姫ちゃん

ども……。



 女の子は天野をチラリと見上げると、蚊の鳴くような声で呟いた。



 彼女がこの部屋のぬし



 学生たちから電脳姫でんのうひめというあだ名で呼ばれている、板垣姫子いたがきひめこだった。



天野勇二

姫子よ、久しぶりだな。
元気にしていたか?

板垣姫子

まぁまぁ……。



 姫子はうつむきながら頷いた。


 言葉は「もにょもにょ」しており、非常に聞き取りづらい。


 長いボサボサの髪の毛が顔の半分を隠しているので、表情さえもうかがいづらい。


 『陰気』『根暗』といった言葉がぴったりの風貌ふうぼう


 不気味ブキミなオーラを放つ女の子だ。



佐伯涼太

やっほー!
姫ちゃん久しぶり!
僕のこと覚えてる!?

板垣姫子

…………

佐伯涼太

ちょっとちょっとぉ。
なんでいつも僕を無視するのさぁ?
勇二には微かに言葉を返してくれるのに。

板垣姫子

…………

佐伯涼太

たまには僕ともお話してよ。
僕はとても寂しいなぁ。
ほらほらこっち向いてよぉ。

板垣姫子

…………



 姫子は完全に涼太を無視している。


 なぜなら、彼女は涼太のようなチャラ男のリアじゅうが大嫌いなのだ。


 別に2人の過去に何かあったことはない。


 涼太が言葉をかけられたことも、一度もない。


佐伯涼太

勇二ぃ……。
姫ちゃんがドイヒーだよぉ。
いつものことながら僕を無視するよぉ。


 泣き真似をしながらおどける涼太を無視して、天野は姫子に尋ねた。


天野勇二

姫子よ。
頼んでいたことは調べてくれたか?

板垣姫子

もち……。


 姫子は半纏はんてんの中から「にょろり」と青白い指を伸ばした。


 骨まで透けて見えるのではないか、と思うほどの弱々しい指先。


 これがキーボードに触れると、別の生物のように動き出す。




 ダダダダダダッ




 マシンガンを連射するかのようにキーを叩き、6台の液晶ディスプレイに命を吹きこんでいく。


 ピアニストがショパンでも演奏するかのような指さばきだ。


 姫子は右端の画面に「みかん」の画像を表示させると、どこか気怠けだるそうな表情で言った。


板垣姫子

これ……。
トロイ……はいってる……。


 天野は眉をひそめながら画面を見つめた。


天野勇二

……なに?
まさか、トロイプログラムを準備したのか?
お前に連絡を入れてから1時間しか経過してないぞ。

板垣姫子

うん……。
簡単な……やつだけど……。

天野勇二

この画像にトロイを仕込んだのか?
これをダウンロードするとトロイに感染する、ということか?

板垣姫子

その……とおり……。
事件と……似たタイプの……マルウェア……。


 「みかん」の画像をクリックし、ダウンロードフォルダに画像を保存。


 特に画面上の変化はない。


 一見では「画像をダウンロードして保存しただけ」としか見えない。


 涼太が困惑しながら尋ねた。


佐伯涼太

……ねぇ勇二。
姫ちゃんは何を準備したの?
あの画像がトロイプログラムってどういうこと?

天野勇二

俺にもまだよくわからんな。
だが、『遠隔操作トロイウイルス事件』では「画像」にトロイプログラムが仕込まれていたんだ。
もしかすると、それを模倣もほうしているのかもしれん。

佐伯涼太

画像に?
画像をダウンロードするだけで、コンピュータウイルスに感染しちゃうの?
マジで?

……あれ?


 首を傾げる涼太のスマホが鳴った。


 1通のメールを着信している。


 涼太はそれを開いて仰天ぎょうてんした。





[件名:サンプル]

[本文:涼太は死んじゃえ。明日殺して爆発させちゃうよ]




佐伯涼太

な、なにこれ!?
殺害予告なんですけど!?
これもしかして、姫ちゃんからのメール!?
いつの間に送ったの!?


