※今週(5/29)は2話更新となります。前話を見逃さないようにご注意ください。





 面接を終えて、望月と再会した10分後。



 涼太の姿は、渋谷しぶやにある純喫茶じゅんきっさの中にあった。



 ヨーロッパのカフェを思わせる内装が特長のレトロ喫茶。



 窓辺には四季折々しきおりおりの植物が飾られている。



 涼太は窓の向こうに流れる渋谷の街並みを眺めながら、



佐伯涼太

素敵なお店ですね。
望月さんはよく来るんですか?


 目の前に座っている望月に尋ねた。


望月蒼真

渋谷に来た時はね。
どうしても病院は無機質だから、穏やかな空間が恋しくなるんだよ。

佐伯涼太

ふぅん……。
望月さんの雰囲気にピッタリって感じですね。
ここは何がおすすめですか?

望月蒼真

『ウインナコーヒー』かな。
生クリームを『バラ』のように美しくいろどってくれるんだ。
インスタ映えするから女子人気も高い。
もちろん味も最高だよ。

佐伯涼太

へぇ、じゃあそれにします。


 望月と同じウインナコーヒーを注文。


 確かにアイスコーヒーの上に、生クリームが『バラ』のように添えられている。


 女子ウケ抜群のフォトジェニックなドリンク。


 苦みのあるコーヒーと、甘さ控えめのクリームのバランスも絶妙だ。


望月蒼真

涼太くんは文学部生だったよね。
もう卒論そつろんは書き終えたかい?

佐伯涼太

ええ、まぁ……。

というか、望月さんは僕が『留年』したことを知ってるんですね。
誰に聞いたんですか?


 望月は小さな笑みを浮かべた。


望月蒼真

いや、知らなかったよ。
だけど、涼太くんの服装は明らかな『リクルートスーツ』だったからね。
着慣れているようにも見えなかった。
それで就活中だろうと判断したんだよ。


 涼太はクリームをかき混ぜながら頷いた。


 望月は涼太の現状を知らない。


 そのようにアピールしているのだろう。


 涼太は不思議と居心地の悪さを感じた。


佐伯涼太

(はぁ……。マジでよくわかんない人だよ。昔からそうだった。まるでこっちのことを『全てお見通しだ』みたいに喋るんだ。勇二と同じように『コールドリーディング』を駆使しているのかな……)


 『コールドリーディング』とは、相手の仕草や発言から感情を読み取り、それを言い当てることで信頼を勝ち取る会話術テクニックだ。


佐伯涼太

(でも、この人は『ホットリーディング』を使っているようにも見えるね。たぶん僕のことを事前に調べていた。僕と勇二が何をしているのか、全て見破っているのかもしれないね……)


 『ホットリーディング』とは、事前に相手のことを調べておきながらも、それを隠しながら相手のことを言い当てるように喋る会話術テクニックのことだ。


 一般的には『コールドリーディング』とセットで使われることが多い。


 これらを応用すると、天野が得意とする「相手の嘘を見破る」といった技術を習得することができる。


 涼太はウインナコーヒーを飲みながら言った。


佐伯涼太

鋭い洞察力どうさつりょくですよね。
そうなんですよ。
うっかり単位を落としちゃいまして。
今は大学5年生を満喫してます。

望月蒼真

最近の大学生はコロナで大変らしいね。
涼太くんも去年は『オンライン』で講義を受けたりしたのかな?

佐伯涼太

ええ、そうです。
ゼミとかも全部オンラインになりました。

望月蒼真

それは大変だろうね。
知り合いの教授なんて、学生を講義室に集めながらも、自分はリモートで講義を行っていたよ。

佐伯涼太

あっ、それうちにもいますよ。
対面授業をするぞって学生を集めておきながら、講師本人は別室で喋ってるんですもの。
呆れちゃいましたね。

望月蒼真

まったくだね。
学生だけにリスクを押しつけるなんて間違っている。
大学や教授は誰のおかげで生活できるのか、もっと真剣に考えるべきだろうね。


 望月は自然に言葉を吐き出している。


 チャラ男の涼太は感心しながらそれを見つめた。


 共感を得るような話し方。


 安心感と親しみを与える声色こわいろ


 傾聴けいちょうの姿勢。


 会話を盛り上げるための仕草パワーポイントなど。


 何もかもが完璧だ。


 この男は誰が相手でも、過不足ないコミュニケーションを実現するのだろう。


佐伯涼太

望月さんは僕たちと「しっかり話すべきじゃないか」と言いましたね。
それはどのような意味があるんですか?


