牧瀬美織

私のことは『メスブタ』と遠慮なくお呼びください!

むしろののしってください!

ご主人様の『メスブタ』として、私を飼ってほしいんです!





佐伯涼太

…………はぁ?



 涼太は口を「ぽかん」と開け、まじまじと牧瀬の顔を見つめた。


 とんでもないセリフが清楚せいそな女の子の口から飛び出した。







『メスブタ』






 そんな単語パワーワードが飛び出した。


 まずは大きく深呼吸。


 心底嫌そうな表情を浮かべている天野に尋ねる。



佐伯涼太

えっとぉ……。
勇二さん。
よくわかりません。
マジでわかりません。
僕は説明を希望します。

天野勇二

俺だってわからねぇよ。
牧瀬といったな。
説明してくれ。


 牧瀬は「コクン」と頷いた。


 うるんだ瞳で天野たちを見上げる。


牧瀬美織

あれは……。
つい先月のこと。
雨上がりの良く晴れた夜の出来事でした…………。









 その日、牧瀬は遅くまで大学に残っていた。


 講義やサークル活動が長引いた、というよりも、牧瀬に群がる男たちの相手をしていたら夜になってしまったのだ。


 男たちはそれを狙っていたようで、



牧瀬を家まで送りたい柳田くん

もう遅いから家まで送るよ。

牧瀬と夕飯を食べたい掛川くん

晩飯でも食べに行こうぜ。

牧瀬とコンパがしたい小野くん

みんなで飲みに行かない?



 そんな誘いを持ちかけた。


 男たちの中に『ご主人様』と呼べる人物がいれば良かったのだが、残念ながらどれもこれも今ひとつ。


 全員の誘いを断り、牧瀬は1人でバスの停留所に立っていた。


 外は暗く人気はない。


 バスはなかなかやって来ない。


 車もあまり目の前を走らない。


 不安げに停留所に佇んでいると、1台のバイクが奇声をあげながら現れた。





天野勇二

……フハハハハハ!
処刑だ!
俺様の処刑を味わいやがれ!




 奇声をあげているのはバイクの運転手。


 バイクの歩みは亀のように遅い。


 時速20キロも出ていないだろう。


 それもそのはずで、バイクの運転手はロープで1人の男を引きずり回していたのだ。



バイクに引きずり回されている男

許してくださぁい!
すびばせんでしだぁ!

天野勇二

アーーーッハッハッハ!
何も聴こえんなぁ!



 2つの奇声がゆっくり牧瀬の前を横切る。


 牧瀬は何度も目をこすってその光景を見つめた。


 説明するまでもないが、バイクの運転手は天野だ。


 とある『ストーカー』の男を捕まえ、胴体にロープを結びつけ、バイクで『引きずり回しの刑』を与えていたのだ。



天野勇二

フハハハハハ!
まだ終わらんぞ!
往復だ!
あと5回は往復してやろう!



 上機嫌で男を引きずり回している。


 当たり前の話だが、こんな危険な行為をしてはいけない。


 天野も本気で殺すつもりではない。


 かなりタチの悪い『ストーカー』で頭にきていたので、とびきり重い処刑を執行していたのだ。



ストーカーの男

……うぎゃああん!



 やがてロープが切れ、ストーカーの男は路上に放り出された。


 牧瀬は震えながら物陰に隠れていたが、さすがに「これは通報するべき」と思い、スマホを取り出した。


牧瀬美織

……あ、あの、警察ですか!?
い、今、目の前で、男の人がバイクで……

……あっ!


 牧瀬のスマホが背後から奪われた。


 声にならない悲鳴をあげて振り返る。


 そこには極悪の笑みを浮かべる天野が立っていた。


天野勇二

悪いな。
通報されるのは困る。
俺様の処刑を邪魔するな。


 スマホの電源を切り、牧瀬に投げて返す。


 そのまま路上に転がる男に近づき、


天野勇二

どうした?
まだ生きているのか?
それとも死んだか?


