層とは異なり、所々に大きな空間のようなものがある。その中は砂漠だったり森だったりするわけで……今回、僕らは森の中へとやってきていた。
「なはははは! おもしれー! おいカイ! 一緒に遊ぼーぜ!」
「お前は体を洗え」
僕は背後から聞こえてくるジャバジャバとした水の音に顔を顰めた。
今僕は、木の幹に体を預けて座っている。
背後の湖では……たぶん、シオンが遊んでいるんだろうなぁ。
ほんと、ヤンチャな子供を拾った気分です。
僕は大きく息を吐くと……ふと、近くに座って欠伸している霧矢が見えた。
「……ん? なに、もしかして俺、覗きするタイプだと思われてる?」
「あるいは、年の差がありすぎて興味が無いタイプ、だと思ってたんだけど、後者だったみたいだな」
少なくとも、気になるけど我慢する、ってタイプじゃないわな。
もしも興味があるから「ねぇねぇ、カイくん、一緒に見ない? この世の楽園って奴をさ!」くらい誘われていると思う。
それがないって時点で……まぁ、興味無いんだろう。
無論、僕もない。
必要最低限、中二じみた格好を辞めて出直して欲しい。
中二の格好してる時点でストライクゾーンのはるか遠方に行ってんだよ。
……あぁ、ホント、学校が懐かしい。
普通の制服着てる普通の同級生が大好きです。
「あ、そういえば解くん」
ふと、思考の中に霧矢の声が入ってきた。
僕は彼へと視線を向けると、彼は言った。
「多分彼女、君と同じ……暴走列車? ってのに殺されてるね」
「……やっぱりな」
僕は、自分でも驚くくらいあっさりと納得していた。
だが、その納得は……シオンに対してでは無い。
「――お前、【異能】が使えるな?」
霧矢ハチ。お前に対しての納得だ。
僕は彼を見据えると、さすがに誤魔化せなくなったか、霧矢は両手を上げて降参の意を示す。
「ま、否定はしないさ。僕はね、間違っても戦闘型じゃない。言ってみれば情報収集専門の異能力者。色んなことを調べられる」
「……だろうな。でなきゃ僕の名前を知ってるわけが無い」
それに、シオンを殺した相手についても、だ。
まぁ、どこまで知れるのかは分からないけれど……それでも、かなり詳しいところまで調べることができるんだろう。
冥府についても、多分同様。
「どうやら、彼女は……君のよく知る【ディュゥェアルノォーゥト】。それの保持者だったみたいだね。だからこそ、それを奪うために暴走列車に襲われた。奪われた本は【第肆巻】」
「……あの時の」
僕が殺された時。
暴走列車の体に埋まっていたのが、第肆巻だった。
つまり、あの本は元々シオンの持っていたもので。
暴走列車が、彼女を殺して奪い取った……と。
霧矢の言っていることが正しいのであれば、そういうことなんだろう。
僕が1人納得していると……霧矢は、聞き捨てならないことを言った。
「にしても、難儀な本だよねー。半ば反則みたいな願望器。アニメとか漫画の世界か、っつーの。ねぇ、解くん?」
「確かにそのと…………今なんて言った?」
が、願望器?
アニメとか漫画の世界?
こ、こいつ……なんのことを言っている?
「あれっ、ご存知ない? あ、じゃあ、なんで10人の異能力者が殺しあってるのかも、裏で異能大戦やろうぜ的な動きがあるのかも、その理由を知らないってこと?」
「おいちょっと待て」
殺し合い?
異能大戦?
なんじゃそりゃあ。
阿久津さん、そんなこと言ってなかったよ?
え、なにそれ、僕の知らないところでディュゥェアルノォーゥトはどんな厄介事を引き起こしているというの? 気が気でないよ。
「はっはー……まさか、何も知らないで殺されたのかい? これは可哀想……。まぁ、多分あのシオンちゃんって子も知らないだろうけど。とりあえず説明しておくね?」
霧矢はそう言って笑った。
満面の笑みで、馬鹿みたいなことを言い出した。
「あの本を10冊揃えるとね、なんでも願いが叶うんだ」
「馬鹿じゃねぇの?」
僕は思わず本音を言った。
本音も本音、限りなく深い心の声だった。
「いや、その馬鹿な事が
「……おい霧矢。冗談ならぶん殴るぞ」
僕は拳を固めて見せるが、彼は首を横に振る。
「言っているだろう。マジだよ。あの本を10冊集めると、正真正銘、なんでも願いが叶う願望器と化す。……正確に言えば、それ相応なだけの想力が集まることになる」
霧矢は語る。
あの本の、客観的な真実について。
「あの本は……俺も詳しいことは知らないんだけどね。おそらく、膨大な想力の持ち主が、心血を注いで、尋常じゃないほどの熱量を注いで、文字通り命をかけて作り上げたもの。故に、その本には理解不能なまでの想力が宿っている。言わば、1冊1冊が妄想力の塊だ」
その説明を聞いて死にそうになった。
間違いねぇ、コイツ、僕を恥ずか死にさせるつもりだ……!