 涼太がいきなり話題を断ち切り、本題を切り出した。


 望月のペースで進んでいた会話の流れを変えたのだ。


望月蒼真

言葉通りの意味だよ。
君たちは僕のことを誤解している。
そのために話したほうがいいと感じているんだ。


 望月はあっさり答えた。


 会話の主導権イニシアチブを握られながらも平然としている。


佐伯涼太

うーん……。
それだけじゃよくわかんないですね。
別に誤解していることなんかありませんけど。

望月蒼真

そうかな?
君たちは僕に興味があるんじゃないのかい?

佐伯涼太

何を言ってるんですかぁ。
僕が興味あるのは『カワイイ女の子』だけですよ。
正確にいえば、興味があるのは「ボンキュッボン」でグラマラスかつとびきりセクシーな女の子だけ。
もっと言えば、看護師さんとか大好物なんです。

……あっ、そうだ!
望月さんの病院にイケてる看護師さんはいます?
紹介してくれませんか?
できれば簡単にパコらせてくれるドMのお姉さんがいいなぁ。


 涼太はあえて下衆ゲスな笑みを浮かべた。


 全身から品性下劣ひんせいげれつなチャラ男』という名のオーラを放っている。


 得意の領域フィールドに望月を引き込んでいるのだ。


 望月は小さく微笑みながら言った。


望月蒼真

心当たりはある。
他ならぬ涼太くんの頼みだ。
紹介してあげても構わないよ。

佐伯涼太

おっ!
マジですか!?
望月さんってば話がわかりますなぁ。

望月蒼真

どうせなら君の趣味である『コンパ』を開催しようか?
とびきりの上玉を連れて行くよ。

佐伯涼太

うぷぷ……。
マジで話が早いじゃないですかぁ。
望月さんもお好きなんですね。

望月蒼真

その代わり、君に頼みたいことがあるんだ。
聞いてくれるかな?

佐伯涼太

なんですか?
女子大生を紹介しろとか?
先に言っておきますけど、10代の女の子なんて派遣しませんよ。


 ヘラヘラ笑いながら尋ねる。


 望月は薄い笑みを浮かべたまま言った。



望月蒼真

僕はね……。
ひとつの『計画』を実行に移したいと、考えているんだよ。



 その言葉を聞いた瞬間。


 正確には『計画』という言葉を聞いた瞬間。


 涼太の顔からヘラヘラとした笑みが消えた。


 思わず真顔で望月を見つめる。


 その反応を満足気に観察しながら、望月は言葉を続けた。



望月蒼真

長い間、僕はひとつの時を待ち続けた。
自らの『計画』遂行すいこうできる時を。
ぞくな言い方をするのであれば、果実がじゅくすのを待っていた、と言えるのかな。


 涼太はウインナコーヒーに手を伸ばした。


 急速に乾いていく喉をうるおしながら、またヘラヘラとした笑みを浮かべた。


佐伯涼太

……計画?
なんですかそれ?
しかも果実って。
『みかん』でも食べたいんですか?

望月蒼真

いつか君にも伝えたいが……。
今はその時じゃない。
ただ言えるのは、それこそが僕の人生における集大成になる……ということかな。

佐伯涼太

へ、へぇ……。
なんか壮大そうだいな話ですね。

望月蒼真

それを実行するため、涼太くんに協力をあおぎたいんだ。
君は知らないと思うけど、僕は君のことを高く買っている。
君ほどの男はそういないからね。

佐伯涼太

あはは……。
買いかぶり過ぎですよ。
僕以上の『チャラ男』は世界中に存在します。
そもそも望月さんとはあまり会っていないのに、なんでそんな評価してくれるんですか?

