天野勇二

簡単な話さ。
お前らは『糸』『タロット』を使ったんだよ。



 偉そうにミルクちゃんを見下し、叩きつけるように言葉を吐く。



天野勇二

お前らは様々な手段と凶器を用いて俺たちを追いつめた。

交通事故、爆発物、偽装した遺書、滑る薬剤……。
時には手榴弾まで使用していたな。

だが、それは本当の武器を隠すための『ブラフ』でもあった。


 右指を「パチリ」と鳴らし、宙に一本の線を描く。


天野勇二

お前らの主力武器は『糸』だ。

『糸』を駆使して事故死や自然死を偽装する……。
それが『アルカナの支配者』という殺し屋の正体だ。

それを軸に紐解けば、『アルカナ』の正体は自ずと明らかになり、全てのトリックが暴かれることになるのさ。


 天野は足元を指さした。


天野勇二

まずマデューの『首吊り』だ。

お前はマデューが乗っていた『スツールの脚』に透明の『ナイロン糸』を仕掛けておき、動画の撮影後に引っ張った。

それだけで良かった。
それだけでマデューの足元からスツールが消える。
めでたく『マデューの首吊り死体』が出来あがり、というワケだ。


 今度は自分の首元を指さした。


天野勇二

だが、動画の撮影時、マデューは首元の麻縄に『両手』をかけていた。
あれがずっと疑問だった。
撮影後にスツールを倒されても、両手が麻縄にかかっていれば『首吊り』から脱出することは難しくないんだ。

ならば、なぜマデューは両手を離し、即座に『タロットカード』を破り捨て、首筋に『ダイイング・メッセージ』を隠したのか……。

これは『アルカナの正体』を暴くことにより答えが見えてくる。


 天野は懐から1枚の『タロットカード』を取り出した。


 何の変哲もない紙で作られたカードだ。


 何かをかっ切るように振り回す。


天野勇二

このクネクネとした気持ち悪い動作。
これはマデューが『石崎が飛び降りる直前に行った動作』だ。
マデューはこの動作で、『石崎』と『避雷針』に結ばれていた『糸』を切ったのさ。


 マデューを真似て、クネクネと右手を動かす。


天野勇二

あの『タロットカード』はただのカードじゃなかった。
恐らく特殊金属を加工した極薄の素材。
『タロット』でありながら『鋭いナイフ』の役割を果たしていたんだ。

つまり、アイツのクネクネした気持ち悪い動作も、アルカナの正体を隠すための『ブラフ』だったのさ。
タロットを扱う際は、必ず『革手袋』をしていたしな。


 タロットカードを手の中でくるくる回してみせる。


 気障キザでいやみったらしい仕草だ。


天野勇二

マデューがアルカナで『糸』を切った時、石崎は屋上の端に立たされていた。
いつ落下してもおかしくない状況だ。
あの時、石崎を繋ぎとめていたのは、自らと避雷針をつなぐ1本の『透明な糸』だけだった。
それを切られたことで、石崎は殺されてしまった。


 ミルクちゃんは興味もないように天野の話を聞いている。


天野勇二

だが、石崎の身体にそんな『糸』が残っていれば確実におかしい。
だからこそマデューは石崎を脅しながら、様々な紐やロープや鎖で縛りあげた。

これも『糸』を見抜かれないようにするためのブラフ。
木の葉を隠すなら森の中。
糸を隠すなら糸の中、というワケだ。


 ミルクちゃんは疲れたように呟いた。


ミルクちゃん

ふぅん……。
でもそれって、キミの妄想でしょ?
どこに証拠があるの?

