「待て!
逃げるな!」
「爺さん!
そんなに怒ると血圧が……」
「ワシよりもお客の心配をせんか!」
「そ、そうだ……お客さん、ごめんなさい!」
結構殴られた。
相手が覚醒者で丈夫だからと遠慮がなかった。
けれどたまたま購入した防具も身につけていたので意外と受けたダメージは少なかった。
図らずも防具の効果を身をもって知ることになった。
「本当にごめんなさい……」
地下の装備倉庫から上の工房の部屋に場所を移した。
畳敷の和室の部屋、ふかふかの座布団の上に圭は座っている。
カレンから氷嚢を受け取って顔を冷やす。
幸い傷になるようなものはなかったので顔が腫れなきゃそんなに目立つこともないので安心した。
G級の頃だったら早い段階で気絶でもしていたかもしれない。
「若いの、すまなかった……」
工房の主人である八重樫和輝が頭を下げた。
昔は非常にダンディな人だったことを感じさせるおじいさんで優斗に似て体つきがいい。
家系的にそうした体の大きな人たちなのかもしれない。
「差し支えなければ何があったのか教えていただけますか?」
何があってあんな荒っぽい連中に絡まれているのか。
圭も殴られた以上は訳ぐらい聞いてもいいはずだ。
「バカ息子のせいだ」
和輝は険しい顔をして俯いた。
バカ息子というと和輝の子供だろうかと圭は考えた。
優斗やカレンと和輝では年齢が離れている。
その間に子供がいてもおかしくはない。
「む、電話か。
カレン、ワシの代わりに説明を頼む」
「うん、分かった」
電話の音が鳴り響き、和輝は対応に向かった。
「さっき爺さんが言ってたバカ息子ってのは私たちの父親のことなんだ……」
カレンは圭の斜めの位置に座った。
「今はもう……生きてるか死んでるかも分からない人なんだけどアイツが残したのは……デカい借金だった。
ある時いきなりあの借金取りが現れてさ、金返せって。
無視すればよかったんだけど怒った爺さんがちょっと相手のことを押しちゃって、それで相手は大騒ぎさ。
借金を返さなきゃ覚醒者による暴力だって訴えるって……」
カレンの目がうるむ。
泣くのは我慢するけど口に出すのも悔しくて辛い出来事。
「生活には困ってないけどそんなに大金溜め込んでるわけじゃない。
急に借金返せって言われても……」
借金を返せないなら工房にある装備や工房をそのものを差し押さえると言われている。
それでも足りなきゃもっと別の方法でも返さなきゃいけなくなるかもしれない。
「アイツらの目的は爺さんや優斗なんだ」
「装備じゃなくて?」
「それも目的なんだろうけど装備を作ったり直したり出来る人は貴重だからそうした人を安くこき使うために借金を盾に引き入れようとしているんだと思うんだ。
2人も覚醒者等級は低くないから最悪覚醒者として使うつもりかもしれない」
お金が欲しいだけにしてはやり方が回りくどい。
工房も建物は古く、土地も繁華街とはいかない。
装備も全部適正価格で売っても借金の額には届かない。
搾り取ろうとしても限界があることは丸見えなのにそれでも執着してくる。
さらに優斗や和輝が覚醒者であることを知っている上にそのことを匂わせるような発言も過去にはあった。
覚醒者で覚醒者の装備を作れる人材は貴重なので狙いは覚醒者装備を作れる職人の腕なのではないかとカレンは踏んでいる。
加えて借金取りは営業中にやってきてお客の前で暴れたりする。
ただでさえ少しでも稼ぎたいのに邪魔をしてくるのだ。
「ここは私たちの家……大切な場所なのに。
つめっ……」
「カレンさんも目のところ冷やした方がいいですよ」
とうとう我慢できずに涙が溢れ出す。
圭は自分の頬に当てていた氷嚢をカレンの目に当てる。
「…………ありがとうございます」
圭の意図を遅れて理解した。
カレンは氷嚢を受け取って目に押し当てる。
泣いている様を他人に見られるのはバツが悪い。
あくまでも目の腫れを冷やしているのだと形を取れば誤魔化せる。
分かっているけど言及しない。
分かっているけど見ないふりをする。
「でももうあまり時間もなくて……」
借金の期限まで時間が残されていなかった。
出来る限りお金をかき集めたけれど借金にはとても届かない。
「たとえば弟さんは覚醒者として活躍するつもりは?」
以前に見た優斗の能力はC級相当。
そこそこの実力で筋力が高くて攻撃力特化なら欲しいところも多い。
上手くいって覚醒者チームを組織するギルドに雇われれば契約金でもかなりの額になる。
「……あの子は虫も殺せないような優しい性格をしているんだ。
能力があっても覚醒者としてやっていくのは難しい。
それにクソ親父の借金であの子が苦労するのは嫌なんだ」
境遇的には波瑠と似ているなと圭は思った。
お金に絡む問題で困っていて、弟思い。
意外と2人は仲良くなれるかもしれない。
「何も攻略チームとしてギルドや企業に所属しなくても今の装備に関わる方向で雇ってくれるところもあるかもしれないだろ?」
「そうかもしれないけどやっぱり優斗はここで、爺さんのところでやっていきたいんだ。
だから私が体売ってでも……こんなデカい女じゃ需要ないかもしれないけど」
「そんな、それは……」
「……はは、変だよな。
なんでお兄さんにはこんなこと言っちゃうんだろう。
…………私を買ってくれるのがお兄さんならよかったのにな」
「まだ時間はあるんだろ?
諦めちゃいけないよ」
「でももうこれ以上方法も……
体売ったところで間に合うかも分からないけどね。
……話聞いてくれてありがとう。
気分が楽になったよ」
そんな寂しげな目をしてどこが楽になったのだ。
しかし圭もどうしようもなく、それ以上言葉が出てこなかった。
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