※今週(7/10)は3話更新となります。前話を見逃さないようご注意ください。





 涼太がテラスで『望月の正体』を語っている頃。



 天野は警察署の正門前に佇んでいた。



 隣には弁護士である二階堂一成にかいどうかずなりの姿がある。



二階堂一成

遅くなってすまかった。
警察を説得するのに苦労してね。
まったく第一発見者の身柄をこれだけ拘束するとは……。
本当に君は警視庁に恨まれているね。



 二階堂は「とある事件」で知り合った弁護士。


 しかも天野に恩義を感じている珍しい男性。


 あまりに事情聴取が長引いたので、天野は二階堂に助けを求めることにしたのだ。


(詳しくは『彼女が上手に恩返しする方法』を参照)



天野勇二

いや、充分に助かった。
もう1日ぐらい拘束されるだろうと覚悟していたんだ。
二階堂さんは仕事のできる弁護士だよ。

二階堂一成

そう言ってくれるなら幸いだ。
念のためマスコミ対策も整えている。
天野くんの名前が表に出ることはないだろう。

天野勇二

気が利くじゃないか。
確かに取材が殺到するのは避けたいな。

二階堂一成

それでもしばらくは『神埼記念総合病院』に近づくのは避けたほうがいい。
マスコミの取材は病院周辺に集中しているからね。

天野勇二

わかった。
また何かあれば頼む。



 二階堂の背中を見送ると、天野は周囲を見渡した。


 誰も自分に注目していないことを確かめ、自らの革靴に手を伸ばす。


 天野が履いているのは靴底とつま先に『鉄板』を仕込ませた特注品。


 そしてもうひとつ、特別なギミックが隠されている。



天野勇二

……よし。
こいつは無事か。



 革靴の中から『バルビツール酸系』の睡眠薬を取り出す。


 鈴本が持っていた違法薬物だ。


 天野はそれをポケットに放り込むと、スマホを取り出して1人の人物に電話をかけた。




黒崎

……黒崎くろさきだ。
どうした?
また何かあったのか?



 スマホの向こうで響くシブい声。


 「とある事件」で知り合った外務省のエージェントだ。


天野勇二

久しぶりだな黒崎よ。
今は大丈夫か?
突然だが、お前に頼みたいことがある。


 黒崎は呆れたように言った。


黒崎

おい天野……。
また厄介事に巻き込まれたのか?
お前の『頼み事』はいつも洒落にならん。
できれば聞きたくないな。



 黒崎の言い分も当然だろう。


 異国の王女を狙った襲撃事件。


 厄介な『殺し屋』との関わり。


 『パレスチナ問題』に関わるテロ事件。


 『新型コロナウイルス』の特効薬が絡んだ誘拐事件。


 天野が絡む事件はいつもややこしく、一筋縄ではいかないものばかり。


 黒崎は若干、天野からの電話を恐れているところがあった。


(詳しくは『彼が上手にお姫様を守る方法』『彼を上手に毒殺する方法』などを参照)



天野勇二

大したことじゃないさ。
少なくとも拳銃を持った武装集団とドンパチすることはない。
ホテルの一部を手榴弾で爆破させることもないだろう。


 スマホの向こうで黒崎が「フフフ…」と笑う。


黒崎

嫌な言い方をするものだ。
『殺し屋』や『誘拐犯』も登場しないな?

天野勇二

もちろんだ。
とある薬物について調べてほしい。
あまり日本では出回っていないブツを見つけてな。
恐らく海外から持ち込まれている。
誰がどこから輸入して流通させたのか、詳しく調べてほしいのさ。


 天野は『バルビツール酸系』について黒崎に語った。


 黒崎は無知という訳ではないが、さすがに『バルビツール酸系』の細かい内容までは知らない。


 全てを聞き終えると、黒崎は唸るように言った。


黒崎

おい天野……。
どこが大したことじゃないんだ。
それも洒落にならんぞ。
誰からそんなものを買ったんだ?

天野勇二

買ったのではない。
拾ったんだよ。

黒崎

どこで拾った?

天野勇二

『神埼記念総合病院』だ。
それ以上は言えん。

黒崎

神埼……?
それはもしかすると、お前の父親が経営する病院じゃないのか?

天野勇二

ほう?
よく知っているな。
さすがは優秀なスパイだ。

黒崎

お前はもう『民間人』とは呼べないからな。
色々調べさせてもらった。
だが、病院経由ならお前が調べたほうが早いんじゃないのか?

