※今週(7/31)は2話更新となります。前話を見逃さないようにご注意ください。




天野勇二

……胡桃。
遅いじゃないか。
迎えに来たぜ。



 ポルシェの運転席から天野が現れた。



 軽く肩を回し、望月を鋭い瞳で睨みつけている。



天野胡桃

う、うん……。
来てくれたんだ……。

天野勇二

ああ、ナンパでもされていたのか?
女子高生に声をかけるとは、とんでもないロリコンの変態野郎がいたものだな。



 天野は全身から殺気を放ちながら、望月と胡桃の間に立った。


 望月はどこか冷めた表情で天野の背中に隠れる胡桃を眺めている。


 望月はひとつ息を吐くと、



望月蒼真

……不思議だね。
なぜ、勇二くんがここにいるのかな?



 静かな声で尋ねた。


 先ほどまで浮かべていた微笑が嘘のように消えている。


 どこか呆れたように言った。


望月蒼真

君は本当に読めない男だ。
いつも僕の想像を超える。
昔から破天荒で変わった少年だったが、大人になっても変わらないとは。

だけど、本当に良かったのかな?
他に行くべきところはなかったのかい?

天野勇二

問題ないさ。
俺様には仲間チームがいる。
頼れる相棒を現地に向かわせたよ。

望月蒼真

ああ、涼太くんのことか。
君はいつまで彼のことを信用しているんだ?
彼が君の目を盗んでどれだけの悪事を働いたのか……。
何も知らないのだろう?


 胡桃は震えながら望月を見上げた。


 望月の声の調子がまるで違う。


 感情なんて一切感じられない。


 自分には気持ち悪いほどフレンドリーに語りかけていたのに。


 天野は呆れたように両手を広げた。


天野勇二

涼太の悪事だと?
なんだそれは?
『ブラフ』『ハッタリ』のつもりか?
俺様に心理戦でも仕掛けているのか?

情けないな望月よ。
それは無意味な行動でしかないぜ。

望月蒼真

無意味ではないさ。
僕は君の知らない事実を伝えているのだから。

天野勇二

そんなものに興味はねぇよ。
今の俺様が知りたいのは、お前の悲鳴だけだ。


 天野が軽く両手を上げた。


 左半身で構えながら、望月との間合いを測る。


 胡桃が慌てて天野の背中を掴んだ。


天野胡桃

ま、待って。
いきなりどうしたの?
まさか望月さんと喧嘩するつもり?

天野勇二

胡桃……。
今は黙ってろ。

天野胡桃

そんなのダメだよ!
どうしてそんなに望月さんを嫌うの!?

天野勇二

好きとか嫌いという話ではない。
こいつは『悪』であり、真性のサイコパスだ。
しかもお前を狙っている。
野放しにすることはできないんだよ。


 困惑する胡桃を背中に隠しながら、天野は慎重に一歩を踏み出した。


 まだ望月は動こうとしない。


 こちらの『殺気』には気づいているはずなのに。


天野勇二

最低最悪のサイコ野郎め……。
これまで慎重に物事を進め、自らの『本性』も隠し通していたのに、肝心なところでミスを犯したな。
あんな場所で鈴本を殺すとは。
愚鈍ぐどんかつ無能な愚か者め。
もうお前は終わりだよ。


 天野が挑発トラッシュトークを飛ばした。


 望月の動揺を誘おうとしているのだ。


 望月は軽く息を吐き、心底呆れたように天野を眺めた。


望月蒼真

鈴本さんを殺した?
勇二くんは意味のわからないことを言うね。
鈴本さんは今頃、『神埼かんざき』で勤務しているはずだよ。

天野勇二

とぼけるんじゃねぇ。
鈴本は殺された。
お前が知らないはずがない。
やったのはお前だろう?

望月蒼真

僕が?
彼女を殺したと言うのかい?
本当に意味がわからないね。
まさかそんなことで僕を殴ろうとしているのかな?

天野勇二

だからとぼけるのをやめろ。
お前の『犯行』は見破った。
鈴本と関係していた証拠も手に入れた。
もうお前の人生は終焉しゅうえんを迎えるんだよ。


 じわり、じわりと間合いを詰める。


天野勇二

しかも、まさか胡桃を狙っていたとはな……。
なぜ胡桃に執着する?
『目的』はなんだ?
胡桃を殺したいのか?
それともまさか殺人医師ドクター・デスの嫁にでもするつもりなのか?