望月蒼真

僕は君の『本質』を見抜いている。
だから評価しているのさ。


 涼太は思わず鼻で笑ってしまった。


佐伯涼太

そりゃまた大きく出ましたね。
僕の『本質』なんて、望月さんが知るワケないでしょ。


 望月はどこか呆れたように両手を広げた。


望月蒼真

そうだろうか?
涼太くんの『本質』は素晴らしいよ。
『初恋の女の子』との思い出や後悔を心の奥底に抱きながらも、前だけを向いて歩き続けている。
君はただのチャラ男じゃない。
ある意味、とてもピュアな男だといえるかもしれないね。


 「ガタン」という大きな音が響いた。


 店内にいた客が驚いて涼太を見つめる。


 その視線を感じ、涼太は自分が思わず立ち上がっていたことに気づいた。



佐伯涼太

な、なんで……。
あなたが、そんなことを……!



 震える声を吐き出しながら、ゆっくり椅子に戻る。


 望月は涼しげな笑みを浮かべて言った。


望月蒼真

驚くことはないさ。
僕は医者なんだ。
鎌倉かまくらの病院に興味深い逆行性健忘ぎゃっこうせいけんぼうの患者がいるという話を聞いてね。
今も記憶の一部が抜け落ちている女子高生。
涼太くんも知っている女の子だよ。


 涼太は息を飲んだ。


 鎌倉で出会った女子高生。


 河瀬結衣かわせゆいのことだ。


(詳しくは『彼が上手に嘘を吐く方法』を参照)


佐伯涼太

まさか、あんた……。
結衣ゆいちゃんに、会ったのか?

望月蒼真

もちろん。
外傷性の健忘症に関しては、未知の部分が多くてね。
後学のために診察させてもらったのさ。
そこで涼太くんの噂を耳にしたんだよ。

よく彼女に付き添っていた大学生がいる。
なんでも、初恋の女の子が亡くなった海岸で出会ったらしい。
どうやら君たちは『ひと夏の恋』に落ちていたようだね。



 ……ドン!



 また店内に大きな音が響いた。


 客たちが驚き、迷惑そうに涼太を睨みつける。


 涼太が拳を振り上げ、テーブルに叩き落としたのだ。



佐伯涼太

望月……。
一度しか言わない。
よく覚えておけ。



 涼太の声が怒りに震えている。



佐伯涼太

結衣ちゃんに近づくな。
絶対に手を出すな。
もしそんなことをすれば、僕は絶対にあんたを許さない。



 望月は両手を広げた。


 涼太をなだめるように微笑む。


望月蒼真

落ち着きなよ。
やはり君は僕のことを誤解している。

……ああ、すみません。
もう静かにしますから。
申し訳ございません。


 注意してきた店員に頭を下げ、望月が涼太に向き直る。


望月蒼真

涼太くん……。
僕は本当に、君に迷惑をかけるつもりはない。
それだけは信じてほしい。
僕の『計画』遂行すいこうされたとしても、君がそれに協力したとしても、君が迷惑を被ることはない。
絶対にね。
断言してもいいよ。


