前述した通り、佐伯涼太さえきりょうたはどこまでも軽薄な『チャラ男』だ。



 泣かせた女性の数は多い。



 あっさり捨てた女性の数も多い。



 『両手で数えること』なんかできないほど多い。



佐伯涼太

ねぇ……。
マジで不法侵入するの?
まだ昼間だよ?
それはやめようよぉ……。



 それでもこの場面では『善良な第三者』として牧瀬を説得した。



牧瀬美織

いえ、私はもう決めました。
一匹の優秀な『メスブタ』として、天野様のご期待に応えてみせます。



 牧瀬は宣言を取り下げない。


 さすがの涼太も「不法侵入する」と宣言した女の子を「行ってらっしゃーい! お土産ヨロシクね!」と送り出すことはできない。



 そもそも涼太たちは『裏口入学の証拠』を入手していないのだ。


 いったい自宅のどこに『証拠』があるのか。


 自宅に『証拠』が存在するのか。


 それさえ見当がついていない。


牧瀬美織

私は1人で平気です。
必ず成果を上げてみせます。
心配しないでください。


 牧瀬は可憐かれんに微笑んでいる。


 涼太の心配なんてどこ吹く風のようだ。


 瞳は不法侵入することの好奇心に満ちている。


佐伯涼太

いやいや……。
そんなの心配するに決まってるでしょ。

牧瀬美織

大丈夫です。
こう見えても私、その手のことは得意なんです。

佐伯涼太

君はどこのキャッツアイなのよ……。
バレたら大学を退学させられるんだよ。

牧瀬美織

そんなドジはしません。
任せてください。


 どれだけ説得しても焼け石に水。


 牧瀬は引こうとしない。



佐伯涼太

(意外と言い出したら聞かない娘だなぁ……。勇二の『メスブタ』になるまで法を犯しかねないよ……)



 そう判断した涼太は、仕方なく牧瀬のバックアップに回ることにした。


 自らの車に牧瀬を乗せて眞下の自宅へ向かう。


 眞下の自宅は都内の一戸建て。


 住宅街の密集地にあり、それほど大きな家ではない。


 しかし山手線の内部で地価は高め。


 おまけに独身で一人暮らし。


 准教授の身分で購入できる家ではない。



佐伯涼太

……オッケー。
周囲には誰もいない。
今がチャンスかな。

牧瀬美織

わかりました。
行ってきます。


 牧瀬はあっさり敷地内に侵入した。


 何食わぬ顔で裏口に回る。


佐伯涼太

ありゃま……。
あっさり裏口に行ったよ。
ピッキングでもする気かな?
僕はどうしよう。
勇二に連絡するべきかなぁ……。


 涼太が自宅の前で困惑していると、




 ……パキン




 微かな破裂音が響いた。


 ガラスの割れる音だ。


 涼太は仰天して自宅の外壁を見つめた。


 監視カメラなどは存在しないが、扉の上に『警備会社のステッカー』が貼ってある。



佐伯涼太

うげぇ!
まさかあの娘……!
窓を破ったの!?



