犬が脱走する理由のひとつに「飼い主を認めてない」というものがあるらしいです。
まぁ、桃太郎が簡単に天野家を『飼い主』としては認める訳ないですよねぇ。
桃太郎としては「人間の勝手な都合で飼い主を変えられちゃたまらないワン。あと『天クソ』もついに200話到達したワン。これもひとえに応援してくれる読者の皆さまのおかげだワン。ありがとうございワン」とでも考えてるのかしら(´∀`*)ウフフ
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!Uo・ェ・oU
桃太郎が『天野家』の一員になった数日後。
天野は母親との約束通り、天野の家を訪ねていた。
天野桃香
……あっ、ちい兄だ!
お帰りなさい!
妹の桃香がリビングで出迎える。
机の上には数学の教科書。
どうやら宿題をしていた様子だ。
天野勇二
勉強しているのか。
偉いぞ桃香。
母さんとの『取引』は守れているようだな。
天野桃香
べ、別に『取引』だからってワケじゃないよ。
いつもちゃんと勉強してるし!
天野勇二
ああ、そうだな。
胡桃はどうした?
天野桃香
桃太郎の散歩に行ってる。
今日は胡桃が当番だからね。
天野勇二
なんだと?
天野は時計を睨みつけた。
時計の針は夜の20時を指している。
天野勇二
もうこんな時間じゃないか。
門限は18時のはずだぞ。
1人で胡桃を散歩に行かせたのか?
天野桃香
いやいや……。
中学生に門限18時はないでしょ。
近所を歩くだけだから平気だって。
天野勇二
仕方ない。
俺が迎えに行こう。
天野は脱いだコートを手に取り、外に出かけようとしている。
桃香は呆れて言った。
天野桃香
ちい兄は過保護すぎるよ。
散歩ぐらい胡桃1人でも大丈夫だってば。
天野勇二
そういう問題じゃない。
あいつは方向音痴なんだ。
迷子になって変な男に声をかけられかねない。
最近は物騒だし、胡桃は美人だしな。
桃香は「ぷくぅ」と頬を膨らませた。
実はこのクソ野郎、重度の『シスコン番長』でもある。
しかも末妹の胡桃を
確かに胡桃は世間知らずなところがあり、すぐ迷子になってしまうような娘だ。
天野が心配するのはそこまで不自然ではない。
しかし、桃香としては面白くない。
天野桃香
ふんだ。
そうやって胡桃ばっかり
私が夜に出歩いても口うるさくならないのに。
天野は爽やかに笑った。
天野勇二
それは誤解というものさ。
お前には格闘技を叩き込んだからな。
心配するというより信頼しているのさ。
天野桃香
どうだかなぁ。
興味がないだけじゃないの?
天野勇二
あっはっは。
バカなことを言うな。
お前も俺にとって大事な妹さ。
天野はそう言って外に出た。
家の周囲を歩いていると、
天野胡桃
……あれ?
ちい兄ちゃん?
桃太郎を連れた胡桃を発見した。
天野勇二
胡桃か。
こんな時間に散歩するんじゃない。
心配したじゃないか。
天野胡桃
大丈夫だよ。
近所を歩いてただけだし。
今日は部活で遅くなっちゃったの。
天野勇二
ダメだ。
夜18時以降の散歩は禁止だ。
これからは早朝にしろ。
胡桃はげんなりと顔を曇らせた。
天野胡桃
えぇぇーー?
朝に散歩するの?
それはイヤだなぁ……。
天野勇二
文句を言うんじゃない。
お前が心配なんだ。
天野胡桃
でもさぁ、桃太郎は夜の散歩が好きなんだよ。
暗くなるとね、リードを咥えて私たちを待ってるの。
『早く散歩に連れていってほしいワン』
みたいな顔してね。
それがすごく可愛いんだぁ。
胡桃は「わしゃわしゃ」と桃太郎の頭を撫でた。
天野はそれを見て首を傾げた。
天野勇二
……その割には、あまり嬉しそうじゃないな。
桃太郎は首を振って胡桃の手を振り払った。
尻尾は垂れ下がり、どこか悲しげに俯いている。
「散歩なんてちっとも楽しくないワン」とでも言いたげな姿だ。
胡桃も首を傾げて言った。
天野胡桃
そうなんだよねぇ。
散歩に行く時はね、すごくはしゃいでたんだよ。
だけど、すぐこんな感じになって。
疲れちゃったのかな?
天野勇二
ふむ……。
老犬だからか?
身体がついて来ないのだろうか。
天野は桃太郎の顔を覗き込みながら尋ねた。
天野勇二
おい桃太郎よ。
お疲れか?
お前もしかすると、あまり歩くことができないのか?
桃太郎
………
桃太郎はゆっくり顔を上げた。
つぶらな黒い瞳が天野を映す。
しかし、すぐに「ぷいっ」と顔を背けてしまった。
天野胡桃
なんかスネてるみたい。
気に入らないことがあるのかな?
