※今週(4/3)は2話分更新しています。前話を見逃さないようにご注意ください。






 『電脳姫の家族会議』から数日後。



 天野は電脳部の部室にて、最後の『作戦会議』を開いていた。



天野勇二

いよいよ『作戦』大詰おおづめだ。
3日後には『国際オリンピック委員会』の幹部共が査察ささつのために来日らいにちする。
どうやって皆殺しにしてやるかな。



 天野はニタニタと悪い笑みを浮かべている。


 隣には涼太と姫子の姿。


 涼太は口笛を吹きながら言った。


佐伯涼太

僕ちゃんは『爆弾』がいいなぁ。
どうせみんな都内の一流ホテルに泊まるでしょ?
そこを狙ってみようよ。
跡形あとかたもなくなるくらい「ドカーン」といってみたいな。


 ヘラヘラと悪い笑みを浮かべながら、物騒なことを提案している。


板垣姫子

ひとり、ずつ……。
キルショット……。


 姫子がライフルでも構えるようなジェスチャーを振り回す。


 こちらも悪い笑みを浮かべている。


 といっても、姫子は唇を歪めて白い歯をのぞかせているだけなので、本当に笑っているのかどうかは不明だ。


天野勇二

ほう?
姫子は1人ずつ仕留しとめるのが好みか。

板垣姫子

うん……。
こっそり、ヘッドショット、してみたい……。

佐伯涼太

遠隔射撃えんかくしゃげきで暗殺ってワケね。
かげ立役者たてやくしゃである姫ちゃんにピッタリの殺害方法じゃん。
僕もそれ嫌いじゃないな。

板垣姫子

…………

佐伯涼太

うげぇ。
また無視シカトだ。
やっと『話し相手』に昇格したと思ったのに。

板垣姫子

…………

佐伯涼太

でも僕は諦めない!
いつか姫ちゃんをハート型の銃弾で撃ち抜いてみせる!
ハニーフラッシュ!
変わるわよ!

板垣姫子

…………


 楽しげにはしゃぐ涼太を無視して、天野が偉そうに言った。


天野勇二

『IOC』の幹部ともなれば、それなりに警備が厳しくなるだろう。
俺たちのような素人が遠隔射撃できるとは思えない。
あまり現実的ではないな。

佐伯涼太

それなら、勇二はどんなやり方がお好みなの?

天野勇二

『特攻』だな。
『爆弾』を懐に忍ばせて、記者きしゃを装って突っ込むんだ。
警備も護衛もまとめてあの世に送ってやるのさ。

佐伯涼太

いいねぇ。
それ僕がやるよ。
お得意の『変装』で新聞記者にメタモルフォーゼしてみせようか?

天野勇二

悪くないな。
仮にお前が取り押さえられたとしても、遠隔操作で爆弾を起動させればいい。
なぁ姫子よ、お前のルートで『C4プラスチック爆弾』あたりを仕入れられないか?

板垣姫子

さすがに……むりぽ……。

天野勇二

ならば『特攻』は諦めよう。
『射殺』妥協だきょうするしかない。
もう『PSG-1』は届いていたな?
とりあえずそれを撮影しておくか。


 部室には『PSG-1』こと、スナイパーライフルが置かれている。


 『武器屋・電脳姫』が通販Amazonで購入したものだ。


 涼太が楽しそうに肩に担いで振り回す。


佐伯涼太

うぷぷ……。
キレイな顔が吹っ飛ぶやつだよ。
本物はもっと重いんだろうなぁ。
やっぱり肩に担がないと撃てないね。

天野勇二

地面に固定すれば、姫子でもヘッドショットできるさ。

佐伯涼太

その場所が問題だよね。
アサルトポイントは警察がマークするだろうし。

天野勇二

そうだな。
射撃できる場所なんて、簡単に確保することはできない。
それならば……。


 極悪の笑みを浮かべながら言葉を続ける。


天野勇二

最悪の禁じ手だが細菌兵器さいきんへいきを使うか。
ドローンを幹部の頭上に飛ばし、殺傷能力の高い『毒ガス』噴射ふんしゃする。
こいつは歴史上最悪のテロになるぜ。

佐伯涼太

うっひゃぁ。
勇二ってば最低。
そんなことしたら、終わらない戦争が始まるよ。

天野勇二

『毒ガス』を生成する施設には心当たりがある。
大学の研究所を漁れば主成分も手に入るだろう。
3種類ほどの毒ガスのレシピ。
それと原料の写真。
ついでに化学式かがくしきも用意してやるか。