 望月は唇を歪めながら天野を見つめた。


 天野の双眸そうぼうには激しい怒りの炎が揺らめいている。


 望月は懐から黒い革手袋を取り出しながら言った。


望月蒼真

勇二くんの『シスコン』はもはや病気だね。
胡桃ちゃんに近づく『男性』を全て排除するつもりなのかな?
それもくだらない因縁をつけて、一方的な暴力で叩き潰す。

そんなことを胡桃ちゃんは望んでいない。
君がしているのは、愛する存在を苦しめる行為なんだよ。

天野勇二

減らず口を叩くな。
質問に答えろ。
なぜ鈴本を殺した?
なぜ胡桃に執着する?
お前の『目的』を語れよ。


 天野が野獣のような表情で迫る。


 そこで望月は頬を緩めた。


 肩をすくめながら嘲笑ちょうしょうを浮かべる。


望月蒼真

フフッ……。
無意味だねぇ。
実に無意味な質問だ。

僕が何を答えたとしても、君は聞く耳を持たないはず。
どんな弁明べんめいも無意味なんだ。
最終的には僕を殺す。
君はそのことしか考えていない。


 どこか同情したように言葉を続ける。


望月蒼真

ねぇ勇二くん。
僕はね、君に悪いことをしたと後悔しているんだ。
勇一が心を喪失したあの日……。
僕は失言をした。
君は今もあのことを憎んでいるのだろう?


 ゆっくり首を横に振る。


望月蒼真

勇二くんには理解できないと思うけど、あの時、僕は普通じゃなかった。
動揺していたんだ。
あまりの喜びに自分を制御することができなかったのさ。

天野勇二

なに……?

望月蒼真

今でも思い出すよ。

あの時、あの病室、壊れた勇一、泣きじゃくる君の家族……!

あれほど多幸感を覚える光景を僕は知らない。
僕の瞳からは歓喜の涙があふれていた。
だからこそ、あんなことを言ってしまったんだ。


 そこまで言うと、望月はニタリと顔を歪めた。


 見たことのない望月の素顔。


 悪魔の笑顔だ。


 それは胡桃も、天野でさえも、思わず後退させるほどの迫力を放っていた。









望月蒼真

アハハハッ……。

勇二くん、僕には理解できるよ。
今の君も、あの時の僕と同じような『歓喜』を覚えているんだろう?

なぜなら、君はようやく僕を殺すことができるから。
ずっとこの日を待っていたんだよね?
僕を『殺人犯』として処刑できる日を、待ち詫びていたんだよね?



 天野は眉根まゆねを寄せながら望月を睨みつけた。


 望月はケタケタと狂ったような笑みを浮かべている。


 望月は天野の胸元を指さしながら言った。



望月蒼真

内なる声から耳を背けてはいけない。
君は暴力に飢えた『ケダモノ』だ。
君は僕が『悪人』『犯罪者』であってほしいと、心の底から願っている。
憎む相手が『悪人』であれば、君には殴る理由ができるから。
自らが殺すために、僕に『犯罪者』というレッテルを着せようとしているのさ。

天野勇二

なんだと……?
貴様、さっきから何を言ってやがる?

望月蒼真

勇二くんの心情を言葉に変えているんだよ。
高校生の頃を思い出してごらん?
君は参考書を片手に持ちながら、街の小悪党共を潰して回っていた。

あの頃の君は『人間』ではなかった。
『人間』という皮を被った『ケダモノ』だ。
君は僕のことを『サイコパス』だと呼称したが、僕に言わせれば君こそが『サイコパス』なんだよ。



 望月がゆらりと両手を広げた。


 ヘラヘラと唇を歪めながら天野を睨みつける。



望月蒼真

ああ、君はなんて恐ろしい生物なんだ。
自らの鬱憤うっぷんを暴力に変える野蛮人。
しかもターゲットは悪党。

勇二くんは相手が『悪』だからこそ、何をしても構わないと思ったんだよね?
殴っても、骨を折っても、メスで刺し殺しても、相手が『悪』であれば許される。
それは『学園の事件屋』である今も変わらない。
君は『ストーカー』『犯罪者』を見つけ出しては、自慢の暴力を叩きつけているじゃないか。