 涼太は慌てて裏口に走った。


 もうそこに牧瀬の姿はなかった。


 自宅の裏手には狭い庭。


 そこからリビングに通じている窓がある。



佐伯涼太

ひぃぃ……!
『焼き破り』だ。
とんでもないやり方を使ったね。



 リビングに続く窓の鍵付近。


 数センチほどの穴が開けられている。


 ライターなどで窓ガラスを炙り、水をかけて割ったり、固いもので物理的に破壊する侵入方法だ。


 それほど大きな音もせず軽装備で侵入できるため、空き巣の代表的な手口として知られている。


佐伯涼太

マジで侵入しちゃったよ。
これはやばいよ。


 涼太は手袋を装着してリビングに忍びこんだ。


 もしこの家が『警備会社』と契約していれば、10分程度で警備員がやって来るだろう。


 悠長ゆうちょうに探っている暇はない。


 牧瀬もそのことは理解していた。



牧瀬美織

涼太さん、この部屋にはありません。
1階の探索をお願いします。
私は2階を調べてみます。



 牧瀬がそう言って2階に駆け上がる。


 リビングの戸棚は乱暴に開けられ、中に入っていたものが床にぶちまけられている。


 『焼き破り』の痕跡こんせきが残る以上、空き巣に入られたことは明白となる。


 乱暴に室内を漁ったほうが効率的なのだ。



佐伯涼太

あの娘、何を探してるんだろう。
やばいなぁ……。
これ勇二が好むタイプのクソ女だ。



 涼太は仕方なく1階を調べることにした。


 1階には広いリビング。


 キッチンや風呂場とは別に小さな部屋がひとつ。


 リビングは眞下がくつろぐ部屋のようだが、もうひとつの部屋は『衣服』や『鞄』や『靴』などで埋めつくされている。


 クローゼットとして使っているのだろう。


 涼太は腕組みをしながらそれを眺めた。


佐伯涼太

まったく准教授の持つ衣服じゃないね。
どれもこれもブランド品だ。
おまけにこれもシャネル。
あれもシャネル。
シャネルばっかり。
ここまで集めてたんだ。


 部屋はまさにシャネルの山。


 衣服や帽子に鞄にアクセサリー。


 ほぼ全てがシャネル。


 困ったことに『貴金属』まで置かれていた。


佐伯涼太

はぁ……。
ジュエリーを無視すると変だね。
空き巣だったらこの部屋は無視しない。
悪いけど、眞下先生には泣いてもらうしかないね。


 涼太はいくつかの貴金属をポケットにねじ込んだ。


 これだけで100万円ほどの値がつくだろう。


 涼太は金銭を窃盗せっとうするほどモラルが破綻はたんしている訳ではない。


 どこかで眞下には返してあげよう、と考えていた。



牧瀬美織

……涼太さん。
撤収します。



 牧瀬が2階の探索たんさくを終えて戻って来た。


 侵入してから5分も経過していない。


 その手には『銀行の通帳』が握られていた。


佐伯涼太

ちょっ、おまっ!!!
それはダメだって!
通帳を持ち出すのはマズイよ!

牧瀬美織

しっ!
大きな声を出さないでください。
これが欲しかったんです。

佐伯涼太

いやマズイよぉ……。
これガチの空き巣じゃん。
言い訳なんかできないほどの空き巣じゃん……!

牧瀬さん、手馴れすぎてるね。
これ初犯じゃないでしょ。


 牧瀬は可憐に微笑んだ。


牧瀬美織

うふふ……。
もちろん初めてですよ。
ドキドキしちゃいました。

佐伯涼太

ウ、ウソだ。
君はとんでもないね。
虫も殺せないような顔して、平然とウソを吐けるクソ女だね。

牧瀬美織

初めてですから……。
うっかり『実印』も持ち出してしまったんです。

佐伯涼太

さ、最悪だ。
君は最低最悪のメスブタだ。


 涼太は急いで眞下の家を飛び出した。


 自らの車に牧瀬を乗せ、脱兎だっとのごとく現場から走り去る。


 かなりマズいものを盗み出してしまった。


 牧瀬は通帳に実印。


 自分は100万を超える貴金属。


 これは絶対に通報される。



牧瀬美織

涼太さん、見てください。
この通帳……。
おかしいと思いませんか?



 牧瀬が眞下の通帳を開く。


 そこには確かな不自然な記録が並んでいた。


佐伯涼太

……なるほどね。
牧瀬さん、これを狙ってたんだね。

牧瀬美織

はい。
でも敵は上手うわてですね。
ちょっと失敗しました。

佐伯涼太

うん。
たった1回しか入金してない。
つまり眞下先生は現金でやり取りをしているか、他に口座を持っているんだね。


 通帳には不自然な入金の記帳があった。


 大学からの給与振込。


 クレジットカードの引き落とし。


 それとは別に眞下本人が大金を入金している。


 去年の記録だ。


 金額は1,000万円ジャスト。


 そしてすぐに全額引き出されている。


 ただの准教授が手にできる金額ではない。


佐伯涼太

通帳に記載されているのは去年の11月か……。
こいつは黒すぎるね。
僕ちゃんだけじゃなくて国税庁こくぜいちょうが黙ってないよ。

牧瀬美織

そうですね。
確定申告かくていしんこくできるはずがありません。
眞下先生の年収に近い金額のはずです。

佐伯涼太

どうやって国税庁の目を誤魔化したんだろう?
眞下先生の『脱税』なんか聞いたことがない。
奇跡的に見逃されたか、海外のギャンブルで稼いだとか言って納税したのかな?
これ以降は不自然な入金の記録がないね。

牧瀬美織

これだけではないんです。
私、重大なものを発見してしまいました。


 牧瀬はそう言って自らのスマホを取り出した。


牧瀬美織

見てください。
『現金』です。
2階の部屋に隠されていました。


 スマホにはとんでもない写真が表示されている。


 タンスの奥に山積みされた現金。


 涼太はその日一番の奇声をあげた。



佐伯涼太

ひぃぃっ!
げ、現金じゃん!
現ナマだ!
ナマだ!
これ『億』を超えてるよ!