佐伯涼太

いひひ……。
勇二ってば極悪の中の極悪。
もう底辺以下のクソ野郎だね。



 早速、天野と涼太は大学の研究所へ向かった。


 こっそり倉庫に侵入し、保管されている『劇薬』の写真を撮影して回る。


 さらに『劇薬』をもとにした細菌兵器のレシピを作成。


 その化学式まで用意した。



天野勇二

……まぁ、この程度で十分だな。
姫子よ、『真犯人』とのコンタクトはどうなっている?

板垣姫子

いしし……。
めちゃ、順調……。


 姫子は『真犯人』に向けてメールを送信している。


 内容は以下のようなものだ。




電脳学博士

我輩わがはいは電脳学博士。

真犯人さん、私の予言通り『トロイカード』のばら撒きは完遂かんすいされた。
しかも11枚目の『トロイカード』には、あなたが送ってきた『トロイプログラム』を仕込ませてある。
きっと警察は『電脳学博士=遠隔操作トロイウイルス事件の真犯人』だと認識したはず。

警察に復讐したいあなたには好都合でしょう?
爆弾、銃撃、暴行、カードのばら撒き。
全てがあなたの仕業しわざとなり、あなたは歴史に残る犯罪者になった。
警察への恨みも解消できたかしら?

我が死んでも自由は死せず。
You Can't See Me.
If you want some, come get some.




 こんなメールを送信している。


天野勇二

真犯人の反応はどうだ?
返事は来ているのか?

板垣姫子

もう……涙目……。


 真犯人からの返事は以下のようなものだ。




なんでこのアドレスがわかった。
お前は何を考えてる。
無駄なことはやめろ。
警察に通報するぞ。




 とにかく電脳姫は稀代きだいのスーパーハッカー。


 不可能を可能にしてしまう電脳の天才だ。


 真犯人の『携帯メールアドレス』を割り出し、既に接触しているのだ。


天野勇二

これは涙目だな。
まさか自分の『携帯アドレス』が割られているとは驚いただろう。
俺が携帯会社に開示請求できれば、いつでも真犯人を殴り飛ばせるのに。
姫子よ、まだやってやれ。

板垣姫子

うん……。


 姫子が追撃ついげきのメールを送信する。




電脳学博士

我輩は電脳学博士。
匿名化メールを警察に送ったところで、誰があなたのタレコミを信じる?
もう警察は『私=あなた』だと認識しているのに。

それは嘘だ。
そんなはずがない。
俺はお前じゃないんだ。
すぐに警察に通報してやるぞ。

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
嘘だと思うならしてみなさい。
全ての罪を着せられ、泣きながら逮捕されるあなたを嘲笑あざわらってやるから。

なぜこんなことをする。
俺になんの恨みがあるんだよ。

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
私は警察への復讐を果たしたい。
それにあなたを利用しているだけ。
次の犯行も考えているのよ。
これであなたは『死刑』間違いなし。

もうやめてくれ。
これ以上、何をするつもりなんだ。

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
次の犯行は来日する『IOC』幹部たちの殺害。
細菌兵器を噴射ふんしゃしたうえに射殺する。
それもあなたの犯行と認識されるでしょう。
世界を敵に回して戦ってちょうだい。

嘘だろ。
そんなことできるはずない。




 まるでチャットのように、姫子と真犯人がメールをやり取りしている。


 姫子は『PSG-1』の写真と、細菌兵器のレシピと化学式、それらを送りつけてやった。




電脳学博士

我輩は電脳学博士。
私にはこれだけの兵器がある。
実弾を所持していることも、あなたは知っているはず。
私の辞書に不可能という文字は存在しない。




 そのメールを送信すると、真犯人からの反応が途絶とだえた。


 涼太が少し不安そうに尋ねる。


佐伯涼太

これはさすがにビビって警察に泣きつくんじゃない?
電脳学博士はガチでイカれてるもの。
真犯人としてはただの『イタズラ』のつもりだったのに、いつの間にかオリンピックの是非ぜひを問うようなテロ事件に発展。
これはイヤだなぁ。
僕だったらもう諦めて自首するね。

天野勇二

そんな小物じゃつまらないな。
それに自首なんて不可能なんだ。
姫子よ、椎名のほうはちゃんと動いているだろうな?