 涼太は静かに立ち上がった。


 まだ瞳は怒りに燃えている。


 吐き捨てるように言った。


佐伯涼太

冗談じゃないですよ。
脅しのような文句を連発する方に、何かを協力したくありません。
もう失礼しますね。

望月蒼真

そんなに怒らないでくれよ。
誤解なんだ。
君の結衣ちゃんに手を出すつもりはないんだよ。


 涼太は心底イライラしながら望月を睨みつけた。


 なんてしゃくさわる話し方をする男なのだろう。


 特に『君の結衣ちゃん』という言い回しが気に入らない。


 望月は薄い笑みを浮かべながら立ち上がると、


望月蒼真

はぁ……。
わかったよ涼太くん。
はっきり言おう。
君にお願いしたいのは、もう僕の周辺を嗅ぎ回るのはやめてほしい、ということなんだ。


 どこか冷たい声で言った。


 涼太の眉がピクリと動いた。


佐伯涼太

……嗅ぎ回る?
なんのことですかね。
さっきから何を言っているのか、マジで理解できないんですけど。

望月蒼真

フフッ……。
君こそ何を言っているんだ。
涼太くん、それは無意味だよ。
実に無意味な『とぼけ方』だ。



 涼太は熱い息を吐きながら、望月を睨みつけた。


 もう立ち去るべきだ。


 やはり望月は『自分たちの動き』を掴んでいる。


 しかし、望月は涼太が動き出す前に、決定的な言葉を吐いた。



望月蒼真

僕は知っている。
勇二くんと君が、秘密裏ひみつりに僕のことを調べていると。
君たちは疑っているんだよね。
この僕が『犯罪者』なのではないかと。
それも生半可なまはんかな犯罪者ではない。
連続殺人鬼シリアルキラーなのではないかと、疑っているんだよね。



 涼太は唇を噛み締めながら望月を睨みつけた。


 望月は薄い笑みを浮かべて言葉をつむいだ。



望月蒼真

いや、正確に言えば、このように疑っているのだろう?
この僕こそが、天才クソ野郎を狙う遠隔殺人者トリックメイカーなのではないかってね。



 涼太が目を見開き、望月を見つめる。


 人当たりの良い笑顔を浮かべているのに、望月は異様な迫力を放っている。


 まるで蛇に睨まれた蛙のように身体が動かない。


 そんな涼太の姿を、窓の向こうから眺める1人の女性がいた。






牧瀬美織

……あれ?



 牧瀬まきせは驚いて喫茶店を見つめた。


 店内に見覚えのある顔を見つけたのだ。


 あれは『ご主人様』の取り巻きの1人。


 佐伯涼太だ。


牧瀬美織

(うふふ……。珍しいですね。涼太さんが男性とデートしてますよ)


 涼太の前には年上のイケメンが1人。


 何かを涼太にささやいている。


 涼太は青ざめており、どこか怯えているような表情を浮かべている。



牧瀬美織

(……あれはデートじゃないですね。まるで脅されているように見えますけど……。何かあったんでしょうか?)



 涼太は立ち上がっていたが、静かに頷き、椅子に戻った。


 その肩をイケメンが軽く叩いている。


 牧瀬はその姿を小首を傾げながら眺めていた。





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つばこ

久々に登場!
『メスブタ』こと牧瀬美織ちゃんです!
彼女がどのような女性なのか知りたい方は『彼が上手にメスブタを飼う方法』を読んでください!
天クソ屈指のイカれたドマゾの変態ですよ!
 
しかし望月さんはいいですね。
あの涼太くんを簡単に逆上させましたよ。
涼太くんの「チャラ男」というペルソナを一瞬で剥ぎ取り、ほんの数言でガチギレさせたのです。
きっと全て計算通り。
ある意味『トラッシュトーカー』と呼べるのかもしれません。
 
次回は場面転換して、主人公の天野くんが登場します!
涼太くんが就活している時、あのクソ野郎は何をしていたのか?
ご期待ください!
そんなこんなで、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 22件

  • さつき

    悪役なのか、悪なのか…。さっぱりわからない…。

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  • べっちん

    望月さんは、ほんとのサイコパスなんだろうな、と想像しています。
    天野っちが、翻弄されるとしたら、同じように優秀な頭脳と体力を持っているだけではダメで、人の心を思いやるという「無駄」な感情を持ち合わせていない人間だと思うので。

    きっと、この物語、アルカノくらい長いお話になるんでしょ?
    楽しみにしてますね♪

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  • ニル

    つばこさんはcomicoで連載が終わったあと、どこかで何かを連載する予定はありますか?!?

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  • やま

    シリアスな展開なのにメスブタというワードで少し和んだ

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  • ちょぱ

    涼太君を助けたげて!この目撃が後で生きるのか逆に首を絞めるのか…

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