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さあ、今日も元気に行ってみよう!


プロローグ最終話、【それは、抗い難い終焉】。

第零章【11冊目の黒歴史】
014『それは、抗い難い終焉』

 ――禁書劫略。

 それは理を奪う力。

 強力極まりないが、その実、強力無比な【個の力】と共に用いることでのみ、その本領を発揮することが出来る。単体では、さほど強くもない力だ。


 ……まぁ、解然の闇は、その存在そのものが絶対的な個であったため、なんの問題もなくその力を使えたが、僕は違う。


 僕は弱くて、ありふれている。

 たぶん、世界中の一般人ランキングやったら上位には入賞できる。

 そんな予感がしてしまう程の一般人だ。


 ただ、そんな僕の、他人とは違うところが三つある。


 ひとつ、元・常軌を逸した中二病であること。

 ひとつ、訳あって異能バトルに参加してること。


 ひとつ、僕の仲間は、チートしか居ないということ。



「【帰還】」



 僕は言葉を呟いて。

 次の瞬間、僕らは元の世界へと戻ってきた。


 食料も水もなく、深淵に居られたのは2~3時間程度。

 生憎と、一番の問題になる『鍵の発見』は済んでいた。

 だから、比較的簡単に異能習得には至ったが、まだまだ荒削り。

 正直どれだけ役に立つかも不明瞭だ。


 だけど、勝機は見えた。

 逃げるが勝ちで、正解だった。

 少なくとも、そう思える程度には勝算が出てきたよ。


【GOA、GOOOOOOOOOOOO……!】


 聞きたくもないような、肉がへしゃげる音がする。

 視線を向ければ、ちょうどポンタから受けた傷を治癒してゆく化け物……暫定的に【暴走列車】とでも呼称しようか。

 赤黒い肉体からは、多量の蒸気が吹き出している。

 その体には、どれだけの熱が篭っているのか。

 そう考えると、赤黒い肉体がマグマのようにさえ思えてくる。


「うわぁ、回復してるぽよぉ……」

「これに、勝つのよね……」


 ポンタと六紗がそんな呟きを漏らす。

 そんなふたりを前に、僕は大きく深呼吸した。

 ……さぁ、早速出番だぞ、僕。

 ポンタはある程度回復したと言っても、全盛には程遠い。

 変身できたとしても1分が限界だそうだ。

 ならば、今、この瞬間。

 ポンタからダメージが残っている、この状況下で【使う】べき。


 僕は右手を前に構える。

 左手の零巻が黒く輝く中……僕は、先程の説明を思い出していた。




『何度も言うように、異能とは妄想の力だ』


 異能習得に入るにあたり。

 阿久津さんは、再びそう言った。


『正直なところ、異能というのは、生まれついた総力量、用いる鍵の性能によって全て決まると言っても過言でない。私は前代の悪魔王よりこの仮面を受け継いだ。私は、この仮面のおかげでSランクという高みに立っているに過ぎん』

『……そう、なのか?』


 それだけとは到底思えないけど……まぁ、今、それについて深く聞くつもりは無い。

 彼女自身がそういうのなら、そういうことにしておこう。


『だからこそ、御仁。イメージしろ。貴殿は想力に恵まれ、鍵にも恵まれた。ならばあとは、どれだけ具体的に、その異能を……その異能が起こす現象を思い浮かべることが出来るかにかかっている』


 彼女は、僕の目を覗き込んだ。


『妄想は力で、想像は創造の原動力だ。何事も、楽しく美しくカッコよく。それが、異能使いとしての我らの信条だよ、御仁』


 その言葉に、僕は苦笑する。

 それは他でもない……中学二年生の僕と、同じ考え方だったから。

 彼女は僕の苦笑を察したか、お茶目にウィンクしてみせた。


『なぁに、嘘ではない。本当のことさ』

「…………」


 またも無言で返す僕へ。

 阿久津さんは、こう言ったのだった。



『カッコ良さは、強さで正義だ。それは万国共通、変わらんだろう?』




 ☆☆☆




 イメージしろ、僕の思い描く最高を!

 何度も何度も夢に見た、最強の力を!

 中学二年の1年間、練りに練りまくった設定を思い出せ!