天野勇二
わからんな。
環境の変化でストレスを感じているのか。
飼い主である伊藤に会いたいのか。
俺たちが気に入らないのか。
もしくは体調が悪いのかもしれんな。
天野胡桃
ちい兄だったら診察できる?
天野勇二
俺の専門は人間だ。
犬は自信ないな。
天野と胡桃は「うーん」と腕組みしながら桃太郎を見つめた。
2人とも犬を飼うのは初めて。
ましてや桃太郎は他の家で飼われていた老犬だ。
何かを訴えているのかもしれないが、天野たちでは
天野勇二
餌はしっかり食べてるか?
天野胡桃
うん。
ばっちり食べてる。
天野勇二
変なものを与えてないだろうな?
天野胡桃
あげてないよ。
犬用のオヤツしかあげてない。
天野は桃太郎の瞳や鼻、舌や足の裏。
毛並みや骨格などを確かめた。
天野勇二
うむぅ……。
特に異常があるようには見えんな……。
天野胡桃
伊藤のおじさまは、桃太郎に
天野は首を横に振った。
天野勇二
実は今日、伊藤の見舞いに行ってきたんだ。
桃太郎のことも話したが、特にそんなことは言ってなかった。
むしろ「健康そのもので手がかからない」と言っていたよ。
天野胡桃
それなら伊藤のおじさまが恋しいのかなぁ……。
ごめんね桃太郎。
もうしばらく私たちで我慢してほしいんだ。
天野たちはそのまま桃太郎を連れて家に帰った。
桃太郎のリードを庭にある植木につなぐ。
桃太郎は何かをねだることもなく、大人しく犬小屋の前でうつぶせになった。
天野胡桃
やっぱり疲れたのかなぁ。
10分ぐらいしか歩いてないんだけど。
天野勇二
もう年だからな。
長く歩かせないほうが良いのかもしれん。
天野胡桃
そっかぁ。
散歩のコースを考えないと。
天野勇二
とりあえず家に入ろう。
天野が玄関の扉を開けた時だった。
犬小屋のほうから「メキメキッ!」と、何かが引きちぎれるような音が響いた。
天野勇二
なんだ!?
驚いて犬小屋へ走る。
そこにはリードを引っかけていた植木を引き抜く、桃太郎の姿があった。
天野胡桃
も、桃太郎!?
天野勇二
お、お前!
何をしてやがる!?
桃太郎は植木からリードを引き剥がすと、天野たちをちらりと
しかし、無視して門へ駆け出した。
ほんの一呼吸で高く
あっさり門を飛び越えた。
天野勇二
うおっ!?
アイツ、こんなに高く
そのまま道路へ
鼻をヒクヒクと動かすと、一気にどこかへ向かって駆け出した。
天野勇二
だ、脱走しやがった!
胡桃!
桃香を呼んで来い!
天野胡桃
わ、わかった!
天野勇二
そして、お前は家で待機してろ!
天野は全速力で桃太郎を追いかけた。
しかし犬である桃太郎は足が速い。
お互いの距離がどんどん離れていく。
天野勇二
あの野郎!
どこに行くつもりだ!?
桃太郎は迷いなく駆けている。
どこか目指す場所があり、そこに向かって駆けているようだ。
天野は走りながら叫んだ。
天野勇二
待て! 桃太郎!
待ちやがれ!
せめてどこに行くつもりなのか言えよ!
あと車に気をつけろ!
桃太郎を見失わないように駆ける。
10分ほど走ると、後方から桃香が
天野桃香
ちい兄!
お待たせ!
天野勇二
桃香!
俺に構わず行け!
何としても桃太郎を捕まえろ!
天野桃香
まかせといて!
桃香が「おんどりゃあああ!」と叫びながらペダルを回す。
天野を追い越し、桃太郎との距離を詰める。
桃太郎がチラリと後方を振り返った。
桃太郎
……ワンッ!!!
ひと鳴きすると、桃太郎は脚に力をこめ、そのスピードを一気に加速させた。
とんでもない速度だ。
さすがに天野は追いつけない。
天野勇二
はぁ、はぁ……。
なんだあの犬……!
随分と元気よく走るじゃねぇか……!
息を切らせながら周囲を見る。
もう数キロは走っただろう。
天野勇二
桃太郎はどこに向かってるんだ?
土地勘なんてあるはずが……いや、待てよ。
ここはもう、前の飼い主だった伊藤の家付近だ。
桃太郎の走った方角を確かめる。
天野勇二
伊藤の家がこの先にある……。
まさか、家に帰ろうとしているのか……?
天野が小走りで伊藤の家に向かっていると、桃香から着信が入った。
天野桃香
もしもし!?
ちい兄!?
桃太郎を捕まえたよ!
息を切らせながら喋っている。
天野勇二
どこにいる?
伊藤の家か?
天野桃香
そうなの!
なんとか家の前で捕まえたところ!
こら桃太郎!
大人しくして!
