天野は涼太を連れて教育学部の教授棟へ向かった。



 ひとつの扉を軽くノック。



 室内から返ってくる「どうぞ」という女性の声。



 天野は爽やかな笑みを浮かべて扉を開け放った。



天野勇二

やぁ、眞下准教授じゅんきょうじゅ
お久しぶりです。
医学部の天野ですよ。



 准教授部屋に現れた突然のクソ野郎。


 眞下が驚いて立ち上がる。



眞下朋美

……あ、あ、天野ッ!?
何をしに来たの!?
今すぐ私の部屋から出て行きなさいッ!



 憤怒ふんぬの表情で叫んでいる。


 天野はヘラヘラ笑いながら扉を閉めた。



天野勇二

開口一番にその物言いは酷いですね。
落ち着いてください。
あなたと喧嘩しに来たワケじゃないんですよ。

眞下朋美

お黙りなさいッ!
あなたの顔なんか見たくないの!
早く出て行きなさいッ!


 ヒステリックな叫び声が准教授部屋にこだまする。


 浮かべているのは般若はんにゃの形相。


 眉間みけんに刻まれるいくつものシワ。


 厚塗あつぬりのファンデーションにヒビが入って崩れ落ちそうだ。


眞下朋美

私は何度も言ったはずよ!
あなたの乱暴な『やり方』は絶対に許さないって!
あなたみたいな狼藉者ろうぜきものと交わす言葉なんか存在しないの!

天野勇二

まったくやかましい人だな……。
なぜそこまで俺を敵視するんです?

眞下朋美

あなたが下品で下劣なクソ野郎だからよ!
それ以上の理由がある!?
先日の『学長選挙事件』だって、全部あなたのせいじゃないの!?

天野勇二

……はぁ?
それ本気で言ってます?
俺様はふざけた『ゲス野郎』を始末しただけですよ。
むしろ大学の『美化活動』に一役買ったと思ってますがね。

眞下朋美

ぬけぬけと偉そうに……!
あなたが出しゃばったせいで学生が死んだのよ!?
どれだけ大学の名が地に落ちたと思ってるのよッ!?


 大きく『苛立ち』という名の息を吐く。


 舌打ちしながら扉を指さした。


眞下朋美

……とにかく出て行って。
私はもう帰るの。
この後は人と会う予定もあって忙しいから。

天野勇二

まぁそう言わずに。
今日は『お見舞い』に来たんです。
なんでも、昨日『空き巣』に入られたそうですね?
大切なシャネルのコレクションは無事だったんですか?


 嫌な笑みを浮かべながら尋ねる。


 眞下は「ぎょっ」とした表情を浮かべた。


眞下朋美

な、なんで、そのことを……!?
ま、まさか、あなたが盗んだの!?

天野勇二

さすがの俺様もそこまではしませんよ。
だけど、『あのこと』は大丈夫だったのかなと、心配になりましてね。

眞下朋美

あ、あのこと……?

天野勇二

眞下先生が隠し持っている『裏金』のことです。
警察にはうまく隠し通せたんですか?


 眞下の顔が青ざめる。


 唇を歪め、ヒステリックに叫んだ。







眞下朋美

『裏金』ですって……!?
私はそんなもの持ってないわよ!
あなたは本当に目障めざわりなガキね!
そんな無礼ぶれいなことを言って、目上の人間に失礼だと思わないの!?

天野勇二

思うワケないじゃないですか。
俺様は『悪』なんです。
最低最悪のクソ野郎。
これっぽっちの良心もありませんよ。


 嘲笑ちょうしょうを浮かべながら言葉を続ける。


天野勇二

あなたは『汚れた金』を隠し持っている。
ホストクラブで豪遊ごうゆうし、シャネルを買い漁れるほどの大金だ。
どうやってそれを入手したのか。
人様に教えることはできない。

もし俺様がその『入手方法』を知ったとしたら、善良な一般人として国税庁こくぜいちょうに通報しなければなりませんよねぇ?


 眞下は悔しげに顔を歪めた。


 ギリギリと歯ぎしりしている。


眞下朋美

なんて生意気な……!
この私を脅してくるなんて、本当にムカつくガキ……!
だから『空き巣』に入って銀行通帳を盗んだの!?

