【結婚式当日】

◆時刻:AM11:08

◆現在地:名古屋市なごやし中区なかくさかえ4丁目





 ロシアンゲイバーは栄4丁目にある『エメリヤーエンコ』という名の店だ。


 フィリピンパブである『キャノンボール』の近くにあり、あっという間に見つかった。


 フィリピーナのリシアが無理やり天野たちについて来て、紹介してくれたからだ。



リシア

ココネ。
ココガ、ロシアンゲイバーネ。

天野勇二

う、うむぅ……。
これは……。
嫌な予感がしやがるぜ……。



 天野は店を見て、また厄介事やっかいごとが追加されたことを察した。


 店はとんでもない状況だ。


 看板は砕け落ち、ドアや壁の跡形あとかたはなく、全体的に黒く焦げ、営業なんか不可能なほど破壊されている。



リシア

オックダサァーン。
ハヤクゥ、シキヲ、アゲマショウヨォー。



 リシアは相変わらず奥田にベッタリだ。


 天野が何度も「来るな」と脅したのに離れようとしない。


 奥田は困りながらもデレデレしており満更まんざらではない表情だ。


 天野と川島は無視することにした。



川島直人

……ムケケ……。

これは店で、何か起きたね……。

……ムケケ……。

天野勇二

だろうな。
店に入ってみよう。



 店内も酷く破壊されている。


 椅子や机はバキバキに壊され、壁も何かが爆発したのか大きな穴が空いている。


 照明のほとんどは床に落ちており、一部の天井はコンクリートごと崩れ落ちていた。



天野勇二

とんでもねぇな……。
ロケットランチャーでも撃ち込んだのか?

川島直人

……ムケケ……。

まるで、戦時下のようだね……。

……ムケケ……。



 店内にいる人間は1人。


 ロシア人と思われる屈強くっきょうな男がホウキでガレキを集めている。


 坊主頭の強面コワモテだが、衣服はワンピース網タイツハイヒール


 オカマのロシア人だ。


 何か悲しいことがあったようで、涙目でしょんぼり肩を落とし、スンスン泣きながら床をいている。



天野勇二

おい、ちょっといいか。
この店の人間か?

ロシアンオカマ

ホェ?
ソウヨ……。
アナタハ……。


 オカマのロシア人は泣きながら天野を見た。


 そして、その表情はすぐさま怒りに変わった。



ロシアンオカマ

オ、オマエ!
ヨクモマタ、ウチノ店ニ、来レタナァァァァッ!



 持っていたホウキを「バキバキッ」とへし折ると、拳を振り上げ、即座に天野へ飛びかかった。


 「この拳で殺す」という覚悟が見られる本気の突進だ。



天野勇二

うおおっ!
何すんだよ!?

ロシアンオカマ

ウルサイ!
コノ野郎!
殺シテヤル!



 拳が迷いなく顔面に飛んで来る。


 天野は紙一重で避けると、相手の手首を持ち、小手返こてがえしでくるんとひっくり返した。


 合気道に長けた得意の捕獲術。


 ガレキとガラスだらけの床にオカマのロシア人が叩きつけられる。



ロシアンオカマ

ウギャン!
何スルノヨォ!

天野勇二

それは俺様のセリフ……

……うおおお!?



 倒されたオカマが脚を伸ばし、天野の頭を捕獲ロック


 素早く三角絞さんかくじに入った。


 ロシアの格闘技『コマンドサンボ』の使い手だ。


 軍隊格闘技でもあるサンボは、天野が得意とする合気道や柔術よりも実戦に向いている。



天野勇二

クソッ……!
こいつは外せねぇ……!


 天野は絞め上げられながら叫んだ。


天野勇二

ブタ野郎!
セントーンだ!

奥田和彦

う、うぇ?

天野勇二

いいから飛び上がって、ケツのタトゥーをコイツにぶつけろ!

奥田和彦

わ、わかったお!


 奥田の巨体が宙を舞った。


 オカマのロシア人に降ってくる。


 さすがに奥田の巨体が落ちてくるのは脅威だったようで、


ロシアンオカマ

キャアアア!



