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二周目のサイコパス 作者:ニキ

1章:WAKE UP FAFNIR!

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vs黒天の使徒:決着

コロナで死んでました

あれ体調もそうですがやる気殺されるのエグいです、皆さんもご自愛ください

 コヒメはドン引きしていた。

 身が竦むようなトラウマの主、深層心理に刻まれた恐怖の記憶。

 圧倒的なプレッシャーだった、絶対に勝てないと分かる力量差があった。


 そんな相手に渡り合う彁の姿に彼女は引いていた。


「うわぁ……」


 身代わり札の中にいる間、コヒメは所持者の視界を借りて外を見ることが出来た。

 そう、()()()()()()()()。コヒメは彁と黒天の使徒の死闘を我がことのように追体験していた。


 わけも分からず殺されて、痛みと恐怖で身が竦んで、同期させられた視界に映る下手人に発狂して、死にたくないと泣き叫んで。

 然し全くの躊躇も無く突っ込んでいく彼女に喚き散らしたのは既に過去の話。

 コヒメは面白味がないほど普通の感性をしている。痛いのは怖いし、戦うのは怖いし、そんなゲームをしない一般人のような彼女が見せ続けられているのは、生殺与奪の権を握ったサイコパスの激戦だ。


 劇薬に他ならない。


「……見てるだけで疲れてくる」


 理不尽極まりない暴君。それが彼女が今抱く彁へのイメージだ。

 狂笑を撒き散らし、支離滅裂な言葉を吐いて、地底の摩天楼を飛び回る。

 痛いと叫んでおきながら魔法に自分から突っ込んで、人間のカタチを辞めて触手を生やし勝ちに行く彼女は、どこまでも楽しそうで。

 イかれている。

 どう考えても勝たせる気の無い理不尽を、個人的なトラウマを正面から力で捩じ伏せるその姿は、ああ、なんと凄まじいのだろう。


 コヒメは彁が強いことを、イかれていることを知っていた。

 然し彼女が知っていたのはあくまで平常時のサイコパスであり、初めて見る本来の、本気で暴れている姿を叩き込まれて理解した。


 それは彁という暴力の証明。


 力、ただそれが恐怖を粉砕する様をかれこれ()()()()()()()()()()()()

 最初にあった恐怖も絶望も、化け物の歓喜の咆哮が全て掻き消しきって。

 意味が分からない光景と情報の連続に脳が破壊された彼女に残ったのは、その凄惨な戦闘風景へのドン引きだった。


「……がんばれ」


 好きか嫌いか聞かれれば躊躇無く嫌いと答える程度の仲でしかない彼女へ向けて、コヒメはそう小さな激励を漏らす。

 道徳も倫理観も無く、ただ戦闘力しか持たない彼女は、その長所だけで生きてきた人間だ。


 魅入らせる程の狂った戦闘。



 性格のクセに人に好かれる方である彁は、今日もまた純朴な少女の価値観を破壊していた。











「お前の魔法食らいながら距離詰めてぶん殴ってェ! 私の傷をドレインして回復ゥ……! 永久機関が完成しちまったなァ〜!! これでノーベル賞は私のモンだぜェェェェ!!!」


 人生で一度は言ってみたいセリフをここぞとばかりに叫んで空を飛ぶ。

 全身が痛ぇし皮が全部剥がされたみてぇにズキズキするけど、逆に痛いからこそ感覚が見付けやすくて。

 力込めて握ってる手と同じように、全身が激痛で接続されて指先のように動かせる。


「全身凶器ィ……」


 縮地って要はSTR判定を移動動作に出す技だから、極まってくると別に足以外でも出せるんだよね。

 全身で自在にSTR判定を出せる状態……全身凶器と化した肉体は、物理法則に仕事を放棄させた。


「あっは!」


 岩の散弾を肉体で受け、破壊する。

 AGIの乗った肉体の全身に発生する攻撃判定、それは自動的な迎撃として小粒の攻撃を相殺して。

 息をするような縮地で空中を蹴り、最短経路をスーパーアーマーでゴリ押して!


「効かねぇんだよカス!」


 遅れる迎撃を躱して叩き込む斬撃、瀕死から全快するHP、死亡以外誤差でしかない私には削りダメージなんてああ無意味!

