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第二章
閑話・凶悪な捕食者1

「あっ……ひぃ……ゲホッ、た、助けて……」


「ダメですよ。

 尾行するならバレないようにやらないと」


 自由狩猟特別区域の一角。

 奥まっていて誰も来ないような場所に積み重ねられた死体とその上に座る男がいた。


「にしてもどうやった?

 この顔ならバレないと思ったんだけどなぁ」


 手に持った剣を放り投げてお手玉のようにキャッチする。

 刃は根元しか残っておらず、不自然に砕けたような剣がキャッチの衝撃でさらにパラパラと砕け落ちる。


 その男は齊藤だった。


「日本の捜査力舐めてたなぁ……

 あの爺さんに辿り着いたのかな?」


 齊藤は折れた剣を投げ捨てた。

 もうどうせ使い物にならないので持っていても意味がないからである。


「顔バレちったかぁ……結構気に入ってたのにな。

 この顔だとさ、人当たりよく見えるみたいなんだ。


 みんな挨拶なんかしてくれちゃって。

 やっぱり顔って大事だよな。


 でも俺は俺の顔が好きだ」


 齊藤は首元に手をやった。

 グッと皮膚を掴むとベリベリと首から顔にかけての皮膚を剥ぎ取った。


 顔の形の皮膚の下から現れたのは全く異なる顔だった。

 齊藤の顔よりももう少し若い二十代半ばくらいの非常に目つきの鋭い男性。


 ゴツい顔つきではないが人に威圧感を与えるようなコワモテな印象がある。


「う、うぅ……」


 死体の山から外れた1人がうめき声をあげる。

 この中で唯一生かされた存在。


 他の死体もバラバラであったりとひどいものだがこの男も左腕がなく、脇腹から大きく出血していた。


「なあ、どう思う?

 どっちの顔がイケてた?」


 齊藤は顔の皮を風に任せるままに飛ばした。

 あれば実際の顔ではなく精巧に作られたマスクなのであった。


「リ……リウ・カイ……」


「おっ、なんだ?

 元の顔の方がいいってことか?


 まあ当然か」


 劉凱というのが齊藤の本当の名前であった。

 カイは死体の山から降りると息も絶え絶えな男の前に立った。


「死にたくないか?」


「……死にたく……ない!」


 ただ監視を任されただけなのにどうしてこんなことになったのか。

 十分な距離を置いてバレないように監視していたはずなのに気づいたら部隊が、そして周りにいた一般の覚醒者までもが被害にあった。


「八重樫カレン、八重樫和輝という人物について知りたい。

 今すぐ。


 もし情報を引っ張れたら見逃してやってもいい」


「そんな……どうやって……」


「おいおい、それを考えるのがお前だろう?

 そうだな……誰かに電話して聞いてみればいい。


 それなら片腕がなくても出来る」


「あ……あぁ……」


 悪魔のような囁き。

 電話して聞き出せということは仲間を騙せということに他ならない。


 しかし生き延びるためには仕方がない。

 男は震える手でポケットのスマホを取り出した。


 血に濡れた指でなんとかロックを解除し、情報を引き出せそうな相手に連絡を取る。


「おう、久しぶりだな。

 こんな時間にどうした?


 まだ仕事中だろ」


 電話の相手はすぐに出て気軽に話しかけてくる。

 昔からの同期で気心の知れた仲だった。


「すまない……緊急で」


「どうした?

 声がなんだかおかしいぞ」


「少しヤバい事態になっていて……八重樫カレン、八重樫和輝って人を調べてほしいんだ」


「おい……個人の情報は電話一本で調べられるものじゃない。

 上司か、正式に要請がなきゃ」


「頼む……緊急事態なんだよ」


「…………分かった。

 今回だけだぞ」


 珍しく悲痛な声色で頼み込んでくることに違和感を覚えながらもそれほどの事態なのだと承諾した。

 電話口からわずかにキーボードを叩く音が聞こえてきて男は生きた心地がしない中で何か情報があるように祈った。


「八重樫カレンという人は登録にないな」


 登録がなければ情報もない。

 男はもうダメかと一瞬絶望した。


「ただ八重樫和輝の方は覚醒者登録がある。

 ええと……F級ゲートの方で1日攻略権を申請してる。


 申請許可……攻略日は2日後と3日後だな」


「どこのゲートだ?」


「ちょっと待て。

 住所をメールで送る」


「助かる……」


「本当に大丈夫なんだよな?」


「大丈夫……」


 明らかに電話口の様子がおかしい。

 しかし相手が大丈夫だという以上確かめる術もない。


 メールが来た通知が画面に見えた。


「悪いな……今度礼はする」


「あ、ああ……」


 別れの挨拶もそこそこに男は連絡を切った。

 そしてメールを開く。


「これが……八重樫和輝が向かったゲートだ」


「うーん、よくやった」


 カイは男のスマホを拾い上げる。


「何を探している……」


「それをお前に教える義理はない。

 まあよくやってくれたから手は下さないでいてやる」


「待て!

 助けてくれるんじゃ……」


「何を言ってる?

 助けるんじゃなくトドメを刺さないでいてやるっていうだけの話だ。


 早く助けがくればいいな。

 そしたらあんたも助かるかも知れない」


 カイはあくまでも見逃すとしか言わなかった。

 瀕死の男を丁寧に治療して助けてやるつもりなどないのである。


「拜拜。

 あー、こっちの言葉だとさようならとでも言えばいいのかな?


 そのままバイバーイでもいいかもね」


 カイは男のスマホをポケットに入れてスタスタと歩いていく。

 男は絶望したような目をしてカイに手を伸ばす。


 この出血量じゃ今すぐ治療しないと間に合わない。


「ゲートかぁ……ちょうどいいかもな」


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