【結婚式当日】

◆時刻:14:30

◆現在地:名古屋市なごやし中区なかく金山かなやま1丁目




 天野と『混沌のカルテット』が大騒ぎしている頃、金山の結婚式場は大混乱におちいっていた。





ウェディングプランナー

……あのぉ……。
ど、どうしますかぁ……?





 結婚式のプランナーがウェディングドレス姿の宇佐美に尋ねる。


 宇佐美の耳にはプランナーの言葉なんか入っていない。


 先ほどからスマホを握りしめ、何度も電話をかけている。




宇佐美梨花

あ、ま、の……ッ!




 スマホからは「電源が入ってないか、電波の届かないところに……」といった機械的なメッセージが流れるだけ。


 天野がオフラインにしているからだ。


 もう何十回も発信しているが、つながる様子は感じられない。



小谷野の父

あ、あの……!
ウチのバカ息子が、本当に申し訳ございません!



 小谷野の両親は謝罪の言葉を繰り返し、宇佐美の親族に詫びている。


 何せ結婚式が始まる時間を30分も過ぎているのだ。


 それなのに、小谷野が現れない。


 新郎である息子がいない。


 小谷野の両親は泣いて謝るしかなかった。



宇佐美の父

どうしてくれるんですか!?
あんたのところの息子は何をやってるんですか!?

小谷野の父

はい!
ほ、本当に申し訳ございません!



 当然ながら宇佐美の両親は激怒。


 小谷野の両親を責めている。


 しかし、その場にいる人間たちの根本は、ひとつの感情で固まっていた。







『天野……殺す!』







 それだ。



 なぜ新郎が行方不明なのか。


 その理由は新婦である宇佐美から聞いている。


 昨晩「天野たちが新郎を連れ去った」という話を聞いている。



 主犯はクソ野郎こと天野。


 天野は小谷野の家に押しかけ、深夜にも関わらずガンガン扉を叩いて小谷野を起こし、「池田公園のフィリピンパブに行くぞ! キャノンボールで飲むぞ!」と叫び、小谷野をチョークスリーパーで絞め落としながら拉致したのだ。




宇佐美梨花

奥田も、宮内も、川島も……殺す!





 宇佐美はそれも思っていた。


 天野の隣には、なぜかツルピカの奥田が生肉を「むちゃむちゃ」食べながら笑い、女装している宮内がフレンチカンカンを踊り、陰気な川島でさえもゲラゲラ爆笑しながら大量の『しるこサンドクラッカー』を投げまくっていた。


 『混沌のカルテット』は正気じゃなかった。


 宇佐美はあの時、全員を殺してでも足止めすべきだったと、後悔してポロポロ泣いていた。




畑中教授

おい……。
これ、とんでもないことになったぞ……。




 小谷野の大学時代の担当教授。


 畑中はたなかは完全に青ざめていた。


 恩師ということで結婚式に招待され、名古屋まで来ていたのだ。


 婚期が果てしなく遠いと思っていた『混沌のカルテット』から2人目の妻帯者が出現し、畑中も素直に喜んでいたのに新郎が現れない。


 担当教授にとってこれほど恥ずかしい出来事もない。



畑中教授

天野めぇ……!
あのクソ野郎!
大学に戻ったら、今度こそ除籍にしてやる!!!



 畑中の怒りも当然だ。


 新郎を結婚前夜に拉致して式を台無しにするなんて、1人の学生としても、1人の人間としても許されることではない。


 畑中がもう「逃げ帰ってしまおうか」と思った時だった。







 プワァァァァァーーーン!






畑中教授

うわっ!
なんだ!?



 けたたましいクラクションが式場に鳴り響いた。


 宇佐美たちが慌てて控え室から飛び出す。



宇佐美梨花

な、なに!?
これ以上、何が起きるの!?



 クラクションがとどろいているのは式場の中庭。


 派手なキャデラックがドリフトターンし、中庭のベンチや花壇をなぎ倒している。


 キャデラックは3度回転すると動きを止めた。


 そして、1人の男が運転席から飛び出し、気障キザったらしいジェスチャーを振り回しながら叫んだ。



天野勇二

お前ら!
待たせたな!
天才クソ野郎のお出まし
……じゃなかった。

新郎の小谷野のお出ましだ!



 キャデラックから奥田、川島、宮内も飛び出す。


 最後に本日の主役である小谷野が、涙を浮かべながら出てきた。



宇佐美梨花

小太郎さぁぁぁん!
どこに!
どこに行ってたのよ!?