天野勇二

脅しているつもりはありませんよ。

そもそも俺は空き巣じゃない。
あなたのような貧乏人を狙うほど、金に困っているワケでもない。
むしろあなた程度の雑魚ザコなんて、はなから相手にするつもりはないんです。

俺様が狙っている『敵』は………


 天野は親指を一本立てた。


 それをゆっくり床に向ける。


天野勇二

教育学部の『教授棟』にいる黒幕……。
アンタを操るボスのことさ。


 眞下の瞳が大きく見開かれる。


 どこか戸惑とまどったような表情。


 天野は吐き捨てるように言った。


天野勇二

アンタたちは利権りけんから生まれる金をむさぼり食らういやしい『ブタ』だ。
やっているのは『教育者』として最低の行為だよ。

『学問』はどんな人間にも平等にチャンスを与える。
環境に恵まれなくとも。
苦しい宿命を背負ったとしても。
『学ぶこと』が人生の活路かつろを切り開いてくれるんだ。

アンタがやっている裏口入学ビジネスはそれを根本から否定している。
だから俺様は気に入らない。
醜いブタがむさぼる餌は『天才クソ野郎』が取り上げてやるのさ。



 天野はこの挑発で「眞下の怒りを完全に買える」と考えていた。


 怒り狂い動揺する眞下を揺さぶる。


 そして『情報』を引き出す。


 それこそが『接触』の狙い。


 しかし、眞下はここで、



眞下朋美

あら、そういうこと……。
ふふふっ……。
いきなり何を言い出すのかと思ったら……。



 余裕の笑みを浮かべた。


 呆れたような口調で告げる。



眞下朋美

天才クソ野郎の『調査』は厳しい。
誰もそれから逃げることはできない……。

そんな噂を聞いていたけど、案外、大したことはないのね。
所詮は子供ガキってことかな?



 天野は若干の違和感を持って眞下を睨みつけた。


 想定外の反応だ。


 眞下はどこか安堵あんどしたような表情まで浮かべている。



天野勇二

ほう……。
これは面白くなってきやがった。
まさか『雑魚ザコ』が俺様の想定を超えてくるとはな……。



 天野はそこできびすを返した。


 眞下がからかうように告げる。


眞下朋美

あら?
もう満足したの?
『お見舞い』の時間は終わり?


 天野は黙って扉を開け放った。


 眞下が満足げに吐き捨てる。


眞下朋美

随分と素直じゃない。
このぐらい尻尾を巻いて『退学』してくれると、良識ある大人オトナは助かるんだけどね。


 あざけりの声を浴びながら部屋を後にする。


 天野は舌打ちしながら廊下を歩いた。



天野勇二

(クソッ……。どうなってやがる。なんだあの余裕の表情は? 俺様の『見立て』が誤っていたのか……?)



 涼太が慌てて天野を追いかける。


佐伯涼太

ね、ねぇ、もういいの?
あれ明らかにおかしいよ。
『裏口入学』のことをほのめかしたのに、眞下先生は一切動揺しなかった。


 天野が忌々いまいましげに頷く。


天野勇二

ああ、不自然すぎる。
あの直情的ちょくじょうてきな女であれば、確実に食いつく『エサ』だと思ったのだが……。

佐伯涼太

僕たちは何かを見落としてるのかな?
もしくは情報が足りない?
いやもしかすると……。
僕たちはのかな……?


 天野は立ち止まった。


 険しい表情で涼太に告げる。


天野勇二

……調査をやり直そう。
改めて教育学部の連中を調べる。
今すぐテラスに『チーム』を集めてくれ。





 数十分後。


 涼太の招集により、テラスに『天才クソ野郎チーム』の面々が集まっていた。


 チームの長である天野が偉そうに告げる。


天野勇二

これから教育学部の『黒い噂』を掴むため、チーム全員で『作戦』を実行する。
これまでの調査で『黒い』と噂されている人間を調べる。
つまり『尾行』『張り込み』だ。


 チームの面々がスマホやメモを持って頷く。


天野勇二

まず尾行の1人目。
教育学部長である須田龍之介すだりゅうのすけだ。

須田は教育学部の実質的なボス。
『裏口』が組織ぐるみならば、間違いなく須田も関与しているだろう。
コイツを涼太、お前にやってもらう。

佐伯涼太

いいね!
僕ちゃんの相手は教育学部のドン!
一番黒い相手だねぇ。
腕がなるよこれは。

天野勇二

次に富樫とがし
お前は教育学部の教授、西崎篤史にしざきあつしを追ってくれ。

富樫和親

はい!
わかりました!



