【悲報】今年のクリスマスは中止になりました
天才クソ野郎の事件簿24 -TWENTY FOUR-
第19話「天野くんのクリスマスイブ 18:00~19:00」
12月24日 18:00~19:00
12月24日。クリスマスイブ。
爆発予定時刻1時間前の18時。
前島悠子
うわぁい!
師匠!
本当に来てくれたんですね!
天野とメイが楽屋に飛び込むと、前島が満面の笑みで出迎えた。
人気アイドルの前島とはいえ、常にステージに立っている訳ではない。
ちょうど出番待ちの空き時間だったのだ。
前島悠子
どうですか師匠!?
今日の衣装!?
素敵ですか!?
天野勇二
おい弟子よ。
邪魔だ。
そこをどけ。
前島悠子
結構スカートが短いんですよぉ。
こんなに寒いのに生足なんて困っちゃいますぅ。
師匠ってばあんまり見ちゃダメですよ。
天野勇二
ああ、興味ないぞ。
安心しろ。
それより邪魔だから……。
柏田麻紀
天野さん!
お久しぶりです!
横から柏田が割り込んだ。
柏田麻紀
柏田です!
その節は本当にありがとうございました!
天野勇二
ああ、柏田か。
久しいな。
君もそこをどい……。
柏田麻紀
天野さんにお会いしたら、お願いしたかったことがあるんです!
連絡先を教えてください!
電話番号やメアドがダメならLIMEでも構いません!
お願いします!
前島悠子
ちょっとまきりん!
前島が割り込んだ。
前島悠子
師匠は私の師匠なんだよ!
連絡先交換なんて弟子が認めません!
柏田麻紀
どうして?
お弟子さんに拒否する権利なんてないもん。
前島悠子
ありますぅー。
私たちの師弟関係にはあるんですぅー。
言い争いになった隙を狙い、また別の娘が割り込んだ。
マユコ様
天野さん。
お久しぶりです。
いつかは私のせいでご迷惑をおかけし、本当に申し訳ございませんでした。
天野勇二
ああ……。
君は『マユコ様』だったな。
別に君のせいではない。
それより君もどい……。
マユコ様
あの良かったら、私と連絡先を交換してくれませんか?
天野さんはSNSとか、何かやってませんか?
前島悠子
ああっ!
マユコさんズルい!
なんで師匠と連絡先を交換するんですか!
柏田麻紀
そうですよ!
私が先です!
天野勇二
くそっ、何なんだお前ら!
邪魔だ! どけ!
どけってんだよ!
楽屋は大変な騒ぎになった。
マネージャーの川口はため息を吐き、他のグループの娘たちはワクワクしながら見守り、末妹である胡桃は「ちい兄ちゃんモテモテだなぁ」とキラキラした瞳を浮かべている。
その胡桃に、メイが近づいた。
メイ
胡桃おねぇちゃん、もっとはやくメールしてよぉ……。
パパってばしんぱいしてたよ。
天野胡桃
ごめんね。
悠子お姉様に芸能人のお友達を紹介してもらってたの。
今日出演するアーティストの皆さん全員からサインを貰ったんだよ。
メイ
えっ! いいなぁー!
天野胡桃
メイちゃん見る?
メイ
みる!!!
きゃあきゃあと楽屋は大騒ぎだ。
テレビ局のスタッフが「さすがにうるさいな」と注意しようと思った瞬間、天野が吼えた。
天野勇二
邪魔だ!
それどころじゃねぇんだよ!
全員、俺様から離れやがれ!
女の子たちは「ビクッ」と硬直し、慌てて天野から離れた。
とにかく天野が放つ殺気は怖い。
脅しだけならば、本職の極道と何ら変わらない。
天野は「フン」と鼻を鳴らすと、まずは胡桃に近づいた。
天野勇二
おい胡桃よ。
待ち合わせ場所に連絡なしで来ないとは、どういう了見だ。
胡桃はしょんぼりと肩を落とした。
天野胡桃
うん……。
つい夢中になっちゃって……。
ちい兄ちゃんたちを待たせて、本当にごめんなさい……。
天野勇二
違う。全然違う。
俺様が言いたいのはそんなことじゃない。
天野は胡桃に近づき、とびきりの甘い笑みを浮かべた。
天野勇二
心配するじゃないか。
お前は世界一の美少女なんだ。
お前ほど可愛い娘はこの世に存在しない。
俺は心配でしょうがなかった。
お前にはすぐ悪い虫が寄って来るからなぁ。
天野胡桃
うふふ。
おかしなちい兄ちゃん。
虫なんて寄って来ないよ。
今は冬だもん。
天野勇二
いや、その虫じゃない。
天野胡桃
ちゃんとお風呂にも入ってるから、ハエさんも来ないよ。
天野勇二
だからその虫じゃない。
……まぁ、無事で良かった。
遅れるのも来ないのも別に構わない。
ただ、心配させないでくれ。
いいな。
天野胡桃
うん。
ちい兄ちゃん、心配してくれてありがとう。
天野は温和な笑みを浮かべて胡桃の頭を撫でている。
前島は唖然とした。
いつもは凶暴な肉食獣のような男なのに、胡桃の前では牙の抜けたライオン……いや、コタツで丸くなっているネコのようだ。
メイ
パパはほんと胡桃ねぇちゃんに甘いよ。
ちゃんとしからないとダメだよ。
天野勇二
あっはっは。
メイよ、胡桃が何か悪いことをしたのか?