 牧瀬はどこか誇らしげに微笑んだ。


牧瀬美織

タンスの奥にぎっしり詰め込んでありました。
さすがに現金を持ち出すのは苦労すると思ったので、写真を撮らせて頂いたんです。


 スマホを何事もなかったかのように鞄に仕舞う。


 そして不敵な笑みを浮かべて、


牧瀬美織

眞下先生、きっとお困りになるでしょうね……。

警察に『現金』のことを言えるはずがありません。
でも、空き巣に入られた以上、警察は眞下先生の家を調べることになります。
もし、そこで『タンス預金』を見つけたら、これは面白い展開になると思いませんか?
天野様の敵が勝手に自滅じめつしてくれるんです。

ふふっ……。
天野様、褒めてくださるでしょうか。


 とんでもないことを言い出した。


 涼太はもう何も言えず牧瀬を見つめるだけ。


 久しぶりに規格外の女性が現れた。


 これ間違いなく天才クソ野郎が気に入る。


 そんなことを思いながら青ざめていた。





天野勇二

メスブタよ。
ブラボーだ。



 案の定、天野は気に入った。


 嬉しそうに両手を叩き、牧瀬ことメスブタを賞賛している。



天野勇二

これは良い意味で俺様の予測を裏切ってくれた。
ここまで使える女とは思わなかったよ。
まさかたった1日で眞下の家に侵入し、大打撃を与えてしまうとはな……。

お前のことを過小評価していたようだ。
その認識を改めよう。

牧瀬美織

ありがとうございます!
ご主人様!


 牧瀬は嬉しそうに頭を下げている。


 涼太が「もうこれは合格でしょ」と判断し、テラスに牧瀬を連れて来たのだ。


佐伯涼太

牧瀬ちゃんはとんでもないよ。
『焼き破り』で侵入して、たった5分で通帳と実印を盗み出して、タンス預金まで探り当てたんだもん。
こりゃプロの空き巣になれるね。

天野勇二

実に素晴らしい。
眞下の尻尾をここまで簡単に掴むとは最高だ。



 昨日、眞下准教授の自宅に『空き巣』が入ったという事件は、当然ながら大学でも大きなニュースになった。


 あまりに手際の良い犯行。


 おまけに近隣の家は空き巣の被害にあっていない。


 そのため犯行は「眞下の関係者によるものではないか」と噂されている。


 しかし、牧瀬が撮影した現金の存在は報じられていなかった。



佐伯涼太

眞下先生は『現金の存在』を隠したみたいだね。
教育学部の友達に聞いたけど、そのことは話題に上がってないよ。


 涼太は事前に情報を集めていた。


 眞下は『貴金属』と『通帳』と『実印』。


 盗まれたのはこれだけだと被害届を出している。


牧瀬美織

ご主人様。
これが写真です。
2階の部屋の奥に隠してありました。


 写真を天野の前に差し出す。


 タンスの奥にある大量の現金だ。


天野勇二

クックックッ……。
眞下め、これほどの金を隠し持っていたとは。
あれだけ金遣いが荒いのにまだ持っていやがったのか。

牧瀬美織

私も驚きました。
銀行に預金しては出処がバレると思ったのでしょう。

天野勇二

そうだろうな。
『裏金』を預金できる銀行なんか存在しない。
眞下は頑丈な金庫でも買うべきだったな。
実に爽快な気分だ。

牧瀬美織

しかし、まだ眞下先生の『黒い噂』の真相を掴んだワケではありません。
どうやって発覚させましょう?
どのように眞下先生を攻めますか?


 牧瀬が真剣な表情で尋ねる。


 天野は不敵な笑みを浮かべながら言った。


天野勇二

俺様が眞下と接触する。
少し揺さぶってみよう。
どうせアイツは雑魚ザコにすぎない。
雑魚は雑魚なりに、派手に散ってもらうさ。



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つばこ

★今週のボツ台詞コーナー★
 
涼太くん「牧瀬さん、これ初犯じゃないでしょ」
メスブタ「うふふ……。初めてですよ。もう興奮して汗で濡れちゃいました。おまけに初めてなのに2階もイッちゃったんです////」
 
以上、メスブタちゃんは真性の変態だけどこんなことは言わないだろうなぁ、もし言うとしたらもっと直接的な表現だろうなぁ、と思ってボツにした台詞をお届けしました(`・ω・´)ゞ
 
 
そんなこんなでメスブタちゃんのテストは合格!
次回は天野くんと眞下准教授の死闘が見られるのかな!?
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(∩´∀`)∩

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コメント 29件

  • バルサ

    すごすぎ(^^;

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  • ゆんこ

    この話好きやわー♡笑

    この話も好きや!

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  • タク

    この女、このチャプターが終わってもレギュラーで出て欲しい

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  • ИДЙ

    君はどこのキャッツアイ……www
    吹いたwww

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  • ゆっきー

    雌ブタちゃん、華麗な手際で初めてとか虚偽申告すぎませんかねwww

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