 宇佐美が一番に走った。


 ドレスに足を取られながらも、小谷野の胸の中に飛び込む。


 小谷野は宇佐美のドレス姿を眩しげに見つめ、か細い声で呟いた。



小谷野小太郎


……ご………………め…………
………………ん…………………
……………………ね……………

宇佐美梨花

もうバカァ!
なんでこんな酷い思いさせるのよぉ!?
今まで、どれだけ不安だったと思ってるの!? 
何かあったんじゃないかって心配したんだから!
バカァ!



 ポカポカと新郎の胸を叩く。


 小谷野はコクコク頷き、新婦を優しく抱きしめた。



小谷野小太郎

……ごめんね。
俺、バカだから、遅刻しちゃった……。

でも、どれだけ遅れても、ずっと君を追いかけるから……。
これからはずっと、君のそばに、いるから……。

少し遅れちゃったけど、結婚式を挙げてくれないかな……?



 宇佐美はボロボロ泣きながら頷いた。



宇佐美梨花

当たり前でしょ!
もう!
小太郎さんのバカ!
化粧が落ちちゃうじゃない!

小谷野小太郎

……ごめん。
それでも、すごく綺麗だよ……。

宇佐美梨花

バカァ!
本当にバカなんだから!



 宇佐美が号泣しながら小谷野に抱きつく。


 その光景を見て、式場にいる人間たちは心の底から安堵あんどしていた。


 小谷野の両親なんて喜びのあまり泣き崩れている。


 宇佐美の親族も「ほっ」とした表情だ。


 天野は何事もなかったかのように手を「パンパン」叩いて叫んだ。



天野勇二

さぁ、結婚式を始めるぞ!

早くしろ!
スケジュールは押してるんだ!
キリキリ動け!
賛美歌や祈りの言葉はカットだ!

どいつもこいつも何をボケっとしている!?
俺様が神父をやってもいいんだぞ!
早く動け!









 結婚式は多少の混乱によって幕を開けたが、開始されてしまえばつつがなく進行していった。


 天野たちは私服姿での参列だったが、それも致し方ない。


 小谷野が白いタキシードを着ていたことが救いだった。



川島直人

……ククク……。

僕の祝辞はナシ、だってさ……。
しょうがないよね……。

……フフフ………。



 川島も元通りの陰気な様子に戻っている。



宮内圭吾

やっぱり結婚式っていいな。
俺もいつか挙げたいもんだな。



 宮内が披露宴を眺めながら無邪気に呟く。


 天野たちは「お前はゲイなんだろ。ドレスでも着たいのか。そんなの見たくないぞ」とツッコミたかったが、もう宮内のことは無視することにしていた。



奥田和彦

はぁ、それにしても良かったね。
一時はどうなるかと思ったよ。



 奥田がステーキを「むちゃむちゃ」食べながら披露宴を見つめる。



天野勇二

まだわからんぞ。
お前には『離婚』の危機が残っている。

奥田和彦

うぅ……。
天野くん、得意のハッタリで頼むお……。

天野勇二

ああ、善処しよう。
だが『タトゥー』を彫ってしまったからなぁ……。
まだ『リシア』で良かったよ。
これが明らかな女性の名前だったら、『名古屋コーチン』だと言って押し切れる自信がない。

川島直人

……ククク……。

まったくだね……。

……フフフ……。



 披露宴の時間は和やかに過ぎていった。


 今回は奥田の結婚式のように脅迫状が送られていることもない。


 宮内が嫉妬にかられて毒を盛ることもない。


 披露宴は穏やかに終わりを告げ、天野たちは二次会の会場に移った。



宮内圭吾

しかし残念だな。
『出し物』がない。
本当は用意してきたんだけどなぁ。



 宮内が残念そうに笑った。


 奥田の結婚式の二次会では、得意の『手品マジック』を披露して場を盛り上げたカルテットだ。


 今回も『出し物』を用意していたが、全てのネタはホテルに置き去り。


 残念ながら二次会に参加することしかできなかった。


奥田和彦

仕方ないよ。
ボクらはラリってたからね。


 奥田が言うと、天野が「クックックッ…」と悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

おいおい奥田よ。
かつては『天才ブタ野郎』と呼ばれた男じゃないか。
即興で『出し物』を思いつかないのか?

奥田和彦

ボクにはそんな才能ないよ。
天野くんは何かあるの?