 姫子は「ふん」と鼻を鳴らすと、天野を見上げて言った。


板垣姫子

こんな……かんじ……。
犯人……匿名掲示板……つかってる……。
仕組みは……いっしょ……。


 天野はいぶかしげに画面を見つめた。


 あまりに手際が早すぎて、姫子が何を伝えたいのか完全に理解できない。


 思考を整理しながら尋ねる。


天野勇二

ちょっと待て……。
本当に事件と同じタイプのトロイプログラムなのか?
つまり、この「みかん」の画像をダウンロードすると、PCは勝手に涼太へ『脅迫状メール』を送信してしまうのか?

板垣姫子

そう……。
でもこれ……簡単なやつ……。
あくまで……サンプル……。

天野勇二

お前、なぜこんなもの持って……。
……いや、まさかとは思うが、俺が連絡した後に作成したのか?

板垣姫子

もち……。

天野勇二

たったの1時間で作り上げたのかよ……。
とんでもない天才だな。

板垣姫子

天才……?
いしし……。


 姫子は右側の唇を歪めると、ちょっと歯並びの悪い歯を見せつけた。


 恐怖心を刺激する不気味ブキミな笑顔だ。


 幼子おさなごであれば、この表情を見ただけで泣いてしまうかもしれない。


板垣姫子

事件のトロイ……新種……。
セキュリティ……防げない……。
でも……仕組み……いがいと、単純……。


 姫子は気味の悪い笑顔を浮かべたまま「みかん」の画像を指さした。


 あまりに言葉数が少ないので理解しにくいが、


「『遠隔操作トロイウイルス事件』がどのように発生したのか実演してみたよ。でも実際のトロイプログラムの正体は不明だし、既存のセキュリティソフトでは防げないの」


 ……ということを伝えたいのだ。


天野勇二

ほう……。
トロイとは簡単にPCへ侵入してしまうのだな。
画像をダウンロードしたら、その瞬間にアウトというワケか。

板垣姫子

うん……。

天野勇二

恐ろしい話だ。
セキュリティソフトが対応できないのであれば、気づくことも防ぐこともできん。
人気の匿名掲示板であれば閲覧者えつらんしゃやダウンロードする人間も多い。
感染者は結構な数になるだろうな。

板垣姫子

そう……。
どうすることも……できない……。
感染防止……ダウンロードしない……それだけ……。

天野勇二

だが、匿名掲示板であれば通信記録ログが残るはずだ。
『トロイが仕込まれた画像』を投稿した人間を簡単に探せるはず。
それを警察が特定できないのであれば、犯人は何らかの『匿名化ソフト』を使ったのか?

板垣姫子

たぶん……。
くさるほど……ある……。

天野勇二

俺は最も有名な『Tor』しか知らないが、他にもあるのか?

板垣姫子

うん……。
いっぱい……ある……。
もっと……いろいろ……できちゃう……。


 姫子は半纏はんてんに包まれた細腕を軽く持ち上げ、指先をクルクルと回転させている。


 とにかく言葉数が少なく、ジェスチャーも何を意味しているのか理解できないが、


「通信を秘匿化ひとくかするソフトはたくさんあるの。ダミーの情報を流すこともできちゃう。警察はどんな『匿名化ソフト』が使われたのか公式発表してないけど、犯人は捕まらないように色々と準備しているはずだよ」


 ……ということを伝えたいのだ。


天野勇二

なるほどな。
誰にも防げない新種のトロイ。
それを仕込ませた画像の投稿者も発見できない。
これでは警察もお手上げだ。

板垣姫子

そう……。

天野勇二

やはりこの分野は姫子に限るな。
俺たちの理解を深めるために、似たようなトロイプログラムを作成してみせたのか。

板垣姫子

もち……。

天野勇二

実に素晴らしい。
さすが電脳姫だ。
やはりお前は俺様の最終兵器アルティメットウェポンだな。

板垣姫子

いしし……。


 また唇の右側だけを歪めて、気味の悪い笑顔を浮かべる。


 涼太は「姫ちゃんは『ホラー映画』に出てくる幽霊みたいだねぇ」と思いながら言った。


佐伯涼太

あ、あのさぁ……。
僕は2人が何を話してるのか、イマイチよくわからないけど……。
これだけは言えるよ。
どうしてサンプルが僕の殺害予告なの?
ドイヒーじゃない?