「あの1冊1冊が、俺ら尋常な異能力者からすれば驚異極まるアーティファクト。たったの1ページだって手に余すかもしれない。それを……10冊集めたらどうなるか?」
「…………」
きっと、僕が死ぬことになると思う。
目の前には、考察を述べる霧矢。
対する僕は、胸を押さえて瀕死状態。
……ほんと、毎日のように思う。
なんとか、過去を無かったことにできないものかと。
過去は変えられないと知ってはいるし、そんな奇跡も無いと知っている。
それでもなお、願わずにはいられない。
それが黒歴史というものだ。
僕が青い顔をして震える中。
僕を見た霧矢は、苦笑しながらこう言った。
「そんなもの、【できないことは無い】に決まってる」
「……ッ!」
彼の話を聞いて、僕は思わず顔を上げる。
できないことは……ない。
膨大な想力を誇る、願望器?
もしも、の可能性に喉を鳴らす。
僕を見下ろし、霧矢は笑っていた。
「その願望器は、きっと奇跡すら可能にするよ」
霧矢は語る。
「世界の常識だって変えられる。
異世界にだってジャンプできる。
未来にだっていけるだろう。
ハーレムなんて朝飯前さ。
才能が欲しい? 宇宙最強の力をくれるよ。
嫌いな奴をぶっ倒したいなら、存在ごと消せるだろう。
記憶にも残らないよ? 最高だね。
物語の主人公になりたいなら、世界を作ってしまえばいい。
神様にだって、きっとなれるさ。
純粋な力を求めるのもイイね。
きっと、今まで存在したチートの全てが雑魚に思える。
そんな、俺たちの想像が及ばないイカレ能力が手に入る。
それに、なにより――」
そこまで一息に言い放ち。
知る異能を持つ男は、僕の肩へと手を乗せた。
「――過去。黒歴史だって、無かったことにできる」
「……お、お前……!」
「なーに、俺はなんでも知ってるのさ。黒歴史ノート、あれの真相もね」
僕しか知らない、ディュゥェアルノォーゥトのもう1つの呼び方。
――黒歴史ノート。
その言葉を、霧矢は言った。
それが、なにより『知っている』ことの証明でもあった。
「ほ、本当に……黒歴史を」
「……あまり、勧められるものでは無いんだけどね」
どこか遠い目をした霧矢は、それでも言った。
いつかと全く、同じセリフを。
「俺はね、嘘をつかないことで有名なんだ」
それを嘘だと、1度は断じた。
だけど、目の前に希望って名の【ニンジン】をぶら下げられて。
僕は、駆け出さずにはいられなかった。
「……嘘だったら、殺す」
「いいよ」
即答だった。
僕は気づけば、笑っていた。
――黒歴史を、なかったことに出来るかもしれない。
過去改変の権利。
そんな、クソみたいなチート。ズル、反則行為。
ナシだと思ってた。
いくら異能でも、無理だと思った。
けど、その可能性が残っていた。
過去を消す為に、過去の力にすがりつく。
そのこと自体に、もはや忌避感はない。
黒歴史ノートを奪い返すために、その黒歴史の力を借りている今と、何ら変わりないと思うから。
僕の最優先は……今も昔も、何も変わっちゃいない。
「……燃やすのは、後にする。やるなら、全部無かったことにした、その後だ」
僕の中で、なにか、大きな【歯車】が噛み合った気がした。
僕は拳を握って、霧矢は寂しそうに笑った。
「10冊全て、僕が集めて、願望器は僕が手に入れる」
そして、僕の黒歴史を無かったことにする。
僕の黒歴史を、文字通りに【燃やし尽くす】。
無かったことになるまで、焼却する。
「今日からそれが、僕の目標だ」
まぁ、やるべきことは変わらない。
――全員ぶっ倒して、黒歴史ノートを10冊全て回収する。
僕は笑って、拳を握る。
ただ、燃やすのが禁書じゃなく、過去に変わったと言うだけの話だ。
霧矢ハチ。
当初、彼を『僕』一人称で考えていた手前、よく「俺」と「僕」が混ざっている気がします……。
もしも見つけたら教えてください。
作者からのおねがいでした。
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