※今週(5/22)は2話更新となります。前話を見逃さないようにご注意ください。




板垣姫子

デート……して、ほしいの……。



 それはなんとも可愛らしい『おねだり』だった。



 姫子は「打ち上げ」を言い訳にして、天野とデートしたいのだ。



 涼太が口を「ぽかん」と開けて姫子を見つめる。



佐伯涼太

……デート?
姫ちゃん、勇二とデートしたいの?

板垣姫子

…………

佐伯涼太

ああ、そういうこと……。
なんだ……。

……うぷぷ……。

……あははっ!
それで打ち上げかぁ!
ぎゃははは!
姫ちゃん、超奥手な乙女なんですけど!

板垣姫子

…………




 パン! パン!




佐伯涼太

うげぇ!
全然、乙女じゃないんですけど!


 また涼太がテーブルの陰に隠れる。


 天野は安堵あんどしたように息を吐いた。


天野勇二

まったく驚かせやがって……。
ここで騒ぎを起こしたら、また違う意味で話が大きくなる。
なんだ、ただのデートか。

板垣姫子

うん……。
一緒に、行きたい……。

天野勇二

却下だ。
お断りだな。


 偉そうに姫子の「おねだり」を叩き潰した。


 それを見て前島が「ほっ」と胸を撫で下ろす。


 涼太はげんなりしながら言った。


佐伯涼太

なんでそんな冷たいこと言うの?
僕は誘われてすらいないのに!
ここには4人いるのにペアチケット!
僕と前島さんが頭数に入ってない!
行けばいいじゃん。
医学部が忙しくても、オフぐらいあるんでしょ?

天野勇二

イヤだよ。
俺は遊園地なんか行きたくない。

佐伯涼太

いやいや……。
そこはさぁ、姫ちゃんのいじらしい乙女の『恋心』を考慮して……。




 パン! パン! パン!




佐伯涼太

いたたたッ!
なんでフォローしてる僕を撃つのよ!?
なんて日だ!


 姫子はコルトパイソンを胸に抱き、もう泣きそうな表情だ。


板垣姫子

だめ……?

天野勇二

駄目だ。
それにデートは打ち上げではない。

佐伯涼太

いやだからさぁ……。
それは乙女心の建前………

……いや、もういいです。
もう何も言いません。
お2人で好きにやってください。
コルトパイソンを僕に向けないでください。

天野勇二

確かに今回の事件は大規模であり、かなりの人間に協力してもらった。
打ち上げを開催しても構わないが、関係者は全て呼びたいな。
当然ながら、涼太に、川口かわぐち堂本どうもと
椎名と高尾を呼んでもいいかな。


 偉そうに頭数を数えているが、肝心な人物が抜けている。


 前島がプンスカしながら言った。


前島悠子

ちょっと師匠!
今さり気なく、私を排除しましたね!?
むしろ私は必須ですよ!
『脅迫状』のターゲットになったのは誰だと思ってるんですか!?

天野勇二

お前は勝手に『毒』を飲んだからな。
俺様はあのスタンドプレイを許したワケじゃない。

前島悠子

別にいいじゃないですか!
『ブラフ』だと見抜けなかった師匠が悪いんです!

天野勇二

あのせいで俺様は寝不足になったんだ。
余計なことをしやがって。
お前が『毒』を飲まなくても、作戦は問題なく遂行すいこうできたんだぞ。

前島悠子

じゃあちゃんと報連相ホウレンソウしてくださいよ!
師匠から連絡ないから、作戦がうまくいってるかどうかもわからなかったんですよ!?
「援護射撃したほうがいいのかな?」って考えても仕方ないじゃないですか!


 2人が「ぎゃーぎゃー」と喚き始めた。


 ちなみに前島が『漂白剤』を飲んでしまった件は、前島自身の「誤飲事故」として完結している。


 「誤って漂白剤を飲みました。電脳学博士とは無関係です」と、記者会見も開いている。


 さらに補足すれば、芸能事務所は『電脳学博士』に関する被害届を取り下げ、『トロイの真犯人』である片瀬歩美に対して嘆願書たんがんしょまで提出している。


 これによって、天野たちが逮捕される可能性はゼロに近づいたといえるだろう。


板垣姫子

………………




 ……パン!




