【結婚式当日】

◆時刻:PM12:00

◆現在地:名古屋市なごやし中村区なかむらく名駅南めいえきみなみ5丁目




宮内圭吾

うーん……。
そいつは大問題だな。
俺も昨晩のことはよく覚えてないんだ。
リリーと出会ったことしか記憶になくてなぁ。



 宮内が肩をすくめながら呟く。


 天野は静かに頷いた。



天野勇二

そうか。
じゃあ、もうダメだな。



 天野たちはリリーの家に招待され、ロシアの紅茶をご馳走になっている。


 宮内は紅茶を飲みながら至極当たり前のことを言った。



宮内圭吾

ああ、どう考えてもダメだろ。
だってもう12時だぜ?
この時間に新郎が式場にいないとか、普通に考えてありえないだろ。

天野勇二

まったくだな。
もう諦めよう。

うむ……。
この菓子、美味いじゃないか。



 紅茶の隣にはリリーお手製の焼菓子が置かれている。


 もちろん大麻マリファナなどは入ってない。






リリーちゃん

ウレシー!
ソレ、リリーノ、手作リナノヨォ。
『プリャーニク』ッテイウ、ロシアノ、オ菓子ナノォ。


 嬉しそうにリリーがカップへお代わりの紅茶を注ぎ込む。


 リリーの趣味は『お菓子作り』と『お裁縫』だ。


 凛々りりしいカイザル髭を生やしたオカマだが、趣味がなんとも可愛らしい。


奥田和彦

これとっても美味しいね。
紅茶も香りが良くて美味だなぁ。


 奥田もむしゃむしゃとお菓子を頬張っている。


 白砂糖を振られたカリッとした表面の生地。


 ほどよい甘さのジャムが詰まっている。


 紅茶にピッタリなロシアの代表的菓子だ。



リリーちゃん

ワタシノ国ノ、トッテモ美味シイ、オ茶ナノォ。
マダマダ、オカワリ、アルワヨォ。



 天野も奥田も川島も宮内も、完全に『諦めモード』に入っていた。


 頭の中を空っぽにして紅茶を飲み、お菓子を頬張っている。


 つまりは現実から逃避しているのだ。


 全員の頭の中にあるのは、








『やってしまった』








 そんな言葉だけ。


 なぜかわからないが、新郎の小谷野を連れ出し、行方不明にしてしまった。


 しかも全員、小谷野がどこに行ったのか、何ひとつ覚えていない。



川島直人

……ムケケ……。

これは、マズイよ……。

……ムケケ……。



 川島が紅茶を飲みながら呟く。


 リリーが悲しげに叫んだ。



リリーちゃん

エェッ!
リリーノオ菓子、マズイノォ!?



 すかさず宮内がフォローするように、リリーのカイザル髭を撫でた。



宮内圭吾

おい川島、俺の運命の恋人に失礼じゃないか。

リリー、君のお菓子は絶品だよ。
こんな美味しいものを食べたのは生まれて初めてだ。

リリーちゃん

ウレシー!
ミヤウッチー!
ダイスキ!

川島直人

……ムケケ……。

そうじゃないよ……。

……ムケケ……。



 川島はもう青ざめて俯くしかなかった。


 天野が残念そうに言う。


天野勇二

これで『カルテット』の既婚者きこんしゃが2人も消滅か。
小谷野は式の当日にとんずらしてパァー。
奥田の新婚生活もパァー。
お前らは本当にどうしようもないな。


 宮内が不思議そうに尋ねる。


宮内圭吾

奥田?
奥田が何かしたのか?

天野勇二

宮内は覚えてないのか。
おい養豚ブタ野郎。
ケツのタトゥーを見せてやれ。


 奥田が涙目で立ち上がり、お尻をぺろっとめくる。


 そこにあるのは『リシア』のダイナミックなタトゥー。


 宮内の顔が絶望に染まった。



宮内圭吾

お、お、お前……!
な、な、なに、考えてんだ……!



 リシアが奥田のプルプルのお尻に『チュッ♡』とキスをして、嬉しそうにベチンベチン叩く。


リシア

ウレシーイ!
コレ、リシアヘノ、アイノ、ショウメイ!


 宮内はタトゥーを指さして、至極当たり前のことを叫んだ。


宮内圭吾

お、お、奥田!
そんなのあったら、間違いなく離婚じゃないか!

