※今週(6/19)は2話更新となります。前話を見逃さないようにご注意ください





 天野が語った望月蒼真もちづきそうまとの因縁。



 衝撃を受けた告白から数日後。



 前島は都内にあるカフェにて『女子会』を開催していた。



前島悠子

2人に会うのは久しぶりだよね。
すっごく会いたかったんだ。
コロナ禍じゃなければ、もっと遠くまで遊びに行きたかったんだけど。



 女子会の場所に選ばれたのは、青山あおやまの閑静な住宅街にあるカフェ。


 結婚式の二次会といったパーティでも使用できるため、店内は広々としており開放感抜群。


 回廊やテラス席はフランスのパリを彷彿ほうふつとさせる造りになっている。


 あまりにオシャレな店なので、人気ドラマのロケ地として使用されたことでお馴染みだ。



天野胡桃

私も悠子ちゃんに会いたかったよぉ。
むしろいつも長電話に付き合わせてごめんなさい。
お仕事は忙しくないの?


 女子会の参加メンバーの1人は天野胡桃。


 天野が最も可愛がっている妹だ。


前島悠子

撮影がクランクアップしたばかりだからね。
ちょっとだけ暇なんだ。
久々のオフだから、2人とお茶したいなと思って。

天野桃香

そう言ってくれると嬉しいなぁ。
だけど、ちい兄とはデートしないの?
せっかくだから2人でお出かけしてもいいのに。


 もう1人の参加メンバーは天野桃香。


 天野がそれなりに可愛がっている妹だ。


 実はこの3人組、普段から仲良くカフェ巡りをしたり、ショッピングをしたり、カラオケに行ったりしているのだ。


 前島はこっそりこの集まりのことを前島会まえしまかいと呼んでいた。


前島悠子

師匠は忙しいみたいでさ。
デートなんかしてくれないよ。
最後にデートしたのは、クリスマスの時だったかなぁ。


 ため息を吐きながら告げる。


 桃香は頬をぷりぷりさせながら言った。


天野桃香

えぇ……?
ちい兄はバカだね。
マジで何してんだろ。
こんなにカワイイ恋人カノジョを放っておくなんて。

天野胡桃

ほんとありえないよね。
ちい兄ちゃんは悠子ちゃんっていう恋人カノジョの価値を理解してないよ。
またお説教しないと。

天野桃香

そうしよう。
ガツンと言ってやろうよ。
悠子ちゃんに愛想尽かされても知らないぞって。
悠子ちゃん以上のカノジョなんか一生現れないからね、ってさ。

前島悠子

うふふ……。
そんなのいいよ。
師匠も忙しいんだから。

まぁ、お説教は好きなだけしていいんだけどね。
むしろガンガンしていいよね。
よろしくオナシャスだよね。

天野桃香

まかせといて!
私がちゃんとお説教する!
悠子ちゃんとデートするまでお家に入れないって、ちい兄に言っておくから!

前島悠子

あらあら。
それは師匠も困っちゃうだろうなぁ。

それはそれとして、2人とも好きなの頼んでいいよ?
今日は私の奢りだから。
念のため言っとくけど、『お説教に対する報酬』ってワケじゃなくもないからね。



 3人はしばしの間、他愛のない話に花を咲かせた。


 桃香が通い始めた予備校のこと。


 高校生になった胡桃が始めた部活のこと。


 前島が出演したドラマや歌番組の裏話など。


 上品な香りの紅茶を飲み、生クリームがたっぷり乗せられたふわふわのパンケーキを頬張りながら、互いの近況や出来事を語り合う。


 やがて頃合いを見て、前島が店員に合図を送った。



前島悠子

ねぇ胡桃ちゃん。
実はね、悠子お姉ちゃんからの『サプライズ』を用意してあるんだ。

天野胡桃

えっ!
ほんとに!?
それってもしかして……!


 胡桃の頬がバラ色に染まる。


 その言葉を「待ってました」といったような表情だ。


 やがて店内の有線BGMが停止し、華やかな『バースデーソング』が響き渡った。


前島悠子

お誕生日おめでとう!
悠子お姉ちゃんからのプレゼントだよ!


 店員が大きなバースデーケーキを運んできた。


 フルーツたっぷりの大きなケーキだ。


 「HAPPY BIRTHDAY 胡桃ちゃん」というプレートと、16本のロウソク、派手な花火まで添えられている。


 胡桃は涙を浮かべながら言った。


天野胡桃

嬉しい……!
私の誕生日、覚えててくれたの!?