天野勇二
わかった。
俺もすぐ行く。
天野はまた走り、数分後には伊藤の家に到着した。
家の前には地面に座る桃香。
そして、顔を落としてうなだれた桃太郎の姿があった。
天野桃香
あっ、ちい兄……。
なんとか、捕まえたよぉ……。
桃香がリードを握り、にんまりと微笑む。
肩で息を吐き、汗は滝のように流れている。
天野勇二
ご苦労だった。
お前も桃太郎も怪我はしてないか?
天野桃香
うん、大丈夫。
桃太郎は疲れちゃったみたいだけど。
桃太郎はちらりと天野を見上げ、
桃太郎
……クゥン
小さく鳴いた。
何かを
そんな鳴き声だ。
天野勇二
おい桃太郎……。
この家に帰るつもりだったのか?
伊藤に会いたいのか?
桃太郎
………
桃太郎はちらちらと天野を見上げるだけ。
きっと何を尋ねられているのか、理解していないのだろう。
天野勇二
まったく……。
お前は『忠犬』だな。
だが伊藤は入院している。
しばらく会えない。
今は俺たちがお前の飼い主だ。
ここに来ても、美味いものは食えないんだぜ。
桃太郎
………
天野勇二
伊藤が恋しい気持ちはわかる。
だが、今は
天野は桃太郎の足の裏を確かめた。
微かに切れ、血が
天野勇二
こんなになるまで走りやがって……。
桃香よ、お前の自転車のカゴに桃太郎を入れよう。
天野桃香
わかった。
桃太郎ってば、おじいさんなのに足が速いんだね。
よしよしいい子いい子。
桃太郎をあやしながらカゴに入れる。
桃太郎はクンクンと鼻を鳴らし、周辺の景色を眺めている。
天野桃香
やっぱり伊藤のおじさまに会いたいのかなぁ。
天野勇二
わからんなぁ。
犬とは
慣れ親しんだ家で眠りたい、と考えているかもな。
天野桃香
伊藤のおじさまが早く退院できたらいいね。
具合は良くないのかな?
桃香が自転車を押しながら尋ねる。
しかし返答がない。
天野は無言で周囲を睨みつけていた。
天野桃香
……ちい兄?
どうしたの?
伊藤のおじさま、そんなに悪いの?
天野は静かに首を横に振った。
天野勇二
いや、そうではない。
まるで『逆』なんだ。
天野桃香
逆?
なんのこと?
天野はその質問にも答えず、周囲を睨みつけた。
伊藤の家があるのは住宅街の一角。
戸建てやアパートが密集している。
高い建物や商店などは存在しない。
天野桃香
ねぇちい兄ってば。
どうしたの?
急に怖い顔しちゃって。
家の前は一方通行の狭い道路。
車1台通るのがやっとの道だ。
天野は何度か周囲を睨みつけると、険しい顔で呟いた。
天野勇二
妙だな……。
天野桃香
えっ?
な、なにが?
天野勇二
『視線』を感じるのさ。
誰かに見られているぞ。
天野桃香
えぇっ!?
桃香も慌てて周囲を見回した。
目の前には住宅街が広がっている。
人気のない時間帯なのか、通りに立っている人間はいない。
犬や猫などの動物も見当たらない。
天野桃香
近くには誰もいないね……。
じゃあ、誰かが家の中から、私たちを『覗き見してる』ってこと……?
天野勇二
ああ、恐らくな。
天野桃香
なにそれ気持ち悪い……。
どこから見てるの?
桃香が不安げに天野の袖を握る。
天野は静かに首を横に振った。
天野勇二
いや、もう気配は消えた。
俺たちが勘付いたことに気づいたな。
隠れてやがる。
天野桃香
えぇ……。
感じ悪いなぁ。
ご近所を監視してる人がいるのかな。
天野勇二
さぁな。
まぁ、俺の勘違いかもしれないぜ。
天野は軽く肩をすくめた。
桃香はふるふると首を横に振った。
天野桃香
そんなことないね。
ちい兄の『動物的カン』は怖いぐらい当たるもん。
誰が見てたんだろ。
天野勇二
もう忘れよう。
帰るぞ。
桃太郎の傷を手当てしたい。
天野桃香
あっ、そうだね!
桃太郎、お家に帰ろうね。
もう脱走しちゃダメだからね。
カゴに乗せられた桃太郎が「クゥン」と鳴き、遠ざかる伊藤の家あたりを眺める。
天野はその視線に違和感を覚えていた。
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犬が脱走する理由のひとつに「飼い主を認めてない」というものがあるらしいです。
まぁ、桃太郎が簡単に天野家を『飼い主』としては認める訳ないですよねぇ。
桃太郎としては「人間の勝手な都合で飼い主を変えられちゃたまらないワン。あと『天クソ』もついに200話到達したワン。これもひとえに応援してくれる読者の皆さまのおかげだワン。ありがとうございワン」とでも考えてるのかしら(´∀`*)ウフフ
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