奥田和彦

うぅ……。
そうなんだお……。
困ってるんだお……。

リシア

ダイジョーブ!
リシアガ、オヨメサンニ、ナルネー。
リコンシテモ、ヘーキヘーキ!

リリーちゃん

素敵ナ、タトゥーネェ。
リシアチャン、オメデトー!

リシア

ウフフ!
アリガトー!



 リシアと状況を理解していないリリーだけが上機嫌だ。


 天野は呆れたように首を振った。


天野勇二

まったくお前らはダメな『カルテット』だ。

豚はケツにタトゥーを彫って離婚。
フランケンは式をドタキャン。
指揮者はゲイ。

混沌こんとんのカルテット』の名に相応しい人生だ。
卒業してまでその名を実感することになるとは思わなかった。

川島よ。
お前だけは頼むからマトモな結婚生活を送れよ。


 川島が真っ青になりながら反論した。


川島直人

……ムケケ……。

どうせ全部、天才クソ野郎のせいなんでしょ……。

……ムケケ……。

天野勇二

いくら俺様が天才でも、ケツにタトゥーを彫ることなんかできないさ。

なぁ、リシアよ。
俺様は無理やりコイツのケツにタトゥーを彫ったのか?
もしくは俺様が彫るように脅したのか?


 リシアはブンブンと首を横に振った。


リシア

チガウネー。

オックダサーンガ、ジブンデ、ホルッテ、イイダシタネー。
アイノショウメイ、ホルッテ、イッタネー。

ダカラ、トモダチノ、タトゥーショクニン、ヨンダ。

天野勇二

ほら見ろ。
俺様の無実が証明されたぞ。

リシア

アレハ、オトコマエ、ダッタネー。
リシア、ソノコウドウニ、イッシュンデ、トキメイタネー。



 リシアは嬉しそうに奥田に抱きつき、奥田はしょんぼりと肩を落とした。


 気分は最悪だ。


 せっかくとびきりの美人と結婚できて、もうすぐ子供まで産まれるというのに、ここまで最悪な過ちもなかなかない。


 宮内が楽しそうに手を叩いて笑った。


宮内圭吾

あっはっは!
俺が名古屋でリリーと『運命の出会い』を果たしたように、奥田も『運命の出会い』を果たしたのか!

リリーちゃん

ミヤウッチー!
リリー、ウレシイワァ。



 宮内とリリーは天野たちを無視して、濃厚なキスを交わした。


 部屋に気まずい空気が流れる。



 ブチュブチュと2人のゲイが奏でるキスの音。


 ベチンベチンと奥田の尻を叩くリシアの音。



 そしてもうひとつの異音が、天野のポケットから鳴り響いていた。



川島直人

……ムケケ……。

天野クン、さっきから電話が鳴りっぱなしだよ……。

……ムケケ……。



 ポケットの中では、スマホが振動し続けている。


 ずっとひとつの番号を着信して震えているのだ。


 天野はチラリと画面を見ると、即座にポケットへねじ込んだ。


天野勇二

新婦の宇佐美からだ。
とんでもない量の着信が入っている。
小谷野とはまだ連絡が取れず、結婚式場にも現れていない、ということだろう。

川島直人

……ムケケ……。

電話に出ないのかい……?

……ムケケ……。

天野勇二

お前だったら、出るか?

川島直人

ムケ、出ないね……。
ムケケ……。



 天野たちはもう完全に諦めていた。


 結婚式まで残り2時間を切っている。


 小谷野がどこに消えたのか、手がかりはない。


 もうどう考えても間に合わない。


 そう諦めて紅茶を飲んでいた。



リシア

……アラ!?
オミセカラ!



 リシアがそう言ってスマホを取り出した。


 リシアが勤めるフィリピンパブ『キャノンボール』からの着信だ。


 うんちゃらかんちゃら、とタガログ語で何かを話している。



リシア

……エエッ!
ホント!?



 リシアが電話を切って、慌てて奥田の手を掴んだ。



リシア

タ、タイヘン!
チュウゴクマッフィアガ、ミセニキタッテ!



 天野と奥田はそれを聞いて、もう忘却の彼方に投げ捨てていた、あの『ブツ』を思い出した。


 『小谷野が行方不明』という最悪の状況に加え、天野たちは大量のコカインと大麻と拳銃を所持している。


 できれば二度と思い出したくなかった『ブツ』だ。


 リシアは必死に奥田の腕を掴んで叫んだ。



リシア

マッフィアガ、『フランケン』ヲ、ツカマエテル、イッテル!