 富樫はメモをとりながら頷いた。


 『ミステリー研究部』に所属する男だ。


 輝くような美肌びはだが売りだけの男だが、頭はそれなりに回る。


 過去の事件における活躍が認められ、『天才クソ野郎チーム』への加入が許されていた。


 ※詳しくは『天才クソ野郎とアルカナの支配者』を参照



富樫和親

西崎先生といえば男前イケメン教授』で有名ですよね。
確かまだ独身だったはず。
眞下先生と『男女の仲』にあるんでしょうか?

天野勇二

その可能性は皆無かいむに等しい。
過去に調べた限りでは、眞下との繋がりは見えなかった。

だがな、どうも西崎はクサい気がするのさ。
西崎は教育学部の『ムードメーカー』だ。
須田とは違う力で教育学部を仕切っている。
実のところ『組織』をコントロールするのは西崎のような人間のはずなんだよ。


 涼太が補足するように言った。


佐伯涼太

だけどね、西崎先生には大金を持っている様子がないんだよ。
車は型落ちの中古車。
住まいも質素なアパート。
私生活が地味なんだ。
裏金を手にしているはずなのに、どうもその気配が見えなかったんだよね。

富樫和親

なるほど……。
それを僕が探ればいいんですね。


 富樫は西崎の姿を思い浮かべた。


 年齢は50歳になろうとしているが、見た目が若々しく、趣味はサーフィン。


 『オジサマ好み』の女子大生からの人気は抜群ばつぐんに高い。


天野勇二

そしてメスブタ。
お前は眞下をマークしろ。


 メスブタこと牧瀬が素直に頷く。


牧瀬美織

お任せください!
ご主人様のご期待に応えてみせます!

天野勇二

ああ、メスブタには期待している。
頼んだぞ。

牧瀬美織

はい!
頑張ります!


 牧瀬はほほをバラ色に染めながら頷いている。


 富樫はこっそり涼太に尋ねた。


富樫和親

涼太さん……。
あの『メスブタ』って女の子……。
何者なんですか?

佐伯涼太

わからないねぇ。
あの娘はとんでもないよ。
手は出さないほうがいいね。

富樫和親

しかも『メスブタ』だなんて……。
僕は過去に『ヒアルロン酸』なんて「あだ名」をつけられましたけど……。
天野さんは何を考えて『メスブタ』にしたんでしょう……?


 富樫が疑問を抱くのも当然だろう。


 牧瀬は驚くほどに可憐な美人。


 華奢だが胸はボリューム感たっぷり。


 どこにも『メスブタ』な要素が存在しない。


佐伯涼太

『メスブタ』は勇二が命名したんじゃないんだ。
牧瀬さんが「そう呼んでくれ」って懇願こんがんしたのよ。

富樫和親

えぇっ!?
ま、牧瀬さんが!?

佐伯涼太

そうなの。
とんでもない変態でしょ。

富樫和親

な、何を考えてるんですか……。
あの娘……。


 涼太と富樫の困惑こんわくを無視して「ご主人様は誰を尾行するんですか?」と、牧瀬が尋ねている。


天野勇二

教育学部の教授、権藤哲也ごんどうてつやだ。
俺様はコイツを尾行する。


 その名を聞き、涼太が嬉しそうに笑った。


佐伯涼太

うぷぷっ……。
勇二は権藤先生が好きだねぇ。
またイジめてあげちゃうの?

天野勇二

俺様はアイツの無様ぶざまな泣き顔が好きなんだ。
また追いかけてやるさ。

牧瀬美織

また追いかける……?
過去に何かあったのですか?

天野勇二

ああ、数年前にお仕置きしてやったんだ。
権藤は根暗でブサイクな教授なんだが、離婚を2回も経験していてな。
それも両方とも『女子大生との不倫』がバレて離婚している。
慰謝料いしゃりょうの支払いに振り回されている上に、本人は『ギャンブル好き』という難病をわずらっているんだよ。


 牧瀬は納得したように頷いた。


牧瀬美織

いやしく浅ましい男ですね……。
眞下先生は嫌ってないのでしょうか?

