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第2章 《煉獄の森》の魔物たち
第36話 剣の才能

 ズバッ、という音と共に、木剣の先端から不可視の刃が放たれた。

 それは明らかに木剣の長さからは届かないであろう距離に存在する木の幹、その中程に鋭い傷をつける。


「わ、わふっ……(み、見ましたか!? 殿!)」


 俺の方を見てそう言ったのは、コボルトソルジャーのマタザである。

 その瞳は、今起こったことが果たして本当に現実だったのだろうかという困惑と、確かに自らの手で作り出すことが出来たのだという誇りに輝いていた。

 くりくりとした丸い目が人懐っこい犬のようで可愛いが、彼はこれで成人ならぬ成犬である。

 むしろ比較的年嵩の方らしいな。

 リベルと並んで。

 

「あぁ、確かに見たよ。しかし凄いな。俺にはさっぱり出来る感じがないのに……キャスもまだだし、マタザには才能があるのかな?」


 俺がそう言ったのは、たった今、マタザが成功させたものを見てのことだった。

 俺たちは剣の聖女アトの厳しい指導によって《飛舞剣》の習得に励んでいたわけだが、数日経っても誰一人として発動させられる気配もなかった。

 剣の型をしっかりと学んで、かつ実戦も行い、その上で練習を積んでいるのでみんな実力はそこそこついてきているとは思う。

 実際、ノーマルコボルトのみんなにも一般技能として《剣術》がつき始めている者も出ているのだ。

 普通、こんなにすぐには技能がついたりはしない。

 俺が十年以上、コツコツ頑張って《剣術》技能がやっと3になったくらいなのだ。

 1だとはいえ、これは驚異的な早さと言っていい。

 やはり、指導者がいいからだろうか?

 アトは教会の中でも恐れられる剣の達人である。

 そのような人物に習えばこうなるという可能性は高かった。

 ただ、俺も公爵家の継嗣として、かなりの達人たちに家庭教師をしてもらってきたのだけどな……。

 そもそもの才能の違い、というのも大きそうで悲しくなる。

 まぁ、マタザたちは魔物であるし、そういうのもきっと関係しているのだろう、と自分の心を慰めておく。

 それにしても《飛舞剣》をいきなり出せてしまうほどとは思わなかったが……。

 そんなことを考えていると、アトがたった今の現象について説明してくれた。


「マタザ様には、剣の才能がありますわね……ただ、今のは《飛舞剣》ではなく、《飛剣》ですわ。流石に一足飛びで《飛舞剣》を身につけさせる、というのは無理でしたか……」


 後の方はぶつぶつと独り言で言っていたが、俺の耳はしっかりと聞き取った。

 《飛剣》というのは、根源技能《大剣士》などを持つ者が身につけられることの多い技能であり、その効果は確かにたった今、マタザが見せたような、斬撃を飛ばすというものだ。

 これについては俺も見たことがあって、確かにそう言われるとそうだな。

 しかし一足飛び、とはどういう意味か。

 俺は気になってアトに尋ねる。


「それってどういう意味だ……?」


 するとアトはハッとして、しかし聞かれたからには仕方がない、というような表情で答える。


「いやですわ、お聞きになられていたのですね……。《飛舞剣》技能ですが、これは《剣姫》の派生技能です。そしてこれは《飛剣》の上位技能でもあるのです。ですから、本来でしたら《飛剣》を身につけ、それに習熟し、ある程度以上のレベルまで極めると、身につけられる可能性が出てくる。そういうものなのです……」


「つまり何か。お前はそういう順番にあると分かっていて、それでもなお先に《飛舞剣》をいきなり俺たちに身につけさせるよう訓練を課していた、ということか?」


 ちょっと腹を立てながらそう尋ねると、アトは申し訳なさそうに、


「はい……ちょっとした、実験のつもりでした。それが出来るなら、戦力の飛躍的上昇も可能になると思いまして」


 そう答える。

 そう言われると彼女の行動も否定しにくいな。

 アトの目的は一貫している。

 とにかく、俺たちの戦力を底上げすること。

 自分がいなくてもこの森で生きていける、そう言える程度にまで強くすること。

 それに尽きる。

 そのために必要なことだったと言われれば、戦闘の専門家でもない俺には文句は言えない。

 実際、実験だと言っても、結局マタザは《飛剣》を放てるようになっているのだ。

 他のコボルトたちにも《剣術》技能がついている。

 他にもさまざまな技能がつき始めているし、それを考えれば少しくらいの試行錯誤がなんだ、という感じだった。

 大体、魔物を鍛える、という発想自体、普通はないというか、こんなことはテイマー系以外やらないことだからな……。

 それを考えると、ただただありがたいと感謝する以外になかった。

 けれど、


「最初から《飛剣》の訓練をした方が早かったんじゃないか?」


 時間が少し無駄になったのではないか。

 そんな質問だった。

 まぁ、この方法は難しいやり方だ、と分かっただけで時間の無駄ではないという考えもあるが、一応聞いておきたかった。

 これにアトは首を横に振る。


「いいえ。修練方法には確かに違いがありますが、そもそも上位技能のための訓練ですから《飛剣》を得るのに必要な内容はそもそも含まれていました。若干、体力的に厳しかったでしょうけれど、問題といえばそれだけですわ」


「そ、そうか……」


 なるほど、俺たちがきつかっただけで、時間は無駄にならなかったのか……。

 良かった……いや、良かったのか?

 ナチュラルにスパルタ過ぎるのではないだろうか。

 今更アトに優しさを期待しても無駄そうだが。

 今後もこれがしばらく続くのか、と思うと憂鬱になった俺だった。

 

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