 徹底的に無駄を削ぎ落として作った盤面は既に数時間経過していた。

 限界が近付くどころか余裕で突破している私の精神と、然し再びの最高潮を迎える全身の熱は、笑いが止まらないほどの全能感を私に与えてくれる。

 ああ楽しい、飛躍が止まらない。

 私の成長が終わらない!


「まァでもそろそろ飽きてきたよなぁ!?」


 砕け続ける地面、崩落より早く水面を駆けるように側面を走り、爆音を背に空へ跳ぶ。

 性懲りも無く飛んでくる柱から床を生やし、壁キックで反射するような軌道を描く。

 後ろで奏られる衝突音、進路上の邪魔物を目線を通し内部から破裂させながら、私はある感想を抱いていた。

 コイツとの戦いは楽しい。それは変わらない事実であるが、流石にこんな暗い場所でパターン変わらずこんだけやってりゃ飽きが来る。

 加えて数十回見てきた三連全画面爆撃のチャージ、未だ阻止出来ず全て食らってきたそれも私のストレスになり、テンションの成分比率の大半を殺意が占めるほど、既に決着への忌避感は無くなっていた。


「何が言いたいかって? いい加減ぶち殺してぇんだよテメェのこと!」


 石柱を跳び回る私の背にたなびく二本の尾。

 触手のように操作しているこれの扱いは凄まじい持久戦によって、まるで()()()()()()()()()()()()()()()無意識で手足として扱えるまで上達していた。


 血魔術『操血』

 本来はMPで血の塊を生み出し操作するだけのスキルだが、こうして触手を作って戦うことで把握したことは多岐に渡る。


 まず、"操血"には伸ばせる長さの上限があり、現出させる量に応じて持続消費されるMPも上がっていくこと。

 次に、コイツの操作は肉体のような感覚とは別に、魔法と同じ要領でのイメージでも可能であること。

 そして、魔法系スキルである"操血"本体を直撃させた場合、当然ながらINTに依存する魔法ダメージになるということ。

 操作速度も操作の自由度も管理しているステータスはINTであり、操作感は普通の魔法と変わりなく、それが分かってからは扱いが飛躍的に上達した。


「じゃあこの特性が分かって何が出来るようになると思う!?」


 走りながら極限まで伸ばした触手A、リーチに応じて発生する遠心力による圧倒的物理エネルギー。

 体重移動、骨面への全力のブレーキ。ピンと張ったそれをピッチャーが投球するように振りかぶり、鞭のように高速で後ろから頭上へと、叩き切るように解き放つ。

 弧を描く軌道、イメージの操作に加えて、肉体の加速を無理矢理止めて超加速する体捌きも絡めた一撃。

 まず前提として、この触手は私の体から直に生えているものだ。

 そう、()()()()()()()()()()()()()


 今の私にとって、そこにSTRとAGIを乗せることなんて造作もない!


「断頭」


 INT+STR&AGI

 背筋から叩き出したSTRが、圧倒的速度を受け渡した先端が、体重移動と姿勢制御で爆発的な加速を触手に生み出す。

 轟と鳴る風切り音、返ってきた凄まじい衝撃と遅れる、爆音。

 進路上にあった全ての障害物を破壊した斧刃が、黒天の使徒をぶった斬る!