前島悠子

当たり前だよぉ。
カワイイ義妹の誕生日を忘れるワケないじゃない。

天野桃香

良かったね胡桃。
こっちは私からのプレゼントね。

天野胡桃

お姉ちゃんも……!
ありがとう!
本当に嬉しい!



 ロウソクの炎を吹き消し、嬉しそうに笑う胡桃。


 前島はその姿を感慨深かんがいぶかく見つめていた。


 昨年の胡桃は『JK散歩』といった非行に走ったり、『義妹』という事実が判明したり、挙句の果てには『誘拐』されたりと、散々な目にあっている。


 それでもこうして笑ってくれることが、前島は嬉しかった。



前島悠子

……そうだ。
そういえばね、2人に聞きたいことがあったんだ。



 女子会開催から2時間後。


 誕生日を祝うムードが落ち着き、ちょっとした会話のクールタイムが発生したタイミングを見計らって、前島が本題を切り出した。


 胡桃がフレッシュジュースを飲みながら尋ねる。


天野胡桃

なぁに?
聞きたいことって。
ちい兄ちゃんのこと?

前島悠子

ううん。
望月蒼真もちづきそうまっていう、男の人のことを聞きたいんだ。


 ふいに現れた望月の名前。


 桃香と胡桃は「きょとん」とした表情を浮かべた。


天野胡桃

……望月さん?
それって、ゆう兄ちゃんの友達のこと?

天野桃香

どうして悠子ちゃんが、望月さんのことを知ってるの?
どこかで知り合ったワケじゃないよねぇ……。


 2人とも小首を傾げている。


 当然の反応だ。


 望月の話題なんて、これまで一度も出したことがない。


 前島が知っているとも思えないのだろう。


 前島は平然とした表情を浮かべて言った。


前島悠子

この間ね、師匠から少しだけ教えてもらったの。
詳しくは知らないんだけど、胡桃ちゃんが誘拐された時に一緒にいたんだよね?
どんな人なんだろうなぁって、思ってさぁ。


 桃香と胡桃はまだ不思議そうに小首を傾げている。


 なぜ前島がそんなことを聞きたいのか、まったく理解できないのだろう。


 前島はその反応を見て思った。



前島悠子

(うぅむ……。予想はしてたけど、師匠は望月さんとの『因縁』を、桃香ちゃんと胡桃ちゃんには教えてないんだ……)



 2人の表情を見るだけで、望月に対して「悪印象を抱いていない」ということが伺える。


 天野は望月が吐いた『勇一への暴言』を、妹たちに伝えていないのだ。


 恐らく母親にも伝えていないだろう。


 もしそれを耳にしていれば、望月への印象は最悪となる。


 名前を出すだけで忌み嫌う存在になるはずだ。



天野胡桃

望月さんかぁ……。
お正月とかには会ったりするけど、詳しくは知らないなぁ。
ゆう兄ちゃんの幼馴染なんだよね?


 胡桃が桃香に尋ねる。


天野桃香

そうだよ。
胡桃も一緒に遊んでもらったりしたよ。
まだ胡桃が小学生になる前だったかな。

天野胡桃

そうなんだ。
全然覚えてないや。

天野桃香

でもたまに家に来るじゃん。
『お年玉』とか『お土産』とか『誕生日プレゼント』なんかをくれるでしょ?
その時に挨拶とかしなかった?

天野胡桃

そりゃ挨拶ぐらいはしたよ。
だけど、それ以上話したことはないなぁ。

天野桃香

胡桃が誘拐された時はちょっと驚いたけどね。
警察の人たちが来る前に家を訪ねてきてさ。
大量の『みかん』を貰ったから、お裾分すそわけに来たんだって。
お母さんが泣きながら胡桃の誘拐のことを教えちゃってさ。

天野胡桃

ああ……。
それで望月さんも倉庫まで来たんだ。
あれはビックリしたなぁ。
ヤクザみたいな悪者をやっつけてたの。
相手は拳銃も持ってたのに、みーんな倒しちゃったの。

天野桃香

へぇ、あの人喧嘩もできるんだ。
そんな風には見えないのに。



 前島は「ふんふん」と頷きながら2人の会話を眺めた。


 どうやら望月は姉妹にとって「兄の友人である親切なオジサン」という位置づけのようだ。


 決して悪印象を抱いてはいない。


 だからといって好印象も抱いていない。


 それほど興味を抱く人物ではないのだろう。


 望月も積極的に姉妹とは関わっていないのかもしれない。


前島悠子

師匠はね、望月っていう人が嫌いみたいなの。
なんかそれが不思議でさ。
師匠は良くも悪くも他人に興味がないでしょ?
何か嫌うようなことがあったのかな?