 思い切り腹を蹴り上げた。


 ストーカーが痛みにうめいて悲鳴をあげる。


天野勇二

……おや?
しぶといな。
まだ生きているのか。
これではまた狂った『ストーカー行為』に励んでしまうな。
二度とバカなことを考えないように、俺様の手で殺してやろう。


 男の指を「バキボキ」と踏み潰す。


 狂ったような笑い声をあげた。



天野勇二

アーーーーーーーッハッハッハッハ!!!

どうだ!
痛いか!?
痛いなら好きなだけ泣けよ!
お前が切り刻んだ小動物と同じ目にあわせてやろう!
何匹も罪のない命を奪い、女の郵便箱に放り込みやがって!



 何度も男を蹴り上げている。


 牧瀬の全身は恐怖で震えていた。


 生まれて初めて目にする本物の暴力。


 おまけに天野は何度も高笑いをあげ、どこか楽しげに男を痛めつけているのだ。


 誰だって恐怖に震えるだろう。



天野勇二

いいかクズ野郎。
二度とあの女に近づくな。
次にお前の顔を見つけたら、確実に殺してやる。
お前がやったようにバラバラにオペして捨ててやるよ。
お前は

「いつか殺されるのではないか」

という恐怖と怯えを抱きながら生きるんだ。
折れ曲がった指の骨を見る度に今夜のことを思い出せ!
わかったなら消えろ。
このクズめが。



 最後にとびきりの蹴りをぶち込み『処刑』を終了させた。


 ストーカーの男が泣きながら逃げ去る。


 天野は顔を歪めながらその背中を見送った。


天野勇二

チッ……。
まったく嫌になるぜ。


 舌打ちしながらスマホを取り出す。


 どこかに電話をかけている。


 牧瀬は震えながらその一部始終を眺めていた。


天野勇二

……涼太か。
ストーカーへの処刑が終わった。
依頼人の女には全て終わったと伝えてくれ。

……なに?
慰めてやりたいだと?


 顔をしかめて吐き捨てる。


天野勇二

好きにすればいいさ。
だがな、俺はそんな『口説き方』を教えた覚えはないぜ。
外道がお前だったとしても、一切の手加減なく叩き潰してやる。
それが『天才クソ野郎』のポリシーだ。
そのことを忘れるな。

……ああ、そうだ。
それでいい。
くだらねぇことを考えるな。


 電話を切り、タバコを取り出して火をつける。


 闇夜にタバコの煙が浮かんでいる。



牧瀬美織

(……あ、あの人が、噂の『天才クソ野郎』……! 本当に実在したんだ……!)



 牧瀬は心底怯えていた。


 様々な先輩から聞いた通りの男だ。


 『白衣を着た悪魔』とも呼ばれる極悪人。


 天野はタバコを携帯灰皿にねじ込むと、バイクから紙袋を取り出し、大学の裏手の茂みへと向かった。



牧瀬美織

(ど、どこに行くの……? 何を持っているの……? また、誰かを殺すんじゃ……!)



 牧瀬は怖くてたまらなかったが、勇気を振り絞って天野を追いかけた。


 天野は大学の敷地内に忍び込み、弓道場の裏手の林に向かった。


 人気のない場所だ。


 何かを茂みから取り出している。


 微かな月明かりが天野の手元を照らす。


 大きなスコップだ。


 それで地面を掘り始めた。



天野勇二

……いつまで見ているつもりだ。



 天野がスコップを振りながら言った。


 牧瀬がビクビクしながら周囲を見渡す。


天野勇二

お前だよ。
そこの女だ。
いつまで俺を見ているんだ。


 凶暴な双眸そうぼうが牧瀬を睨みつける。


 牧瀬はガタガタ震えながら口を開いた。


牧瀬美織

あ、あのぉ……。
な、何をして、いるのかなと、思いましてぇ……。


 天野は興味もなさそうに言った。


天野勇二

墓を掘っているんだよ。

牧瀬美織

は、墓ぁ!?