 天野の顔に指を突きつける。


 望月はケタケタ笑いながら言葉を続けた。



望月蒼真

なぜそんなことを繰り返す?
答えはシンプルだ。
君は自らの『暴力性』を正当化したいのさ。
それが今も『学園の事件屋』を続けている理由だよ。

これほど恐ろしい生物は存在しない。
『血』『暴力』に飢えたケダモノなのに、その行為を『正義』であるかのように偽装するのだから。

その恐ろしい本性こそが、『天才クソ野郎』『本質』なのさ。



 天野は顔を歪めながら望月を睨みつけた。


 望月の言葉、仕草、視線、表情。


 その全てが天野の逆鱗げきりんに触れている。


 天野は拳を握りながら叫んだ。



天野勇二

黙れ望月……!
さっきからふざけたことを抜かしやがって!
貴様に俺様の何がわかると言うんだ!

望月蒼真

何もかも理解できるさ。
事実として、勇二くんの心情を当ててみせよう。


 指先をパチリと鳴らし、天野の顔に指を突きつける。


望月蒼真

君は鈴本さんの死体を発見した時、これ以上ないほど安堵あんどしたはずだ。
憎んでいる相手が明確な『殺人』を犯した。
これは『事件』になる。
相手が『悪人』であることを示す決定的証拠になる。

そうなれば、正当な理由を持って叩き潰すことができる……!



 ケラケラと嘲笑あざわらいながら天野の顔を睨みつける。


 望月は張り裂けんばかりの声で叫んだ。



望月蒼真

つまり君は、鈴本さんという知人の『死』を見て、歓喜かんきに震えたんだよ!

この僕を殺すことができる!
逆恨みしている相手を処刑できる!
好きなだけ『暴力』を叩きつけることができる!
自らの殺人衝動さつじんしょうどうを正当化できる喜びに震えたのさ!

天野勇二

………!



 天野は思わず黙り込んだ。


 まるできょをつかれたようだった。


 望月はその反応を確かめ、高笑いをあげながら言葉を吐き出した。



望月蒼真

アハハハハハッ!
図星のようだね!
君は『知人の死』いたむよりも、僕への『殺人衝動』を燃え上がらせた野蛮人だ!

もう認めてしまえ。
君は僕と同じ穴のムジナ。
君がこれまでお仕置きした『悪人』とも同じ。
倫理観の欠如した畜生未満のサイコ野郎なんだよ!



 天野は唇を噛みしめながら望月を睨みつけた。


 頭の中はドス黒い怒りで埋め尽くされている。


 吐き気を覚えるほど感情が高ぶり、自分自身を制御することができない。


 天野は完全にキレていた。



天野勇二

望月……!
この俺様をナメやがって……!



 天野が咆哮ほうこうをあげた。


 制止する胡桃の手を振り払い、拳を大きく振りかぶる。


 望月という存在をチリに変えるため、天野は全力で駆けた。



天野勇二

その減らず口を叩き潰してやる……!
ここが貴様の墓場だ!
覚悟しやがれ望月!



 疾風のように天野が飛び出す。


 望月は半身で構えながら、迫りくる『ケダモノ』の姿を睨みつけていた。






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つばこ

【質問コーナー】
 
Q:1日だけこの作品のキャラクターになれるとしたら、誰になりたいですか?
A:あえて言うなら天野くんかなぁ。真っ赤なポルシェに乗ってみたいです。もしくは涼太くんかなぁ。あれだけのハイスペック男子だとナンパがどれだけ成功するのか試してみたいですね。ただよくよく考えると、天野くんになったら大学で忌み嫌われたりするし、涼太くんの中にはちょっとした闇やトラウマがあるし、なんだかどっちも辛そう……。そうなるとやっぱり『モリアーティ』がいいです!『恩返し編』に登場した猫ちゃん!吾輩は猫になりたいです!(ΦωΦ)!
 
 
ようやく望月の別表情がお披露目できました。
サイコ感満載でいい感じ!
これこそつばこが思い浮かべていた望月です!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/

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コメント 24件

  • ちょぱ

    挑発に乗せられちゃって大丈夫なのかな…キモいから胡桃ちゃんの目は覚めたと思うけど

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  • コロテール

    望月の画が安っぽい三下風で草。

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  • かに

    天野くんは周りの大切な人が絡むと判断ミスが目立つなあ

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  • ピク

    周りから見たらどっちもどっちも狂ってる

    胡桃はもう体の震えとまらんだろうな

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  • オルタ

    勇一兄さんはいつ頃表に出てくるのだろうか、できれば天野くんの味方であって欲しいな

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