賢さ(インテリジェンス)に溢れた一撃だぁ……!」


 防御に割かれた石柱の盾を粉々に砕き直撃させた使徒は、三連爆発用に集めていた魔力が暴走するように内側から爆ぜていた。

 蒼光が吹き上がる、然しそれは初めて見るダメージ判定を持たないチャンスタイム。


「チャージキャンセルさせるあたり相当なダメージだなこれぇ!」


 勢いが崩しかけた姿勢を縮地で強引に解決、私の元へ帰ってきたAを背後に伸ばし、適度に引き絞ってから振り子のように空中で解放。

 腰の回転で加速させた超高速のスライサー、空中で放たれた追撃は……異質な手応えと共に弾かれた。

 芯を抜かれたように力が消失する現象は、私のバランスを崩させた。


「あっはっ! いいね、当然持ってるよな発狂フェーズ!」


 伸ばした腕を巻き戻しながら叫ぶと同時、使徒の全身から黒い炎が勢いよく吹き上がる。

 石肌のあらゆる場所がひび割れて、傷跡から漏れる光は世界に伝播していく。

 ジェット機のエンジンのような音を吹かし、消えない漆黒が壁を床を染め上げて。

 突風。

 その中央に聳え立つ彼は、まるで瀕死で覚醒する主人公のようにエネルギーを撒き散らしている。

 形態変化、それも見るからに捨て身で全力を出すような様。

 瀕死からの発狂状態ってとこだろう、漸くそこまで削れたかよ体力馬鹿が!


「あァ!?」


 着地点が近付いてから唐突に走った嫌な予感。

 即座にブラストジャンプで空中を蹴り飛ばした直後、元の進路にあった石柱が内側から弾け飛ぶ。

 似たものを挙げるのならそれはウニだ。

 硬質で鉱質な殺意の散弾が、流動する足場からデタラメに生え散らかす!


「パクられてんだけどぉ!?」


 棘として石柱の中から飛び出してきた角錐の群体、その材質は厚くは無いが岩石より遥かに脆く鋭かった。

 透き通るように綺麗で滑らかな光沢を持つ、紫や暗灰色の鉱物塊。

 とめどなく拡散する水晶の剣。

 それが今尚伸びた先から、更に分離し私を追う。


「わぁ綺麗」


 適当な感想。

 土砂崩れ地味た破壊音とは打って変わって、ガラスが甲高く割れる生成音が全方向から響き渡る。

 千倍速で再生されてるような結晶の増殖光景、絶妙に面倒臭ぇなこれ!


(平面が作れねぇし、何より鋭い!)


 鉱物の槍、当然死霊作成に使える素材なんてなく、加えて分裂増殖し追ってくるコイツらは押し潰さんとする角柱では無く、貫かんとする角錐だ。

 気持ちいい炸裂の連鎖、細い刺突を蹴り飛ばせばグシャグシャにガラスを踏み砕く……否、()()()()()()()()()()

 ボロボロのブーツに罅を入れた軽いダメージと、余りにも少ない加速。

 足場の崩壊。それは力を広がる亀裂へ逃し、反動を拡散させる!


「チィッ!」


 ──環境の変動はまだまだ続く。

 使徒から吹き荒れる黒い炎は留まることを知らず、染め上げられた壁が使われる先は攻撃だ。

 地形変動、それに纏わりつく黒炎の奔流。

 突き出る柱より爆誕する結晶の剣山へ、それは止まること無く伝播する。


 鏡面が奈落で黒く輝いた。

 光無き闇夜は今や炎に包まれている。

 照明たるは冥府が如き黒い炎、拡散するは煌めく彩やかな結晶群。

 生み出された熱い光量は今尚増殖する水晶がプリズムとして乱反射させ、暗く眩く空間を焼き尽くす。

 青、白、紫、黄、灰。様々な鏡面が闇光を洗練し、黒を出鱈目な色と方向へ歪め、ライトアップと反射を無限に繰り返す。


 その様はまるで……


「……地獄の万華鏡」


 終焉の絶景。その空中を翔けて、駆けて!

 魔法で跳躍し結晶洞窟の僅かな空洞を昇る。

 迫り進路を塞ぐアメジスト、ハンマーで叩き割り破片が身を裂き……黒炎がHPを削る!


「キッツイなぁこれぇ!?」


 燃える柱全てに発生している接触ダメージに加え、急激な温度上昇によって何もしていなくても発生する地形による削りダメージ。

 熱く、暑く、全身が釜の中で蒸し焼きにされていた。

 絶え間ない激痛、恐ろしい速度で溶けていくHP。

 明らかに上がった速度で突撃してくる黒天の、使徒!


 大質量が結晶の群塊を爆撃のように破壊する!