 牧瀬の恐怖がピークに達した。


 しかし膝が震えて動けない。


 天野は舌打ちしながら吐き捨てた。


天野勇二

言っておくが……。
お前の墓ではない。
コイツの墓だよ。


 天野は紙袋を小さな穴に投げ込んだ。


 丁寧に土をかぶせる。


天野勇二

さっきの『ストーカー』はクソみたいな趣味を持っていてな。
惚れた女の郵便箱に小動物の死体を詰め込むことを好んでいたのさ。
「自分に振り向かなければこんな死体に変わるぞ」と脅していたんだ。


 どこが苦しげに言葉を続ける。


天野勇二

まったく酷い話さ。
人間とはくだらん生物だ。
つまらねぇ理由で命を奪いやがって。
小動物を殺すぐらいなら、自分の腕でも切って送ればいいのによ。


 丁寧に地面をならすと、何事もなかったかのようにスコップを元ある場所に投げ捨てた。


天野勇二

それで……。
お前はいつまでそこにいる?
俺様は不機嫌なんだ。
とっとと消えろ。


 まだ牧瀬はその場から動かない。


 足が震えて動けないのだ。


 天野は舌打ちしながら殺気を飛ばした。


天野勇二

……どうした?
早く消えろよ。
この辺りは人通りが少ないぞ。
痴漢や変質者が出没することで有名な場所なんだ。

誰かに襲ってほしいのか?
小動物のように切り刻まれたいのか?
なんだったら……。

俺様がお前を埋めてやってもいいんだぜ?

牧瀬美織

ひぃぃぃ……!
す、すみません……!


 牧瀬は涙目で頷いた。


 なんて恐ろしい男だ。


 あんなに野蛮な極悪人が存在したなんて。


 牧瀬は人生最大の恐怖を覚えながらその場を逃げ去った。










牧瀬美織

…………と、いうことなんです。



 牧瀬が『天野との出会い』を語り終えると、天野と涼太は当然の疑問を飛ばした。



佐伯涼太

ね、ねぇ……。
ちっともワケがわからないんだけど……。
どうしてそこから『勇二をご主人様にしたい』って依頼が出てくるのかな?

天野勇二

まったくだ。
俺様という恐怖を目撃しただけの話だ。
ストーカーをバイクで引きずり回したということは……。
あの時にいた女か。


 牧瀬は嬉しそうに微笑んだ。


牧瀬美織

覚えていてくれたんですね!
そうなんです!
私があの時の『メスブタ』です!

天野勇二

いや……。
お前の顔なんて覚えてはいない。

牧瀬美織

私はしっかりと覚えています!
天野様の素敵な横顔を!


 涼太が呆れながら口を挟む。


佐伯涼太

あ、あのさぁ……。
どう考えてもおかしいよ。
なんでそこから『メスブタになりたい』っていうド変態な発想が出てくるのさ。

まさかクソ野郎のくせに「小動物を埋めるからキュンとしちゃった」ってことはないよね?
僕だったら、バイクで人間を引きずり回すような悪人バカと関わりたくないけど。


 牧瀬は白い目で涼太を見つめた。


牧瀬美織

私には天野様の強さ、優しさ、そこに秘めるお気持ちをしっかり感じました。
天野様はただの悪人ではございません。

佐伯涼太

いやぁ……。
幼馴染の僕が断言するけど、今の勇二は『真のクソ野郎』だよ。

牧瀬美織

違います。
天野様は私に「危険な場所から離れろ」と忠告されたんです。

もちろんあの夜は恐怖で眠ることができませんでした。
しかし、脅しの言葉を告げたのは私の身を案じてのことだったと、後から気づくことができたんです。


 牧瀬は両手を胸の前で組んだ。


 祈るように懇願する。


牧瀬美織

天野様!
どうかお願いします!
私は天野様にお仕えしたいんです!
どうか『メスブタ』としてお傍に置いてください!


 天野は困ったように涼太を見つめた。


天野勇二

これなんだよ。
最終的には『ご主人様になれ』『メスブタにしろ』という結論に着地するんだ。
こんな変わった女は初めてだ。

佐伯涼太

うん……。
こいつはガチで変わってるねぇ……。
牧瀬さんって『変態』なの?

