『青天を衝け』では迫力満点の殺陣(たて)やアクションシーンが度々登場しています。そのようなシーンの全体をコーディネートしているのが、アクション監修の諸鍛冶裕太(もろかじ・ゆうた)さん。舞台や映画など数多くのヒット作にも携わっている諸鍛冶さんに、アクションシーンの作り方や、裏話などを伺いました。本編映像とともにご紹介します。
例えば、「斬られる」という振り付けの際には「斬られたくない」という本能が手や身体(からだ)の動きに出るはず。人に覆いかぶさった死体は、その人の重さが全てのしかかり、動かそうとしても簡単には動かないはず。酔った人の演技をするときもそうです。酔った人はまっすぐ歩きたいのに歩けない。でも「まっすぐ歩きたい」という意思が前提にある。その前提を理解しながら演技をするのと、ただ振り付けたものをこなすのでは見え方は絶対違うんです。そういうことを心がけ、演技や動きを引き上げることも僕の仕事です。
作品のなかで人を殺(あや)めたり、斬られたりするという派手なウソを付くために、よりリアリティーを追求しています。
吉沢さんのすばらしいところは“化け方”。練習やリハーサルのときと比べ、本番ではアップデートされていて、それが想像もつかないレベルに仕上がっていくことに感心しました。お芝居もそうですが、動きも本番でどんどん変わっていく俳優さん。理詰めで作り上げていくというより、脳の反射神経と第六感とセンス。そういうところが魅力の俳優さんです。まさか、『青天を衝け』と映画『東京リベンジャーズ』(2021)の両作品でご一緒するとは思っていませんでしたが、僕のやり方、進め方にも納得してくださって、アクションや動くということが好きなのではないかと感じました。
真田範之助の道場破りのシーンのアクションは、助監督さんと、剣術指導の楠見彰太郎(くすみ・しょうたろう)さんと密を避けて公園に集まり、“あおぞら自主打ち合わせ”で作ったものです(笑)。
監督の演出プランを受け、段階を踏もうと話しました。まず道場破りと最初に戦う喜作は一瞬でやられ、みんながキョトンとする。次に栄一。若々しさや、人を斬ったことがない彼が、いきなり殴りこんできた人にどのように挑むかを相談しました。そして、最後は剣術に優れた長七郎。彼の剣の流派をどう魅せるか、公園で立ち回りの組み立てをしました。
喜作が真田に一瞬でやられるところはワイヤーで後ろに引っ張る提案をしました。少しリアリティーに欠けるので迷いましたが、監督、喜作役の高良健吾さんにも快く承諾していただきました。
現場ではワイヤーの勢いで喜作のカツラが飛んでしまうというアクシデントもありましたが、若い彼らの戦いを表現できたと思います。
嫁取り試合のシーンは、“戦う”というよりは、男どうしの情を感じられるシーンにしたいと思いました。お互いへのリスペクトも絶対に出したい。「負けられない」とか「こいつにだったら託してもいいかな」と、いろいろ思いながら戦っている。立ち回りを作っているというよりラブシーンを作っている感覚でした。同時に、万が一間違えたら相手の腕を折ってしまうかもしれない。そのくらい本気で千代を嫁に欲しいという感情も表現したいと思いました。
実はこのシーンは撮影予定が変わって、予定していた日から少し撮影が延びたんです。その空いた期間に、吉沢亮さんと高良健吾さんはほかのシーンを撮影するなかで、よりお互いを理解し、さらに役に“なじんだ状態”でこのシーンの撮影に臨んでいました。その結果、練習のときよりクオリティーがグッと上がったので撮影予定が変わったことはお二人にとっても非常に良かったのではないかと思っています。
何年かこの仕事をやっているので、“坂下門外の変”はほかの作品でも経験したことがあります。『青天を衝け』では、河野顕三という一人の志士に寄り添ったシーンとして台本に描かれていましたので、アクションも河野の視点で作っていきました。
河野顕三を演じた福山翔大さんは、技術に走らずハートで演じる俳優さん。なんといっても彼のそこが好きです。どんなにテクニカルな技術があっても、お客さんを引き付けるのは、どれだけそのシーンに自分のハートをぶつけているかです。謙虚になんでも聞いてきてくれましたし、多分、彼もアクションが好きなのだと思います。
円四郎の最期のシーンは監督にはっきりとしたビジョンがありましたので、あまりコーディネートはしていません。
ひとつやりたかったのは、円四郎が剣を抜きたいけど抜けなかった瞬間。斬られそうになったとき、円四郎がコンマ何秒の間に、気づき、振り向き、剣を抜くという動きを出したかった。見えなくても「斬られたくない」という本気の感情を前提に動いてほしいと、堤真一さんに説明しました。
川村恵十郎役の波岡一喜さんは、長い付き合いで信頼関係のある俳優さんです。円四郎の裏で円四郎を気遣いながら戦う、恵十郎の“壮絶さ”を付け加えたく、現場で動きを変えても柔軟に対応してくださいました。
窮地に陥った栄一を土方歳三率いる新選組が助けるシーンは、狭いセットのなかで、襖(ふすま)なども使って立ち回りを考えました。計算された動きを計算だと見せないことが大事。ドキュメント風に見せるけれどアドリブであってはいけない。それはもう、アクションというよりは俳優さんの演技の部分になってくると思うんです。それを引き出すアドバイスをするのが僕の役目ですし、演技や動きが“腑(ふ)に落ちる”振り付けを考えるように心がけています。
リハーサルをして一度持ち帰ると、監督が言っていたことやカメラアングルのことも考えて「もっとこうしたい」と追加でいろいろ考えてしまい…リハーサルから大きく動きを変えてしまいました。特に土方役の町田啓太さんは大変だったと思います。
岡田健史さんは第25回のシーンでは思いもたくさんあって苦労したと思います。足を引きずるときに“引きずっているふう”になっていたので指摘すると、正直者の彼は「漠然とやってしまっていた」と答えてくれました。具体的にそういったシーンは描かれていませんが……「実はここに至るまでに平九郎は手の指が2本折れていて、膝のじん帯が切れていて、左肘を撃たれているんです。想像してみてください」と助言。すると、次の演技から手の指が2本曲がっていました。
“てい”からもらったお守りを出すシーンも、触れることすら痛いはずなので、痛さを感じながら出してくれと。そのつど、平九郎の体の状態を説明しながら撮影しました。
平九郎が追い詰められるところは、とてもつらいシーン。せめて、この物語の平九郎らしさを表現できるよう、監督の演出プラン、僕のプラン、そして岡田くんの思いを織りまぜ、平九郎らしさを存分に魅せた“最期”を撮影できたと思います。
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