「いいぜ、やろうか最終決戦!」


 超高高度から落とされた岩石が水面を叩いたように、莫大な量の水飛沫(みずしぶき)が滝のように降り注ぐ。

 ガリガリと音を立てながら駆ける地面、流動し簡単に割れるそれを滑るように走り、太い塊に足を埋めてから、水平方向に全力で踏み込む。

 高速で飛来する鉱質の嵐、その中心へ躊躇無く飛び込んで。

 激突。

 切り上げを紙一重で躱して胴体に暴血狂斧を叩き込む。

 一瞬で上限を叩くHP、然しコンマ数秒でその見栄えは崩れさる。

 蜃気楼のように、不知火(しらぬい)のように、激熱が視界を揺らす。

 万華鏡の鋭角が全方向から押し寄せて、そのアスレチックを飛び回り、私達はぶつかり合う!


(長期戦は不利どころの話じゃない──)


 足元からの生成より早く水平な足場を駆ける。

 結晶の剣が柱の横っ腹を叩き、燃える破片が光を反射しながら常に撒き散らされて、構ってる暇の無い私はその中から使える地形だけを探しそこへ跳ぶ。

 視界周には激突を繰り返す創造と破壊の螺旋、砕き砕かれ燦々と煌めく、世界の終わりのような現在進行形の絶景だ。

 涼音は甲高く残響して濁流を生み、飛翔する使徒は遠方から魔法を放ち頭上から獲りにくる。

 跳躍、加えて触手を使った急制動。

 ギリギリの回避、望んだのでは無く肉体性能の限界の結果に舌打ちを漏らし、黒片の津波に抗いその体に攻撃を捩じ込む。

 回避不可能の肉弾戦、お互いの攻撃の余波で描かれる幻想的な戦場。

 暴血狂斧が無ければとっくに死んでいる戦況は、私に絶え間ない超高速の接近戦を強要させる。

 切り傷だらけの全身、目が裂かれ、焦げ落ち死んだような足を斬撃で治す。

 再生速度を超える部位ダメージ。

 激痛が止まらない。

 運動量に比例し痛みは加速し、然し止まれば一秒足らずで死んでしまう。

 靴が壊れ剥き出た裸足が炎上するガラスを蹴っていた。

 グジュグジュでグシャグシャで、思考回路が情報量に加え、熱気で焼き切れそうになる。

 視界が広がって狭まった。

 瞳孔が開いていくのが分かる。

 壊死し感覚が消えていく体の末端、反して内側に張り巡らされていく追加の神経の枝。

 肉体が壊れていっているのに、精神的なパフォーマンスは最高潮を超えて行く。

 激しい呼吸は燃える空気を吸い込んで、喉が焼けるような辛さは更なる空気を求めさせた。

 息苦しいのに頭は冴えていた。

 それはショート直前のよく知っている感覚……


 極限状態。


「──なら押し切る」


 使徒と私はお互いに瀕死であるが、最大体力には遥かな差がある。

 魔法の痩せ我慢はフィールドダメージがある以上軽率に切れず、自由な空間機動も難しく、砂塵は燃える硝子片に変わり、加速した使徒は地形を無視し猛攻を仕掛けてくる。


 ジリ貧、削り殺されるのは時間の問題。


 コイツに勝つなら火力で押し切るしかない。


 レベル80のボスの、莫大な残り体力を。


 ──出来るの?


「やるんだよ!」


 裂帛と共にスキルコンボ、使用スキルは()()()()()()だ!

 二つの触手がDNAが如く絡まり、合わさり……結合。


 出来上がった一本の太く長い尾、その先端にあるのは骨肉の巨大な聖剣。



 合成、()()()()



 全てを断ち切る生物兵器が、私の意思のままに第三の腕として顕現する。



「斬っ!」


 気分はまるでディ〇バルド。

 本来両手で振るう扱い辛い特大武器は、今の私の熟練度なら操作なぞ造作もない。

 超リーチ×超リーチ。

 全身を捻って振るう破壊の具現は、無数の結晶を引き裂いて使徒を遠距離からぶっ叩く。

 全身に走る攻撃の衝撃、反動をステータスで捩じ伏せて。

 縦横無尽に私の追撃で切り刻む!


「ッ避けた!?」


 ダメージに対する回避行動から続けて、引き絞るように構えられた対刃剣。

 直感で吹き飛ぶように退避した直後、突きと同時に飛んだ光波が元いた場所を穿ち抜く。


「ここに来て新モーション!?」


 使徒の反撃は止まらない。滞空しながら刺突の光波を乱れ打ち、さながら砲撃の雨のように上空から破壊が何度も何度も打ち込まれる!


