白石琴乃

そうね。
とにかく見て。
たぶん事件が大きく進展する。
望月が『ロリコンサイコパス』である決定的証拠を見つけたのよ。



 涼太は驚いて尋ねた。



佐伯涼太

……えっ?
マ、マジで!?
何があったの!?

白石琴乃

書斎しょさいに使ってた部屋だと思うんだけど……。
ここがとんでもないの。
見た瞬間ぞっとした。
先に言っておくけど、すごく気持ち悪いわよ。



 スマホの画面はリビングから廊下を進み、やがてひとつの部屋にたどり着いた。


 確かに『書斎』と思われる部屋だ。


 大きなデスクが置かれ、医学書などが詰め込まれた本棚が並んでいる。


 問題はその一角。


 涼太はその光景を見て、思わず言葉を失った。



佐伯涼太

……ちょっと。
何これ……?
それ全部、胡桃ちゃんなの……?



 壁一面に『女性の写真』が貼られている。


 全て胡桃だ。


 それも最近の写真ばかりではない。


 赤ん坊や幼少時の姿。


 小学校の入学式。


 七五三と思われる振袖姿。


 運動会や合唱コンクールの発表会。


 海辺やキャンプ場ではしゃいでる姿。


 制服姿で微笑む中学校の入学式。


 友達と歩いている帰り道。


 どこかで勉強している姿。


 フルーツケーキを頬張っている横顔。


 どんどん成長していく胡桃の写真が、びっしりと壁に貼られている。



白石琴乃

ええ……。
間違いなく天野くんの妹さん。
記念撮影みたいなのもあれば、隠し撮りされてるものもある。



 恐らく数百枚はあるだろう。


 笑顔だったり、正面を向いていたり、横顔だったり、本やスマホを眺めていたり。


 胡桃の承諾を受けていないと思われる写真が多い。


 1枚だけ顔に「×印」が書き足されているが、それ以外は綺麗な写真ばかりだ。


 涼太は鳥肌とりはだを立てながら言った。



佐伯涼太

うわぁ……!
き、気持ち悪い……!
キモい!
キモいにも程がある!
あのサイコパスメガネ野郎、マジでロリコンだったんだ……!

牧瀬美織

涼太さん。
これだけじゃないんです。
こっちも見てください。

佐伯涼太

えっ?
ええっ?
まだ何かあるの?


 牧瀬が『書斎』のクローゼットを開け放った。


牧瀬美織

『ウェディングドレス』です。
たぶん安物じゃありません。
さすがに値段はわかりませんけど、結構な品物だと思います。

佐伯涼太

…………!


 涼太はあんぐりと口を開けながらそれを見つめた。


 クローゼットの中央に、純白のウェディングドレスがかけられている。


白石琴乃

まだ驚くのは早いのよ。
クローゼットの中には、盗んだと思われる『私物』があるの。


 琴乃がクローゼットの奥からダンボールを引きずり出した。


 中に入っているのは、女性物の靴、スカート、制服、ジャージ、スクール水着、下着など。


 いくつかには『かんざきくるみ』と、名前が書かれたものもある。


 涼太はプルプル震えながら尋ねた。


佐伯涼太

う、う、嘘でしょ……?
それまさか、胡桃ちゃんの私物……?
子供サイズの下着もあるじゃん。
望月はそんなのを集めてたってこと……?

白石琴乃

間違いなくそうだと思う。
これがダンボール5箱分もあるの。
涼太さんには見せたくない箱もある。
望月ってヤツは、『ロリコン』『変態』を飛び越えた『精神異常者』ね。
天野くんがあれほど執着していたのも納得だわ……。

佐伯涼太

うわぁ……。
ありえない。
ありえなすぎるって。
キモすぎて吐きそう。

白石琴乃

それはこっちのセリフ。
今この場に望月がいたら問答無用で殴ってる。
しかもね、こんなものまで落ちてたのよ。


 琴乃がスマホを動かし、ウェディングドレスの真下を移した。


 いくつかの雑誌やパンフレットが置かれている。


 牧瀬がしゃがみこみながら言った。


牧瀬美織

『結婚情報誌』『結婚式場のパンフレット』です。
どれも都内の有名所ばかり。
一部には付箋やマーカーまで引かれてるんです。
その中に……。


 牧瀬が1枚の紙を取り出した。


 涼太は口元を押さえながら言った。


佐伯涼太

婚姻届こんいんとどけじゃん……!
しかも、望月の名前とハンコが押されてる……!

