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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第6章 少年期 帰郷編

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第五十一話「ルート選択」

 気づけば12歳になっていた。


 気づいたのは、ふと冒険者カードを見た時。

 年齢の欄が12になっていたのだ。

 いったいいつ誕生日が過ぎたのだろうか。

 旅をしていると、日付の感覚が狂いがちだ。


 それにしても、転移から2年か。

 早いものだ。

 だが逆に言えば2年も掛かっているといえる。

 2年も掛けて、ようやく中央大陸へと戻ってくることが出来たのだといえる。


 ここまで来れば、アスラ王国は目前と言っても過言ではないだろう。

 ミリス大陸での道中を考えるに、ここから先も苦労することは無さそうだ。

 金もある、移動手段もある。

 懸念としては、家族の行方がわからない事だが……。

 パウロが組織だって動いているのに、誰も見つかっていない。

 生きていると信じてはいる。

 だが、今更俺がやる気になった所で、そうそう見つかるものではないだろう。



---



 現在位置は王竜王国の最東端、港町イーストポート。

 ウェストポートと同じく、水産業者や輸送業者が幅をきかせている町である。


 宿を取り、作戦会議を開いた。

 いつも通り地図を囲んで、三人で顔を突き合わせる。


「では、これからのことについて話しましょう」


 二人は真面目な顔で地図をのぞき込んでいる。

 何度も繰り返している事で飽きがきそうなものだが、

 難しい話の苦手なエリスでも、この時だけは真剣な顔で聞いている。


「ここからアスラ王国へと向かうルートは3つあります」


 と、俺は買ったばかりの地図を指差しつつ、説明する。

 大まかな村の場所や森の位置が乗っているだけの簡易的な地図である。

 詳しい地図を作ったり販売したりするのは、この国の法律で固く禁止されていた。

 他国に渡るのを恐れているのだろう。

 まあ、大体がわかればいい。


「まず一つは、通常の交易に使われる街道を使うルートです」


 と、俺は地図を指でなぞる。

 王竜山脈を東回りに迂回するルート。


「最も安全なルートですね。

 僕らの移動速度を考えると、到着まで10ヶ月程度でしょうか」


 最も時間が掛かるが、整備された街道を通るため、最も安全である。


「なんで遠回りしないといけないのよ」


 と、エリスが当然の疑問を投げかけてくる。

 彼女はいつだって当然の疑問を投げてくれる。

 素直なので説明がしやすい。


「西回りのルートは、森が広がっているからです」


 俺は王竜山脈の西側を指さし、その疑問に答える。


 王竜山脈の西には、広大な密林地帯が広がっている。

 基本的に馬車は通れない。

 一応、道に詳しいのなら数ヶ月は移動時間を短縮できるそうだ。

 前提条件に乗馬の腕も入ってくるが。

 俺とエリスは乗馬が出来ない。

 ルイジェルドは出来るだろう。

 だが、いくら俺たちが小さいとはいえ、一つの馬に三人で乗るのは無理だろう。

 なので、このルートを通る場合は徒歩となる。

 徒歩の場合どれだけ日数が掛かるのかを調べることは出来なかった。

 基本的に誰もが安全な東回りのルートを選ぶらしい。

 それほど日数に差は無いか、あるいは東の方が早いのだろう。

 急がばまわれってやつだ。


 という事をかいつまんで説明する。


「そう、じゃあ西はダメね」


 エリスも納得してくれた。


「で、三つ目のルートなのですが」


 俺はそう言いつつ、最後のルートを指で示す。

 船に乗り、ベガリット大陸を渡り、捜索しつつアスラへと抜ける。

 こちらは何日かかるかわからない。


「もっとも、こちらのルートは却下です」

「なんでよ」

「危険だからです」


 ベガリット大陸は魔大陸以上に魔力が濃いとされている。

 平均で見れば魔物の強さは魔大陸と同程度だが、

 地下には大量の迷宮が存在しており、