カエシテホシケレバ、マヤクト、ジュウヲカエセ、ッテ!



 天野は思わず立ち上がった。


 ついに出てきた小谷野の情報だ。


天野勇二

どこだ!?
マフィアはどこに小谷野を捕らえている!?

リシア

ナゴヤノ、ミナトク!
ソウコニ、コイッテ!

天野勇二

どこの倉庫だ!?
正確な場所はどこだ!?


 リシアが住所を告げる。


 天野は顔をしかめて腕を組んだ。



 なぜかわからないが、中国マフィアと敵対している。


 なぜかわからないが、中国マフィアの物と思われる麻薬や銃を持っている。


 そしてなぜかわからないが、『フランケン』を捕らえているらしい。



宮内圭吾

お、おい……。
どういうことだよ。
なんで『中国マフィア』が出てくるんだ……?



 宮内と川島の顔は疑問でいっぱいだ。


 天野はしぶしぶ解説してやった。



天野勇二

どうやら俺たちは大須の中華料理店で、中国マフィアに出す予定だった『スペースケーキ』を食ってしまったらしい。
それで俺たちの記憶は飛び、かなりラリったようだ。
おまけになぜか、大量のコカイン大麻拳銃を持っている。

宮内圭吾

はぁっ!?
な、なんでだよ!?
なんでそんなもの持ってるんだ!?

天野勇二

知るかよ。
俺様が聞きたいさ。
目覚めたらベッドの下にあったんだ。

スーツケースが5個だ。
コカインや大麻や拳銃がぎっしり詰まってやがる。
うまく使えば億を超える金が手に入る。
ひとつの闇組織を経営してしまうことも可能だろう。



 宮内は言葉を失い椅子にもたれこんだ。


 川島が「ムケ…」と呟き顔をおおう。


 奥田も「今からお前をトンカツにすんぞ」と言われた豚のように落ち込んでいる。



天野勇二

中国マフィアか……。
ここが東京とうきょうなら、まだ打つ手があるんだが……。
名古屋じゃヤツらの敵となる暴力団の知り合いがいないぞ……。
さすがの俺様でも、単身でマフィアを相手にするのは厳しいな……。



 天野は腕を組んで時計を見つめた。


 もう12時半になろうとしている。


 いくら極悪のクソ野郎でも、中国マフィアなんて関わりになりたくない。


 警察に相談すべき案件だ。



天野勇二

だがなぁ……。
それはそれで、難しい……。



 よく考えてみれば、中華料理店の前でそれらしき人間マフィアを2人、車で思いきり轢き飛ばそうとしてしまった。


 ゲイバーを破壊するほどの戦闘も繰り広げていたらしい。


 しかも大量の『ブツ』を所持している。


 警察に相談すれば逮捕されるのは自分だ。


 もう前に進むしかなかった。



天野勇二

……倉庫に行くしかあるまい!

養豚!
陰気!
ゲイ!
あと面倒だからリシアとリリーもついて来い!


小谷野の奪還だっかんに向かうぞ!






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つばこ

リシア&リリー「エェッ!? ワタシタチモ、イッショニ、行クノォーーー!? ウッソォーーーー!!!」
 
 
どうやら中国マフィアは地道な聞き込みを繰り返し、それなりに天野くんたちの行方を突き止めていたようです。
まぁ、ゲイバーで派手な銃撃戦を繰り広げ、店をとことん破壊した男たちですからね。きっと池田公園では有名人になっているのでしょう。
天野くんも紅茶に舌鼓を打ってないで、しっかり小谷野を探してほしいものです……( ゚д゚)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!(∩´∀`)∩

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コメント 87件

  • ИДЙ

    とにかく奥田さんが不憫でならない………

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  • 焼きましゅまろ

    なんか小谷野くん囚われのヒロインみたいになってるやんwwwwwwwwwww
    カオス過ぎやwwwwwwwwwww

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  • まこと

    もう訳分からなすぎて笑うしかない
    それでも進むしかないとかウケる爆笑

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  • ゆんこ

    なんかもうこのカオス面白い

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  • やっすー

    マフィアさん達可哀想! 発端はつくったけどね!()

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