天野勇二

それがお前の本音か。
だからあの夜、歩道橋で「話が違う」と叫んでいたワケか……。

上等だぜ。
この俺様に牙をいたこと。
地獄で後悔させてやるよ。



 天野はメスを構え、富樫に突きつけた。


 死の輝きを放つ小さな切っ先。


 富樫は必死の声をあげた。



富樫和親

だ、だって……!
しょうがないじゃないですか!


 スタンガンを両手に構えて叫ぶ。


富樫和親

天野さんに言えばミルクちゃんを殺すって、脅されたんですよ!?
僕だって天野さんに相談したかった!
でも、それ以上にミルクちゃんを守りたかったんです!

天野勇二

だからなんだ?
ミルクを守るためなら、前島は死んでもいいと言うのか?
ふざけるんじゃねぇぞ。


 凶悪な表情で怒鳴りつける。


天野勇二

ミルクを守るためなら、前島やハニーが殺されても構わなかったのか!?
無関係な人間がどれだけ死んでも、好きな女さえ生きていればそれでいいってのか!?


 富樫が苦しそうに顔を歪める。


 その顔に叩きつけるように、天野は言葉を吐き出した。


天野勇二

お前は『ミルクというお姫様』を守る騎士ナイトを気取っているが、それは『正義』なんかじゃない。
ただの利己的な『悪』だ。
女のことしか頭にないクズだ。

俺に相談していれば、無関係な犠牲者は出なかったかもしれねぇんだぞ!?


 富樫は首を横に振りながら叫んだ。


富樫和親

でもそうすれば、ミルクちゃんが殺されました!
僕にはそうするしかなかったんだ!


 天野は舌打ちしながら言った。


天野勇二

骨頂こっちょうだな。
お前は最低のクズだ。
俺様が直々に処刑し、マデューと同じ場所に招待してやるよ。
地獄の底だ。


 天野は軽くメスを振り回した。


 園崎とメイドたちが怯えて遠ざかる。


 富樫は全身を震わせながら、両手に握られたスタンガンを突きつけた。


富樫和親

やめてください!
僕はミルクちゃんの傍にいたいんです!
天野さん!
お願いです!

天野勇二

もう手遅れだ。
女を殺した外道をオペしてやる。
ここで血を流したくはないが、致し方あるまい。

富樫和親

僕だって、天野さんを傷つけたくはありません!


 天野は驚いたように富樫を見つめた。


天野勇二

……ほう?
お前、この俺様に勝てると思っているのか?
チビのくせに生意気だな。

富樫和親

た、確かに僕は、弱いです……。
今の天野さんでも、勝てるはずありません……。
でも僕には、これがあるんです……!


 富樫はスタンガンのスイッチを入れた。


 青いランプが点灯する。


 昨日、天野から手渡されたバトンタイプのスタンガンだ。


富樫和親

これがあれば、天野さんだって僕には勝てません……!
お願いです!
もうやめてください!


 天野は心底楽しそうに高笑いをあげた。


天野勇二

フハハハハハハ!
それがお前の切り札か!?
確かにそれは強力だ。
海外製の特注品で、熊でさえ一撃で倒せるほどの威力を持つ。


 肩をすくめて言葉を付け足す。


天野勇二

ちゃんと電気が流れれば……の話だがな。


 富樫は驚いてスタンガンを見つめた。


 スイッチは入っている。


 一見では故障しているように見えない。


 だが、電気が流れる部分に触れることはできないし、まだ富樫もスタンガンの威力を試してはいない。


富樫和親

そ、そんな……。
それはハッタリですよ!

天野勇二

ハッタリではないのさ。
お前、俺様が「本物のスタンガンを渡した」と信じていたのか?

確かにそれは護身用になる。
叩けばダメージを与え、見せるだけでも威圧できる。
だが電気が流れるかどうかは別問題だな。


 富樫は呆然と天野を見つめた。


富樫和親

そ、そんな……。
まさか、昨日の時点で……?
マデューが死ぬ前に、僕のことを疑っていたんですか……?

天野勇二

そうだ。
だから壊れたスタンガンを渡した。

富樫和親

ウ、ウソだ……!
そんなブラフには騙されませんよ……!

天野勇二

じゃあ試してみろよ?
俺様に突き刺してみれば簡単にわかるぜ。

富樫和親

ほ、本気なんですか!