 地上では異常気象が巻き起こる。


 その風土は、一言で説明できる。

 砂漠だ。

 あの大陸は砂で覆われているのだ。

 そして、大王陸亀と同等の大きさを持つ巨大なサソリや、

 そのサソリを主食とするような巨大なワームが跋扈する。


 昼は灼熱、夜は極寒。

 オアシスの類はほとんど無く、休憩することは出来ない。

 また、さらに中央に進むと砂が消失し、なぜか雪が降り積もる極寒の地となる。

 砂漠から、いきなり氷に閉ざされた土地になるのだ。

 そこまで行くと、食える魔物はほとんど出てこなくなるとか。


 そんな所を捜索しながら通り抜ける。

 現実的ではない。


「というわけで、我々は東回りのルートを通ります」

「ルーデウスは相変わらず臆病ね」

「怖がり屋なもので」

「私たちなら大丈夫だと思うけど?」


 エリスはベガリット大陸にちょっと行ってみたいようだ。

 目がキラキラしている。

 だが、ベガリット大陸との距離は、ミリス-中央大陸間とは比べ物にならないほどある。


「長いこと船に乗りますけど、エリスは大丈夫なんですか?」

「…………ベガリットは無しね」


 という事で、俺たちは東ルートを通る事となった。



---



 白い部屋にいた。


 身体の奥底から湧き上がる情動。

 何度もなれないこの感覚を、一言で表そう。

 くそが。


「いきなりクソなんて、相変わらず下品だね、君は」


 モザイク。人神だ。


 チッ、何が相変わらずだ。

 ようやく忘れかけてた頃に現れやがって。


「一年ぶりだね」


 ああ、一年ぶりだ。

 ずいぶんと久しぶりだ。

 もしかしてお前、一年に一度しか顔を出せないのか?

 だとすりゃあ、俺としても心休まるんだがな。


「そんな事はないよ」


 だろうな。

 最初の時は一週間も経たずに顔出したもんな。


「それにしても、君は相変わらず僕に冷たいね。

 僕のおかげで魔眼も手に入ったっていうのに」


 頼んでねえんだよ。

 こんなあってもなくても変わんないようなモノじゃなくて、

 渡航するのに必要な人物と会わせてくれりゃよかったんだ。

 そうすりゃ、牢屋に入る事もなかったし、

 情報のスレ違いでパウロと喧嘩することもなかったんだ。


 さぞ面白かったんだろうな。

 俺が情報を得られずにパウロと仲たがいして、

 落ち込んで、慰めてもらって、

 なんとか話し合って仲直りするのを見るのはよ!


「そりゃもう楽しかったさ。

 でも、いいのかい?」


 いい?

 なにがだよ。


「全部、僕のせいにして、さ」


 チッ……。

 …………くそ。

 この部屋にいると、昔に戻るな。

 何でもかんでも他人になすりつけていたあの頃に。


 俺は反省したんだ。

 反省……ああ、くそ、どんな反省したのか思い出せねえ……。

 なんでだよ、クソ……ちくしょう……。


「ま、それも君の味だよ。

 ちょっと反省したぐらいじゃ、ちっとも前に進めないのさ」


 チッ、いいさ。

 今だけだ。

 眼が覚めれば思い出せる。反省できる。


 だから開き直らせてもらおう。

 開き直ってお前に聞くことにする。


「聞く? へえ、今回は珍しく助言を素直に聞くのかい?」


 ああそうさ。

 けどな、俺の知りたい助言は一つだ。


「何かな? 僕に知っている事なら、答えてあげてもいいよ」


 家族の居場所を教えてくれ。


「君の家族は異世界にいるんじゃあ、ないのかい?」


 茶化すなよ、ゼニス・リーリャ・アイシャの三人だ。

 出来ればシルフィとギレーヌ、フィリップとサウロスも頼む。


「んー」


 なんだよ。

 人がこうやって頭下げて頼んでんだ。

 さっさと教えろよ。


「どうしよっかなぁ~」


 なんでお前はそう上から目線なんだ?

 人の人生を覗き見してるだけのデバガメ野郎の分際でよ。

 お前はなにか?

 自分に都合のいいことしか教えられないのか?


 魔界大帝には会わせても、

 家族には会わせられないか?


「あーあー、ごめんごめん。調子に乗ってたよ」


 わかりゃいいんだよ。


「けどいいのかい?

 今回、僕は嘘をつくかもしれないよ?」


 へえ、嘘!