牧瀬美織

変態ではありません。
恋心がちょっと変わっているだけです。

佐伯涼太

それを『変態』って言うんだよねぇ……。


 涼太はジロジロと牧瀬の全身を眺めた。


 本当に美人で可憐な女の子だ。


 おまけにスタイルが抜群。


 出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込む。


 男の理想を極めたようなスタイルの持ち主だ。


佐伯涼太

うーん……。
どう考えてもこの娘は怪しいよ。
『天才チャラ男』のカンが「やばい」って告げてる。

勇二は「目を見るだけ」である程度の心理が読めるんでしょ?
ちょっと軽く心を読んでよ。

天野勇二

それは俺も試した。
この女はかなりドス黒い。
何かの企みを隠し持ってやがる。

だがな、困ったことに『ウソ』は吐いてないんだよ。
本心で『メスブタになりたい』と願ってやがる。


 天野は本気で困っていた。


 天野は過去に心を壊してしまい、恋愛感情といったものが今ひとつ理解できない。


 『メスブタ』を志願する女性の心理が理解できるはずもなかった。


天野勇二

そもそも『メスブタ』の定義とはなんだ?
俺はそれすら理解できん。
何をすればいいんだよ。

牧瀬美織

それは……。
私のことをなぐさみみ者』として扱ってくださればいいんです!
この身体も欲望のままにもてあそんでいただいて構いません!
私はご主人様の奴隷ドレイでありコマでもあるメスブタなんです!
どんな命令でも従います!


 涼太は「それはいいなぁ。すごくいい」と思いながらも、牧瀬を諭した。


佐伯涼太

ねぇ牧瀬さん。
君が特殊な性癖の持ち主ってのはよく理解できたよ。
でも勇二は女の子との関わりを好まないんだ。

だから代わりに僕なんてどう?
僕は良いご主人様になるよ。
鞭を持ってペシペシしちゃうよ。


 牧瀬には涼太の言葉なんか耳に入っていない。


 ただひたすら天野を見上げている。


牧瀬美織

天野様じゃなければダメなんです!
『恋人』なんて偉そうなことは望みません!
『メスブタ』でいいんです!
むしろそれがいいんです!


 天野は困って涼太を見つめた。


天野勇二

これは難問だ……。
涼太よ。
どうすればいいだろうか。

佐伯涼太

そ、そんなことを聞かれても困るよ……。
鞭でペシペシ叩いてロウソクでも垂らして、適当にパコって捨てればいいんじゃないの……?

天野勇二

そんなことは御免だ。
さて、困ったな……。
命令に従う奴隸や駒と言われてもな……。

……いや、待てよ。
『駒』か……。


 天野の脳裏にひとつの閃きがよぎった。


天野勇二

……牧瀬よ。
俺様の命令には何でも従うんだな?

牧瀬美織

はい!
どんな命令もよろこんで従います!

天野勇二

ほう……。
それならば、ひとつ素晴らしい命令をくれてやろうじゃないか。


 天野はニタリと嫌な笑みを浮かべた。



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つばこ

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、牧瀬(メスブタ)はつばこの別作品『ちょっと変わった黒魔術を紹介します』に登場した女の子です。
つばこはクロスオーバーやコラボものが大好き。
以前は『美人探偵編(160話~)』にてコトちゃんを登場させました。
今回のエピソードは黒魔術を読んでなくともバッチリ楽しめますが、読んでいるとまた違った意味で楽しくなる……と思います!
是非とも黒魔術も読んでください!(宣伝)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(*´ω`*)

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コメント 30件

  • taki

    黒魔術の方見てみたけど、牧瀬はあっちでもこっちでも自分をメスブタと呼んでくれと言ってるんだね(>人<;)

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  • ユタ

    天野さんの処刑
    メスブタになりたい女の子
    涼太の女好き

    今日も天クソはいつも通り平和です(錯覚)

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  • ゆんこ

    (変*′Д`*態)

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  • バルサ

    1位コメの言う通り、危ない人達が多いよね(苦笑)
    しかし、続き気になる!楽しみ!(*^^*)

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  • ゆたんぽ。

    この大学は、クソ野郎がいる時点で大分ヤバいです(正論)

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