都内にある一流私大。



 学生食堂2階にあるテラス席。



 ここは天才クソ野郎こと、天野勇二が根城ねじろにしている場所だ。



 普段であれば偉そうにタバコを吸っている天野の姿を見つけることができるのだが、その日は様子が違った。





前島悠子

…………

牧瀬美織

…………

板垣姫子

…………



 テラスにたたずんでいるのは3人の女性。


 元国民的アイドルこと前島悠子まえしまゆうこ


 自称メスブタのド変態こと牧瀬美織まきせみおり


 そして天才ハッカーである『電脳姫』こと板垣姫子いたがきひめこ


 それぞれが椅子に腰掛け、互いの顔を睨みつけていた。



前島悠子

え、えっとぉ……。
まず、自己紹介しましょうか……。


 重い沈黙をこじ開けて、前島が言った。


前島悠子

牧瀬さんと姫子さんは初対面でしたよね?
姫子さんは『電脳姫』と呼ばれるスーパーハッカーなんですって。
私も最近まで存在を知らなかったんですが、ずっと師匠を陰で支え続けた立派な御方なんです。
『スタンガン』みたいな凶器をお取り寄せしたり、ストーカーの『お仕置き動画』を加工したりと、縁の下の力持ち的なことをしているそうです。


 牧瀬に姫子のことを説明している。


 きっと「口下手な姫子では自己紹介が難しい」と判断したのだろう。


 牧瀬は姫子を見つめながら言った。


牧瀬美織

お初にお目にかかります。
ご主人様を愛するメスブタです。
特技はご主人様のなぐさみ者』になること。
よろしくお願いいたします。


 可憐かれんな笑顔を浮かべながら過激な挨拶を飛ばしている。


 姫子は「こくん」と頷いて言った。


板垣姫子

知ってる……。
メスブタさんの動画……編集したこと、あるから……。

牧瀬美織

失礼ですが、あなたに『メスブタ』と呼ばれたくはありません。


 ぴしゃり、と言葉を叩きつける。


 姫子の眉が「ピクリ」と嫌そうに歪む。


 テラスに広がる不穏ふおんな空気。


 前島は慌てて口を挟んだ。


前島悠子

ね、ねぇ姫子さん。
牧瀬さんはすごいんですよ。
涼太さんに匹敵するほどの探偵力を持ち、スパイやハニートラップなどの破壊工作を得意としてるんです。
あまり目立たないんですけど、天才クソ野郎に必要不可欠なサブアタッカー的存在なんです。
師匠も「とても頼りになるぜ」とか言ってました。

牧瀬美織

わぁ……!
悠子ちゃんにそう言っていただけるなんて!
光栄です。
ありがとうございます。

前島悠子

しかも私のファンなんです。
私の新譜しんぷとか新作映画とかを、あちこちに宣伝してくれるんですよね。

牧瀬美織

『布教活動』はお任せください。
悠子ちゃんの喜ぶ顔を間近で見れるなんて、私は本当に恵まれたファンです。
もし贅沢を言えるのであれば、私の『結婚式』で悠子ちゃんに歌っていただければ幸いです。


 前島が小首を傾げながら尋ねる。


前島悠子

……えっ?
結婚式?
牧瀬さん、誰かと結婚するんですか?

牧瀬美織

はい。
まだ日取りは決まっていないんですが。

前島悠子

そんなの初耳ですよ!
すごいじゃないですか!
おめでとうございます!
どなたと結婚されるんですか?

牧瀬美織

もちろん『ご主人様』です。
ご主人様との挙式の際には、悠子ちゃんにハッピーなウエディングソングを歌っていただきたいんです。


 前島が「パァン!」とテーブルを叩いた。


前島悠子

はぁぁ!?
なんですかそれ!?
師匠の恋人カノジョは私です!
師匠は牧瀬さんと結婚なんかしませんよ!

牧瀬美織

ご安心ください。
せきを入れるつもりはありません。
私はご主人様に『ペット』として飼っていただくだけですから。

前島悠子

なんでペットと結婚式を挙げるんですか!?
頭おかしいんじゃないですか!?
いや、牧瀬さんは頭がおかしいんでしたね!
うっかり忘れてました!

牧瀬美織

別にご主人様と悠子ちゃんが結婚されても構わないんですよ。
私はご主人様の『ペット』ですから。
それに『複数プレイ』というのも興味ありますし。

前島悠子

こっちは興味ないんですよ!
メスブタも飼いたくありません!


 前島の咆哮ほうこうがテラスに轟く。


 それを牧瀬は余裕たっぷりの表情で受け流している。


 きっとこれは『アイドル』と『変態』による、ちょっと変わった心理戦なのだろう。


 姫子は「むぅ…」と呟くと、


板垣姫子

ちょい、まち……。


 懐から拳銃コルトパイソンを取り出した。


 もちろん本物ではなくプラスチック弾を射出するガス銃。


 前島と牧瀬は怯えたように言った。


前島悠子

ま、また拳銃ですか……。
それはやめましょうよ。
前回も思ったんですけど、姫子さんが拳銃を持つと怖いんですよねぇ……。

牧瀬美織

同感ですね。
もし私をなぶるのであれば、『鞭』や『平手』にしていただけませんか?