天野勇二

いや、これは病院外のルートで入手しているはずだ。
つまりはうちの病院関係者に、違法薬物をこっそり仕入れたバカがいるワケさ。
そいつの正体を暴き、入手ルートも明らかにしたい。
確固たる『証拠』がほしいんだよ。


 天野の言葉を聞き、黒崎は大きく息を吐いた。


黒崎

なるほど……。
お前、誰かを追っているな。
どうせ病院内部の人間だろう。
『毒物』を仕入れ、何かを企んでいる不届き者が存在すると踏んでいるのか。

天野勇二

話が早くて助かる。
場合によっては組織犯罪に発展するかもしれない。
俺が頼れるのはお前だけなんだ。
協力してくれないか。



 黒崎は迷ったように黙り込んだ。


 黒崎は外務省の国際情報統括官こくさいじょうほうとうかつかん


 主に国際的な事件を担当するエージェントだ。


 厳密にいえば、違法薬物の輸入は管轄外であり、黒崎が担当するような事件ではない。


 それでも諦めたように言った。



黒崎

……いいだろう。
他ならぬお前の頼みだ。
特別に調べてやる。
現物をこちらまで送ってくれるか?

天野勇二

それはできない。
ブツは俺が所持する。
写真で我慢してくれ。

黒崎

おいおい……。
違法薬物の所持だぞ。
しかも劇物だ。
民間人の所持を許せるはずがない。

天野勇二

野暮なことを言うな。
俺様は『民間人』じゃないのだろう?
俺の知っている優秀なエージェントは、拳銃の所持を見逃してくれる話のわかるヤツだったぜ。
いつからそんなに頭が固くなった?
イカれたボスに似てきたんじゃないのか?


 天野がヘラヘラ笑いながら告げる。


 黒崎は呆れたように言った。


黒崎

相変わらず口の減らないヤツだ。
ならば写真を送れ。
わかっていると思うが、画像に個人情報を残すなよ。

天野勇二

それでいい。
恩に着るぜ。

黒崎

似合わないことを言うな。
何かわかれば連絡する。



 そこで電話は切られた。


 これで『バルビツール酸系』の足取りを追うことができる。


 その過程に望月の存在があれば、違法薬物の所持で逮捕することができるかもしれない。



天野勇二

だが、そこまでうまくいくかどうか……。
望月が簡単に尻尾を出すとは思えない。
何かもうひとつ、アイツを攻める手段があればいいのだが……。


 そこまで呟いた時。


 警視庁から2人の男がやって来るのが見えた。


 スーツ姿の中年刑事だ。


 片方は温和な笑みを浮かべ、もう片方は渋い表情を浮かべている。


 天野はヘラヘラと唇を歪めながら2人を出迎えた。


天野勇二

椎名しいなさんに橋田はしださんか。
こんなところでどうした?
仕事中じゃないのか?


 かつての事件で知り合った、警視庁の捜査員だ。


 椎名はどこか呆れたように言った。


椎名善晴

何を言いますか。
君が私たちを呼び出したのでしょう?
長い事情聴取となりましたが、お疲れではございませんか?

天野勇二

ああ、疲れたよ。
捜査一課の人間は荒くてたまらん。
俺様は第一発見者でしかないのに、なぜか『真犯人』であるかのように糾弾するんだ。


 ニヤニヤ笑いながら橋田を眺める。


 橋田はげんなりと肩を落としながら言った。


橋田在昌

困るよ勇二くん……。
本当に困るんだ。
こんなところで君と会っていることもマズいんだよ。
頼むから手短に済ませてくれないか。

天野勇二

相変わらず冷たいですね。
俺はあなたの息子の友人ですよ?
しかも何度も殺人犯を捜査一課に送り届けています。
表彰状をいただけるほど貢献していると思うんですがね。

橋田在昌

わかってるよ……。
もちろんわかってる。
だけど、私にも立場というものがあるんだよ……。

天野勇二

仕方ない。
ならば本題に入りましょう。
捜査状況を教えてください。
凶器は落ちていた『メス』で間違いないんですか?
誰を容疑者として考えているんですか?