 前島はとぼけながら尋ねた。


 天野が桃香と胡桃に『望月との因縁』を隠している以上、自分から伝えるべきはないだろう。


天野胡桃

うん……。
そうなんだよね。
ちい兄ちゃん、すごく望月さんのことを嫌ってるんだよね……。


 胡桃が不思議そうに呟く。


天野胡桃

望月さんは、誘拐された私を助けに来てくれたみたいなの。
それなのに、ちい兄ちゃんは望月さんに喧嘩を売るようなことを言ってた……。
望月さんのことを『クズ』呼ばわりして。
あれはちょっと怖かったな。


 桃香が呆れたように肩をすくめる。


天野桃香

なんでそんなこと言うのかなぁ?
望月さんは悪い人じゃないのに。

天野胡桃

そうだよね。
お母さんもそう言ってた。
結構頼りにしてるみたいだよね。

天野桃香

ゆう兄の親友だったみたいだし、今でもお見舞いに来てくれるし、私たちのことを気にかけてくれてるし。
そんな人、望月さんしかいないよ。
感謝はしても嫌う理由なんかないのにね。



 その会話を聞き、前島は「おや…?」と首を傾げた。


 どうも違和感がある。


 何かが矛盾むじゅんしているように感じる。


 思考を整理しながら尋ねた。



前島悠子

望月っていう人は、今でも師匠のお兄さんをお見舞いしてるんだ。

天野桃香

そうらしいよ。
まぁ、職場が同じってこともあるんだろうけど。

前島悠子

……職場?
それって?

天野桃香

『神埼記念総合病院』だよ。
望月さんはあそこの外科医なの。


 それは初耳だ。


 それなら勇一を見舞うことも難しくないだろう。


 しかし、それでも矛盾は解消できない。


前島悠子

どうして望月っていう人は、師匠のお母さんや桃香ちゃんや胡桃ちゃんたちのことを、気にかけてくれるんだろう?
何か理由があるのかな?
それは望月っていう人にとって『意味のある行動』なのかな?


 桃香と胡桃はいぶかしげに前島を見つめた。


 質問の意図が掴めないのだ。


 それも当然だろう。


 姉妹は望月が『サイコパス』であり、遠隔殺人者トリックメイカーである可能性が高いことを知らない。


 前島は慌てて質問の方向性を変えた。


前島悠子

いやほら、なんか不思議だなと思って。
親友であるお兄さんのことを気にかけるのはわかるよ。
でも、その家族まで気にかけるものかな?
そこに何か理由があるんじゃないかな、と思って。