 姫子が空に向けてコルトパイソンを発砲。


 それで天野と前島の会話をさえぎると、頬を染めながら天野の腕を掴んだ。


板垣姫子

ちょい……まち……。


 また遊園地のチケットを差し出す。


板垣姫子

デート、したいの……。
わたしも弟子に……なりたい……。

天野勇二

なぜ、弟子になることにこだわる?
弟子は1人で十分だ。

板垣姫子

だって……。
あまのは……弟子が、たいせつ……。


 チケットを握る指先が震えている。


 とにかく乙女として恥ずかしい。


 それでもこのクソ野郎には、言葉にしなければ伝わらない。


 姫子は自分の気持ちを決死の想いで吐き出した。







板垣姫子

わたし……最終兵器アルティメットウェポン……卒業して、弟子になりたい……。
あまの……一番、なりたい……。
だから、表に……出るの……。


 あまりに微笑ましい恋心の告白。


 涼太は吹き出してしまうのを必死にこらえ、前島は驚愕きょうがくの表情を浮かべている。


 しかし、天野はまるで気づいていない。


 小首を傾げながら尋ねた。


天野勇二

一番?
それはどういう意味だ?

板垣姫子

電脳姫じゃ……一番、なれない……。
あまの……一番大切なのは……弟子……。

天野勇二

まぁ、弟子と俺様は、交際しているからな。


 あっさりと言葉の爆弾を投げつけて乙女心を粉砕。


 前島が「にぱー」と満面の笑みを浮かべた。


前島悠子

師匠ってば大胆ダイタン
そうですよね!
交際!
交際してるんです!
私たちの間には『愛的なやーつ』があるんですよね!

天野勇二

うん?
なんだそれは?
そんなものはないぞ。

前島悠子

はぁぁ!?
なんですかそれ!
そこは「あるに決まってるぜダース単位であるぜ」って言うところですよ!
とっとと心を治して素直になってくださいよ!


 前島が頬を膨らませながら叫ぶ。


 姫子は必死に立ち上がり、言葉を続けた。


板垣姫子

わかってる……。
まだ、一番、なれない……。
わたし、甘えてた……。
天才クソ野郎を……陰から支える……存在でいいって……。
最終兵器アルティメットウェポンでもいいって……思ってた……。
その関係に、甘えてた……。


 「ぎゅっ」と瞼を閉じ、言葉を吐き出す。


板垣姫子

でも……。
一番に……なりたい……。
ともだち以上に、なりたい……。
だから、もう電脳部にいるのは……やめる……。
もう……ひとりじゃ……生きられない……。


 姫子の脳裏のうりには、前島の『毒殺事件』を聞き、怒り狂って我を失った天野の姿があった。


 あの姿が姫子にとって羨ましかった。


 あれほど想われている前島のことが羨ましかった。


 天野と前島のきずな


 それは天野と姫子の間には存在しないものだ。


板垣姫子

だから……まずはデートに……誘うの……。
わたしを知って……もらう……。
好きになって……もらう……。
もっと、楽しい時間を……過ごすの……。


 その絆に姫子が手を伸ばそうとしている。


 手が届かないかもしれない。


 それでも諦めたくない。


 今の関係に停滞ていたいすることを止め、一歩だけでも前へ進みたい。


 ほんの僅かな可能性があるならば、その可能性を信じ続けたかった。


板垣姫子

お願い……。
一緒に行って、ほしいの……。

天野勇二

だがな、俺は……。


 天野が何かを言う前に、素早く涼太が口を挟んだ。


佐伯涼太

これは勇二。
行ってあげるべきだよ。
だって勇二は姫ちゃんに『300万円』報奨金ほうしょうきんをプレゼントしてないじゃん。
天才クソ野郎は電脳姫からの『依頼』を達成してないんだよ。


 天野と前島が「ぎょっ」した表情で涼太を見つめる。


天野勇二

お、おい……。
それを言うなよ。
報奨金なんか貰えるはずがないんだ。

前島悠子

そうですよ!
それだと浮気になります!
エモいラブソングを歌うデュオ映画評論家野球選手と同じようなクズになりますよ!
自分がパコ野郎だからって、師匠にまで勧めちゃダメです!