「クッ、ソッ!」


 光のレーザーが鉱石群を抉りとる。

 悪態を血と共に吐きながら回避に専念している内に、いつしか使徒との距離は開き。

 対して使徒は状況を正しく理解しているのか、長期戦を望むように自ら上空へと距離を取っていく。

 砲撃が終わる頃には私のHPは50%を切っていて、風穴から見える使徒は遥か遠くに豆粒と化していた。

 迫る黒炎盛んな水晶の断崖、視界を閉ざしていく終わらない鏡面の天蓋。

 まるで煉獄のトンネルだった。

 絞まる万華鏡は煌めく牙で私を飲み込まんとし、諦めを知らない脳漿は即座に接近するためのルートを探し出す。


「やってくれんじゃねぇか!」


 ブラストジャンプにエアハンマーを合わせ、縮地で蹴り飛ばしさあ登れ。

 撃鉄を鳴らせ、弾丸は私だ。

 迫り出す壁より速く、速く!

 障害物は大剣で切り裂いて、破片の瀑布をSTRで突っ切って!

 HPが無くなるより早く、龍が如く滝を登れ!


「……ッ!」


 加速、加速、加速、加速!

 飛び出る柱を頭で砕き、断片を素足で蹴り飛ばし。

 縮地だけで最短経路を登って、昇って、薄い天蓋を黒鉄のハンマーでぶち抜いて、詰めて、詰めて、詰めて詰めて詰めて詰めて!

 私を視認した使徒が迎撃するよりも早く、速く!

 縦回転を加えた懲罰大剣がその体をサマーソルトで切り飛ばす!


「粛清ェ!!!」


 一回転。一周した懲罰大剣が再度打ち据え、同時に私の両腕も使徒へ直撃する。

 これまでで一番の手応えと、直後に訪れる開放感。

 バギィンという音の出処は、懲罰大剣と黒鉄のハンマーに加えて使徒の対刃剣だった。

 刹那の交錯で莫大な火力を叩き込んだ結果、それはとうとう訪れた。


 耐久限界


 度重なる酷使に破損した武器の残骸が、私の遥か下で吹き飛んでいた。


「十分! よく働いた!」


 最後に使徒の武器を持っていった相棒達は、使徒の巨体を衝撃で浮かしていた。

 単純ダメージによる怯み、その隙に私は勢いそのままに更に上へと登る。

 "ブラッドキャスト"、自傷跳躍、地形の削りダメージと、MPもHPもボロボロになりながら登って、登って……0を切る直前に、一度限りの切り札を解放する!


()()!」


 宣言と同時、遥か遠くの壁の内側が爆発する。

 それは私が数時間の戦闘で稼いだMPを変換して、壁の中に溜めてきたアンデッド達だ。

 溜めに溜めた時間という最大のリソースは、今この瞬間一発限りの強化手段として解き放たれる。


 私の命令で一斉に死んだ──ともすれば()()()()死霊達は、本来全く持ってMPの無駄にしかならない行動は……こと私のビルドにおいて凄まじい価値を生み出すことになる。


 さぁ、スキル判定の話をしよう。

 ──果たしてプレイヤーによる自壊命令は、撃破条件で発動するスキルを起動出来るのだろうか?


「あはははははははははっ!!!」


 答えは是!

 "継戦能力"が全ゲージを全回復させ、肉体破損を回復量でゴリ押し再生させ、更なる高みへ体を飛ばす。

 ついに見えてきた天井は、地上を閉じる厚すぎる壁にして、()()()()()()()()()()()

 半回転、体の向きを変えて頭を下に、足を上に、天井に足から着地する。

 轟音。

 岩肌が足を裂いてめり込んで、有り余るMPで長い一本の尾を短い六本の触手へ枝分かれさせ、開いた花弁が壁に押し付けられるように地面へと吸い付かせる。

 血塊の大輪は天井を穿ち掴む固定器具にして、私の最後の加速装置。


 目測100m以上、睨む奈落の主は遥か深く。

 迎え撃つかのように多彩に煌めく結晶の津波が盾として構えられた。


 いいぜ、好きなだけ抵抗しろよ。


 一切合切完膚無きまでにぶち抜いてやる!