天野勇二

フッフッフッ……。
よくぞ訊いた。
あるぞ。
俺様が取っておきの余興よきょうを披露してやろう。



 一同、いきなり不安になった。


 よく見ると、天野の目がすわっている。


 そういえばこのクソ野郎、披露宴の時から浴びるように酒を飲んでいた。


 酒が入った天野は何をするかわからない。



宮内圭吾

な、なぁ……。
無理してさ、余興をすることはないと思うぜ……。

奥田和彦

そ、そうだお。
そんなの誰も望んでないお。
このまま何事もなく二次会が終われば十分だお。

川島直人

……フフフ……。

僕たちはただでさえ迷惑をかけたからね……。
今日のところは、大人しくするべきじゃないかな……?

……エヘヘ……。



 宮内と奥田と川島が心からの言葉を告げる。


 しかし天野はあっさり首を横に振った。


天野勇二

却下だな。
俺様は昼間のことなんか忘れた。
せっかくの小谷野の結婚式じゃないか。
余興で場を盛り上げてやるのが、友人としての務めだ。


 そう言って二次会の会場を出て行く。


 残された3人は不安げにお互いの顔を見つめた。



宮内圭吾

お、おい。
アイツ大丈夫か……?
まさか……。
ドラッグが残ってる、なんてことないよな……?



 宮内が言うと、川島が小さく呟いた。



川島直人

……エヘヘ……。

天野クン、確か拳銃トカレフを持ってたよね……。

……エヘヘ……。



 奥田が怯えてガタガタ震え出した。



奥田和彦

そ、そうだったお!
トカレフを隠し持ってるお!
天才クソ野郎はシラフで拳銃をぶっ放す男だお!
それなのに、またラリってるとしたら……!!!



 3人はもう一度、お互いの顔を見つめた。


 即座にひとつの結論にたどり着いた。



宮内圭吾

逃げよう。

奥田和彦

うん、そうするお。

川島直人

ムケケ。


 3人が会場を飛び出そうとすると、その前に天野が立ちはだかった。


天野勇二

おやぁ?
お前ら、どこに行くつもりだ?

奥田和彦

も、もう、ボクらは、か、帰るお……!

天野勇二

却下だ。
俺様の余興を見ないつもりか?


 宮内が涙目で訴える。


宮内圭吾

い、いや天野。
やめよう。
なっ?
余興なんてやめよう。

天野勇二

却下だ。
このゲイめ。
ゲイのくせに芸をしないつもりか?


 天野は懐から拳銃トカレフを取り出した。


 3人は予想通りの展開とはいえ、さすがに震えた。


天野勇二

俺様に従わないヤツは撃ち殺す。
さぁ、行くぞ。
キリキリ動け。

川島直人

ムケケッ……!
や、やめようよ……!
ムケケケケッ!



 天野は拳銃で3人を脅し、二次会のステージにゆっくり上がった。


 司会者からマイクを奪い取る。



宇佐美梨花

……あれ?
小太郎さん……!
あ、天野さんたちが……!

小谷野小太郎

…………!



 宇佐美と小谷野が驚いて天野たちを見つめる。


 結婚式を台無しにしかけたクソ野郎一行が、ステージに立っている。


 天野は不敵な笑みを浮かべると偉そうに口を開いた。



天野勇二

お集まりの諸君。
宴もたけなわのようだから喋らせてもらおう。
俺様が『天才クソ野郎』こと、天野勇二だ。



 ざわざわと会場が騒ぎ始める。


 会場には小谷野の知り合いである医学部の同窓生。


 担当教授である畑中も残っている。


 全員、嫌な予感がしていた。






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つばこ

ウェディングプランナーって素敵なお仕事ですよね。
幸せの門出である結婚式を企画・演出し、一生の思い出となるイベントを彩るんです。
優秀かつ機転の利く人じゃないとこれは務まりませんよ。
 
例え新郎が式場に現れなくとも。
例え新郎が30分遅れでやって来ても。
例え新郎の友人が式場でキャデラックをドリフトターンさせても。
つつがなく結婚式を進行させるのですから、本当にウエディングプランナーって素敵なお仕事ですよねぇ(´∀`*)ウフフ
 
天野くんの余興がとっても気になりますが次回に続きます!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(人´∀`).☆.。.:*・゚

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コメント 73件

  • エネミー

    天野くんは破壊神かよw

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  • るーと

    ここまでやらかすクソ野郎は見たことないwww
    ドラッグのせいとはいえ、クソ野郎もあとで恥ずかしいやろね

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  • 焼きましゅまろ

    天野くん自由すぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwもうやめたげてwwwwwwwwww

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  • なゆ

    「逃げよう」
    「うん、そうするお」
    「ムケケ」

    ムケケwww

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  • ふじこ

    二次会とはいえ、流石に大勢が見てる中、トカレフぶっ放したら逮捕だろ笑

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