板垣姫子

…………

佐伯涼太

無視しないでよぉ。
こんなメール送られたら怖くて泣いちゃうよ。

板垣姫子

…………

佐伯涼太

その華麗なスルーがたまんないね!
ツンデレサイコー!
姫ちゃん、僕と一緒に爆発しちゃおうよ!


 小刻みに腰を振る涼太のことを、姫子は心底嫌そうに見上げている。


 このチャラ男は女の子の無視シカトなんて、「向かい風が吹いてる」程度にしか考えていないのだ。


 天野は呆れたように2人を眺めた。


天野勇二

クックックッ……。
まったくお前らは変わっているな。


 片方はリア充を極めた男子。


 片方は根暗を極めた女子。


 良くも悪くも個性的な2人だ。


 「足して2で割ってやればマトモな人間になるのになぁ」と苦笑いしながら、天野は姫子と出会った時のことを思い返していた。









 天野が『電脳姫』と出会ったのは数年前のことだ。



 当時の天野は、まだ周囲から『天才クソ野郎』という「あだ名」で呼ばれてはいなかった。



 『学園の事件屋』という趣味にも本腰ほんごしを入れておらず、自らの『本質』さえも見つけ出していなかった。



 それでも、ただなんとなく昼飯をおごらせ、いくつかの『依頼』を引き受けていた。



 姫子と出会うきっかけは、その『依頼』に関わることだった。



天野勇二

……ダメだな。
これでは使えない。
動画を撮影するのも難しいものだな。



 天野はデジカメで撮影した動画を眺めながら、ため息を吐いていた。


 画面には哀れな『ストーカー男』の泣き顔が映し出されている。


 英文科の女学生につきまとっていた変態だ。


 天野に痛めつけられ、「もう金子かねこさんには近づきません」と泣きわめいている。


 ストーカーの再犯率は非常に高い。


 それを防ぐために罪の自白じはくを撮影し、「またストーカー行為に及んだら全世界に公開してやるぞ」と脅していたのだが……。



天野勇二

俺様の顔がバッチリ入ってるじゃないか。
これでは抑止力よくしりょくにならん。
動画を編集しなければならんな……。



 さすがの天野も、この程度の『暴行』で逮捕されたくはない。


 自らの存在は消去しなければならないが、当時の天野には動画編集の経験スキルがなかった。


 そこであらゆる映像系のサークルを訪ね、動画を編集できる人間を探すことにしたのだ。



 しかし、なかなか該当者がいとうしゃは見つからなかった。


 何せ動画の編集に関わるということは、「暴行の揉み消し」に加担することに等しい。


 動画の編集スキルをゆうしており、天野という『悪』に協力する度胸どきょうがある。


 この2つの要素を持つ学生が存在しなかったのだ。



映像系サークル部員

これは難しいですね……。
天野さんを消してしまうと、罪の自白そのものが消えてしまいます。


 映像系サークルの学生たちは、そんな返答を天野に送った。


 そして内心では「これを編集したら犯罪者の仲間入りだ」と怯えていた。


天野勇二

それでは意味がない。
俺だけを動画から消してほしいんだ。

映像系サークル部員

無理ですよ……。
そもそも編集が高レベル過ぎます。
大学のサークル程度じゃ無理だと思いますよ。

天野勇二

何とかならんのか。
金なら出すぞ。

映像系サークル部員

お金を出されてもなぁ……。

……あっ、でもあれかな?
もしかしたら電脳姫でんのうひめなら、なんとかできるかもしれませんね。


 『電脳姫』とは初めて聞く名だった。


天野勇二

電脳姫だと?
なんだそいつは?

映像系サークル部員

『電脳部』っていうサークルにいる女の子のあだ名です。
部員はほとんど辞めちゃいまして、今は電脳姫しか在籍してません。

天野勇二

ふぅん。
それでサークルとして存続そんぞくできるのか。

映像系サークル部員

電脳部にはかなり私物があるらしくて、それを部屋から出すのが手間らしいです。
だから大学側も黙認してるみたいですね。
だけど電脳姫は、その分野に関してはとんでもない『天才』らしくて。


 『天才』という言葉に、天野の耳がピクリと反応した。


天野勇二

……ほう?
それは興味深いな。
どんな女だ?