天野勇二

残念ながら証拠はない。
避雷針にも『糸』の痕跡はなかった。

だがな、この『アルカナの正体』を元にすれば、首吊りにおちいったマデューの『行動理由』が解けるのさ。


 天野は頭上にある何かをかっ切るように、タロットを振り回した。


天野勇二

マデューは首吊り状態に陥っても、確実に助かる自信があった。
懐には最強の『切り札』がある。
ナイフのように鋭い『金属製のアルカナ』だ。

それで麻縄を切ればいい。
だからマデューは両手を離した。
だが、その『切り札』は、お前にすり替えられていた。

ミルクちゃん

フフッ……。
ムシューの妄想力は立派だ。
感心するよ。


 ミルクちゃんは鼻で笑っている。


 天野は無視して先を続けた。


天野勇二

マデューは心底焦ったことだろう。
カードがすり替えられている。
その時、ようやくお前に裏切られ、処分されようとしていることを理解した。

瞬時にタロットをばら撒き、『女帝』だけをビリビリに破き、『欠片』を首元に隠す。
それが最後の抵抗であり、俺様への『ダイイング・メッセージ』だった。

マデューは俺様がタロットに詳しいことを知っていたからな。
きっと俺なら気づくと信じたのさ。


 ミルクちゃんは苦笑しながら肩をすくめた。


ミルクちゃん

ムシューはすごいね。
あんなキモイ人間の心情が理解できるなんてさ。
ホントに見事な妄想だよ。

でもね、それじゃボクは逮捕できないんだ。
警察は妄想じゃ動かない。
すでにマデューは『自殺』として処理されてるしね。

天野勇二

おいおい……。
いつまで余裕のポーズを崩さないんだ?
マデューが本当に『それだけ』を残したと思うか?
お前、タロットをすり替える時、ちゃんと手袋をしたんだろうな?



 ミルクちゃんの笑みが止まった。



天野勇二

気づいたな。
『女帝の欠片』には、マデューと『もう1人の指紋』が残されていたんだ。

誰かわかるか?
お前だよ。
お前という、バカで愚かな小娘の指紋だよ。
お前が無関係なら、指紋が残っているはずがないんだがなぁ。


 叩きつけるように次の言葉を叫ぶ。


天野勇二

そして石崎だ!
石崎に接触したのはマデューではなくお前だ。
自らの『身体』『金』を使い、情報提供を持ちかけたな?
なぜそうだと、俺様が断言できるのかわかるか?



 ミルクちゃんの表情が固まってきた。


 天野は手応えを感じて叫んだ。



天野勇二

石崎はな、お前との会話を『録音』していたんだよ!

その記録は警察に提出済みだ。
お前はもう『事件性のない無関係者』じゃないんだ。
すでに被疑者としてマークされているんだよ。 



 ミルクちゃんは引きつった笑みを浮かべた。



ミルクちゃん

ムシュー……。
キミはハッタリの達人だね。

だけど、そんなブラフにボクは引っかからないよ。
あんな細い麻縄に隠れたタロットの欠片なんかに、ボクの指紋が残っているワケがない。

それに石崎だっけ?
そんな男は知らないね。


 天野はニタリと口唇を歪めた。


天野勇二

ほう?
お前は麻縄の太さも、石崎というマネージャーが『男』であることも知っているのか?
不思議なことがあるものだな。



 ミルクちゃんは一瞬、明らかな動揺を浮かべたが、すぐに表情を作り直した。



ミルクちゃん

麻縄の太さなんてたかが知れてるさ。
石崎のことは新聞で報じられたから知っているだけだよ。

天野勇二

石崎の性別なんてどこも報じてないぜ。
どこの新聞を取ってるんだ?

ミルクちゃん

な、なんだって!?
そんなワケ……!



 ミルクちゃんはそう言うと、悔しそうに顔を歪めた。



ミルクちゃん

……キミは本当にイヤな男だ。
ボクの言葉の揚げ足を取ろうとしてるのか。



 天野は右指の人差し指を「チッチッ」と揺らせた。



天野勇二

そうなんだよ。
これも全て『ブラフ』さ。
罪状を少しでも増やしてやるためのプレゼントだよ。

さっきも言ったが、お前はこの部屋に来た時点で詰んでいるんだ。
ここに現れたことが『黒幕』であることの証明。
そして今は、俺様の無様なゲームに付き合わされている、哀れな殺し屋だ。