板垣姫子

もち……。
無視シカト、してもらう……。
バッチリ……。


 姫子は「コクコク」と頷くと、親指を突き上げてドヤ顔を浮かべた。


 あまりに口数が少ないので、何を言いたいのかわかりにくいが、


「パパにはもう話をつけた。真犯人が自首してきても無視するように動いてくれる。マスコミへの根回ねまわしも完了してるって。真犯人がどこに泣きついたとしても、全部無視されちゃうの」


 と告げているのだ。


天野勇二

それでいい。
ここで真犯人がどのように動くのか、それが問題だ。

普通であればこんな規模の『テロ計画』を信じるはずがない。
だが、俺たちは『爆発』『銃撃』などの凶悪犯罪を実行している。
真犯人も「電脳学博士は爆弾と拳銃を所持している」と認識しているんだ。
『細菌兵器』を所持していても不思議じゃない。

さて、俺たちを嘘だと決めつけて、無視することができるかな?


 天野は腕組みをしながら、ディスプレイを睨みつけている。


 もう『最後の作戦』は発動中だ。


 先日の『家族会議』にて、姫子は父親にふたつの「おねだり」をしていた。





「真犯人からの通報タレコミや自首を、警察とマスコミが無視するように動いてほしい」


「真犯人を『電脳学博士』として逮捕してほしい」





 この2点だ。


 これらを認めてくれなければ、本当に『IOC』の幹部たちを襲撃する、と脅している。


 椎名は二つ返事で「おねだり」を了承りょうしょうした。


 今は真犯人がどこに泣きついても、それを無視するように動いている。


 椎名はCSPの警視。


 捜査本部に口出しできるほどの権力は持っていないが、真犯人からのタレコミを揉み消すこと、そして「これはデタラメだ」と意見できる程度の発言力を持っているのだ。




 つまり、当たり前の話ではあるが、天野たちは本気で『テロ』を実行するつもりではない。


 全て真犯人を脅すために作り上げた偽りの計画。


 最悪のテロ事件を発生させ、その罪を真犯人に着せてやると脅しているのだ。


 しばらくして「ピコンピコン」と可愛らしい音が鳴り、PCが真犯人からのメールを受信した。




こんなことできるはずがない。
冗談はやめろ。




 天野が呆れたように呟いた。


天野勇二

本当にやると言ってんのになぁ。
お前は俺たちを信じるしか道がないんだよ。
姫子、テロの計画書も送信してやれ。

板垣姫子

おけ……。


 姫子は軽やかにキーボードを叩き、天野が作り上げた『テロの計画書』を送信した。


 『IOC』の幹部が来日らいにちするスケジュールと、それに合わせた殺害場所と時間と手段。


 全てが克明こくめいしるされた計画書だ。


天野勇二

哀れな真犯人だ。
ここまでのテロが計画されているのに、誰にも伝えることができない。
警察やマスコミはお前の発言を全て無視する。
『IOC』やアメリカなどの国外に送っても、どうせ誰も信じてはくれない。
そして、そんな度胸どきょうもない。


 ディスプレイのかすかな明かりが、天野という悪を照らしている。


天野勇二

全部、真犯人が悪いんだ。
『匿名化ソフト』を使ってバカなイタズラを始めるから、こんなことになるんだよ。
そして『匿名化ソフト』駆使くししたからこそ、誰からも信じてもらえなくなる。
狼が来たと叫んでも、その言葉を信じる村人なんていないのさ。
電脳という海の中で、孤独を抱いておぼれやがれ。



 しばらく真犯人からの反応はなかった。


 その間に天野たちは計画の最終段階を練り上げる。


佐伯涼太

やっぱり成田空港なりたくうこうでの襲撃がベストだよね。
マスコミが集まるかもしれないけど、今は『みつ』を避けるように言われてる。
たぶんそこまで混雑しないと思うな。