佐伯涼太

シャラップ!
2人の言い分もわかるよ。
だからここは『ダブルデート』にしようよ。

板垣姫子

ダブル、デート……?


 涼太が爽やかな笑顔を浮かべた。


佐伯涼太

そういうこと。
僕と前島さんも一緒に遊園地へ行く。
つまりは『天才クソ野郎チーム』で出かけるってワケよ。
ある意味、懇親会こんしんかいともいえるのかな?
それで手打ちにしない?


 名案とばかりに3人の仲間たちに問いかける。


 しかし、天野たちの表情は暗いままだ。


 それぞれの顔には「遊園地なんか行きたくない」「浮気なんて許せない」「2人きりがいい」といった感情が浮かんでいる。


佐伯涼太

そんな顔しないでよぉ。
そもそも前島さんと姫ちゃんは初対面じゃない。
チームの仲間として、もしくは友達として、交流を深めるのはアリだと思うな。
前島さんも『電脳姫』に興味あるでしょ?

前島悠子

うぅむ……。
それは確かにそうですね。
考えてみれば、自己紹介もしてませんでした。

えっと……。
私は前島悠子といいます。
チームとしては電脳姫さんの後輩になるんですかね。

板垣姫子

あっ……。
い、いたがき、ひめこ……です……。
ども……。


 2人の女子が互いに頭を下げる。


 さすがはコミュりょくモンスターの『天才パコ野郎』だ。


 微妙な空気を一瞬で断ち切り、和やかな交流の場に塗り替えている。


 涼太は満足気に言った。


佐伯涼太

いい機会だから、富樫とがしくんや牧瀬まきせさんを誘ってもいいよね。
むしろ桃香ももかちゃんと胡桃くるみちゃんも呼んじゃう?
コロナ禍だから大勢で騒ぐのは避けたいけどさ。

天野勇二

い、妹たちか……。
前島に会えるとなれば、喜ぶかもしれんが……。

佐伯涼太

そうしようよ。
僕には『軽井沢でのバカンス』をプレゼントしてくれたのに、姫ちゃんはどこにも連れて行ってあげないなんて、チームとして不公平アンフェアだと思うし。

天野勇二

あれはバカンスじゃない。
逃亡だろ。

佐伯涼太

似たようなもんだよ。
大体ね、勇二は人を『タダ働き』させるところがあるよね。
今回は姫ちゃんありきの作戦だったんだから、ねぎらいの場を用意してあげるべきだよね。

天野勇二

だがなぁ……。
俺は遊園地なんか行きたく……

佐伯涼太

もう!
女々めめしいなぁ!


 天野が煮え切らない態度を崩さないので、涼太は財布を取り出した。


 机の上に「ビシッ」と500円玉を叩きつける。


佐伯涼太

じゃあはい!
学園の事件屋に依頼だよ!
これで美味しい定食が食べられる!
『天才クソ野郎チームによる遊園地デート』の幹事をやって!
この程度の依頼を断ったら、天才クソ野郎の名がけがれるからね!


 この言葉が天野のプライドをくすぐった。


天野勇二

な、なんだと?
俺様の名が汚れるだと?