メイ
いや……。
さすがにまちあわせしてたんだから、こないのは悪いとおもうけど……。
天野勇二
まだメイは子供だな。
前島という芸能人に会ってしまえば、約束を忘れてしまうのも無理はないさ。
メイ
そうかなぁ……。
メイは納得がいかない表情だ。
天野は「さて」と呟くと前島に向き直った。
天野勇二
前島よ、今宵のお前に『爆弾』が仕掛けられるという情報を掴んだ。
お前も観衆も殺されるかもしれない。
非常に危険だ。
最悪の事態になる前に阻止するぞ。
前島悠子
いやいやいやいや……。
前島は慌ててツッコミを入れた。
前島悠子
温度差!
温度差が激しい!
私と胡桃ちゃん、この会話の温度差が激しすぎます!
12月24日。クリスマスイブ。
爆発予定時刻30分前の18時半。
天野勇二
……というワケだ。
山崎という男は恐らく、お前を狙って爆弾を作動させる。
ステージ上で爆発が起これば、出演者や観客を含めてかなりの負傷者が出るだろう。
天野は手短にこれまでの経緯を説明した。
表情は真剣そのもの。
前島もようやく「マジだ」と実感することができた。
前島悠子
ど、どうしましょう。
もうステージ袖でスタンバイしなければなりません……。
他のアイドルたちはもうステージ袖へ向かっている。
18時前からライブを始めるのだ。
話せる時間なんて、あと5分ほどしかない。
川口由紀子
天野様! 大変です!
楽屋裏にマネージャーである川口が飛び込んで来た。
川口由紀子
山崎さんはここにいません!
どうやらどこかのホテルの最上階にいるようです!
中継を挟んで出演されるようですが、場所までは判明しませんでした……。
川口に命じ、山崎を探させていたのだ。
天野は舌打ちした。
天野勇二
山崎を追うのは諦めよう。
もう間に合わない。
前島悠子
師匠、そうなると、これが怪しいかもしれません……。
前島は震える手で『プリっち』を取り出した。
新色のローズダイアモンドピンク。
前島悠子
山崎さんから、これでイルミネーションを点灯させるよう言われたんです……。
アプリをタップすると音声が流れて、それが作動スイッチになってるらしくて……。
天野勇二
音声で起爆させるのか……。
嫌なやり方を選びやがる。
どこでそれをタップするんだ。
前島悠子
特製クリスマスツリーの、真下なんです……。
前島はもう涙目だ。
握っている『プリっち』が恐ろしい。
これ爆弾が仕掛けられているとすれば、前島はそれをずっと所持していたことになるのだ。
天野勇二
間違いなくそれだ……。
恐らく『プリっち』本体ではなく、ツリーに『爆弾』が仕掛けられているのだろう。
そのアプリは他の『プリっち』でも使えるのか?
隣で覗きこんでいたメイが口を挟んだ。
メイ
うん、これつかえるよ。
あたしの『プリっち』にもはいってる。
言葉をろくおんしてね、それをながすだけなの。
天野勇二
ならば、特殊な帯域を録音しやがったな。
解析する時間もないか……。
前島悠子
この『プリっち』が爆弾……ではないんですか?
天野勇二
ああ、これは小さい。
殺傷能力が物足りないだろう。
相手がそこまでの高性能爆弾を持っているとは考えにくい。
お前だけを殺すなら、これで十分だと思うがな。
前島悠子
ひぃぃぃ……。
どちらにしても怖いですよ……。
前島は涙目で訴えた。
前島悠子
でも師匠、どうすればいいんですか!?
今からイベントの段取りを変えることは出来ません!
それに、山崎さんが他にも爆弾を仕掛けていたとしたら……!
イルミネーションはお台場のあちこちにあります!
どうやってその全てを防げばいいんですかぁ!?
天野はじっと思案した。
灰色の脳細胞がフル回転している。
天野勇二
……時間がない。
もう、これしかあるまい。
天野は静かに立ち上がった。
スマホを取り出して涼太に電話をかける。
目の前には心配そうな、前島と、胡桃と、メイと、マネージャーである川口の顔。
その全てを眺めながら、天野は告げた。
天野勇二
今からこの天才クソ野郎が作戦を告げる。
全員心して聞き、俺様の言う通りに動け。
いいか、今年のクリスマスを中止にするぞ。
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