 オカマは黄色い悲鳴をあげ、天野のロックを外した。


 「どすん」と奥田の巨体を受け止める。



 天野はその隙にオカマの足首を持ち、自らの足を絡めながら膝を抱き込んだ。


 相手の足の甲に体重を乗せ、膝裏に拳を入れる。


 そして膝を一気に締め上げた。


 膝とアキレス腱を痛めつける『膝固めニーロック』だ。



ロシアンオカマ

イタイイタイイタァーイ!
ギブ!
ギブアップゥー!!!



 膝関節とアキレス腱が悲鳴をあげる。


 オカマのロシア人は即座にタップした。


天野勇二

甘えたことを抜かすな。
貴様にギブアップなんか存在しねぇんだよ。
なぜいきなり襲ってきやがった。


 オカマのロシア人は涙目で訴えた。


ロシアンオカマ

ダッテェ!
アナタタチ、ワタシノ店ヲ、破壊シタ、ジャナーーーイ!
イタイワァァァ!

天野勇二

俺たちが破壊した?
なんのことだ?

ロシアンオカマ

イタイワヨォ!
オ願イダカラ、ハナシテェェ!

天野勇二

ダメだ。
説明しろ。

ロシアンオカマ

ヒドォォイ!
キノウ、店ニキテ、チュウゴクノ、マッフィアト、乱闘シテ、店ヲ、破壊シタジャナァーーーイ!



 天野たちは困惑して店内を見つめた。


 店内はとにかく酷い状況だ。


 爆破でもしなければここまで破壊できない。






天野勇二

嘘を言うな。
ここまで素手で破壊できるものか。
インテリアを変えるためにグレネードでも投げたのだろう?

ロシアンオカマ

ナ、ナニ言ッテルノ!?
アナタガ、ホトンド、破壊シタジャナーーイ!


 天野は平然と言った。


天野勇二

知らんな。
覚えてないんだ。

ロシアンオカマ

ウッソォォォーー!?
ヒドォォイ!
オ店ノ子モ、アナタガ全員、ボッコボコニシテ、ミーンナ、入院ナノヨォォォ!?

天野勇二

そうか。
それはすまんな。

ロシアンオカマ

ソレナラァァ!
ニーロックヲ、外シテヨォォォ!

天野勇二

ダメだ。
お前は殴るから怖い。

ロシアンオカマ

アナタノホウガ、怖イワヨォォォッ!!!



 天野はオカマのギブアップを無視し、徹底的に膝を痛めつけた。


 膝を決める関節技というものは本当に痛い。


 どんなに屈強な男でも、完璧に決まれば泣き叫んでしまうほど痛い。



ロシアンオカマ

ヒッグ、ヒッグ……。
モウ、オ嫁ニ……。
イケナイ……。



 オカマのロシア人は膝を抱えて泣いていた。


 もはや立ち上がることもできない。


天野勇二

それで、俺たちが本当にこれをやったのか。

ロシアンオカマ

ヒッグ……。
ソウヨ……。
ホトンド、アナタガ、ヤッタノヨ……。

天野勇二

ふぅん。
俺様、なかなかやるな。

ロシアンオカマ

サ、サイテイノ、男ネ……。
デモ、ソウイウノ、キライジャナイワァ……。



 天野は冷静に店内を見渡した。


 当然ながら小谷野や宮内の姿はない。


 川島は先ほどのフィリピンパブで酔い潰れたようなので、この店には来ていないだろう。



天野勇二

おい奥田。
この店、覚えてるか?

奥田和彦

こんな店まるで覚えてないお。
記憶の片隅にもないお……。

天野勇二

俺もだ。
おい、そこのロシアンオカマ。
宮内と小谷野という男は知らないか?
まぁ、宮内なんかどうでもいいんだが、小谷野は見つからないと困るんだ。
フランケンみたいな男だ。


 オカマのロシア人は『フランケン』という言葉に反応した。


ロシアンオカマ

『フランケン』ミタイナ、男ノ子!
イタワ!
アナタト一緒ニ、店ヲ破壊シタノヨ!

