パトカーと救急車がホテルの部屋に到着し、天野と『アルカナの支配者』との戦いは幕を閉じた。



 ミルクちゃんが持って来た『小包』からは爆弾が発見され、天野たち4人を殺害しようとしたこともあり、無事に警察へ引き渡すことができた。




 実際のところ、天野は『物的証拠』を何も持っていなかった。


 『女帝』の欠片から指紋なんて採取できなかったし、寺嶋組と打ち合わせなどもしていない。


 ミルクちゃんが頭を打ち付けた『金属製の手すり』も調べていない。


 そもそも警察に通報していない。


 石崎が残した『録音ボイスメモ』なんてものも存在しない。


 石崎は落ちる直前に「知らない人に脅された」と叫んでいた。


 それだけの情報でハッタリを仕掛けた。


 ほとんどが天野お得意の『ブラフ』だ。




 天野はミルクちゃんとの死闘により、背中の火傷をより一層悪化させてしまい、長く入院することになった。


 とはいえ、ミルクちゃんはそれ以上の重症だ。


 辛うじて死は免れたが、天野以上の治療が必要になる、とのことだった。



寺嶋

久しぶりだな。
噂通りの無様な姿だ。


 後日。


 天野の病室に1人のヤクザが現れた。


天野勇二

寺嶋さんか。
わざわざ見舞いに来てくれるとは恐れ入る。

寺嶋

よく言いやがる。
お前が呼びつけたんだろうが。


 寺嶋はヤクザの組長にしては気が利いており、豪華なフルーツを持参していた。


 今日はサングラスを外している。


寺嶋

聞かせてもらおうか。
マデューとはどうなった。


 寺嶋の要件はそれだけだ。


 天野は簡単にミルクちゃんのことを説明し、マデューを操る黒幕であることを伝えた。



天野勇二

……とまぁ、そういうことだ。
あとはそちらの好きにしてくれ。



 事件の顛末てんまつも説明。


 ミルクちゃんを誘き寄せ、叩き潰し、自分たちが入院するまでの一部始終だ。


寺嶋

やるもんだな。
よくその体で殺し屋と渡りあったもんだ。


 感心したように天野を見つめる。


 天野は何事もないように言った。


天野勇二

寺嶋組とマデューの関係については、警察に何も話していない。
詳細は知らないしな。

あの女は殺人未遂などの罪に問われるだろう。
だが、実刑じっけいが下るのか、執行猶予しっこうゆうよがつくのか、不起訴ふきそになるのか。
正直わからない。

まぁ、そちらの組も何かと困るだろう。
好きにしてくれ。


 寺嶋は苦笑しながら天野を見つめた。


寺嶋

大したガキだぜ。
警察に突き出した上で、汚れ仕事を俺に押しつけるのか。

天野勇二

まぁ、そうとも言うな。

寺嶋

マデューの相棒が存在するなら、うちの組としては消すしかない。
お前が始末してくれれば話が早かったんだがな。

天野勇二

冗談じゃない。
殺しなんてお断りだ。
警察に突き出すのがカタギの仕事さ。
後のことは知ったことじゃないがな。

寺嶋

まぁ、いいだろう。
お前には手を出すなと、新島会からキツく言われている。
マデューの相棒を洗い出してくれたのは実に助かる話だ。


 寺嶋は黒いサングラスをかけて言った。


寺嶋

あとはこちらの仕事だ。
もうお前に会うことはないだろうが、あの女がお前に会いに来ることもないだろうよ。

天野勇二

そうしてくれ。
助かるぜ。

寺嶋

まったく……。
本当に大したガキだぜ。


 寺嶋はそう言って天野の病室を後にした。


 隣のベッドから、涼太が怯えた声を出す。


佐伯涼太

ね、ねぇ勇二ぃ…‥。
今のって、ミルクちゃんの『抹殺依頼』だよねぇ……。
マジでミルクちゃん殺しちゃうの……?

天野勇二

さぁ?
知らないな。
あとはミルクがどう出るか。
それだけだよ。


 天野は寺嶋の持ってきたフルーツを漁り、嫌そうに舌打ちした。


 好物である『みかん』が入っていない。


 りんごを取りながら言った。


天野勇二

ちゃんとミルクには『警告』してやった。
罪を自白して刑務所に入ったほうが安全だとな。
寺嶋組が存在を忘れてくれるまで、罪を償って更生するのが一番の安全策だよ。

だが、あの性根しょうねの腐った女はそう簡単に更生しないだろう。
助かるために不起訴を狙えば、寺嶋組がきちんと制裁するというワケさ。

佐伯涼太

ひぃぃ……。
勇二は本当のワルだね。
僕は恐ろしくてそこまでの悪魔になれないよ。

天野勇二

俺様は悪だからな。
全く心が痛まないな。
悪の反対はまた別の悪。
悪は悪を持って根絶やしにするのさ。


 涼太の隣のベッドにいる富樫が、ちょっとスネた声を出した。


富樫和親

天野さん……。
いくらなんでも、ミルクちゃんが可哀想ですよ……。


 天野は心底呆れたように言った。


天野勇二

まだそんなことを言っているのか?
バカじゃないのか?
あれだけ殴って説教してやったのに、まだそんなふざけたこと言うのか?