前島悠子

そうですね。
そっちのほうがずっと安全……

……じゃない!
それは牧瀬さんの趣味じゃないですか!
鞭も平手もイヤですよ!


 非難の声を無視して、姫子がコルトパイソンを構える。


 鬼気迫ききせまる表情だ。


 銃口の先にあるのは牧瀬の姿。


 姫子は鼻息を荒くさせながら言った。


板垣姫子

あまの……渡さない……。
ブタは……いらない……。
ここで……屠殺とさつ……。

前島悠子

ちょ、ちょっと!
だからやめましょうってば!
姫子さんが言うと洒落シャレにならないんですよぉ!


 前島は涙目で姫子に飛びかかった。


 腕を押さえつけて、無理やりコルトパイソンを取り上げる。


 頭の中に『ハレンチ』という概念しか存在しないエキセントリックな変態メスブタ


 過激な発言とギリギリの奇行を繰り出す変わり者電脳姫


 このテラスには変人しかいない。


前島悠子

うぅぅ……。
なんなんですかぁ……。
どうして『天才クソ野郎チーム』の女性陣は、こんなに変わり者ばかり揃ってるんですかぁ……。
涼太さんが『真人間マトモ』に思えるほどの変人っぷりじゃないですか……。
助けてくださいよ師匠ぉ……!


 睨み合う牧瀬と姫子を見ながら呟く。


 2人は天野という男性を取り合う恋敵ライバル


 前島には2人の視線がぶつかり、激しい火花が飛び散っているように見えた。



天野勇二

なんだお前ら。
随分と楽しそうだな。

前島悠子

あっ!
師匠だ!
待ってましたよ師匠!


 哀れな前島の願いが神に届いたのだろう。


 天野がテラスにやって来た。


 牧瀬はすぐに可憐な笑顔を浮かべて言った。


牧瀬美織

ご主人様!
お待ちしておりました!
今はご主人様のお仲間と楽しくお話をしていたんです。
姫子さんは素晴らしい御方なんですね。

天野勇二

ああ、メスブタと姫子は初対面だったな。
電脳姫は俺様にとってかかせない仲間の1人だ。
失礼のないようにしろよ。

牧瀬美織

もちろんです。
姫子さん、今後ともよろしくお願いいたします。

天野勇二

姫子よ。
ライターワルサーP38は持っているな?
火をよこせ。

板垣姫子

はい……。
どぞ……。


 姫子がライターワルサーP38を取り出し、天野のタバコに火をつける。


 前島はその光景を白い目で見つめた。


 牧瀬も姫子も、天野の前では借りてきた猫のようだ。


 2人とも天野に全力でこびを売っている。


前島悠子

はぁ……。
考えてみれば、師匠こそが一番の変わり者なんでした。
類は友を呼ぶってやつだったんですね……。

天野勇二

うん?
なんだ前島よ。
何か言ったか?

前島悠子

いえ、何も言ってません。
もういいんです。
本当にもういいんです。

天野勇二

お前が持っているコルトパイソン、姫子のやつじゃないのか?
盗むのは良くないぜ。
手癖てくせの悪い女だな。

前島悠子

別に盗んだワケじゃないですし、手癖も悪くないですけど……。
まぁそうですよね。
お返ししますよ。
返せばいいんですよね。


 前島が頬をぷっくり膨らませながら姫子にコルトパイソンを手渡す。


 天野は「何をイライラしているんだアイツ?」と首を傾げていたが、


天野勇二

メスブタよ。
涼太のことを聞かせろ。
何があったんだ?


 早速本題に入った。


 牧瀬が頷き、スマホを取り出す。


牧瀬美織

先日、渋谷でお買い物をしていた時のことです。
とある喫茶店の前で、涼太さんと見知らぬ男性が話しているのをお見かけしたんです。

天野勇二

それがどうしたんだ?

牧瀬美織

どうも2人の様子がおかしかったんですよ。
特に涼太さんの様子がおかしくて……。
完全に青ざめて怯えていました。
見たことのない表情でしたね。

天野勇二

ふぅん……。
相手はどんなヤツだ?

牧瀬美織

メガネをかけたインテリ系のイケメンです。
年の頃は恐らく30代前半。
実にスマートな気品のある男性でした。


 天野の眉が「ピクリ」と動いた。


天野勇二

ほう……。
もう少し詳しく教えろ。
どんな顔のヤツだ?