 天野は返答の代わりにメスを物凄い勢いで投げつけた。


 ダーツのようにメスが飛んでいく。


 おまけにコントロールも良い。


 富樫の頬をかすめて飛んでいった。



富樫和親

ひぃぃっ!



 切れた頬から真っ赤な血が流れる。


 富樫は天野の本気を感じた。


天野勇二

グダグダとうるせぇんだよ。
もう素手で十分だ。
潰してやる。


 天野が殺気を込めて前進する。


 富樫はチラリとミルクちゃんを見つめた。


 ミルクちゃんは涙をぽろぽろと流しながら、富樫だけを見つめていた。



ミルクちゃん

富樫さまぁ……。
わ、私はぁ……。


 泣きながら訴えた。


ミルクちゃん

私は……!
富樫様を信じます……!
私には富樫様しかいません……!
お願いですから、どこにも行かないで……!



 その言葉で富樫の決意は固まった。



富樫和親

ミルクちゃん……!
く、くそぉぉぉ!



 富樫は目をつぶると、スタンガンを天野に向かって突き出した。


 ミルクちゃんの傍にいるにはそれしか方法がない。


 スタンガンという最強の武器に頼り、天野という脅威きょういを倒すしかない。


 その想いは、天野の右手によって呆気なく潰されてしまった。



天野勇二

ほらな?
持っても何も起きない。



 右手でスタンガンを掴み、不敵に笑っている。


 富樫が何度スイッチを押しても変わらない。



富樫和親

ウ、ウソだ……。

天野勇二

本当なんだよ。
もうこんなものはいらん。


 壊れたスタンガンを奪い返し、あっさり後方へ投げ捨てる。


 富樫の希望が部屋の隅へ転がっていく。


天野勇二

これでお前には武器がない。

俺様の右腕で体中の骨を砕き、内臓の全てを踏み潰してやる……。

……と言いたいところだが、俺はそこまで優しいクソ野郎ではない。
お前に『真の絶望』を与えるため、お似合いのゲストを呼んでいる。


 天野が右指を「パチンパチン」と鳴らすと、涼太が病室のドアを開けた。


佐伯涼太

勇二、もういいの?

天野勇二

ああ、やはり富樫が『アルカナの黒幕』だ。
しかも俺様に牙を剥きやがった。
もうコイツはダメだ。

佐伯涼太

はぁ、残念だよ。
じゃあすみません。
お願いします。


 涼太の背後から制服姿の男たちが現れた。


 富樫はその姿を見て『真の絶望』を知った。


 警官姿の2人組だ。


 1人はかなり体格が良く、はち切れそうな筋肉の持ち主。


 もう1人は小太りの若い男。


 天野は制服姿の2人に告げた。



天野勇二

このチビが犯人だ。
連れて行ってくれ。

体格の良い警官姿

…………


 体格の良い男が頷き、ギロリと富樫を睨みつける。


 無言だが物凄い圧力だ。


 小太りの男が敬礼しながら言った。


小太りの警官姿

捜査に協力いただき感謝するお。

天野勇二

ああ、早く連れて行け。


 小太りの男が手錠を取り出して富樫に近づく。


 富樫は涙目で訴えた。


富樫和親

天野さん!
待ってください!
僕は本当にやってません!

小太りの警官姿

言い訳は署で聞くお。

富樫和親

やめてください!
本当なんです!
お願いです天野さん!
信じてください!


 天野は冷酷に吐き捨てた。


天野勇二

女にうつつを抜かし、俺様を信じず、しかも牙を剥いたお前の何を信じればいいんだ?
全てのトリックは解けており、それをいちいち説明してやるつもりはない。

どうせ決定的証拠ってのは『自白』しかないんだ。
どうせ警察に自白させられる。
だったら初めから犯人に喋らせたほうが早い。

つまり、お前を絞り上げて聞けばいいだけの話なんだ。


 震える富樫に手錠がかけられる。


富樫和親

やめてください!
僕じゃないんだ!

ミルクちゃん

と、富樫様……。
そ、そんな……。
行かないで……。

富樫和親

ミルクちゃん!
僕は君のために動いたんだ!
僕は、ミルクちゃんのためだけに……!


 体格の良い男が、暴れる富樫をガッチリ羽交い絞めにした。


 筋肉の質が違いすぎる。


 富樫はもう抵抗できなかった。


天野勇二

これで前島も安全だ。
お前を警察署にぶち込まないと、前島が安心して眠れないからな。

富樫和親

天野さん!
本当に僕じゃないんですよ!
それに前島さんは、天野さんが国外フランスに逃亡させたじゃないですか!

