「……その中身が本物であるかどうかは判別しかねるのですが、中身は実のところどうでもいいのです。その容器自体が魔道具で、中身を長期間にわたって保存し続けられる品で、そのために競り落としました」
「なかみは、どうでもいいのか?」
魔道具収集が趣味であり、魔物の素材は二の次なラトゥール家当主としては確かに分かりやすいが、それにしても
迷宮に
特に
つまり、
それを、どうでもいいと言い切るラウラに俺は驚いたが、まぁ、彼女の興味の方向が魔道具にしかいっていないとすれば、さほどおかしくはないのか……。
俺には金貨の塊のように見えるが……。
ラウラはしかし、興味はないにしても一応、中身についても説明してくれた。
「
「噂なのか?」
それについては俺も聞いたことがある。
そもそも、
エーデルは、俺の血を飲んで、俺に近いものになったはずだし……眷属になっただけなので
分からない。
ラウラは続ける。
「微妙なところです。実際に
この話はかなり身につまされるところがある。
俺だって自分が
親しい人数人には言ってしまっているが、せいぜいがその程度で、わざわざ後世のために記録に残そうなどとはまず、思わない。
「たしかに、な……」
「ですので、《噂》なのですよ。まぁ、それでも廃人になるか永遠の命を手に入れるかの二択ですが、それに賭けて
若干皮肉気な口調で彼女は言ったが、別に責めているというわけでもなさそうだ。
何か、永遠の命などというものに執着する者を、心底愚かだと思っているような、そんな雰囲気を感じる。
……どうなんだろうな。
永遠の命、俺はそれをそれほど悪いものとも思えないが、しかし現実に周囲で知り合いが老い、死んでいくさまを幾度となく見ていると、ゆっくりと心が腐り落ちていく、というのはあるのかもしれない。
自分が死ぬわけではなく、他人が死ぬわけで、悲しいのは悲しいで間違いないが、衝撃のほどは小さく、しかしそれを二度、三度、ならともかく、百度、千度と繰り返していったら……。
もう、いいかな、というくらいは思うだろう。
……俺が人間に戻れなかったら、そういう日々が待っているのだろうか?
ロレーヌやシェイラが老いて、死んでいくさまを見つめ続けるわけだ。
寂しいだろうし、辛いだろうが……今は大した実感を伴って想像することは難しいな。
永遠の命、それがいいものか悪いものかは、結局のところ体感してみなければわからないことなのかもしれない。
それにしても、ラウラの持っている
あれに、俺は今、結構な欲望を感じている。
単純に血があるから飲みたいなと思っているだけかもしれないが、もしかしたら、と思うところがないわけではない。
つまり、あれは俺が次の存在進化をするために必要な品なのではないか、ということだ。
というのも、俺はこの間、《タラスクの沼》に行って、結構な数の魔物を倒した。
それに、質の面でも、タラスクは相当な強敵だったのだ。
あれだけの魔物を倒し、そしてその力を十分に吸収した感覚があるのにもかかわらず、未だ俺は
まだまだ魔物を倒し足りない、という可能性もないではないが、それよりかは、何か存在進化に必要な条件を満たしていないから進化できていないのではないか、という疑いの方が強くなってきている。
ただ、今日ここに来るまでは、たとえそうであるとしてもその条件が一体何なのか、想像もつかなかった。
けれど今は……。
あの
あれを摂取することで、俺は次の段階へ行けそうな、そんな気がするのだ。
本能がそう言っているというか……。
それにしてはロレーヌに噛み付いた時よりも欲求は弱いが、それは俺があの頃よりも存在それ自体が理性的になっているがゆえに、本能にそれほど支配されていないからかもしれないと思う。
もう、ここまで来ると、何をもらうのかはほとんど確定だな。
まぁ、俺はもともと血を飲みたいと心の底から思ってしまう生き物だから、ただただ美味そうなものを見つけて食欲が暴走しているだけ、という可能性もないではない。
だから、
だけど、意味があるかもしれない可能性はあるのだ。
ここを逃すと
だから、俺は言う。
「……これをくれ」
「
ラウラは目を見開いてそう言った。
彼女は他のものを選ぶと思っていたらしい。
まぁ、そう思った理由は、俺が飛空艇の模型を死ぬほど楽しんでいたからだろうが、それ以外にも役に立ちそうな魔道具はいっぱいあった。
武具や魔道具、薬剤の触媒に使えるとはいえ、こんな飲んだらどうなるか分からないようなものをあえてもらおう、という者はあまりいないだろう。
売却する、ということであっても、他にもっと高値がつきそうな魔道具も一杯あるしな。
だが、俺の一身上の都合で考えると、これが一番いいのだ。
「……個人的な興味ですが、理由をお聞きしても?」
「……しりあいに、まもののせいたいをけんきゅうしているものがいてな。ほしがるのではないかとおもった」
口から出てきたのは、そんな嘘である。
知り合いと言うのはもちろんロレーヌの事で、必ずしも完全に嘘っぱちというわけではないが、真実からは少しずれている。
真実など、言えるはずがないし、これ以外に説明しようがない俺の苦し紛れの台詞であるのはもちろんだった。
これに、ラウラは何か感じ取ったものがあるのか、眉根を寄せていたが、しばらく俺を見つめてから、ふっと笑うと、
「……そうですか。でしたら、こちらを差し上げます。容器も一緒にお付けしますから、考えようによっては景品を二つ手に入れたようなものですね」
そう言ったのだった。
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