牧瀬美織

そう仰られると思い、隠し撮りしております。
こちらの男性です。


 スマホの画面に写真を表示させ、天野に差し出す。


牧瀬美織

店内に入り、2人の会話を盗み聞きしようと思ったのですが……。
席までは距離があり、何を話しているのか聞き取れませんでした。

ただずっと、涼太さんは青ざめて俯いてましたね。
もしかすると『脅迫』されているのではないかと、そのように感じました。
これはご主人様のお耳に入れるべき話ではないかと思ったんです。


 天野はスマホを睨みつけると、どこか納得したように頷いた。


 タバコの煙を吐き出しながら告げる。


天野勇二

……望月だ。
あの野郎、涼太に接触したのか。


 リクルートスーツ姿で青ざめている涼太。


 その前に望月がいる。


 涼しげに微笑み、涼太に何かを語りかけている。


板垣姫子

もちづき……?
それは、誰……?
あまの……知り合い……?


 姫子が不安気に尋ねる。


 前島と牧瀬も同じような表情を浮かべている。


 なぜなら、天野は写真を見た瞬間、恐ろしいほどの殺気を放ち始めたのだ。


 これはただ事ではない。


 写真を見ただけで、ここまで機嫌が悪くなるなんて。


 前島も恐る恐る尋ねた。


前島悠子

何者なんですか?
師匠と涼太さんにとって、因縁いんねんのある相手なんでしょうか……?

天野勇二

ああ、そうだ。
ついにアイツが動き出したか。
これは何か勘付かんづかれたかもしれんな……。


 天野は舌打ちをしながら女性陣を見つめた。


 3人には『望月』の存在を告げていない。


 できることならば、告げたくはなかった。


 望月の存在を告げることは、自らのデリケートな問題をさらけ出す行為に等しい。


 だからこそ教えたくなかったのだ。


天野勇二

(だが、もう頃合いだろう。コイツらに危害が及ぶ可能性も高い。それに、いつか話さなければならない問題だったんだ……)


 大きく息を吐き、タバコの吸い殻を灰皿にねじ込む。


 天野は仲間たちの顔を見つめながら言った。


天野勇二

この男の名前は望月蒼真もちづきそうま
俺様が最も憎んでいる男であり、宿敵ともいえる男。
そして、現時点における筆頭容疑者ひっとうようぎしゃだ。

前島悠子

容疑者?
なんの容疑者ですか?

天野勇二

遠隔殺人者トリックメイカーだよ。
俺はコイツが最も疑わしいと睨んでいる。
そして、俺の見立てが正しければ、コイツは最悪の連続殺人鬼シリアルキラーだ。

前島悠子

な、なんですって……!
人殺しなんですか!?


 前島が驚愕きょうがくの表情で写真を見つめる。


 天野は苦い表情で言った。


天野勇二

これよりお前たちに、俺と望月の因縁いんねんを告げる。
できることならば語りたくない。
だが、相手はなぜか『天才クソ野郎チーム』敵視てきししている。
いつか対峙することもあるかもしれない。
そのために、俺が望月を憎む理由を共有してほしい。
わかっていると思うが、絶対に他言たごんするなよ。





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つばこ

【質問コーナー】
Q:アニメ化(もしくは実写化)って話は無いんですか?
A:ないですねぇ…(´・ω・`)
 
Q:天クソがアニメ化されたとしたら主要キャラの声優さんは、誰にやってもらいたいですか?
A:アニメ化されないので、こんなことを考えると虚しくなるんですけど、やっぱり天野くんは宮野真守さんがいいなぁ。ちょっとオカリンとキャラ被ってるとこあるのでアレですけど。また涼太くんは鳥海浩輔さんで、前島ちゃんは佐倉綾音さんがいいな! あとどんな役でもいいので篠田麻里子さんに出演してほしいですね。なんか似た感じのキャラもいるし。いや、別につばこの趣味ってワケじゃないんですよ。キャスティング権の私物化じゃないし「んほぉ〜この声優たまんねぇ〜」でもないんですよ嘘ですけど。
 
次回はようやく天野くんと望月の因縁が明かされます!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 10件

  • ともも

    どちらかというと涼太の方が宮野さんっぽい!!

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  • オルタ

    個人的には涼太くんは宮野真守さんか斉藤壮馬くんのイメージがあるなぁ。正直天野くんはわからん、いつも脳内CV???で読んでる。

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  • みんみ

    天野、宮野さんなの!??
    思ってたより声高めなんですね!、

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  • べっちん

    最初のレディースバトル、大奥?て思ってしまった(笑)
    屠殺て…wwwww
    まだ、琴ちゃんでしたっけ?名(?)探偵 がいるじゃないですか。
    正妻(前島ちゃん)VS側室(姫ちゃん、メスブタ)は、決着つかないんだろなー

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  • とうか。

    勝手にアニメ化考えたことあるけど!!
    佐倉綾音さん超共感!!!
    ただ涼太が宮野真守さんで
    天野くんは諏訪部順一さんだった!!

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