 天野はミルクちゃんにも言った通り、富樫とミルクちゃんが『共犯関係』にあることを恐れていた。


 男を操るのは金、女、ドラッグ。


 ミルクちゃんは全てを持っている。


 富樫をたらしこむのは容易い。


 だからこそ、ミルクちゃんから富樫を引き離すような芝居トラップを仕掛けたのだ。



天野勇二

いいか?
俺様は必要であれば、お前も処刑する覚悟だったんだ。
マデューと同じ地獄の底まで招待してやるつもりだった。
そのことを忘れるな。

富樫和親

は、はい……。
すみません……。


 富樫は肩を落として呟いた。


佐伯涼太

でも、富樫くんが犯人と無関係で良かったよ。
それだけが心配だったもんね。

天野勇二

まったくだ。
まぁ、俺様はそこまで疑っていなかったがな。



 富樫は生々しい自らの顔の傷に触れながら「とんでもないクソ野郎だ」と、悪態を吐いていた。


 天野が「よし、こいつは黒幕とは関係ない」と納得するまで、それはそれは酷い拷問を受けたのだ。



天野勇二

いいか、富樫よ。
相手が女で可愛いから甘く見るというのは、俺様に言わせればそのものだ。

あれが凶悪なツラのクズ野郎だったらどうだ?
お前も極刑を願うだろう?

『美人の巨乳』というだけで肩入れしやがって。
お前みたいな男こそが真のバカなんだ。
お前みたいなバカがいるから、メイド喫茶なんてものが栄えるんだぞ。



 富樫はしょんぼりとベッドの上でうなだれていた。


 全ては愛するミルクちゃんのためだった。


 それなのに、まさかミルクちゃんが『黒幕』だったとは。


 しかも甘いことを言った瞬間に、躊躇ちゅうちょなく首を切り裂くとは。


 天野と一緒に入院し、ミルクちゃんの悪事を理解したのに、抱いてしまった感情はなかなか消えてくれない。


 恋心とは実に厄介だ。



佐伯涼太

勇二の言う通りだよね。
僕なんてジュニアが千切れる寸前だったんだから。

天野勇二

いっそ切れてしまえば良かったのにな。
まさか股間にカードを飛ばされて気絶するとは……。
そこまで弱いとは知らなかった。

佐伯涼太

うんうん。
僕ちゃん油断してたねぇ。


 涼太は素直に頷いた。


 こちらは股間にタロットを突き刺され呆気なくノックアウト。


 そのため天野と一緒に入院している。


 残念なことに、息子ジュニアは生存しており無事だったらしい。


佐伯涼太

はぁ……。
1ヶ月もジュニアを使っちゃダメだなんて……。

前島さんがジュニアを止血してくれてたら、ここまで長引く怪我にはならなかったのにさぁ……。

僕にとってこれほどの絶望はないよ。

天野勇二

ダメだなぁ。
お前らは本当に情けないなぁ。
相手は人殺しだぜ。
どこに遠慮してやる要素があるんだよ。
もっと本気で殺すつもりで立ち向かえ。

佐伯涼太

わかってはいるんだけどなぁ。
僕も勇二みたいに暴力で全てを解決したいよ。


 天野は呆れて言った。


天野勇二

おいおい。
暴力で解決するなんて、野蛮人のすることだぜ?

佐伯涼太

よ、よく言うよ。
勇二のやり方そのものじゃん。

天野勇二

違うな。
『言葉』で解決することが一番の理想なんだ。

暴力による解決を認めることは、体罰などの仕置きを容認することに等しい。
殴って言うことを聞かせるなんて論外。
お前は態度の悪い後輩がいたら、その頭をリモコンでカチ割るのか?