佐伯涼太

そりゃ汚れるよ。
陰キャの勇二は夢の国に行くのが怖いんだ。
情けないねぇ。
その程度の演出もできないんだ。

天野勇二

むっ……。
別に遊園地が怖いワケでは……

佐伯涼太

でも行きたくないんでしょ?
これは情けないチェリオだね。
天才クソ野郎の名が地に落ちたね。
これからは『天才チェリオ陰キャ野郎』って名乗るべきだよ。

天野勇二

チッ……。
言ってくれるぜ。


 天野が舌打ちしながら顔を歪める。


 指先を「パチリ」と鳴らし、偉そうにタバコの煙を吐き出した。


天野勇二

遊園地だと?
夢の国だと?
そこでチームを集めて懇親会だと?
そんなもの、この俺様にかかれば全てうまくいくんだ。

姫子よ。
その打ち上げ、俺様が企画してやろう。

板垣姫子

えっ……?
ほんと……?
だけど、わたしは、2人きりで……。

天野勇二

駄目だ。
世話になった全員を呼ぶ。
もちろん桃香と胡桃も呼ぶ。
ソーシャルディスタンスを守った上で、全員が楽しめる最高の場を演出してやろうじゃないか。


 姫子はやや不満気な表情を浮かべていたが、やがて納得したように頷いた。


 何事もはじめの一歩が大事。


 これまでは天野と出かける機会もなかったのだ。


 それに比べれば大きく進展したといえる。


板垣姫子

いしし……。
嬉しい……。


 右側の唇を歪めて、ちょっと歯並びの悪い歯を見せつける。


 恐怖心を刺激する不気味ブキミな笑顔だ。


 その横顔を眺めながら、前島が不安気に言った。


前島悠子

師匠や妹さんと遊園地に行けるのは楽しみですけど……。
私の『おデート』は別で用意してくれますよね?
それはそれで期待していいんですよね?

天野勇二

いや、これが『おデート』だ。
俺様は忙しい。
これがお前への報酬ということにしてくれ。

前島悠子

えぇ?
マジですかぁ?

うぅぅ……。
なんか不公平アンフェアな気がするんですけど……。
まさかこんな身近に恋敵ライバルがいたなんて、まったく想定してなかったんですけど……。


 前島がしょんぼりと肩を落とす。


 その姿を無視して、天野は不敵な笑みを浮かべた。


天野勇二

クックックッ……。
そうと決まれば、またコネクションをフル活用してるか。
確か親父の知り合いに遊園地の経営者がいたな。
いっそのこと貸し切りにしてやってもいいな。

佐伯涼太

うぷぷ……。
そうこなくっちゃ。
みんなで遊園地、めっちゃ楽しみだなぁ。


 涼太がニヤニヤ笑いながらテラスを眺める。


 作戦を練り始める天才クソ野郎。


 そのかたわらに嬉しそうに寄り添う電脳姫。


 『遠隔操作トロイウイルス事件』を境に、2人の立ち位置は微妙に変わっていくのだろう。


 その先に何が待っているのか、涼太は心から楽しみだった。








(おしまい)




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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
 
さてさて、次回は「天才クソ野郎チーム大集合!みんなで遊園地にレッツゴー!ジェットコースターに乗ってみたら首なし死体が登場!一緒にコースターに乗っていた黒ずくめの男たちが怪しいぞ事件」をお届けしません!
しませんよ!
遊園地には行きません!
夢の国での打ち上げについては、各自の妄想で補完してくださいお願いします!
 
次回のエピソードがcomicoノベルのフィナーレを飾る最終エピソードとなります。
過去に登場した様々な人物が出てきます。
もしお時間あれば「卒業編」「お散歩編」「救出編」に加えて、別作品になっている「誘拐編」などを読み返していただければ幸いです。
 
それでは次週土曜日、
『彼が上手に天才クソ野郎になる方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでした!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 41件

  • ニル

    まじかー
    最後かぁ

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  • あゆ

    次回で、最終回だなんて。
    寂しいー。
    ノベルが終わるから、仕方ないけど、嫌だー(-ω-;)

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  • 田中

    先生が指定した話的に、決着編から続いてる黒幕との対決ってよりかは、天野家の謎を解く感じになりそうな気もするけどどうなんだろうね

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  • ゆーまる

    わかっていてももっと読み続けたいこの抑えられない欲望

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  • ねんね

    最終予告だけでもうしんどい

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