白石琴乃

そうなの。
望月がこれを誰と使うつもりだったのか……。
考えるまでもないわよね。


 琴乃が顔を歪めながら言葉を続ける。


白石琴乃

さっきテラスで前島さんが言ってたけど……。
今日は妹さんの『誕生日』なんでしょ?
いくつになったの?
もしかして『16歳』じゃない?

佐伯涼太

う、うん……。
そうだよ。
胡桃ちゃんは『16歳』になるんだけど……。

白石琴乃

じゃあ間違いないわね。
もう胡桃ちゃんは結婚できる。
だけど、2022年の4月から女性の『婚約可能年齢』『18歳』に上がるでしょ?
今なら『16歳』で結婚できるけど、来年になったら『18歳』まで待たなくちゃいけない。
もしかすると、これが関係してるんじゃない?


 涼太は呆然と呟いた。


佐伯涼太

望月は胡桃ちゃんとの結婚を考えている……。
それなら今は絶好の時期といえるんだ。
この時期を逃したら、あと2年も待たなくちゃいけない。
つまり……。

牧瀬美織

それが望月が動き出した『理由』かもしれません。
いち早く胡桃さんと結婚したい。
そう考えている可能性が高いと思われます。
これだけの異常者であれば、なんらかの行動に出てもおかしくないですよ。


 琴乃も牧瀬も、不快感たっぷりの表情を浮かべている。


 涼太は吐き気を堪えながら、懸命に思考を整理していた。



佐伯涼太

(望月の『目的』は胡桃ちゃんと結婚すること……? いや、そんなの実現できないでしょ。胡桃ちゃんがオッケーするはずない。勇二だって許可しない。そもそも未成年者の結婚は、両親の同意が必要になるんだし……)



 未成年の女子高生と結婚するためには、どうすればいいのか。


 まず胡桃と真剣交際する。


 その上で家族を説得する。


 常識的に考えれば、そんな手段を取るべきだろう。


 しかし、道徳観念が欠如した精神病質者サイコパスに常識は通じない。


 真人間である涼太には理解できない思考を展開しても不思議じゃない。


 家族や兄を『邪魔者』と判断し、排除することもありえる。


 望月は胡桃の血縁者を『皆殺し』にするつもりなのだろうか。



佐伯涼太

……あ、あのさ。
実はひとつ、気になることがあるんだよね……。



 涼太が震える声で言った。


 この部屋には望月の倒錯とうさくした欲望が渦巻いている。


 しかしひとつだけ、それとは矛盾したものが存在する。


佐伯涼太

もう一度……。
壁の写真を見せてくれないかな?

白石琴乃

いいわよ。
何か気になることがあった?

佐伯涼太

うん……。
1枚だけ『×印』が書き足された写真があるでしょ?
それも胡桃ちゃんの写真なのかな?

白石琴乃

ああ、それね。
実は私も気になったのよ。


 琴乃がスマホのカメラを壁に向ける。


 壁一面に貼られた胡桃の写真。


 その中に1枚だけ、顔に『×印』が乱暴に書き足されている。












佐伯涼太

それは……。
やっぱり胡桃ちゃんだ。
高校の制服を着てるから、最近の写真だよね。

白石琴乃

たぶん秋葉原アキバで隠し撮りしてるわね。
もしかすると『JK散歩』をしていた時の写真かも。
遠くに小さく写ってるの、私と涼太さんじゃない?

佐伯涼太

それっぽいね。
僕たちが尾行している時かな?
なんでそれだけ、顔に『×印』が書かれてるんだろう……?