 取りつくろうような笑顔を浮かべながら尋ねる。


 姉妹は「ふむぅ…」と呟きながら首を捻った。


 理由なんか考えたこともなかった。


 2人の表情はそう語っている。


天野胡桃

……よくわからないけど、普通にあるんじゃないかなぁ。
望月さんは、お父さんやお母さんとも仲が良かったみたいだし。
そんなに不思議なこととは思わないけど……。


 胡桃が言うと、桃香も同調するように頷いた。


天野桃香

私もそう思う。
単純に『いい人』なんじゃないかな。
そうじゃないと『お年玉』とか『誕生日プレゼント』とかくれないよ。

天野胡桃

そうそう。
しかも『お年玉』の金額が多いんだよね。
今年なんて10万円も入ってたよ。

天野桃香

気前がいいよね。
本当に助かるよ。
予備校に通うとさ、みんなでご飯食べたりすることも多くて。
あちこちから誘われて出費がかさむんだよね。

天野胡桃

えぇー?
誰から誘われてるの?
さては男の子?
もしかしてお姉ちゃん、モテキが来てるんじゃない。
次のカレシは殴ったり指を折ったりしちゃダメだよ。

天野桃香

あっ……!
そ、それは悠子ちゃんに言わないでよぉ。
内緒にしてくれるって約束じゃん。

天野胡桃

そうだっけ?
ねぇ聞いてよ悠子ちゃん。
お姉ちゃんはね、男を見る目が全然なくて…………



 話題が桃香の『カレシ談義』に移った。


 きっと姉妹は望月という「どうでもいいオジサン」の話を続けたくなかったのだろう。


 楽しげに『元カレ』の悲惨っぷりを語っている。



前島悠子

へ、へぇ……。
桃香ちゃんって、怒らせると怖いんだね。
良かったねぇ逮捕されなくて……。



 そんな相槌あいづちを打ちながら、望月のことを考える。


 どうも天野の話とは違った印象を受ける。


 一般的に『サイコパス』とは、優れた『社交性』を持っていることが多い。


 魅力的な人物として振る舞い、自らの残虐性を隠すのだ。


 そのため、「天野家」の印象が悪くないことも、そこまで不思議ではない。


 しかし、何か違和感がある。


 何かが矛盾している。


 いったい何が矛盾しているというのだろう。





 女子会開催から4時間が経過し、空が茜色に染まり始めた頃。


 『前島会』はお開きすることになった。


 青山一丁目あおやまいっちょうめ駅まで桃香と胡桃を見送り、前島は1人で神宮外苑方面へ向かった。


 歩きながら思考を整理したかったのだ。



前島悠子

(2人と女子会できたのは楽しかったけど……。望月のことはあまり聞き出せなかったなぁ……)



 ため息を吐きながら北青山きたあおやまの『いちょう通り』を歩く。


 目ぼしい情報は手に入らなかった。


 判明したのは「望月が天野家と良好な関係を築いている」ということ。


 そして今でも「勇一を見舞っている」ということ。



前島悠子

(この2点が矛盾してるんだよなぁ……。師匠いわく望月は『生粋のサイコパス』のはず。望月はお兄さんが『無意味な人間』になったから、あっさり切り捨てた。それならどうして『天野家』を切り捨てていないのかな……?)



 望月の行動理由が掴めない。


 桃香と胡桃の言う通り、単なる『いい人』なのかもしれない。


 しかしそれなら、天野があれほど憎む理由が理解できない。



前島悠子

(うーん……。結局のところ、望月は何者なんだろう。直接話したりすれば、何かわかるのかもしれないけど……)



 そんなことを考えながら歩いていた時。


 『いちょう通り』の向こうに、1人の人物が見えた。


 背の高いスマートな男性。


 まるでモデルかと思うほど、スタイルが良い。


 鮮やかな緋色ひいろのシャツも決まっている。


 しかもメガネをかけているインテリ系のイケメン。


 その顔を認識した時、前島の足が止まった。



望月蒼真

…………

前島悠子

あ、あれは……!



 前島は震えながらその顔を見つめた。


 スマホの写真でしか見たことがないが、間違いない。


 涼やかな笑みを浮かべる男。


 天野の宿敵、望月蒼真だった。






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つばこ

【質問コーナー】
Q:涼太の卒業論文の内容は何ですか?
A:「シャンカラ著『ウパデーシャ・サーハスリー 真実の自己の探求』における不二一元論について」です!これです!ぶっちゃけ卒論なんてよくわかんないので、私が書いた卒論と同じにしました!涼太くんが「ブラフマン」だの「アートマン」だの言ってる姿とかまったく想像できませんね!アイツの専攻はいったい何なのかな!?
そんなこんなで次回は「暫定ヒロインvsサイコパスメガネ野郎」の激突です!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 23件

  • がき

    誘拐事件のくるみの意味深発言
    「K」
    くるみちゃん?

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  • ウルフ

    トリックメイカーは
    何のために
    誰のために
    トリックメイカーと成ったのか

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  • ちいすけ

    い、インド哲学!?

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  • ちょぱ

    兄の友達からお年玉10万は普通にドン引き案件…

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  • べっちん

    今の段階で、前島ちゃんの命を奪うようなことはしないだろう、と思ってるけど、とりあえず逃げようかw

    前島ちゃんが、なかなか解消しない「違和感」は、きっと、天野兄に関することなんだと思う。
    望月が、本当のサイコパスだとしたなら、自分にとって、プラスになることにしか興味はないから、天野一家に、いまだに接触しているのは、何かしらの「メリット」があるからなんだとは思う。
    それか、誰かにそうするように指図されているか…

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