天野勇二

皆さんどうも。
学園一の問題児、通称『天才クソ野郎』こと天野勇二です。

天野による『お仕置き』のお時間です。
どうぞ席にお座りください。
長い話になりますよ。



 天野が偉そうに語りかける。


 しかし、教授たちは誰も座ろうとしない。


 困惑と驚きが入り混じった表情で天野たちを凝視するだけ。


 天野は呆れたように言った。



天野勇二

……まぁ、いいでしょう。
ご静聴のほどお願いしますよ。
涼太、映せ。

佐伯涼太

はいよ。


 涼太が軽やかにノートPCを叩いた。


 スクリーンに深沢と中里のツーショット写真が現れる。


 遊園地で仲睦なかむつまじく寄り添う2人。


 会議室にざわめきが走った。


天野勇二

こちらの人物はご存知ですよね?
『法学部の権威けんい』こと深沢教授です。
隣に立っているのは法学部の1年生、中里美波といいます。
彼女のこともご存知ですよね?


 法学部の教授たちが驚き、うなだれて肩を落とす深沢を見つめた。


 当然ながら中里のことは知っている。


 『殺人事件』のことも知っている。


天野勇二

この写真が示す通り、2人は『男女の関係』にありました。
つまりは『不倫』です。
中里美波は残念ながら、数日前、歌舞伎町のラブホテルにて、何者かに殺害されてしまいました。


 会議室のざわめきが止まらない。


 法学部の教授たちの顔色は真っ青だ。


天野勇二

しかも……。
彼女が殺害される直前、深沢教授は殺人現場のラブホテルにいました。
きっと『情事』にでも励んでいたのでしょう。

おまけにその時、中里美波のお腹には、深沢教授の『子供』が宿っていたのです。



 会議室は水を打ったように静まり返った。


 教授たちの顔から色が消えていく。


 これは大変な『スキャンダル』だ。


 天野は馬鹿丁寧な敬語を投げ捨てると、いつもの口調で激しく怒鳴った。



天野勇二

どうだお前ら!
これが法学部の権威、深沢教授の素顔だよ!


お前らが『全学長の椅子』に座らせようと考えていたゲス野郎の顔をよく拝みやがれ!



 拳を握り、スクリーンに叩きつける。



天野勇二

だがな、大事なのはそんなことじゃない。

1人の女子大生が殺された!
しかも妊娠中の学生だ!

お前らが学費をむさぼり、メシを食う金を捻出している学生が殺されたんだよ!



 指先をひるがえし、自らの担当教授である岡田に突きつける。



天野勇二

ここには我が医学部の教授連中も集まっているから、そいつらにも訊いてみたいな。

人を1人救うのにどれだけ苦労すると思う?
命ってのは簡単に消すことができ、簡単に誕生させることができる。
だが救うのは果てしなく難しい。

俺は絶対に『犯人』を許すことができない。
あらゆる事実を警察に突きつけてやる。


 岡田が震える声で尋ねた。


岡田教授

あ、天野……。
君は、深沢教授を、殺人犯として……。

天野勇二

違う。
中里美波を殺したのは、深沢教授ではない。
『真犯人』はこの会議室の中にいる。

中里美波を殺したのは…………



 天野は不敵な笑みを浮かべた。


 拘束していた桃井の手を放す。


 偉そうに睨みつけた。




天野勇二

お前だよな?
経済学部の重鎮じゅうちん、桃井康晃。
お前が中里美波を殺したんだ。




 桃井は苦しげにうめいた。


 天野に痛めつけられた肩をさする。


 ゆっくりと立ち上がった。



桃井康晃

……君はさっきから、何を言っているんだ……。
私には、まるで理解できんぞ……。


 天野が「はぁ?」と嘲笑ちょうしょうした。


天野勇二

この期に及んでとぼけるのか?
お前が中里美波を殺した『真犯人』だ。
そう言っているのさ。

お前は深沢と中里を歌舞伎町まで『尾行』していた。
部屋に残った中里に接触し、その両手で…………


 桃井の両手を指さす。



天野勇二

首を絞め……。
殺したんだ。



 桃井が「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てる。


桃井康晃

なぜ、私がそんなことをするんだ?