 練習じゃ……うまくやっても成功率4割程度。

 しかも、今回の相手は僕らの誰よりも強い暴走列車。

 きっと、もっと成功率は落ちるだろう。


 ……それでも、やらなきゃいけない理由がある。

 命惜しさ? そんなもんは抱いちゃいない。

 僕が最初から見据えているのは――奴の懐に在る一冊の本だ。


 先ほどは、超展開すぎて、落ち着いて確認すること敵わなかった。

 だけど今、その本がはっきり見えた。


 ヤツの肉体に、半ば飲み込まれるように一冊の本が埋まっている。

 その表紙には大きく【(よん)】の文字が記されている。

 ――ディュゥェアルノォーゥト、第肆巻。

 僕らに対して襲撃してきた時点で、もう察してはいたけれど。

 この男――フリマで黒歴史ノートを買った10人の内の、1人だ!


【GOOOOOOOOOOOOOOO!】


 暴走列車が、思考を塗り潰さんと叫び声をあげる。

 落ち着け……、前を見ろ、自信をもって力を制せ。

 僕はできる。なんせ、僕は作者だからだ。

 これは、僕の力だ。

 僕が考え、設定し、生み出した力。

 なら、使えて当たり前の力だろう?


『自分を信じろ。確固たる自信、思い込みが異能を強くする』


 そうさ、ポンタに出来て、僕に出来ないことはない。

 かつて、妄想の中に作り上げた最強の力、その一端。

 それを、(げんじつ)の中で再現して見せろ!