映像系サークル部員

いや、それがですね……。
とんでもなく気味の悪い女の子なんですよ。
すごく感じ悪いし、誰が話しかけても無視するし、何を考えてるのかわかんないし、おまけに顔がちょっとアレなんですよ……。


 当時の姫子ひめこの評判はかんばしくなかった。


 それは今でもあまり変わらない。


 別に『姫』と呼ばれているからといって、容姿が美しいとか、可愛らしいとか、そんなことはないのだ。


 『電脳部』に所属しており、名前が『姫子』だから『電脳姫』と呼ばれている。


 それだけの話だ。


天野勇二

面白そうじゃないか。
電脳の天才か。
会ってみたいものだな。


 天野は姫子の評判に興味を抱いた。


 『天才』と呼ばれながらも、周囲から敬遠され、円滑えんかつな人間関係が築けていない変わり者。


 どこか自分自身と似た要素を感じる。


 シンパシーを感じるものがあった、とも言えるかもしれない。


 天野はすぐさま電脳部の部室へ向かった。


 そして、姫子と出会った。


天野勇二

動画を編集できる人間を探している。
君はできるか?


 狭く暗い部室の中央に姫子はたたずんでいた。


 長いボサボサの黒髪が顔半分を隠している。


 くすんだネズミ色の半纏はんてんを羽織っており、化粧なんかしていない。


 いきなりの訪問者に驚いている様子ではあるが、顔にはどんな表情も浮かんでいない。


 噂通りの不気味ブキミな女子だ。


天野勇二

君が『電脳姫』なのか?

板垣姫子

…………

天野勇二

返事がないな。
それもそうか。
失礼ながら自己紹介をしていなかった。
俺は天野勇二という医学部の男だ。
君とは初めて会うな。

板垣姫子

…………

天野勇二

クックックッ……。
反応がないな。
確かに変わった女だ。


 天野は6畳ほどの狭い部屋を物珍しそうに眺めた。


 窓が全て塞がれ、蛍光灯まで取り外されている。


 まるで日光を浴びると死んでしまう吸血鬼の住処すみかのようだ。


天野勇二

まずは名前を教えてくれ。
幼稚園で習わなかったのか?
初対面の人には自己紹介をしましょう、とな。
まさかとは思うが名前がないのか?
それとも幼稚園の習い事を忘れるほどオツムが弱いのか?

板垣姫子

…………

天野勇二

うん?
どうした?
口が動いてないぜ。
それとも今は取り込み中なのか?

板垣姫子

…………

天野勇二

ほう?
さては耳が聴こえないのか?


 天野は手話しゅわを送ってみた。


 姫子からの反応は返ってこない。


天野勇二

これはまいったな。
何か反応を返せよ。
まるで壁と話しているかのようだ。

板垣姫子

…………

天野勇二

まだ無視シカトを貫くのか……。
こちらを見ているのだから、俺のことは認識しているのだろう?

……うん?


 天野は何かに気づき、姫子の顔を覗き込んだ。


 ここで初めて姫子に変化が訪れた。


 嫌そうに前髪を整え、自らの瞳を隠す。


 姫子の瞳にはひとつの特徴があるのだ。


天野勇二

……ああ、すまない。
物珍しそうに見るべきではなかったな。
右目が見えないのか。

板垣姫子

…………


 天野は納得したように頷き、映像系サークルの部員が「顔がちょっとアレなんです」と告げていた意味を理解した。


 恐らく幼少時に怪我をしたのだろう。


 右目がみにくく潰れている。


 他人に嫌悪感を抱かせるには充分な要素だ。


天野勇二

それで前髪を伸ばしているのか。
別に隠すこともないと思うがな。
実にもったいない。

まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。
名前を教えろよ。
俺は壁と話をするために来たワケじゃないんだぜ。


 改めて姫子に詰め寄る。


 姫子は驚いたように左目を見開いた。


 まじまじと天野の顔を見つめる。


 戸惑とまどいながら口を開いた。


板垣姫子

……どう……して……?

天野勇二

うん?
なんだ?