天野勇二

決まっているだろう?
『学長選挙』に勝利するためだよ。

桃井康晃

たかが選挙のために、殺したというのか?

天野勇二

たかが選挙のために殺した。
そう言っているのさ。

桃井康晃

何を馬鹿げたことを言っているんだ……。
そんな動機で殺すはずがない。
どうせ証拠もないだろう。
犯人はそこにいる深沢じゃないのかね。

天野勇二

クックックッ……。
そうだよな。
誰だってそう考える。
だから殺したのだろう?


 涼太がノートPCを叩いた。


 スクリーンの映像が切り替わる。


 とある防犯カメラの映像が現れた。


天野勇二

桃井よ。
お前は教授のくせに無知で短絡的な馬鹿だから、知らなかったのだろう?
今はホテルにも街にも『監視カメラ』が溢れているんだぜ。

桃井康晃

な、なんだと……?

天野勇二

俺は中里が殺された現場を見てきた。
随分とオンボロな旧式のラブホテルだ。
あまりにオンボロすぎて、ホテルの『防犯カメラ』は機能していなかった。
これはお前にとって偶然の賜物たまものだった。


 スクリーンには歌舞伎町の雑踏ざっとうが流れている。


 涼太はひとつの場面で停止ボタンを押した。


天野勇二

ところがな、歌舞伎町の町内会ってのは、自衛のために『防犯カメラ』を街に設置しているんだよ。
町内会の『防犯カメラ』の記録を片っ端から調べて、やっとお前の姿を見つけた。


 天野がスクリーンを指さす。


 裏路地を歩く深沢と中里。


 その後方にいる、1人の人物を示した。


桃井康晃

ば、馬鹿な……!

天野勇二

深沢たちを『尾行』している人物……。
桃井、お前の姿だ。
そしてもうひとつ。


 画面が切り替わり、別の映像が現れる。


桃井康晃

こんな……!
こんなものまで……!

天野勇二

これは歌舞伎町の『ゴミ捨て場』だ。
時刻は22時。
お前が『コート』と『手袋』を処分している様子が映っている。
残念なことに、お前が映っているのはこの2つしかなかった。


 桃井は青ざめた表情で会議室を見渡した。


 教授たちは困惑の表情で桃井を眺めている。


 桃井は動揺を噛み殺しながら言った。


桃井康晃

……確かに、それは私のようだ……。

そうだ……。
その日は歌舞伎町で飲んで帰ったんだ。
だが、ホテルなんかには行っていない。


 天野は呆れたように言った。


天野勇二

おい桃井……。
あまり俺様を失望させるな。
そんな子供騙しの言い訳で警察が納得すると思うのか?
この映像を警察に提出すれば、科捜研かそうけんがお前の『痕跡』を現場から見つけ出すだろうよ。

桃井康晃

そんなもの……。
見つかるはずがない!

天野勇二

いや、必ず見つかるね。
断言してもいい。

人間は殺人を犯す際、極度のストレスのため『毛髪』が大量に抜け落ちるんだ。
当然、警察はその点を視野に入れている。
部屋からはお前の『DNA』と一致する『毛髪』が必ず見つかるのさ。

それに科捜研かそうけんは優秀だ。
例え髪なんかなくてもな、微粒子レベルでお前の痕跡DNAを探し出せるんだよ。
科学捜査の進歩を甘く見ないほうがいい。

お前が中里を殺した。
優秀な警察はすぐに結論を出してくれるぜ?


 獣のような瞳で桃井を睨みつける。


 会議室に広がる殺気。


 桃井の身体が震え始めた。


天野勇二

お前の狙いは明確だ。

『お前』という存在点。
『深沢と中里』という存在点。
これをつなげる線は存在しない。だから中里を殺しても、お前に捜査の目が向くことはなかった。

だが、俺様はこの『防犯カメラ』によって、点を結ぶ線を見つけてしまった。


 気障キザったらしく指先を振り回す。


 怯える桃井の顔に突きつけた。


天野勇二

もう『お前』と『殺人事件』は一本の線でつながった。
後は科学捜査が痕跡を見つけ出して『ジ・エンド』さ。
それでお前のキャリアは永遠に消滅するんだ。

桃井……。
お前は中里美波を殺した。
その『証拠痕跡』は必ず見つかる。

お前が『殺人犯』である証拠が必ず見つかるんだよ!