 僕は前を見据えて。

 ()()()()()()、異能を用いる。



「【劫略(きょうりゃく)】」



 僕の手首に、漆黒の円環が浮かぶ。

 表面には、無数の文字が記されている。

 一文字たりともこの世に存在しない、空想の言語。

 それは、見るものすべてを狂わせるような、狂気の言葉。


【――ッ!?】


 円環は、やがて解けた。

 円から線へと変わった漆黒は、暴走列車の体へとまとわりついく。

 有無を言わさず飛来した漆黒に、暴走列車は目を見開く。


 そして――ドクンっ、と、その体が大きく震えた。


 固唾をのんで、見守る三人。

 背後に彼女らの視線を感じながら――僕は、笑った。


 僕は、右の手の甲へと視線を下ろす。

 そこには【活】と、文字が刻まれていて、暴走列車の回復が止まった。

 奴は限界まで目を見開いて僕を見て。

 僕は、嘲け笑うように、頬を吊り上げた。

 それは、暴走列車に向けた嘲笑か。


 ――否、僕自身に対しての嘲笑だった。


「これで、もう後戻りはできないな」


 暴走列車は、ここに来て初めて、僕を明確な敵として判別した。

 瞬間的に、凄まじい殺気が体中を突き抜ける。

 あまりの圧に怯みそうになるが……恐怖を捩じ伏せ前を向く。

 もう、お前は一方的な強者じゃないぞ、暴走列車。



「お前の力、肉体活性で回復するという事実――【理】を奪った」



 暴走列車が、僕の声を聴いて重心を低くした。

 今にも突進してきそうな、その姿。

 それを前に、僕は恐怖した。

 だけど、同時に頼もしさも感じていた。


「さて。あとは頼むぞ、三人とも」


 僕の言葉より先に、前へと三人が飛び出した。


 最強の盾、悪魔王。

 時間停止の、六代目勇者。

 物理最強、謎生物ポンタ。


 阿久津さんの目が金色に変わる。

 六紗の体中から、銀色のオーラが溢れて。

 ポンタの体が、征服王のモノへと変わった。


「まさか、一発で決めるとはな……」

「ええ、それじゃ、私たちも期待に応えなきゃね」

「行くぞ、悪魔王、優。あの化け物は――ここで仕留める」


 三人が、一気に駆ける。

 しかし、命綱の回復手段を奪われた暴走列車は、死に物狂いだった。

 奴は、目にもとまらぬ速さで三人へと迫る。

 僕が最後に捉えたのは、暴走列車のシンプルな突進(ぶちかまし)が、三人を捉えるところ。

 そして、瞬きをした直後には、形勢は反転していた。


 いつの間にか、暴走列車の頭上へと移動していたポンタ。

 彼は驚き目を見開くと、いつの間にか安全範囲にまで避難していた六紗と阿久津を見て理解したのだろう。そうか、時が止まっていたのか、ってな。


「さっすが、今代のご主人は一味違う」


 ポンタのかかとが、暴走列車の後頭部へと叩き込まれた。

 巨体がすさまじい勢いで大地に沈む。

 あまりの勢いに、大地【も】沈んだくらいだ。

 周囲の、戦闘に巻き込まれた家が崩れていく。

 どこからか、悲鳴が聞こえた。

 ……あまり、長引かすのは得策じゃなさそうだな。


「ポンタ!」

「分かっている! 速攻で片を付ける!」


 彼は地面に着地すると、一気に暴走列車へと距離を詰める。

 だが、彼が暴走列車へと攻撃を繰り出そうとした。


 その瞬間。


 暴走列車は、身が凍るような笑顔で、ポンタを見た。


「――ッ!?」


 彼は咄嗟に上体を逸らす。

 その場所を拳が通り過ぎたのは、きっと、コンマ一秒も経たない内だったろう。


「こっ、コイツ……!」

【SYUUUUUUUUUUUUUU……】


 暴走列車の口から、鼻から、眼球から――全身から。

 この距離でも感じ取れるような、熱量が吹き上がる。



 ――雰囲気が、一変した。



 そう理解した瞬間、嫌な予感が突き抜けた。

 まさか……まだ、【先】があったって言うのか!?

 だとしたら、これ以上戦いを先伸ばすのは自殺行為……!

 その巨体から常軌を逸した想力が溢れ出し。

 奴は、何も無い空間へと、腕を払った。

 たったそれだけ。なのに。


 ――その衝撃が、遠く離れた六紗を捉えた。


「きゃぁぁっ!?」

「ろ、六紗!」

「優!? 貴様……! 地獄を見る覚悟はできているんだろうな!」


 ポンタが激昂し、彼の全身から想力が溢れる。

 あまりの想力に、暴走列車がそちらを振り向き。

 僕は、暴走列車へと、左手を構えていた。


 これ以上の戦いは、命取りだと直感してしまったから。


「【劫略】……ッ!」


 禁書劫略の能力は、片手につき1度、合計で2度しか使えない。

 3度目の能力使用をしようものなら、1度目に奪った能力を、相手方に戻す必要性がある。つまり、この状況で奪える理はひとつだけ。

 となれば、僕が奪うべきモノは明確だ。


「想力そのもの……!」


 それさえ奪うことが出来れば、相手は無効化できる!

 しかし、ひとつの能力を奪うのと、能力の源を奪うのとでは天と地ほどの差がある。先程の異能行使は比べ物にならない難易度だろうが……それでも!

 手首へ浮かび上がった円環が、暴走列車へ絡みつく。


 しかし、今回の異能発動は……失敗という形で幕を下ろした。


 バチリッ、と左手が弾かれ、痛みが残る。

 僕は大きく舌打ちを漏らすと、阿久津さんが僕の名を叫んだ。


「御仁……!」

「……ッ!?」


 彼女の真意は、すぐに分かった。

 僕のすぐ目の前には、暴走列車が迫っていたから。


「しまっ――」


 ポンタの焦った声が聞こえた。

 僕は咄嗟に回避が間に合わないと理解した。

 理解した瞬間、動いていた。

 両腕を影狼への変化させ、全力で守る。

 全ての想力を腕へと込めて、防御に全ての力を総動員した。





 ――それでもその一撃は、容易く()()()()()()()




「――ぁッ」



 悲鳴が、途切れた。


 痛みという言葉すら、生ぬるい。

 一撃で、痛覚という感覚が刈り取られた。


 視界に映った僕の両手は弾け飛び。

 それでも止まらぬ一撃は、僕の胸に風穴を開けた。


 心臓が消し飛んだ。

 生命維持に必要なもの、全てが潰れた感覚があった。


 鮮血が吹き上がる。

 僕の体は、倒れゆく。


 どこからか、阿久津さんや六紗の悲鳴が聞こえてきて。

 僕は、目の前の現実を理解した。



 ……あぁ、僕、ここで死ぬんだな、って。



 ……小説的な、ミスリードだったら良かったのに。

 僕が生き残る伏線が、残っていればよかったのに。


 そんなものは、何も無かった。


 伏線を張るには、少々、時が短すぎたのだ。

 これが物語なら、きっと、まだプロローグの完結前だ。


 そんな短期間で、復活の用意などできるはずもなく。


 そこにあるのは、残酷なまでの現実だけ。



「……ま、だ……死ねない、のに……っ」



 それが、僕の最期の言葉だった。




 ☆☆☆




 その日、その瞬間、その場所で。

 なんの誇張もなく、なんの冗談もなく。


 僕、灰村解は、死に絶えた。



 それは、抗い難い終焉だった。



以上、【プロローグ】でした。


次回、第1章、開幕。

主人公が死んで、全ては始まる。

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