板垣姫子

目……見えない……。
隠した……ほうがいい……。

天野勇二

それがどうした?
好きにしろよ。

板垣姫子

いや……だから……。
なにが……もったいないの……?


 天野は小首を傾げた。


 ようやく口を開いたかと思ったら、『電脳姫』は妙なことを尋ねてきた。


 天野にとっては心底どうでもいい質問だ。


 肩をすくめながら答える。


天野勇二

俺様は人体の見てくれに興味はないんだ。
左目は見えているのだから、わざわざ前髪で隠す必要もあるまい。
それだけの話だ。

板垣姫子

…………

天野勇二

まぁ、君も女だからな。
顔に傷があると、色々と困ることがあるのだろう。
その点に関しては同情するよ。

板垣姫子

…………

天野勇二

だがな、ルックスを気にするのであれば、他の部分も気にかけてやるべきじゃないか?
まず汚れた半纏はんてんをクリーニングに出したほうがいい。
髪なんてキューティクルの『キュ』の字もないぜ。
もっと美容院に行けよ。
なんなら俺様の行きつけを紹介してやってもいいんだぜ?


 ヘラヘラと笑いながら姫子をあおる。


 なんて偉そうで嫌味いやみたらしい男なのだろう。


 姫子も「ムッ」としたように唇を強張こわばらせている。


 天野はその反応に満足すると、


天野勇二

……まぁ、そんなことも含めてどうでもいいんだ。
俺は君の見てくれに用事があるワケじゃない。
『電脳姫』と呼ばれる君の中身と話したいんだ。
自己紹介をしてくれよ。


 ぶっきらぼうながらも、どこか親しげに語りかけた。


 姫子が少し驚いたように瞳を細める。


 何度も天野の顔と全身を眺める。


 やがてキーボードに指先を伸ばすと、ディスプレイに『いたがきひめこ』という名前を表示させた。


天野勇二

『姫子』というのか。
それで『電脳姫』と呼ばれているのか。

板垣姫子

うん……。


 小さく頷く姫子に、天野は1枚のメモリーカードを差し出した。


天野勇二

頼みがあるんだ。
君なら可能ではないか、という噂を聞いてな。
これに収録している動画を編集してほしい。
ここには高そうなPCが並んでいるが、動画の編集ソフトなんか入ってないのか?

板垣姫子

あ、ある……。

天野勇二

じゃあ、見てくれよ。
可能であれば編集してくれ。

板垣姫子

どんな……編集……?

天野勇二

タチの悪いストーカー野郎を処刑したんだが、動画の中に俺の姿が入ってしまってな。
それを消してほしいのさ。

板垣姫子

しょ、しょけい……?


 困惑する姫子を無視して、PCにメモリーカードを挿入。


 動画が再生されると、ディスプレイにすさまじいほどの暴力シーンが映し出された。


 天野が掌底しょうていでストーカーの顔面を殴り、鼻柱はなばしらに膝蹴りを叩き込み、アクロバティックな関節技で腕の骨を破壊している。


板垣姫子

……おおぅ……。


 姫子は無表情ながらも、小さな呻き声をあげた。


 指先もカタカタと震えている。


 生まれて初めて見た本物の暴力。


 怖がるのが当然だろう。


 しかも隣には、その映像を見ながら恍惚こうこつの笑みを浮かべるクソ野郎がいるのだ。


天野勇二

フフッ……。
見事なものだろう?
俺様は極悪そのものだな。

板垣姫子

……………………


 しばらくすると処刑が終わり、映像はストーカーの自白に切り替わった。


 郵便ポストに汚物おぶつを入れたり、小動物の死体を送りつけたり、ゴミや郵便物を盗んで収集したりと、呆れるほどの悪事を語り始めた。


 時折、天野が「それだけじゃないよな?」と男を小突こづき回している。


天野勇二

ここだ。
こんなところに俺が出てくるのはまずい。
俺の存在だけを消去できないか?