 ようやくお前からそういう話が聞けたよ。

 そうだな、お前は嘘をつくタイプだよな。


「いや、僕が嘘をつくかどうかじゃなくて。

 君は僕の言葉が信じられるのかって聞いているんだよ」


 いや、信じねえよ。

 今は非常事態だからその通りには動いてやるけど、

 けど、もし一度でも嘘をついたら、二度と助言は聞かねえよ?


「じゃあ約束して欲しいんだ」


 何をだよ。


「もし、次の助言で家族と再会する事ができたら、

 今後は僕のことを信じて欲しいんだ」


 …………。

 お前を信じて、操り人形みたいになれってか?

 お前の言うことをハイハイ聞いて、下僕みたいに仕えろってか?


「いいや、ただ、毎回毎回こうやって喧嘩腰ってのも、

 疲れるじゃないか」


 別に喧嘩腰じゃなくたって疲れるんだよ。

 お前にわかるか?

 出来れば忘れたい、直したいと思っている過去の感覚を引きずりだされて、

 反省した、成長したと思ってる記憶を薄れさせられて、

 朝起きた瞬間にすげぇ卑屈な気分になって凹む気持ちがよ。


「そりゃあ悪いことをしたね。

 じゃあ、ルールでも決めるかい?

 次はこの日に助言する、とか」


 ああ、それは名案だな!

 次に現れるのは百年後ってのはどうだ?


「それじゃ、君が死んでるじゃないか」


 二度と出てくんなつってんだよ。


「はぁ……まぁ、そういうと思ったよ。

 で、いいのかい?

 今回は、助言は無しで」


 ……いや、ちょいまった。

 悪かった。

 俺も妥協しよう。


 もし、今回の助言でうまいこと家族の誰かと再会できたなら、

 俺も喧嘩腰でお前と話をするのはやめにする。


「信用してくれるのかい?」


 いや、そこまでは行かない、

 だが、少なくとも、聞く聞かないの意味のない問答を繰り返すのはやめにしよう。


「前向きだね」


 だからお前も妥協しろ。

 今回みたいに、いきなり顔を出すのはやめろ。

 心の準備をさせろ。

 もしくは別の奴の夢に出て、手紙をよこせ。


「それは難しいね。

 夢に現れるのには、実は条件があるんだ」


 ふむ?

 条件?

 つまり、いつでも顔を出せるってわけじゃないってことか?


「そういう事。

 夢に出るにも波長が合う相手じゃないとダメだからね。

 なかなかいないんだよ。僕の助言をタイミングよく受けられる人物ってのは。

 君は幸運だね」


 ああ、幸せすぎて涙が出そうだぜ。

 この幸せをおすそ分けしてやりたいぐらいだ。

 そこらのゴミムシあたりにでもよ。


 でも、ふうん、そうなのか。

 条件があるのか。

 ちなみに、その条件ってのは?


「さぁ、僕もよくわかってないんだよ。

 ただ、あ、こいつはイケるな、この日はイケるな、って思ったらつながっているのさ」


 へぇ。

 つまり、お前にもコントロールしきれてないってことか。

 じゃあ、ルールはそれは諦めよう。

 別の事にするか。

 そうだな……。

 もう少し、助言の内容を詳しくしてほしい。

 あっちにいけ、こっちに行けじゃあ、何をすればいいのかわからなくて混乱するんだ。

 手のひらの上で遊ばれている感じもしてイラつくし。


「オッケー、詳細にね。わかった、それでいこう」


 よし、じゃあ、頼む。


「ごほん。では、今回の助言を授けます」



---

 次の瞬間、俺の魔眼に、ビジョンが流れこんできた。


 <そこは、どこかの国の裏路地で>

 <一人の少女が乱暴に手を掴まれていた>

 <手を掴んでいるのは兵士>

 <兵士は二人>

 <手を掴んでいない方は少女から取り上げた紙をビリビリに破いている>

 <少女はそれを見て、何かを叫んでいた>


 ビジョンはそこまでだった。

---



 なっ、何だ今のは!