天野勇二

ああ、それでいこう。
幹部たちが出国ゲートを出た瞬間に『細菌兵器』の噴射と『PSG-1』による狙撃。
この2段構えでいくか。

佐伯涼太

逃走ルートも決めておこうか。
襲撃しても逃げ切らないと意味ないんだし。


 成田空港の地図を広げて、襲撃ポイントと逃走ルートを決める。


 成田空港があるのは千葉県ちばけん


 この県の交通機動隊は優秀だ。


 成田という日本の玄関口を守護する警察は、優秀でなければ務まらない。


 やがて真犯人からのメールが返ってきた。




ここでチャットできないか。
もっと詳しい話が聞きたい。




 メールでのやり取りを嫌った真犯人からの提案だ。


 姫子が困ったように天野を見上げる。


 天野は即座に首を横に振った。


天野勇二

そんなチャットルームはダメだ。
こっちのログを探ろうとしてやがるな。
丁重にお断りし、成田での殺害計画を告げてやれ。

板垣姫子

おけ……。


 姫子が新たな殺害計画書を真犯人に送信する。




電脳学博士

我輩は電脳学博士。
チャットなんてお断り。
メールのやり取りで十分でしょう?
計画書をブラッシュアップしたから、好きなだけご覧なさい。

こんなの実行できるはずがない。
あんたにはどれだけのメンバーがいるんだ。

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
それをあなたに説明する必要はない。
あなたは何も知らないまま、世界に抹殺まっさつされなさい。

何も知らないなんてあんまりだ。
もう俺を巻き込むのはやめてくれ。

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
あなたは逃げられない。
逃げることも許さない。

頼むよ。
俺は関係ない。
全部、冗談なんだろ?

電脳学博士

我輩は電脳学博士。
冗談だったことが今までにあった?
全ての事件は本物。
私はあなたのように実行しない『脅迫状』を送信することはない。

それに忘れないで。
私はあなたに協力を申し出た。
それを拒否したのはあなた。
似たような復讐心を抱いている同志どうしだと感じていたのに。




 しばしの間、真犯人からの返信が途絶とだえた。


 青ざめて震えているのか。


 電脳学博士に一矢報いっしむくいる手段を考えているのか。


 それとも全てを諦めて警察に自首するのか。


 天野たちはディスプレイを睨みながら、真犯人からの反応を待った。


 やがてPCが「ピコンピコン」と可愛らしい音をあげた。




わかった。
俺が悪かった。
それならせめて、俺にも協力させてくれないか。
あんたの計画のために動きたい。




 返信を見た姫子が「いしし……」と呟く。


 天野は気障キザったらしく指をパチンと鳴らした。



天野勇二

それでいいんだ。
やっとエサに食いつきやがった。
真犯人よ、その言葉を待っていたぜ。





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つばこ

はぁ……。
comicoノベル終わるのか……。
ほんとやだよ終わりたくないよ(´;ω;`)ウッ…
 
しょんぼりしてもしょうがない(前話作コメから引用)けど、そう簡単に割り切れたら人間苦労しませんよね!
たぶんしばらく作コメがウジウジすると思いますけど、それも仕方がないものだと諦めてください!
そこんとこオナシャス!!!
 
そんなこんなで『トロイ編』もそろそろクライマックスです。
天野くんはこの罠に真犯人をハメるために、『爆発』とか『銃撃』みたいな凶悪手段を選んでいたのかもしれませんね。
ほんと恐ろしい男ですよ。
あれも一種の伏線だったワケです。
『爆弾』を仕掛けたりするヤツなら、テロだってやりかねないですもの。
この「やりかねない」という点がミソだったのかもしれませんねぇ。。。
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 56件

  • mikko

    4月から小学生になった娘を出産してから、子育ての合間に読ませていただいていました。
    涼太くんのチャラさと天野くんの爽快痛快さが、いつも育児のストレスを払拭してくれてました。
    ノベル終了までに無理に話を終わらせないでほしいし、もっとずっと読んでいたいです。

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  • おにぎり

    初めてコメントします。ノベルアプリ立ち上げて下さい。必ず読みに行きます。

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  • ゆき

    別の場所で連載してください。
    必ず読みに行きます!

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  • kj

    天クソは追い続けます!comicoの閉鎖後どこで連載続けるか教えて下さいね!

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  • 夏妃

    ノベルが終わってしまうのは、私も嫌です。今回の発表は、本当に残念です。毎週楽しみだったのに(´・ω・`)

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