天野勇二

ほう、やはり小谷野の筋肉も生きたのか。

川島直人

……ムケケ……。

小谷野クンは、シャイだけど怪力だからね……。

……ムケケ……。


 天野は膝固めニーロックからオカマのロシア人を解放してやると、再度尋ねた。


天野勇二

ロシアンオカマよ。
俺様たちが店に入ってきた時のことを教えろ。
拒否すれば左脚も決めてやるぞ。


 可哀想なオカマのロシア人はスンスン泣きながら言った。


ロシアンオカマ

アレハ……。
タシカ、深夜4時スギ……。
アナタタチガ、ウチノ店ニキテ、ハジメハ、楽シク、飲ンデタノヨ……。

天野勇二

まだ4時か。
それまでに奥田の『タトゥー』が彫られたのだろうな。


 天野が納得しながら頷き、奥田はしょんぼりとお尻に手をやる。


 リシアだけが無邪気に「リシアノ、タトゥー! タトゥー!」とはしゃいでいる。


ロシアンオカマ

ソシタラ……。
チュウゴクマフィアガ、店ニキテ……。

ヒッグ……。

ソノ後ハ、ハリウッド映画ミタイナ、アクションガ、ハジマッタノヨ……。


 天野は小首を傾げた。


天野勇二

なぜ中国マフィアが襲ってきたんだ。
俺たちを狙ったのか?

ロシアンオカマ

ソウミタイ……。
ナンデカ知ラナイケド、デラ怒ッテタワァ……。
スグニ、発砲シテキタノヨ……。



 オカマのロシア人は床に落ちているソファを見つめた。


 蜂の巣のように撃ち抜かれている。


 天野たちが銃弾の盾にしたひとつだ。



川島直人

……ムケケ……。

よく、生き延びたね……。
さすが、天才クソ野郎だよ……。

……ムケケ……。

天野勇二

まったくだ。
俺たちがこうして無事ということは、中国マフィアには勝ったのだな。


 オカマのロシア人がスンスン泣きながら頷く。


ロシアンオカマ

ソウヨ……。
ダッテ、アナタ、ワタシタチヲ、盾ニシテ、ヒトリヒトリ、ボコボコニシテイクノヨ……。
ヒキョウナ、クソ野郎ダッタワァ……。

天野勇二

クックックッ。
卑怯は俺様への褒め言葉だ。

ロシアンオカマ

ナンテ、サイテイノ男……。
デモ、ソンナトコ、キライジャナイワァ……。


 奥田がため息を吐きながら尋ねた。


リシア

オックダサーン!
コンナオカマ、ドウデモイイカラ、リシアト、ケッコン、シマショーーー!

奥田和彦

ちょ、ちょっとリシアは黙ってるお。
そ、それで僕たちはどこに行ったんだお?
宮内くんと小谷野くんはどうしたんだお?


 オカマのロシア人は涙目で首を横に振った。


ロシアンオカマ

ソノ後ノ、コトハ、知ラナイワァ……。
アナタタチハ、店ヲ破壊シツクシテ、ドコカニ行ッチャッタ……。
ヒトリダケ、『リリーチャン』ノマンションニ、帰ッタ人ガ、イタケド……。


 天野たちは仰天して叫んだ。


天野勇二

マンションに帰った!?
ど、どこのマンションだ!?

ロシアンオカマ

名駅メイエキミナミノ、チサンズマンション201ヨォ……。

……アレ!?
ド、ドコニ行クノヨォ!?


 天野たちは泣いているオカマのロシア人を置いて、すぐに店を飛び出した。


天野勇二

川島、奥田、車に乗れ!
名駅南のチサンズマンションだ!
小谷野の野郎、そんなところで何をしてやがる!
お前は結婚式があるだろうが!


 急いで車に飛び乗る。


 リシアは何が何だかわからなかったが、奥田にくっついたまま車に飛び乗った。


川島直人

……ムケケ……。

ねぇ、この犬……。
なんなのかな……。

……ムケケ……。


 後部座席には3頭の土佐犬と1匹のチワワ。


 「バウバウ」と吠えながら川島を出迎えている。


天野勇二

知らん。
なぜかいたんだ。
噛まれてもイジメるなよ。


 川島は端っこで小さくなりながら、3頭の凶暴そうな土佐犬を見つめた。


 このお犬様が合体して小谷野に変身すればいいのに、と川島は思った。


奥田和彦

あっ、チワワは僕が預かるよ。
チワワ好きなんだお。


 助手席に座った奥田がチワワを抱きかかえる。


 リシアはそれを見て奥田の上に飛び乗った。


リシア

リシアモ、ワンチャン、スキー!
オックダサーンニ、カワレタァーイ!