板垣姫子

なる……ほど……。


 姫子はじっと映像を見つめた。


 顎先に手を当てながら何かを考え込んでいる。


 やがて小さく頷いた。


板垣姫子

そんなに……難しい……編集じゃない……。
できる……と、おもう……。

天野勇二

ならば編集してくれないか?
報酬は用意するからよ。


 姫子は動画の再生を止めると、また瞳を細めながら天野を見つめた。


 そして、ぽつりと呟いた。


板垣姫子

あなた……変わってる……。

天野勇二

ああ、そうだな。
俺は変わっているのさ。

板垣姫子

なぜ……?

天野勇二

なぜ?
それはどういう意味だ?

板垣姫子

なぜ……変わっていても……平気……?

天野勇二

変わっているのが、いけないことなのか?

板垣姫子

……ううん……。

天野勇二

じゃあ、別にいいじゃねぇか。


 姫子は小さく息を吐いた。


 何度も頷き、さりげなく前髪を整える。


 呟くような声で言った。


板垣姫子

……わかった。
編集……しても……いい……。

天野勇二

そうか!
報酬は何がいい?
俺は相場そうばがわからん。
姫子の言い値で構わないぜ。

板垣姫子

べつに……いらない……。

天野勇二

欲のない女だな。
メモリでも買ってやろうと思ったのに。

板垣姫子

もう……ある……。

天野勇二

グラボでも新調してやろうか?

板垣姫子

それも……ある……。

天野勇二

PCに関しては最新のものを揃えている、というワケか。
いいだろう。
何か俺が勝手に用意しよう。

板垣姫子

なんで……わたし……?

天野勇二

うん?
「なんで」とは、どういう意味だ?

板垣姫子

なんで……わたしに……まかせたいの……?


 微かに頬を染めながら尋ねる。


 天野は気障キザったらしい笑みを浮かべながら言った。 


天野勇二

そうだな……。
俺様は『電脳姫』が気に入ったのさ。
なぜか似たものを感じるんだよ。

板垣姫子

に、似たもの……?
わたしが……?

天野勇二

そうだ。
君は実に興味深い。
俺様の直感は「こんなクズの処理も安心して任せられる」と告げている。
それに編集できるのだろう?

板垣姫子

できる、けど……。

天野勇二

それにヒマそうだ。
ヒマだろ?

板垣姫子

うん……。

天野勇二

じゃあ、よろしく頼むぜ。



 この時から『天才クソ野郎』『電脳姫』の交流が始まった。





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つばこ

先読み更新話ではこれが2021年最初の更新!
謹賀新年!笑門来福!迎春万歳!
あけましておめでとうございます!
 
……なんて挨拶してみましたが、これを書いてるのは年末ど真ん中でございますので、ちっとも新年は感じておりません(´・ω・`)
 
でもなんかそれっぽいことを書いてみよう!
紅白歌合戦は白組が勝ちましたね!
嵐のファイナル紅白めっちゃ感動しちゃった!
まさか大野くんが号泣するとは!
ニノと翔くんと松潤が合体してブルーインパルスにトランスフォームする演出も最高!
相葉くんの「実は僕は7億光年先の銀河からやって来たペケヨン星人なんです」っていうカミングアウトにもびっくりしました!
2021年はSF元年になりそうで楽しみですね!!!!
 
そんなこんなでいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!
今年も天クソをよろしくお願いしまーす!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 19件

  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    天野くんと姫の交流そんな初期からとは…ここまで全く匂わせなかったけど、かなり役立ってたんだろうな…

    てか、姫が協力するようになったのこのエピソードが原因なのかぁ、それなら涼太でも仲良くなれそうなのになぁ。
    いや、涼太くるって伝えてないのにトロイのプログラムメッセージにわざわざ涼太入れてる辺り、ある意味そういう心の開き方もあるのかもしれない? 笑

    椎名さんが姫をどこまで把握してるかだなぁ、なかなか面白そうだ

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  • へーま

    相変わらずの天野さん(((^^;)
    見た目より中身、今も昔も変わってないんだなぁって
    ブレないですね!!

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  • べっちん

    紅白ネタ、真逆の結果なのがウケるw

    姫ちゃん、いい子みたいだね(どこが?)

    通報

  • ピク

    興味がないことで、
    人のコンプレックスの意識を変える
    天才くそ野郎すぎる

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  • ぷに

    白組が勝ったことは当たってますよ

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