ミルクちゃんはひとつ舌打ちすると、胸元から『タロットカード』を取り出した。



ミルクちゃん

『アルカナの黒幕クズか……。
屈辱的な言葉だ。
ボクの美学には反するけど、ここまできたら仕方ないね。



 ミルクちゃんは両手に『分厚い軍手』を装着している。


 タロットカードは薄い金属製。


 マデュー本来の最終兵器。


 カードタイプの『鋭いナイフ』だ。


 ミルクちゃんの指先がカードにかかった瞬間、天野が素早く叫んだ。



天野勇二

涼太!
来るぞ!



 ミルクちゃんの手首が前後に動いた。


 「シバッ」と空気とカードを切る音が走る。


 その直後には、天野の左肩のギプスの根本まで、1枚のタロットカードが突き刺さっていた。


佐伯涼太

ひぃぃッ!
は、早っ!
早すぎるよ!


 涼太が悲鳴をあげた。


 『カード』は練習すれば時速100km以上の速度で投げることが可能だ。


 目で追うことは難しく、体感では音速に近い。


ミルクちゃん

フフッ……。
可愛い声を出すじゃないか……。


 ミルクちゃんが中指でタロットを連射する。


天野勇二

くそっ!
あぶねぇな!


 急所をカバーしながら天野たちが後退。


 ミルクちゃんはあざ笑いながらカードを弾く。


ミルクちゃん

フフッ……。
カードだと思ってナメてると、痛い目に……



 そう言ったミルクちゃんの足が何かに引っかかった。


 一本の『ピアノ線』だ。


 天野は足首の位置にピアノ線を引いていたのだ。





 やられた。


 これはこちらのやり方だ。





 そう思いながら体勢を崩すミルクちゃんに、天野の無情なる膝蹴ひざげりが飛んだ。



ミルクちゃん

きゃあ!



 ミルクちゃんの黄色い悲鳴を無視して、天野が肘でトドメを刺しに行く。



ミルクちゃん

チィィィィ!



 ミルクちゃんのカードが閃き、天野を無理やり引き離した。


 鋭いカードは確実に頸動脈けいどうみゃくを狙っている。


 首筋を一閃いっせんされれば殺される。


 天野は前蹴りでミルクちゃんを弾き飛ばし、涼太に叫んだ。



天野勇二

涼太!
やっちまえ!
蹴り殺せ!

佐伯涼太

オッケー!



 涼太の二段蹴りバイシクルキックが唸りをあげて襲いかかる。


 ミルクちゃんは意外にも軽快な動きでそれをしゃがんで避けると、涼太の股間にカードを飛ばした。



佐伯涼太

うぎゃああああ!



 涼太の絶叫がとどろいた。


 泡をブクブクと吹いて倒れる。


 股間にカードが深く突き刺さっている。


 天野は舌打ちしながら叫んだ。



天野勇二

富樫!
やれ!
ぶちのめせ!

富樫和親

は、はい!



 富樫は慌てて涼太のスタンガンを拾い、ミルクちゃんに飛びかかった。



ミルクちゃん

富樫様ぁ!
お願いですぅ!
私を助けてください!

富樫和親

う、うぇぇ!?



 ミルクちゃんが甘えた声で叫んだ。


 瞳を濡らし、熱い上目使いで富樫のハートを射抜く。



ミルクちゃん

信じてもらえないかもしれません……。
でも、富樫様のこと……。
本当に好きなんです!
富樫様と仲違なかたがいするなんて、ミルク悲しいです!

富樫和親

ミ、ミルクちゃん……!



 富樫が困惑してスタンガンを下ろす。


 ミルクちゃんはその隙を見逃さない。


 タロットが閃き、富樫の首筋を切り裂いた。



ミルクちゃん

キャハハハハッ!
ムシューは甘いんだよ!

富樫和親

うわぁぁぁぁ!


 富樫の首筋が深く切られた。


 血飛沫ちしぶきプシューと上がり、仰向けに倒れる。


天野勇二

あのバカが……!
前島!
富樫を止血しけつしろ!

前島悠子

は、はい!


 前島が慌てて富樫の首筋に布を当てる。


 かなり深い傷だ。


 止血しなければ出血多量で死ぬ運命にあった。



天野勇二

おらぁ!
てめぇの相手は俺様だよ!



 天野のメスが閃き、ミルクちゃんのタロットを弾き飛ばす。


 ミルクちゃんは舌打ちすると、最大の脅威を真正面から睨みつけた。



ミルクちゃん

チィィッ!
ムシュー!
キミはマジで殺すよ!