桃井康晃

ち、違う!
私は殺してない!


 桃井が顔を歪めて否定する。


 天野はヘラヘラと意地の悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

いや、お前は殺したよ。
俺様にはわかるね。
お前は人を殺した顔をしている。

もう諦めたらどうだ?
お前はラブホの前で、深沢と中里が出てくるのを待っていたのだろう?
2人がラブホから出てくる写真が撮れれば、深沢という『対抗馬ライバル』の致命的な弱みを握ることができる。
うまく使えば選挙も圧勝。
そう考えていたのだろう?


 桃井は力なく「ちがう、ちがうんだ……」と呟いている。


天野勇二

しかし、なぜか深沢がラブホに『愛人』を残し、1人で出てきてしまった。
これでは『不貞の証拠』を掴むことができない。
だが、お前はこう思ったはずだ。

これは絶好のチャンスだ。
この状況で中里を殺せば、犯人は深沢で決まりだ。


そうすれば『学長選挙』はどうなる?


 天野は教授たちを見渡し高笑いをあげた。


天野勇二

『選挙』なんて何の意味もなくなるんだよ!
深沢が逮捕されちまえば、わざわざ『選挙』する必要もねぇのさ!


例え選挙が開催され、深沢に負けたとしても、逮捕された後に『全学長の椅子』に座ればいいだけ。
ああ、これか?
これがその『座り心地の良い椅子』か?


 天野は思い切り右足を振り上げた。


 全学長の椅子を蹴り飛ばす。


 悲鳴と共に部屋の中央まで椅子が飛んで行く。


天野勇二

くだらねぇ!
お前はそんなくだらねぇ理由で、1人の女子大生と、腹に宿っていた生命を殺したんだ!


お前の両手にはまだ感触が残っているはずだ。
首を絞められた中里の苦悶の表情……。
必死に爪をたてる最後の抵抗……。
生き抜こうとする瞳の輝き……。

その全てが消滅しても、お前は首を絞め続けたんだからな!

桃井康晃

ちがう……!
ちがうんだ……!


 教授たちがゆっくり桃井から遠ざかった。


 桃井は色を失い、ひたすら「ちがう」とわめいている。


天野勇二

なぁ、教えてくれよ。
中里が残した『最後の言葉』は何だったんだ?

思い出せよ。
中里の顔がチアノーゼで紫色に変色し、顔を醜く歪ませ、身体から力が抜けた瞬間を思い出せよ。

知っているのはお前だけなんだ。
お前だけしか知らないんだ。
せめて遺族に伝えてやれ。
この2人の命を殺したクズめが。

桃井康晃

ちがう……!
私は、ちがう……!

天野勇二

それとも腹に宿っている命は『人間』じゃないからノーカウントしてほしいのか?
そんなに世の中は甘くねぇ。
私利私欲にまみれたブタめが。
お前は『全学長の椅子』という、くだらねぇ権力のために中里を殺した。
きっと裁判官はこう言ってくれるだろうなぁ。

計画的かつ残忍な犯行で同情の余地なし。

せっかくだから、集まっている優秀な教授共に訊いてみるか?


 集まっている教授たちを指さす。


 天野はこの日、一番の怒鳴り声をあげた。


天野勇二

とっさに及んだ犯行傷害致死罪』と、お前のような私利私欲のための『計画的犯行殺人罪』では、どれだけ罪の重さが違うのか!?

無期懲役や死刑、つまりは『極刑』が宣告されてもおかしくない。
被害者へ支払う慰謝料として、お前が持つ財産の全てを差し出すことになるだろうよ。
当然、大学には帰る場所はない。
家族親類もお前から離れる。

もう、お前の人生は終わっているんだよ。
このクズめが。


 桃井は慌てて天野に詰め寄った。


桃井康晃

ちがう……。
ちがうんだ。
計画的なんかではない。

天野勇二

違わないさ。

桃井康晃

本当に……。
本当に計画なんかしていなかったんだ!