天野勇二

おいおい。
バカなことを言うな。
俺様が、いつ、どこで、誰に

『フランスに国外逃亡させた』

と言ったんだ?


 天野は不敵に笑った。


天野勇二

クックックッ……。
間抜けな男だ。
お前はマデューの足元にも及ばないな。

まぁ、マデューはお前が始末してくれた。
それだけは感謝しているよ。
あとは警察署で無駄な言い訳を喚くんだな。
ハニーを殺した罪と、ミルクを殴った罪を一生かけて償え。

富樫和親

そ、そんな!
天野さん!
うわぁぁぁ!
やめてくれぇ!



 富樫は警官姿の2人組に連行されていった。


 涼太が切なげに呟く。



佐伯涼太

マジで富樫くんだったんだね。
僕はちょっと信じられないよ。

天野勇二

だがアイツで間違いない。
マデューの『ダイイング・メッセージ』が決め手になったな。

佐伯涼太

うんうん。
勇二の言う通りだね。


 クリスちゃんが呆然と呟いた。


クリスちゃん

そんな……。
富樫様が……。
本当に、ハニーちゃんとミルクちゃんを……?

天野勇二

そうだ。
だが、危機は去った。
もうマデューたちに怯える必要はないだろう。


 園崎が青い顔で尋ねる。


園崎里葎子

あ、あの人が、悠子ちゃんを襲った犯人の仲間なんですか……?
そ、それじゃ、マネージャーの石崎いしざきさんのことも……?

天野勇二

直接ではないと思うが、間違いなく関与はしているだろう。
それも警察に追及してもらうさ。

園崎里葎子

そんな……。
あんな、若い男の子が……。
どうして石崎さんを……。


 園崎が切なげに肩を落とす。


 隣にいたピンクちゃんが顔を歪めて言った。


ピンクちゃん

ゆ、許せない……!
ハニーちゃんを殺して、私の店でマデューを殺したなんて……!


 ピンクちゃんの怒りは大きい。


 天野は同情するように言った。


天野勇二

まったくだ。
アイツはとんでもない殺人鬼だ。
ピンクは災難だったな。

ピンクちゃん

酷いですよ!
ミルクちゃんを守るためとはいえ、その代わりに、ハニーちゃんを殺すなんて……!


 ピンクちゃんは悔しげに涙を浮かべ、ミルクちゃんも顔を覆って泣いている。


 他のメイドたちもやりきれない思いを抱いていた。


天野勇二

まぁ、これも仕方がないことなのかもしれない。


 気障キザったらしく呟く。


天野勇二

古来から男を操るのは、、そしてドラッグだ。
それに振り回されるのが、男のサガなのかもしれん。


 天野はそう言って病室を後にした。


 涼太はあえて明るい声を出してメイドたちに告げた。


佐伯涼太

じゃあ、僕もこれで失礼するね。
マデューは死んだし、その協力者である富樫くんも逮捕された。
もうみんなに危害が及ぶことはないから、安心してね。


 そのまま病室を出て行く。


 残された園崎とメイドたちは、突然の事態に言葉もなかった。




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つばこ

「捜査に協力いただき感謝するお」
「言い訳は署で聞くお」
 
おや……?
あなたはもしかして……。
緊張すると語尾に「お」がついてしまうタイプの警察官……?
 
ついに『アルカナ編』も本当の本当に大詰めを迎えました。
次回のサブタイトルは『天野くんとアルカナの黒幕』です。
どうか皆さまに楽しんでいただけますように。
 
ではではいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(*>_<*)ノ

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コメント 86件

  • あろまる

    アイコンで分かるから安心するww

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  • 焼きましゅまろ

    天野くん優しいなwwwwwwwwwwwwwww
    本物じゃないしwほんとすこ

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  • ヒバチ

    警官(イベリコ)の「だお」がいちいちツボ笑笑笑

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  • カピバラ@魔法契約

    まだ何か仕掛けがある気がする、、、(間違ってたらやだなあ>_<)

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  • ジャスミン

    よ、よよよかったああああぁぁ汗汗
    これ言っちゃダメかもしれないけどさ、本編で出てきた人を犯人にしてしまうなんてことは、しないんじゃないかなとか思ってたから……

    警察官の人のアイコンを二度見してコメント読んで二週目読んで安心して確信したから、これはもう、間違いない冨樫くんよく頑張りました(*'ω'ノノ゙

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