天野勇二

権藤は俺様に匹敵するクズだ。
当然、嫌っているだろう。
だがじゃの道はへび
悪事に関する利害が一致すれば、クズは意外と頼もしい味方に変わるものさ。

牧瀬美織

なるほど……。
困窮こんきゅうしている権藤先生なら『裏口』に関与する可能性も高い。
そういうことですね。

天野勇二

その通りだ。
いいかお前ら。
もう一度『作戦』を告げるぞ。


 天野は3人の仲間を見つめた。


天野勇二

眞下は間違いなく『何らかの行動』に出る。
最も可能性が高いのは『現金』を動かすこと。
現金は眞下にとって突かれたくない弱点だ。
移動中に捕まえることができれば、眞下を簡単に潰すことができる。

佐伯涼太

それが理想だよね。
違法な現金の所持を『自宅の外』で発覚させれば、それだけで眞下先生は失脚しっきゃくだもん。

天野勇二

ついでに『眞下の仲間』を突き止めたい。

誰が眞下と通じているのか。
誰が眞下の共犯者なのか。
誰が眞下を操る『黒幕ボス』なのか。
そもそも眞下は『裏口入学』に関与しているのか……。

それらを明らかにするための作戦だ。
ここで下手を踏むなよ。



 3人の仲間たちは力強く頷いた。


 『尾行』や『張り込み』を好む変態の涼太は下品な笑みを浮かべ。


 富樫は今度こそ活躍してみせると意気込み。


 牧瀬は命令に従う快感に身を震わせている。


 3人の考えている方向性はまるで違う。


 それなのに不思議と『天野』を頂点としてチームがまとまっていた。



天野勇二

そしてもうひとつ。
今回はLIMEライムを使う。


 スマホを取り出し『LIME』を起動させる。


天野勇二

LIMEに『天才クソ野郎チーム』のグループを作った。
今回の連絡はここで行う。
これを使えば、全員が調査の進捗しんちょくを確認できるからな。


 涼太は苦笑しながらスマホを見つめた。


佐伯涼太

天才クソ野郎も『LIME』チャットアプリを導入かぁ……。
まぁアリっちゃアリだね。
連絡は簡単にとれるし、画像や動画、おまけにGPSの位置情報までトークボードに残せるもんね。

天野勇二

そうだ。
これでチーム全員が円滑えんかつに行動できる、というワケだ。


 天野はそこでニタリと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

眞下のヤツめ……。
このまま逃げられると思うなよ。
俺様はしつこい野郎ガキなんだ。
お前がみじめに失脚しっきゃくする姿を見てゲラゲラ笑ってやるぜ。




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つばこ

★現在判明している『天才クソ野郎チーム』の構成員★
①天野くん
②チャラ男
③流星クソ女
④ヒアルロン酸
⑤メスブタ
 
残念ながら前島ちゃん(流星クソ女)は今回の調査に落選してしまったようです。
これは恐らく「アイドルが尾行や張り込みするのは困難」という理由と「前島ちゃんは教育学部生なので教授たちにめっちゃ顔バレしている」という理由があるためだと思われます。
 
なんとなく他にも『美人探偵』がどうのこうのやかましい女子がいたような気もするのですが、たぶんチーム長の好みではなかったのでしょう。
落選しております。
チーム長も人間ですからね。
選考の基準が主観になってしまうのも仕方ない……ということなのでしょう(o・ω・))-ω-))ウンウン
 
そんなこんなでいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 31件

  • メロンパンの皮欲しいです。

    間違いなく最強のチームだけど、涼太冨樫はまだしも例の子をチームに入れて大丈夫なのだろうか。
    もう全話公開されてるのに、仕様のせいで見れないのがもどかしい

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  • キレアジ

    鉄剣がいっぱいいるでクソ笑った

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  • rtkyusgt

    冨樫くんとか美人探偵とか忘れてたわw

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  • ゆんこ

    作者コメントも面白すぎる笑✌︎( ˙▿˙ )✌︎

    ゲラゲラ笑う天野くんが好き♡(#^.^#)

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    冨樫めっちゃ好きなのにめっちゃ忘れてた、そんなところがとっても冨樫で好き 笑

    あの態度…教育学部だけが敵と考えている根本が違うような気がするんだよなぁ。
    でもそもそも、裏口入学ってのがどういう仕組みなのかもいまいち分からないから見当外れなのかなぁ…?

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