天野勇二

見苦しいな。
初めから殺すつもりだったくせによ。

桃井康晃

ち、ちがう!
私は『あの女』に騙されたんだ!

大声を出したから、押さえようとしただけなんだ!
深沢を勝たせるため、私に『襲われた』狂言きょうげんすると言い出したんだよ!

殺すつもりじゃなかった!
『計画的犯行』なんかじゃないんだ!



 桃井の絶叫が会議室にとどろいた。


 全員の視線が桃井に集まる。


 天野はゆっくり胸元に手を伸ばすと、『ボイスレコーダー』を取り出した。


 冷静に停止ボタンを押す。




天野勇二

その言葉を待っていた。




 プロジェクターの電源を落とす。


 涼太もノートPCを閉じてケーブルを取り外す。


 あっさりと撤収作業を始める天野たちを、教授たちは何も言えずに見つめていた。



天野勇二

もう俺様の演説ショウタイムは終わりだ。
明日からのマスコミ対策でも会議しろよ。



 そのまま会議室を出ようとする。


 その時、深沢が「……っくっくっく……」と妙な声をあげた。



深沢俊哉

……天野くん……。
君は、まさか……。

『この瞬間』
のために……。

こんな『パフォーマンス』を演じたのかい……?



 天野は感心したように深沢を眺めた。


 桃井は混乱したまま2人の顔を見つめている。



深沢俊哉

全てが……。
全てが『ブラフ』だったのか……。

桃井がホテルにいた『痕跡』が見つかっても、犯行を立証する証拠にはならない……。
ただ『そこにいた』ということが判明するだけ……。
それだけで起訴きそすることは難しく、警察に捜査させることも難しい……。

だから、桃井から『自白』を引き出すための、『ブラフ』を演じてみせたのか……。



 深沢がゆっくりと床に崩れ落ちた。


 青ざめた顔に奇妙な笑みが浮かぶ。



深沢俊哉

……そして同時に……。
私に制裁を与えた……。

……っくっくく……。

なんて男だ……。
天才クソ野郎……。
君に相応しい名前だな……。



 その顔にいつも穏やかだった『教授』の面影はなかった。


 全てを失った男の、哀れな表情が浮かんでいるだけだった。



天野勇二

さすが法学部の権威だ。
成績、少し色つけてやるよ。



 偉そうに天野が言い放つ。


 そのまま軽やかに会議室を出て行った。




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つばこ

必殺のブラフで桃井教授をお仕置き!
深沢教授も社会的に抹殺!
アイツ犯行を自白させるというより、桃井教授の心をガッツリ折りにいってますね!
 
『愛人編』も次回の「後日談」でラストになります。
今回はこれまでになかった「後日談」の形になると思います。
ちょっとビックリするかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(ㆁωㆁ*)

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コメント 36件

  • 春風そよ

    証拠が足りない時点で天野くんに期待してた

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  • ふぅ

    あそこまでしなければ自白は引き出せなかったのかもだけど、深沢教授がちょっと可哀想。。。と思ってしまった自分は甘いのだろうか。
    結果論だけど、彼女が守ろうとした深沢教授の人生をこうぶち壊したら、彼女が救われない気もするけどな。。。

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  • 今の日本は2人に1人は中絶した経験があると聞いたことがある。
    お腹に宿った命を助けるのは、そう簡単なことではないのだろうな。
    本人の経済的理由や孕ませた男が逃げたりなど、産みたくても産めない理由があったりもする。
    深沢の場合もそうだ。
    身勝手な理由で中里に堕胎しろと言ったのだから。

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  • ぷに

    後日談気になるなー

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  • 蛙定食

    天野君は一般論じゃなく、深沢と桃井に言ったんでしょ

    無責任なセツクスして中絶させようとした深沢と、殺した桃井の二人に

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