 ミルクちゃんは「ふぅ……」と長い息を吐いた。



 そこに余裕の表情はない。



ミルクちゃん

まいったね。
ムシューは本当に『天才クソ野郎』だ。

正直に言うとね、キミと接触するつもりはなかったんだ。
前島悠子の近くにいる男……。
どんな男なのか、徹底的に調べ上げたからね。


 冷たい瞳で言葉を続ける。


ミルクちゃん

ボクはすぐに気づいた。

キミは危険すぎる。
キミに手を出すべきではない。
絶対に接触してはいけない。

マデューにもそう言ったんだ。
なのにアイツは、キミの挑発に乗って余計なことを喋りやがった。
本当に使えないヤツだ。

天野勇二

そうだ。
お前の完敗なんだよ。
俺様も正直に言おう。



 天野がタロットを投げ捨てる。


 それを合図にしたように、涼太が両手にスタンガンを持ち、天野の隣に並んだ。



天野勇二

お前みたいな最悪の犯罪者を生きて帰す気はない。
警察に突き出しても不起訴になる可能性が高いのであれば、俺様が直々に裁きを下してやる。

ああ、今判決が出た。
『死刑』だ。

この場で抹殺し、完全犯罪を実現してやる。
寺嶋ともそれでいくように話がついているんだ。

ミルクちゃん

て、寺嶋組を使うのか?
バカな……。
あそこが動くはずない!

天野勇二

動くんだよ。
ほら、寺嶋組長の名刺だ。


 偉そうに名刺を見せつける。


 呆れたように言葉を紡いだ。


天野勇二

何せマデューは死んだからな。
寺嶋組としても、お前を消さなければ困るんだよ。

お前は愚か者だな。
マデューより上と思っているあたりが実に愚かだ。
お前みたいな雑魚よりマデューのほうが脅威だったぜ。
お前はマデュー以下のクズだ。



 ミルクちゃんは心底嫌そうに顔を歪めた。



ミルクちゃん

ボクがマデュー以下だって……?

その発言は聞き捨てならないね。
ボクこそが真の『アルカナの支配者』だよ。

マデューの行動は全てボクの指示なんだ。
アイツはボクの指先で動く傀儡かいらいだよ。


 天野は心底楽しそうに叫んだ。


天野勇二

あっはっはっ!

ならば、お前の作戦は全て失敗しているじゃねぇか!
お前はもっとうまくハニーとマデューを始末するべきだったんだ。

さぁ、ミルクよ。
どうやって逃げる?



 天野は極悪の笑みを浮かべた。



天野勇二

俺たちは怒りに燃えている。
寺嶋組は邪魔者となるお前を消すために、もう家探しに動いている。
警察も被疑者であるお前を探している。

もう逃げ道はない。
もし逃げられる場所があるとすれば、ここだけさ。



 天野は地面を指さして叫んだ。



天野勇二

マデューと同じ、地獄の底だよ!

もうお前の人生は終わってるんだ!
今は俺様こそが『アルカナの支配者』なんだ!

この場で殺してやるよ。
覚悟しやがれ。
『アルカナの黒幕クズめが!



 ミルクちゃんは悔しげに顔を歪め、天野を睨みつけていた。




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つばこ

天野くんはどうにかしてミルクちゃんに「ギャフン」と言わせたいので、謎解きの合間にいくつかブラフをぶち込んでます。
そのため「いつ指紋とか採取したの?」とか「録音なんかあった?」と違和感を覚えた箇所があったのではないでしょうか。
そうです。それがブラフです( ゚д゚)
 
さぁ、次回はミルクちゃんとの直接対決!
この黒幕、そう簡単に捕まるガールじゃありません!!!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!(`・ω・´)ゞ

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コメント 40件

  • あろまる

    殺されちゃうのかなぁと思ったら、まだ大丈夫そう?
    クソ野郎様が人殺しても、嫌いにならないだろうなぁ。

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  • ゆんこ

    いろんな漫画とかノベル読んでたら、

    ん?これってブラフなんじゃね?

    とか思うようになったよ。

    _人人 人人 人人人 人人_
    > 天クソ野郎の読みすぎ<
     ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

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  • まこと

    ミルクちゃんがいつの間にか黒幕だと認めた上で捕まらないと宣言してる図

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  • ナニワの46兎

    富樫くんミルクちゃんを愛しているなら自らの手で警察に突き出すんだ…

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  • ミルクティー

    ミルクちゃんのセリフの絵の歪んだ顔が怖い

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