「ルーデウスよ。よくお聞きなさい。

 彼女の名はアイシャ・グレイラット。

 現在、シーローン王国にて抑留されています。

 あなたは今の場面に出くわし、助ける事になるでしょう。

 しかし、決して名前を名乗ってはいけません。

 『デッドエンドの飼主』を名乗り、彼女に事情を聞いてください。

 それから、シーローンの王宮にいる知り合いへと手紙を出すのです。

 さすれば、リーリャ、アイシャの二人を、

 シーローン王宮から救い出す事ができるでしょう」


 えっ、ちょ、なに。

 いや、まった、なんで。

 知り合い? 手紙?


「ちょっと詳細すぎたかな?

 あんまり詳しいと面白みに欠けるから、こんなもんかな。

 さて、君はどっちと仲良くなるかなぁ……」


 え?

 リーリャとアイシャは二人ともシーローン王国にいるの?

 なんで?

 そんな所にいるなら見つからないはずないじゃん。

 仲良くなるってなんだ?

 リーリャとアイシャのどっちかと仲たがいするってことか?


「それではルーデウスよ。頑張りなさい……」


 なさい……なさい……なさい……。

 エコーを聞きながら、俺の意識は沈んでいった。



---



 バッと跳ね起きた。


 ガンガンと頭が痛む。

 圧倒的なめまい。

 そして吐き気。


 俺はベッドを降りて、小走りで部屋の出口へと向かった。


 部屋を出て、トイレに入る。

 便器を覗き込み、即座にゲーゲーと吐いた。


 頭が痛い。


 凄まじい頭痛と吐き気だ。

 足がフラフラする。


 トイレから出る。

 部屋が随分と遠く感じた。

 壁に手を付くと、足から力が抜ける。

 ズルズルと床にへたり込んだ。

 暗い宿屋に、ヒューヒューという音がする。

 何だと目だけで周囲を見渡す。

 すぐに気づいた。

 俺の呼吸音だ。


「どうした、大丈夫か……?」


 気づけば、真っ暗闇に白い顔が浮かんでいた。

 ルイジェルドだ。

 彼は俺の顔を心配そうに見ている。


「ええ……大丈夫です」

「何を食った? 解毒は使えるか?」


 ルイジェルドはポケットから布を取り出し、俺の口元を拭いてくれた。

 自分の出した吐瀉物の匂いで、さらに吐き気が強くなる。

 が、吐くまでには至らず、胸にムカムカしたものが残った。


「大丈夫です……」


 なんとか喉の奥から、そんな言葉を絞り出した。


「本当か?」


 心配そうな声に、俺は頷く。

 この頭痛には覚えがあった。

 ウェンポートで味わったことがある。


「ええ、寝ぼけて予見眼の調整に失敗しただけですから」


 予見眼を使い、10秒以上の未来を見た時、こんな頭痛がした。

 あの時は、頭痛がした時点でそれ以上先の未来は見なかった。

 だが、あれが悪化するとこうなるのだと、直感的に理解できた。


 そして、なぜこんな事になっているのか。

 それも予想できる。

 あの夢、あの助言だ。

 あそこで見せられたビジョン、あれのせいだ。


 人神は俺に未来を見せた。

 恐らく、予見眼を通して。


「このためか……」


 ぽつりとつぶやくと、ルイジェルドが怪訝そうな顔をする。


 港町で魔界大帝に出会い、魔眼を手に入れた経緯を思い出す。

 唐突に出会い、何のためか魔眼を手に入れた。

 渡航するにはまったく意味のない助言だった。

 その後も、魔眼はあまり役に立たなかった。

 いや、魔眼のおかげで何度か一命を取り留めた事も多いのだが、

 それにしたって、無くても何とかなったかもという感じはする。

 逆に魔眼のせいで油断した事も一度や二度ではない。

 差し引きではゼロといえる。


 俺にとっては意味がなかった。

 だが、人神にとっては意味があったということだ。


 ああやって俺に未来を見せるために、

 俺を魔界大帝に会わせたのかもしれない。


 何かの準備が着々と整っている気がする。


 不安が鎌首をもたげた。

 俺の中に、初めて人神への恐怖が生まれた。

 奴が強大な力を持つ何かだと、初めて実感できた。


 奴は、俺に何かをさせようとしている。

 そんな予感に身震いした。


「ルーデウス、顔色が悪いぞ。本当に大丈夫なのか?」 


 ルイジェルドの心配そうな顔。

 それに、俺はそのまま、自分の不安を吐露しそうになった。