「"狂乱"!」


 微動作で全身にSTRを張り巡らせ、両足でAGIを叩き出す。

 加速が行われるのは八箇所だ。

 大輪が閉じる、それは蕾へと変わるように。

 ステータスが乗った触手による射出が、縮地に莫大なエネルギーを追加する。

 ベクトルは重力に従って真下へと。

 さあ奈落へ落ちろ!

 最高高度から重力加速を使って、最高速度を叩き付けろ!


「"ブラストジャンプ"!」


 跳躍、それは一瞬だった。

 音よりも速く体が飛ぶ、距離なんて無かったように。

 スローモーションで尚追い付かない視界の移り変わり。その中で掴んだ()()を、立ち塞がる壁へぶち込んだ。

 凄まじい衝撃。

 それを捩じ伏せるように、蹴り飛ばしたエアハンマーで更なる加速。

 刹那に迫る黒影に、私の二刀が叩き付けられる!


 ──ドガァァァァァァァァン!!!


 "無慈悲"によって跳ね上がった攻撃力が、最高速度で使徒を砕く。

 右手には最高火力の暴血狂斧と、左手には()()()()()()()()()()()()()()()

 削れたHPとMPが直撃と同時に全快し、使徒の巨体を衝撃で下へと吹き飛ばす。

 追撃、加速の止まらない肉体をきりもみ回転させ、繰り出すのは六本の触手による怒涛のラッシュ。

 先端にスキルコンボ。適当に骨と筋肉を合成し攻撃力を生成、それに乗る"無慈悲"による固定値上昇。

 同時、残存HPとMPを"死霊作成"に使用し、壁の中にスケルトンを作ると同時に自壊。

 "継戦能力"と"無慈悲"が追加発動し、更なるDPSの加速を生む。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 咆哮、ラッシュはまだまだ止まらない。


 これまで手に入れた全ての手札を切りに切って、膨大な使徒の残体力を削り飛ばす。


 暴血狂斧が胴を砕き、使徒の大剣が翼を切り飛ばし、暴れる触手が全身を叩き潰す。


 落ちるままに全力で、全身で火力をぶち込み続ける。


 思考は既に止まっている、ただ脳は殺意を入力した。


 反撃はさせない、再生もさせない。


 それより早く肉体を破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して!!!!!!!!!!!!!!!!!


「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 突き上げる地形毎暴力で全てを捩じ伏せる。


 音も色も認識から消えてあらゆる破片が血飛沫のように舞う世界を地の底へと連れて行く。


 感触が朧気で、感覚が麻痺して行く。


 殺していた。


 思うままに本性が暴れていた。


 全ての感情を吐き出していた。


 嗚呼、なんて懐かしい。


 漂白されていく意識の中、純粋な戦闘の楽しさに溺れながら、






 ──私は奈落の底に直撃した。


























「……………………あ゛ー、疲れた」


 頭の中に長大なアナウンスが流れている。

 ガンガンする脳味噌に情報流されても理解出来ねぇし頭痛にしかならねぇんだよクソが黙ってろ。

 過剰痛覚刺激の警告通知も消えねぇし、疲労で限界なんだから後にしてくんねぇかなぁ。


「…………崩れてんなぁ」


 視界一面瓦礫の山だ。

 生きてるのはクールタイムがとっくに空けてた"不屈"のおかげだろうか。

 "妖刀"は武器が散らばってるから切れてんだろうなぁ。

 感覚が繋がらない。

 脳の指令がアバターに届かないし、届かせる気も湧かないから体が動かない。

 燃え尽きてるわ、完全に。


「震えてんなぁ」


 右頬で地面の揺れを感じた。

 ボス殺したから崩壊でも始まったんだろう。

 眼球を上へ動かせば、案の定世界が落ちてきていた。

 鉱石の土砂崩降りだ、その上からは天井が。

 綺麗だなぁ。


「……GG、楽しかったぜ使徒」




 言い忘れていた対戦相手への感謝の言葉。






 それを吐き終えた直後、エリアの崩落に巻き込まれた私は死んだ。

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