 橋田は涙目で天野を見つめた。


 天野に呼び出された時点で覚悟はしていた。


 民間人には漏らせない『捜査情報』を聞き出したいのだろうと、覚悟はしていた。


 橋田は首を横に振りながら言った。


橋田在昌

無茶を言わないでくれよ……。
そんなの、言える訳ないだろ?
しかも君は事件の関係者だ。
君だって容疑者としてマークされているんだ。
そんな人間に、捜査情報を話せないよ……。

椎名善晴

いいではありませんか。
天野くんが犯人ではないことを、橋田さんもご理解しているはずです。
別に隠す必要もありません。
むしろ話したほうが警視庁のためかもしれませんよ。


 橋田は涙目で椎名を見つめた。


 もう頭の中は疑問符でいっぱいだ。


 なぜ椎名が同行しているのか。


 なぜ天野を援護しているのか。


 何ひとつ理解できない。


橋田在昌

い、いや椎名さん……。
無茶を言わないでくださいよ……。
困りますってぇ……。


 橋田はびるような笑みを浮かべた。


 椎名は『捜査一課』ではなく『サイバー犯罪対策課』の人間だ。


 命令に従ったり媚びを売ったりする必要はない。


 しかし、椎名の役職は『警視』。


 『警部補』である橋田とは立場が異なる。


 無下むげにすることも難しいのだ。


椎名善晴

ならば私と『世間話』をしましょう。
それなら問題ございませんね。
天野くんの存在は無視すれば良いのです。

橋田在昌

いやいやいや……。
何を言っているんですか。
そんなのできませんよ。

椎名善晴

しかし、病院の敷地内で看護師が刺殺されるとは、なんとも厄介な事件ですねぇ。
しかも胸元の傷は複数箇所と聞いております。
やはり捜査一課は怨恨えんこんの線で捜査を進めているのですか?


 橋田は「もう勘弁してくれ」と思いながら天を仰いだ。


 椎名は『世間話』を振っている。


 目の前には天野がいるのに。


 こんな場面を同僚に目撃されたら降格間違いない。


椎名善晴

噂で聞いたのですが、現場は複数人の足跡が残っていたようですね。
被害者とは別に、最低でも『2人』の人物が存在した。
つまりこれは単独犯ではなく、複数犯による犯行なのでしょうか?

橋田在昌

ちょ、ちょっと椎名さん……!


 橋田は全身から血の気が引くのを感じた。


 それは捜査情報の中でもトップシークレットのひとつ。


 天野には絶対に聞かせたくない。


天野勇二

ほう……?
それは俺様と涼太の足跡とは別なのか?

椎名善晴

ええ、そのようです。
しかも足跡を踏み消した痕跡があるようですよ。
天野くんたちの足跡は、その上から刻まれているようです。

天野勇二

そんなことまでわかるのか。
科捜研かそうけんとは優秀だな。

椎名善晴

こうした事件において『ゲソこんは重要となりますからね。
天野くんも何か事を起こす際は、足跡に注意すると良いでしょう。

天野勇二

なるほどね。
ご忠告、感謝するよ。


 橋田はもう完全に青ざめながら天野と椎名を見つめた。


 2人は恐ろしいほどにフレンドリーに語り合っている。


 なぜ椎名はここまで天野を信用しているのか。


 どうして『天才クソ野郎』『CSPの切れ者』が手を組むようになったのか。


 橋田は混乱する頭を抱えながら、悪夢のような現実を眺めていた。






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つばこ

黒崎「お前はもう『民間人』とは呼べない」
 
ああ、やっぱり天野くんは民間人じゃなかった…( ;∀;)
 
しかしこのノベルはたくさんオッサンが出てきますね。
comicoは女性読者が圧倒的に多いのに、こんなにオッサン出してどうするんですか。
ちなみに余談ですが、黒崎さんは西島秀俊さん&真田広之さん、橋田さんは吉田鋼太郎さん、二階堂さんは生瀬勝久さん、椎名さんは小日向文世さんがモデルになっています。
オッサンばかりですが、実力派バイプレーヤーが入り乱れる豪華出演回でお届けしましたヾ(*´∀`*)ノ
 
次回は天野くんと涼太くんたちが合流し、望月の秘密に迫っていきます!
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(ง •̀ω•́)ง

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コメント 29件

  • emer

    真面目に頑張ってる橋田さんの前で通常運転する椎名さんまじで好き
    創作おっさん乱舞需要ありますよ!!!!おっさんたちのスピンオフとか天クソファン垂涎のストーリーになったりして

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  • mikko

    ドラマ化して欲しい…

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  • あゆ

    もしドラマされたら、絶対に見ます!!

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  • 夏美

    私の中では椎名さんは初登場時から、某刑事ドラマの特命係で紅茶を嗜んでいらっしゃる警部さんが脳内再生されているのですが、小日向さんも素敵ですね?

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  • ゆっきー

    うん、天才クソ野郎は民間人じゃないわ。

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