天野勇二

それは俺様のセリフだよ!



 天野のメス。


 ミルクちゃんのタロットカード。


 2つの強力な武器が同時に飛んだ。


 それぞれの武器の初速は時速100kmを超える。


 ホテルの部屋という制空権を争い、メスとカードが火花をあげて交差した。






ミルクちゃん

チィィィ!

天野勇二

くそっ!



 互いの武器は強力すぎた。


 皮膚を切り裂き、一撃必殺で殺せる武器だ。


 天野はタロットの直撃を避け、ミルクちゃんもメスから逃げまわる。


 機動力は負傷している天野よりも、ミルクちゃんのほうが上回っていた。



天野勇二

うおおっ!?



 ミルクちゃんのタロットカードが「グサッ」と音をたてて左腕のギプスに突き刺さった。


 天野は片手しか使えないが、左腕が骨折しているのが幸いした。


 ギプスが盾となり致命的な一撃を受け止めてくれる。


天野勇二

くそっ!
生意気な女だ!



 天野はメスをダーツのように投げ続けた。


 メスの一撃は脅威だ。


 目をかするか、動脈を切り裂けば、それで戦闘が終了する。



天野勇二

チッ……!
ちょこまかと、サルみたいに動きやがって……!



 ミルクちゃんは辛うじて致命傷を避けている。


 容易く命中しない。


 衣服や皮膚を切り裂いてはいるが、動きを止めるほどのダメージは与えられない。



天野勇二

いつまで逃げ回るつもりだ?
もう観念しろよ。
アルカナも尽きるはずだぜ。

ミルクちゃん

心配はいらないさ。
1枚あればキミを殺せるよ。
キミこそ、そろそろメスが尽きるんじゃない?

天野勇二

残念だな。
俺様は別にメスじゃなくてもいいんだよ!


 天野は体を反転させ、後ろ蹴りソバットをミルクちゃんの胴に放った。


 重く鋭い蹴りだ。


 ミルクちゃんは後退して避けるが、すぐに壁まで追いつめられた。



ミルクちゃん

フフッ!
キミはホントに乱暴だ!
チィィッ!



 ミルクちゃんは手持ちのカードを全て投げ飛ばし、肩から天野の腰にタックルした。


 左腕が負傷しているとはいえ、所詮は女性のタックルだ。


 軽くさばいて叩き落とせばいい。


 そう油断していた天野の背中に激痛が走った。



天野勇二

ぐはぁぁぁ!

ミルクちゃん

フフッ……!
まだだよ!
まだ切り札はあるんだ!



 背中にミルクちゃんが隠し持っていた小型のナイフが突き刺さった。


 天野はそれを引き抜くと、即座にミルクちゃんの左腕に突き刺した。



ミルクちゃん

きゃああああ!

天野勇二

てめぇ!
俺と同じ痛みを味わえ!

ミルクちゃん

チィィィ!



 ミルクちゃんは天野の鳩尾みぞおちに肘を打ち込むと、そのまま肘をカチ上げ、あごを真下から打ち抜いた。


 これはさすがの天野も予想外だった。


 タロットもナイフも全て布石ブラフ


 ミルクちゃんの切り札は『徒手』だ。


 両腕と自慢の巨乳で天野の頭を捕獲ロックすると、膝蹴ひざげりの連打を放った。



天野勇二

なっ!?
て、てめぇ!
ムエタイかよ!



 天野の顔面に左右の膝蹴りが飛んでくる。


 真下はおろか、横からも膝が軌道を描いて飛ぶ。



 ミルクちゃんの最終兵器はこの格闘技ムエタイだ。


 ムエタイの真骨頂しんこっちょう首相撲くびずもうからの膝蹴りにある。


 膝蹴りのバリエーションと、首相撲のテクニックが、他の格闘技に比べて圧倒的に多い。


 天野ですら逃げることができない。



天野勇二

ぐはぁっ!
くそぉ!
この邪魔な膝が!



 力まかせに離れると、ミルクちゃんの肘が目を狙って飛んでくる。


 片手が使えない天野にとっては避けたい一撃だ。


 それを避ければまた首相撲に持ち込まれ、膝蹴りの連打に襲われる。


 ムエタイは基本的に小柄な人間のための格闘技だ。


 一撃で倒す力がないからこそ、膝蹴りを連発して敵を倒す。



天野勇二

(くそっ、この胸が邪魔なんだ……!)