それは『言葉』と『学問』を否定する野蛮人の行いだ。
人としての品格に欠けるな。
俺様をそんなヤツらと一緒にするんじゃない。


 涼太は白い目で天野を見つめた。


 いつもなんだかんだいって、相手をフルボッコにするのはこのクソ野郎だ。


佐伯涼太

どっからそんな偉そうなセリフが出てくるのさ。
ミルクちゃんを『血の海』に沈めたのは勇二なんだよ。

天野勇二

俺様の言葉は残念ながら、あの性根の腐った女には届かなかった。
そうなれば死狂しぐるいで戦うしかない。

殺すこと。
殺すつもりで挑むこと。


これは別物だ。
俺様が冷酷じゃなかったら全滅だったぞ。



 涼太と富樫が「そうは言ってもねぇ」と苦笑していると、病室に2人の男が現れた。


 天野の知人であり、卒業した医学部のOB。


 奥田おくだ小谷野こやのだ。


 今回は無理を言って『警察官役』を演じてもらった。


 富樫を連行した警察官姿の2人組だ。



奥田和彦

やぁ、天野くん。
具合はどうかな?

小谷野小太郎

あ………げ…………


 奥田が心配げに尋ねる。


 小谷野は相変わらず小声のため、何を喋っているのかわからない。


天野勇二

奥田に小谷野か。
今回は面倒な役を頼んでしまい、悪いことをしたな。

奥田和彦

気にしないでよ。
でも、殺人犯を捕まえるための芝居とは思わなかったなぁ。
ニュースを観てビックリしたよ。

天野勇二

さすがにそれを言えば、お前たちがビビると思ってな。


 小谷野が頬を染めながら笑った。


小谷野小太郎

………………あ……………
い……………だ……………
……う…………し…………
……………こ………………


 小谷野の声は小さい。・


 何を言っているのか聞き取れない。


 迫力ある体格の持ち主だが、シャイで気弱な男なのだ。


 天野は「いいんだ。どんな状況でも天野くんに協力できることが、俺の人生にとって一番の幸せだから」とでも言ったのだろう、と勝手に判断して小谷野の手を握った。


天野勇二

また何かあったら頼むぜ。
アテにしてるからな。


 気障キザったらしく告げる。


 涼太が嬉しそうに声をあげた。



佐伯涼太

あっ、勇二!
テレビ見てよ!
前島さんが生放送で出演してるよ!


 天野も嬉しそうにテレビの中の前島を見つめた。


天野勇二

弟子か。
あいつも無事に復帰できたか。


 テレビは前島の記者会見を映している。


 最近の事件や突然の休業について説明しているのだ。


 所属事務所アイケープロに大きな問題が発生したので、他の事務所に移籍した上で、これからも芸能活動を頑張ると宣言している。


 アイケープロは様々なスキャンダルが次々に暴露されており、芸能事務所としては消滅する運命にあった。



前島悠子

皆さん、お騒がせしてしまい、本当にごめんなさい!
師匠のおかげ
で復帰することができました!
これからも前島悠子は流星のように頑張ります!
応援よろしくお願いします!



 前島は純真無垢じゅんしんむくな笑顔で胸を張っている。


 涼太が呆れたように笑った。


佐伯涼太

あはは……。
前島さん、あんなこと言ってる。
また勇二とのスキャンダルが再燃しそうで怖いよ。

天野勇二

ふむ?
スキャンダルになることなんて何もないのになぁ。

佐伯涼太

マジで勇二は前島さんに関して鈍いね。
それ天然なの?

天野勇二

俺様は天然じゃない。
興味がないだけだ。

佐伯涼太

それを聞いたら、前島さんもファンも泣いて憤慨ふんがいするよ。

天野勇二

ふぅん。
なぜ憤慨するのか、俺様にはまるで理解できんなぁ。



 肩をすくめる天野。


 それを見て笑う涼太と富樫。


 そんな彼らの無事を喜ぶ奥田と小谷野。



 アルカナの脅威は去った。


 ようやく天野たちに平穏な日常が戻ろうとしていた。




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つばこ

(『混沌のカルテット』の後日談)
 
宮内「俺はコンパでけっこう活躍したんだぜ」
奥田「ボクと小谷野くんは警察官役を演じたんだお」
小谷野「がん……ば……た……」
川島「ククク……。僕だけ仲間外れ……と思うよね……? ところが、僕もこっそり、天野クンのために登場していたんだよ……。フフフ……」
宮内&奥田&小谷野「えっ( ゚д゚)」
 
 
約半年近くになった『天才クソ野郎とアルカナの支配者』も、次回の「後日談」で最終回を迎えます。
どうか最後の最後までお付き合いいただけますように!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(´vωv`*)

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コメント 60件

  • 川島くんなんど探しても見つからない…見つけた方教えて下さい!

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  • rtkyusgt

    切れる寸前って・・・
    皮1枚で繋がってる図を想像してしまった(笑)

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  • 一方通行

    リモコンはまずい(笑)

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  • コクレア

    それ相撲

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  • まこと

    待て天野。
    先週前島ちゃんを俺の女と言い切ったよな?しかと心に刻んだぞ?本人だって聞いてんゾ?

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