 実は俺はあなたと出会った頃から人神に監視されていて、

 奴の言いなりになって物事を進めているのです、と。


 しかし、その瞬間、俺は一つの事実に気づいた。

 『ルイジェルドと出会った頃から』。

 そうだ。

 人神が初めて俺に接触したのは、ルイジェルドと出会う直前だ。

 そして、奴はルイジェルドの手伝いをするようにと助言してきた。


 おかしな話だ。

 なぜ、今まで接触してこなかったのか。

 なぜ、魔力災害の直後に声をかけてきたのか。

 なぜ、ルイジェルドを頼るだけでなく、「助けろ」と助言したのか。


 全てに繋がりがある気がしてくる。

 奴が何かを企んでいるように思えてくる。

 確証はなく、邪推の類である。


 だが、そんな邪推の一つ。

 こんな考えが浮かんだ。


 『人神はルイジェルドに何かをさせるつもりなのではないか』。


 人神は、夢に出るには条件があると言っていた。

 その条件に引っかかり、直接ルイジェルドを操れない。

 だから、条件に合う俺を魔力災害で転移させ、

 ルイジェルドを助けるように誘導し、

 中央大陸まで護衛させたのではないか……。


 ……いや、なら、俺に魔眼を与えたり、

 アイシャを助けるように助言する意味がわからない。


 わからない。

 奴が何を考えているのか……。

 奴にとっては全てが繋がっている事なのかもしれないが、俺にはそのつながりが見えない。


 そして、人神のことをルイジェルドに言うべきか、否か。

 迷った。


「……」


 この不安を誰かに話して解消したかった。

 だが、この男にこれ以上負担をかけるべきではないとも思った。

 俺が人神のことをルイジェルドに話したことで、

 なんらかの条件が整い、人神がルイジェルドに接触できるようになるかもしれない。


 実直なこの男は、きっと、あっさりと人神に騙されるだろう。


 俺自身、騙されていないとは到底思えない。

 思えないが。

 少なくとも、俺が喧嘩腰の態度をとることで、人神はやりにくそうにしている。

 やりにくそうにしているうちは騙されていない……と思いたい。


「ルイジェルドさん。もし辛い時、誰かから甘い言葉を囁かれても、決して信用しないでください。辛い時こそ、騙そうとしてくる奴は寄ってきますから」


 ……結局、俺は言わなかった。

 人神のことを口にはしなかった。


「…………何の話かわからんが、了解した」


 真面目な顔で頷くルイジェルドに、複雑な感情を抱いた。

 彼は俺のことを信用してくれている。

 なのに、俺は隠し事をしている。

 隠しておいた方がいいと判断したのだが、それでも心は晴れない。


 気づけば頭痛と吐き気は収まっていた

 フラフラとする頭を振りながら、部屋へと戻った。


 冴える眼、考えの渦巻く頭。

 眼をつぶると、次々と思考が浮かんできた。

 意味のある思考ではなかった。

 理論的な考えでもなかった。

 出口のない迷路のように、益体もない考えが浮かんでは消えた。

 ベッドに横になっていても、眠れる気がしなかった。


「にゃによ……」


 ふと、そんな寝言が聞こえて、目線を横へと動かした。


 隣のベッドでエリスが大の字になって寝ていた。


 相変わらず寝相が悪い。

 大きく足を広げて寝ている。

 寝間着代わりにしている短パンから伸びる、健康的な足。

 裾から奥が覗けそうな危うい隙間。

 めくれた服と、覗く可愛らしいおへそ。

 真上を向いていても起伏がわかるようになってきた胸。

 寝ている時はブラジャーをつけていないのか、目を凝らせば浮かび上がるぽっち。

 そして、よだれを垂らしながらニマニマと笑う顔。


「んふふ……」


 俺はそんな寝言に苦笑しつつ起き上がった。

 彼女の服の裾を降ろし、毛布を掛けてやる。


「るーでうすはえっちね……」


 だらしのない顔だ。

 人があれこれと悩んでいるというのに事もあろうにエッチとは。

 言葉通り胸でも揉んでやろうか。


 などと考えていると、眠気が戻ってきた。

 俺はあくびをしつつ、ベッドに倒れこむ。


 エリスは流石だ。

 そう思いつつ、すとんと眠りに落ちた。


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