 天野は右手だけで膝を払いながら、邪魔なミルクちゃんの胸を睨みつけた。


 ミルクちゃんは両腕に自慢の巨乳を交えて、天野を捕獲ロックしているのだ。


 両腕と胸、この3点が相手を逃さない。



天野勇二

このクソアマがぁ!



 天野は限界を感じた。


 ミルクちゃんの左胸を捻り潰すように握る。


 どれだけ身体を鍛えても、胸ばかりは鍛えることができない。


 ミルクちゃんは激痛に顔を歪め、天野との距離をとった。



ミルクちゃん

チィィィ!
テメェ!
卑怯じゃねぇかァァ!



 左胸を押さえながら般若はんにゃの形相で叫ぶ。


 天野も極悪の表情で叫び返した。



天野勇二

卑怯はな、天才クソ野郎への褒め言葉なんだよッ!



 天野のローキックがミルクちゃんの膝を打ちぬく。


 天野の靴先には鉄板が仕込んである。


 ミルクちゃんは激痛に顔を歪めながらも、天野の内スネにローキックを打ち返した。


天野勇二

ぐあっ!


 ミルクちゃんの靴にも鉄板が仕込んである。


 しかもかなり鋭いローキックだ。


 足が痺れ動きが止まる。


 ミルクちゃんはそれを見て、右肘を大きく振りかぶった。


 ガードのできない天野の左側から、フライングエルボーが飛んでくる。



天野勇二

くそがぁ!



 天野は右の掌底しょうていで迎え撃った。


 互いの顔面に肘と掌底が炸裂さくれつ


 通常時の天野であれば、この一撃で決まりだ。



天野勇二

がはぁ!

ミルクちゃん

グゥッ!



 天野もミルクちゃんも床に崩れ落ちた。


 掌底が完璧に命中したのに、ミルクちゃんを倒すことができない。



 如何いかんせん天野の身体はボロボロだ。


 左腕が使い物にならなく、右肩も脱臼だっきゅうした後遺症で力が十分に入らない。


 そして何より、背中の火傷が攻撃力を落としていた。


 一撃を放つ度に激痛が走り、皮膚が裂け、血が吹き出る。


 すでに背中は赤く染まっていた。



天野勇二

くそぉ……!
なんてザマだ……!
この俺様が、こんな小娘に……!

前島悠子

し、師匠!
大丈夫ですか!?

天野勇二

お前は下がってろ!
俺だけでケリをつける!



 天野より早く、ミルクちゃんが立ち上がった。


 狂気の瞳を輝かせる。



ミルクちゃん

ムシュゥゥ!
死ネェェェェ!!!



 ミルクちゃんの身体が跳ねる。



天野勇二

くそっ……。
悪く思うなよ!



 天野は懐に手を入れると、自らの『切り札』を取り出した。


 出てきたのは『小瓶』だ。


 親指でフタを開け放つ。



天野勇二

くらいな!



 小瓶の中身は皮膚を溶かす劇物


 天野の最終兵器薄い硫酸』が入っている。


 ミルクちゃんは小瓶を視認した瞬間、素早くに横へ飛んだ。



天野勇二

なにっ!?



 小瓶に入っていた液体が、ミルクちゃんのいた空間と地面を溶かす。


 ミルクちゃんは体勢を立て直し、ニタリと狂気の笑みを浮かべた。



ミルクちゃん

フフフフッ……!
ムシュー、キミのことは調べたと言ったよね……!



 ミルクちゃんがベッドに飛び乗る。


 スプリングを利用して跳躍した。



ミルクちゃん

残念だけど、ボクのアルカナは、キミの卑怯すら超えるんだよ!



 天野は小瓶を投げ捨て、最後の力を振り絞って立ち上がった。




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26,221

つばこ

天野くんの最終兵器『小瓶』が登場しました!
これまで使用されたのはたったの1回だけ!
『天才クソ野郎の事件簿・42話』にて初披露した攻撃を、まさか見切ってくるとは!!!
 
超絶強キャラミルクちゃんとの死闘は次回に続きます!
お願い、死なないで天野くん! キミがここで倒れたら前島ちゃんとの約束はどうなっちゃうの!? ライフはまだ残ってる! ここを耐えれば、ミルクちゃんに勝て(後略)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!

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コメント 59件

  • メロンパンの皮欲しいです。

    激烈に卑怯な攻撃しかけたのにそれすら避けるとかチートか

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  • rtkyusgt

    チィィィ がツボですww

    というか涼太・・・ご愁傷さま。

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  • なっつん

    顔が怖い

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  • /(^o^)\

    メス何本もってるんや

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  • ゆずか@魔法契約

    天才クソ野郎なにやってんだ笑

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