 涼太が首を傾げていると、遠くで「あのぉ……」という男性の声が聞こえた。


佐伯涼太

うわっ……。
今の声って誰?

白石琴乃

管理人さん。
さすがにこの状況は無視できないでしょ。
だって明らかに『私物』を盗んでるんだもの。
管理会社に連絡してもらってたの。

佐伯涼太

ああ……。
そっか。
それもそうだね。



 涼太は納得したように頷いた。


 部屋に女子高生の制服や下着がある。


 しかも窃盗物せっとうぶつである可能性が高い。


 管理人としては管理会社に報告しなければならない。


 当然ながら通報されるだろう。


 涼太は迷いながら言った。



佐伯涼太

……わかった。
すっごく混乱してたけど、ようやく状況が把握できた。
コトちゃんたちは管理人さんに従って。
警察に通報しちゃっていいよ。

白石琴乃

そうね……。
そうするしかないみたい。
だけど、これで望月を逮捕することができそう。
さすがに言い逃れできないもの。

佐伯涼太

言えてる。
嘱託しょくたく殺人』についても調べてくれれば最高だね。
もう勇二には伝えた?

白石琴乃

まだ連絡つかないの。
天野くん、電話に出ないんだもの。

佐伯涼太

そっか。
じゃあ僕から……。

……あっ、ちょっと待って。


 スマホに着信が入った。


 天野からの着信かと期待したが、画面には別の人物の名前が表示されている。


佐伯涼太

富樫とがしくんから電話だ。
何かあったのかも。
あとでかけ直すね。

白石琴乃

お願いね。
連絡待ってるから。


 ビデオ通話を切る。


 すぐさま富樫の着信を受けると、



富樫和親

……あっ!
涼太さん!?
今大丈夫ですか!?
大変なんですよ!



 スマホの向こうから富樫の大声が響いた。


 随分と慌てている。


 明らかにただ事ではない。


佐伯涼太

ど、どうしたの?
何かあった?

富樫和親

はい……!
さっきまで病院で聞き込みをしてたんですけど、それどころじゃないことがわかって……!



 富樫は震える声で叫んだ。



富樫和親

天野さんの『お兄さん』が行方不明なんです!
どうも今日の朝から、病院を抜け出したんじゃないかって、大騒ぎになってるんですよ!






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つばこ

【質問コーナー】
Q:つばこさんのタイプは、女子キャラだと誰ですかー??
A:これは桃香ちゃんですね。つばこは基本的に強い女の子が大好きなんです。ぶっちゃけると結構贔屓してまして、さりげなく美味しい役どころを与えたりしてます。例えば『異世界編』とかそうですね。あれは「本編の脇役は一切登場させない」というルールを課していたんですが、桃香ちゃんだけ例外にしました。なので本音を言えば「望月が桃香ちゃんを狙ってくれれば桃香ちゃんをいっぱい書けるのに(´・ω・`)」なんて思ったりしてます。いったい桃香ちゃんがどのように登場するのか『異世界編』もチェックしてください!(宣伝)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(`・ω・´)ゞ

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コメント 12件

  • 栖-sumika

    完全にストーカー胸クソ野郎だったな…。

    でも「何故胡桃なのか」っていうとこが明かされてないね。
    赤ちゃんの頃の写真もあるなら「一目惚れ」とかじゃないよね。
    やっぱり胡桃の「実の両親」に関係あることなのかな…?

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  • ゆっきー

    望月キッモ!!ひたすらキモすぎる…

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  • べっちん

    ロリコンて、ある年齢までの女の子しか興味ないと思ってたんだけど。
    16歳の胡桃ちゃんは、言わば「大人の女性」になってるわけで。
    本当にロリコン趣味だったら、結婚を目的とするかな?
    胡桃ちゃんに執着してるのは、別に意味があるんじゃないかと。

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  • ユタ

    ロリコン野郎じゃねぇか(困惑)

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  • サン

    異世界編もめっちゃ面白いもんなぁ。
    天野くんのもう1つのお話って感じで。
    ファンタジーだけど天野くんのまま話が進むのが好き。

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