 天野はもういちいち指摘ツッコミするのが面倒になっていた。


 全てを無視してアクセルを踏み込む。


 栄4丁目を後にする天野たちの車に、先ほどのオカマのロシア人が片足を押さえながら、必死に叫び声をあげていた。



ロシアンオカマ

待チナサイヨォォォ!

ベンショウ!

オ店ノ、ベンショウ、シナサイヨォォォォォ!

ベンショウハ、ナシデモイイカラ、電話バンゴウ、教エテェェェーー!



 泣きわめくオカマを無視して、天野は名駅南を目指して車を走らせていた。









◆時刻:AM11:40

◆現在地:名古屋市なごやし中村区なかむらく名駅南めいえきみなみ5丁目








天野勇二

……それで。
お前は何をしている。




 天野たちは名駅南のチサンズマンションを見つけ、すぐに目当ての部屋に到着した。



 201号室のドアを叩き、中から出てきた男に、天野は当然の疑問をぶつけていた。




天野勇二

再度尋ねよう。
お前は、

今日が小谷野の、

結婚式だというのに、

こんなところで、

何をしてやがるんだよッ!?




 腰にバスタオルを巻いた上半身裸の男……。


 宮内みやうちは苦笑しながら言った。



宮内圭吾

実はな、俺に『運命の出会い』が訪れたんだ。

いやぁ、みんなには内緒にしてたのになぁ。
ついにバレちまったか。

俺さ、ゲイなんだよ。

天野勇二

そ、そんなことはどうでもいいんだよ!
お前の性癖は訊いてねぇ!

小谷野は!?
小谷野はどこだ!?

宮内圭吾

小谷野のことは知らないさ。
俺はリリーと熱い夜を過ごしただけだ。



 宮内の後ろには、ぽっちゃりした丸顔の男が爽やかに微笑んでいる。


 こちらも上半身裸だ。


 短く刈り込まれた海兵隊員のような頭。


 口元のカイザル髭がお洒落だ。



ぽっちゃりした丸顔の男

ミヤウッチーノ、オ友達ィ?

宮内圭吾

ああ、天野に奥田に川島。
そこの女は誰か知らないが、紹介しよう。
俺の運命の恋人、リリーだ。

リリーちゃん

ハァイ。
リリーヨォ。
ミンナ、ヨロシクネェ。




 奥田はもう何も言うことができず、川島は青ざめて「ムケケ……」と呟き、リシアは「オックダサーン! ケッコンケッコン!」とはしゃぎ、宮内とリリーは爽やかに微笑んで見つめあっている。



 天野は頭をかきむしって叫んだ。




天野勇二

あああああッ!
なんだこの現実は!?
小谷野!
お前はどこに行きやがったぁぁぁ!







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つばこ

ついに宮内くんの秘密が明らかとなりました。
彼はゲイだったのです。
それを隠すために、みんなの前では『女性に興味があるフリ』までしていたのです。
 
しかもリリーちゃんの特徴を見るからに、宮内は「ぽっちゃり男子が好き」みたいです。
そういえばブタ野郎の奥田は「ぽっちゃり男子」ですね。
ここで「もしかしたら宮内は奥田のことが好きだったのでは……?」という推測が導き出されます。
その前提で『彼が上手に結婚する方法』の60話あたりを読んでいただくと、ちょっとだけ違った視点での物語が楽しめるかと思います(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚

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コメント 103件

  • みーやん

    え、ロシアンオカマかわいそ。。
    リシアちょっと、その、めんどくさいかなぁ

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  • hikari@ネト充ラブ

    宮内くんイケメンなのになんで彼女いないんだろうとずっと思ってたんだけど、そういうことだったのね笑
    宮内くん、おめでとう!(?)

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  • taki

    だから勇二とイベリコは脅迫状に違和感を感じたのか!!!

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  • まこと

    カオスだ
    でも草も拳銃も式も現実だ

    これ小谷野2時までに見つけたところで拘束されない?

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  • らんこ

    だからイベリコ結婚の時、新婦脅したのか!!(゜ロ゜)

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